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68話
しおりを挟む私が言い聞かすように言うと葵はもう私から目を離さなかった。キスをすると葵は気持ちが本当に私だけに向いてしまうから、これはある意味強制させるような儀式だった。私だけを見ている葵は気づいていないけど私は否定できないように脅迫しているのだ。純粋なこの子に、あたかもそんな風には見えないように。
「うん、分かったよ。ごめんね由季。もうしない。絶対しないよ。由季の言うことちゃんと聞くから」
服従するかのように言った葵は純粋な愛だけを私に向けてきた。本当に私しか見ていない葵は私だけの物に着実になりつつあるが、私もこの子なしでは耐えられない自分がいる。葵と当たり前のように一緒にいる私はもう葵がいないのは考えられなかった。
一緒にいたいがための私達の行いは少しおかしいのかもしれない。だって、関係も、パワーバランスも、私達は普通じゃない部分がある。それは分かってはいるんだけど、この盲目的な葵の姿も愛しく感じる。
「約束だよ?また試すようなことしたら葵にはもう触らないから」
「うん、絶対守るよ。絶対、守るから…。由季を怒らせないようにするから…」
私に必死な形相で言う葵が可愛らしくて笑いかけてからキスをした。私が怒ったのが葵には恐ろしいこととして認識されている。いつもの私じゃないのは嫌で、そうさせたら自分は好きなものを取り上げられる。葵はそれが絶対に嫌なんだろう。私が怒るのをこの子は服従してしまうくらい避けたいことなのだ。
あぁ、この姿も前から変わらない。今や私は完全に葵を支配しているようなものだ。でも、この感覚は嫌いじゃない。この子には私しかいないんだ。私は笑って強く抱き締めてあげると耳元で囁いた。
「分かった。……本当に好きだよ」
「うん。私も好き。…大好き。由季だけだよ。由季だけが好き」
嬉しそうに言った葵に私もだよ、と返すと葵も抱きついてきた。私もどうやらこの子と同じように離したくないんだ。私達は付き合ってからお互いが好きなのに、好きよりも執着的に、依存的に好意を寄せている。それはいつか正さないとならない。そんな気持ちがどこかにいつもあるけどまだ私はこの関係でも良い。一緒にいられて、こうやって好きだと言えるなら私は構わない。だけど脆い葵はいつか本当に壊れて崩れてしまうかもしれない。それに私自身が壊してしまう可能性もある。それが怖いけど私は離す気はない。
「葵?…さっきお風呂で乱暴にしてごめんね」
葵の背中を撫でながら風呂でのことを謝った。乱暴に触ったからどこか痛いかもしれない。それでも葵は気にしていないかのように明るく話した。
「平気だよ。由季が触ってくれるなら、私は何でも嬉しいの。確かにちょっと痛かったし、怖かったから泣いちゃったけど……私のせいだからいいの」
「でも、本当は嫌でしょ?あんな風にされるの」
「ううん。そんなことないよ。…由季なら、本当に良いんだよ?由季ならね、私を縛っても、叩いても、乱暴にしても、何でもして良いんだよ?私は、全部由季の物だから由季が好きなようにしてくれていいの。由季が好きだからね、由季が触ってくれて、私を見てくれるの嬉しいから」
葵は前から私を悪くは言わない。絶対に私を悪く言わない葵の言葉に胸が締め付けられる。普通なら怒ったり泣いたり嫌がって当たり前なのに優しい葵は好きが強過ぎて言っていることに違和感を覚える。だけど本当に愛しかった。そんな葵に私は優しく言った。
「それでもだめ。あんなの良くない。あんなの、無理矢理犯すのと一緒だよ。もうしないから。本当にごめんね。それに葵はいつもみたいに優しくした方が嬉しいでしょ?」
「それは……そうかな。由季が私を見てくれて、キスしてくれて……好きって言いながらしてくれる方が由季を凄く感じられて……好きだけど…」
「そっか。私もさっきのは悪いことしたって思ってるし凄い後悔したから、もう絶対しないよ。ごめんね、本当に」
いつもの方が良いに決まっている。私が優しく背中を撫でていると葵は私の首に腕を回したまま少し体を離した。
「由季」
私を呼ぶ葵は幾分不安そうな顔をしている。
「なに?」
「……由季は……何で私を束縛とかしないの?」
それは純粋に疑問に思って聞いてきたんだろうが葵の質問の本当の意図がよく分からない。確かに葵を束縛したことはないけど、束縛を求められたこともない。
「する気がないからかな。なんで?」
私の答えに葵は少し慌てたように言った。
「あの、してほしいとか、信用してないとか……そういうんじゃないんだけど。……由季は私と違って、私を全く干渉してこないから、不安になったりしないのかなって思って」
そんなことか。私は葵の顔を撫でて言葉を選びながら説明した。
「そうだね、私も多少は葵が取られちゃうかもって心配なとこはあるにはあるけど葵を信用してるし好きだからしないよ。それに葵は仕事も忙しいし私よりも疲れてると思うからなるべく私は介入したくないんだよね。介入するのはいつも連絡してるやり取りの中と、会った時だけって決めてる。興味がないんじゃないんだよ?気になったりもするけどテレビでも雑誌でも葵を見ることができるし、私達はお互いによく分かり合ってきてると思うから私はそんなに不安はないかな。でも、私は葵が不安がることが一番不安かな」
私も葵と同じようにこの子のことを考えている。葵は首を傾げながら言った。
「……私が不安がること?」
「うん。葵は泣き虫だし、ちょっとネガティブだから不安になっちゃったり、悪い方に考えすぎたりするでしょ?それに私を束縛するようなことをするのは葵の性格的に仕方ないと思ってるけど、私は葵にいつも笑っててほしいし不安がらせたり悲しい思いとか辛い思いさせたくないの」
柔らかい頬を指で優しく撫でると葵はその手を掴んできた。大切に扱いたい私の宝物のような存在の葵の気持ちは何よりも重要だった。
「……私が笑ってたら、由季は嬉しいの?」
そんなの当たり前のことだ。私は葵に笑いかけた。
「もちろん。葵が笑って嬉しそうだったりしてるの見ると私も嬉しいよ。幸せだなって思うし、葵がそうやって笑ってないと私も葵も幸せになれないと思ってるよ」
「……由季」
葵はやっと少し笑ってくれた。それに安心して私は軽く抱き締めた。
一安心するけど、私の心は葵を傷つけたことでいっぱいだ。
「でも、今日は本当にごめんね。葵を責めるような嫌なことも言ったし、しちゃったから。本当にごめん。……葵が好きなのに大切にできなかった」
今日みたいなことはもう二度としない。怒りに任せていたら葵を失ってしまうかもしれない。それは嫌だ。私は葵が好きだから本当に大切にしていきたい。
「由季?私は、別に…」
葵の言いたいことは分かっているから強く抱き締めて遮った。
「だめなの。だめ。……あれはいけないことだから」
「…由季」
「葵、……もう寝よっか?明日も仕事でしょ?」
こんな謝罪だけでは足りない気がするけど私は敢えて話を逸らした。体を離すと葵は何か言いたそうにしているけど言わせる気はない。
「え、……うん。それはそうだけど、由季、私は…」
「もう話はおしまい。早く寝よう?明日に響いちゃうよ」
「……うん」
私が横になると葵も隣に横になってきた。いつもなら葵の方に体を向けて抱き締めてあげるけど今はできそうにない。さっきまで触れていたけど罪悪感と後悔が胸に広がってできそうにない。私は今日のことをしっかりと反省しないと気が済まない。
「由季?……こっち、向いてくれないの?」
仰向けで目を瞑った私に葵は隣から腕を掴みながら聞いてきた。何にもなかったみたいになんて私はできないからそのまま答えた。
「うん。もう寝よう」
「……じゃあ、……キスして?」
葵はこんな時にもねだってきた。私はそれにも応えてあげられなかった。
「だめ。……もう寝るよ」
「…なんで?………キス……したい」
「なんでも。腕に抱きついて良いから、早く寝るよ」
腕や体を強く掴んだり体を乱暴に引っ張ったり噛んだりした。私は痛がって嫌がることをしたんだ。後悔するならやらなければ良かったのに本当に未熟だ。それでも私を咎めない葵には慈悲すら感じる。だけどいつもみたいにして、まるで忘れたようにこの子に触ってはいけない。まだいつもみたいに私達は戻れない。
「由季……」
私を呼ぶ葵は声から嫌なのが伝わるけど私はそのままにしておいた。
「葵、もう寝るよ。おやすみ」
「……」
やっと黙った葵に内心ホッとしていたら頬に葵の唇が触れた。それも愛しく感じたけど返せなかった。葵はすぐに私の腕に強く抱きついて小さな声でおやすみなさいと言ってくれて、葵の愛の深さに涙が出そうになった。
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