好きをこじらせて

神風団十郎重国

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62話

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「とりあえず、駅に行こっか」

「……」

何も言わないけど頷く葵を見てまだ怒ってるよね、と思いながら一緒に駅まで歩いた。今日も仕事だっただろうに心配とか不安が勝って来たんだろう。私の信用は、今はほぼない。でも、私は葵をいきなり来たから迷惑なんて思わないし逆に怒ったりすることもない。あんなことがあれば仕方ないので私は気まずいけど普通に話しかけた。

「今日はわざわざ来てくれてありがとうね。ちゃんと約束は守ってるよ。ちゃんと連絡もしたし飲みすぎてないし、真っ直ぐ帰って今日は寝るよ」

「……うん」

こちらを見ない葵は暗い顔をしている。やっぱりまだ仲直りまで時間がかかりそうだし、私がまた謝りに行かないといけないと思った。私が招いたことだし、信用してもらえるまで誠意を持って謝るしかない。私はこんなことで葵と別れたくない。だけど、今はあんまり一緒にいない方が良い気がする。喧嘩と言うのは時間も必要なものだ。

「葵は明日仕事?」

「……うん」

「そっか。私は、今日そこまで酔ってないし、ちゃんと歩けるから家に帰って平気だよ?」

「……」

何も言わない葵。明日は仕事があるみたいだし疲れているだろうから早めに帰してあげたい。私は本当に歩き方もまともだしそんなに酔ってないから心配することもないし、後は帰って寝るだけだ。でも、葵はたぶん信用できないでいる。なら信用してもらえるように説明するまでだ。

「本当に平気だよ?帰ってからもちゃんと連絡するし、明日も連絡する。信用できないのは仕方ないけど…」

「……今日は、泊まりたい」

「え?」

葵は唐突に言った。この空気で、しかも今の状態で泊まる気だったのに驚くけど葵は強く言ったから何か言っても泊まるのは譲らないだろう。私はしょうがなくそれに頷いた。 

「…それは、まぁ良いけど。帰らなくて良いの?」

また頷く葵。今は気まずいけど私はもうやましいこともないし分かったよ、と言ってから無言で二人で私の家に帰った。


家に着いてからも葵は暗い表情をしていて私達の空気は重かった。今しつこく謝っても違うと思うし、葵がなぜ泊まるなんて言ったのかも分からない。疑われているのは分かってはいるけど葵は喋らないしこちらをあまり見ようともしない。これにはなんだか悲しくなってしまうが自業自得だ。

「すぐにお風呂沸かすから待ってて」

私は、荷物を置いてから最初に風呂の栓をして風呂を沸かした。葵が来る時はよく沸かしてあげている。いつも忙しいから疲れているだろうし今日も変わらずに沸かしてあげた。それから話さない葵とテーブルを挟んで座った。

「明日は早いの?」

「……うん」

「大変だね。じゃあ、お風呂入ったらもう寝ようか」

「…うん」

返事はそれなりにしてくれるだけまだ良いなと思うけど空気はやっぱり重い。どうしようかな。少し悩んでからいつもみたいに話した。

「…最近は、ちゃんとご飯食べてる?」

「うん」

「ちゃんと休んでる?今日も仕事遅かったんじゃないの?」

「……それは、そうだけど…」

私は最近の葵のことを知らない。葵はいつも一日のスケジュールを教えてくれる。例えば、仕事でどんな人と何をしたり何時ごろまで働いたりするのか、聞いてはいないけどいつも連絡をくれる。忙しいだろうからしなくても良いと言ってるけど、知っててほしいからと言われてしまったからいつも私は葵の動きを把握していた。でも、喧嘩してからの連絡は私の一方通行だから葵がどうしているのか分からない。店に来た時間を考えると今日が遅かったのは合っているようだが…。私は葵に余計な気苦労を掛けさせていて申し訳なくなる。

「くどいけど、本当にごめんね。あれは、本当に私が悪かったと思ってるし反省してるよ。もう捨てたし、あんなの見たりとか絶対しないから。私は本当に葵だけだからね」

「……」

誠意を込めて謝ったけど暗い表情はずっとだ。こちらを少しだけ見てくれたけど顔を逸らされた。本当にどうしたら許してくれるのか私には分からなくてこれ以上の仕様がない。葵の表情に打つ手がなくて途方に暮れる。葵は黙ったままだし気まずいけどペットボトルの水を冷蔵庫から取り出してテーブルに置く。こんな時でも私は葵に気を使ってしまう。

「喉乾いてない?飲んで良いからね」

「…うん」

この状況は気が重いけど私はとにかくいつも通りに接することにした。もう朝までは一緒だろうし悩んでも仕方ない。
風呂が沸くまでに葵の服等を準備しておくと丁度風呂が沸いた。良かった。私は風呂が沸いたことに安心する。この気まずさから一時だけ逃れることができる。私はすかさず葵に言った。

「葵、お風呂沸いたから入ってきて?」

「……」

しかし、それにも黙ってくる葵。疑問に思いながらも促した。

「葵?お風呂冷めちゃうから、早く行ってきな?」

「……由季が、先に入って」

「え、私?」

やっと口を開いた葵になぜか私が勧められた。せっかく葵のために沸かしたし私はシャワーで終わろうと思っていたから先に入ると本当にお湯が冷めてしまう。私は困りながらまた促した。

「私はシャワーですぐ終わるから葵からで良いよ?」

「……私は、後でいい」

「でも、せっかく葵のために沸かしたし…」

「…いいから!」

少し強く言う葵にこれ以上言ってまた喧嘩になっても嫌だから私はとりあえず頷いた。

「じゃあ、先に入るよ」

葵がこう言うのは私の部屋を確認したいからなのか?となんとなく思いながら早く風呂に入ることにした。確認は嫌ではないし、見られて困る物はもうない。それで葵の気が済むなら私はむしろ大歓迎だった。


風呂に入ってシャワーを浴びながら頭を洗って泡を流す。次に体を洗いながら私はこの後どうしようか悩んでいた。あの様子だと葵から話しかけてくるってことはないだろうし、まず私の顔すら見たくなさそうだ。

それなのに、この後一緒に寝ることになる。私は床にでも寝た方が気が休まるけどあからさま過ぎて良くない気がする。と言うより葵の中の私への疑いは深まるばかりみたいで、これをどう回復させたら良いのか分からない。私はあれのせいで一瞬にして今まで築いた信頼を崩してしまったのを本当に悔やむ。捨てるのを忘れていた自分は本当にバカだ。

体をシャワーで流しながら、どうしようもできないことを悩んでいたら風呂のドアが開く音がした。振り向くと葵が裸で風呂に入ってきた。いきなりのことに驚く。今まで一緒に風呂に入ること何てなかったのにどうしたのだろうか。私は驚きつつも葵に聞いた。

「え?葵?なに?どうしたの?」

「……一緒に、入ろうと思って」

「……な、なんで?」

「それは………別に……」

裸を見られるのが恥ずかしいのか入ってきた時から恥ずかしそうにしてたけど、恥ずかしそうな顔のまま目線を逸らしてまた黙ってしまった。ここまで来たのなら何か言っても無駄だし答えたくないなら仕方ないので私はとりあえず湯船に入りながら入浴剤を入れる。白くなったお湯に浸かると

「とりあえず体洗いな?」

と葵に促した。

「…うん」

葵は恥ずかしそうに椅子に座るとシャワーを浴びながら髪を洗いだす。
こうやって二人で風呂に入るのはあの旅行以来で、私はさっきまで悩んで落ち込んでいたのに葵にドキドキして緊張していた。
この状況でなぜ一緒に風呂に入りたいのかよく分からないし部屋を確認したいから私を先に行かせたと思っていたのに葵の考えが読めない。
それに聞いても黙ってしまった。たぶん何かしら私について考えてこうしたのは分かるけど、この子はたまに予測不能なことをしてくる。

あぁ、どうゆうことだろう。ドキドキしながら考えるけど全くよく分からない。



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