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74話
しおりを挟む私はもう断れないので苦笑いをしながら言った。
「じゃあ、家で待ってれば良い?」
私の返事に葵は恥ずかしがりながら頷いた。あんな美人な友達も今日見たカッコいいイケメンのモデルもいたのに葵は目移りさえもしない。この子の一途なところは純粋に嬉しく思う。私はよく愛されている。
「待たせちゃうと思うけど、お風呂とか入ってて良いから待ってて?」
「うん、分かったよ。じゃあ、あとでね?」
「うん、気を付けてね」
私が笑って少し手を振ると葵も恥ずかしがりながら手を控えめに振ってくれた。
それから私は歩いて葵の家に向かった。
これから考えて、やらないとならないことがありすぎる。私は歩きながらぼんやりと葵のことを考えていた。ああやって可愛らしく笑ったりねだったりする姿を見ると普通だけど、葵の愛を私に囁いたり必死な様はやはり違う。私は本当に洗脳をしているのかなと思った。しようとしたつもりなんかないけど、私のせいで強烈な依存を招いているのかもしれない。頭はそんなことばかりだった。それは葵の家で葵を待っていても同じだった。
少し暗い気持ちでご飯を食べてお風呂に入って静かに待っていても葵は中々帰って来なかった。今日中には帰ってこないかもなと思いながら携帯をいじってうとうとしている時だ、玄関のドアの鍵を開ける音がした。
私はそれに眠気が覚めてさっきまでテーブルに突っ伏していたけど起き上がって玄関の方に向かう。部屋に入って来た葵の様子はいつもと違った。
「由季……ただいま…」
「おかえり葵。…もしかしてお酒飲んだの?」
葵は顔を赤くしていて目は眠そうだ。この感じは珍しくお酒を飲んできたんだろう。この子は本当にお酒に弱いから私は初めて遊んだ日以来飲まないようにしていたしさせていた。だけど今日は打ち上げだったし付き合いもあったんだろう。葵は小さく頷くと私に体重を預けながら抱きついてきた。
「少し……くらくらする」
「何杯飲んだの?」
「……二杯と少し。……久々に飲んだから眠いし…心臓が、ドキドキする感じがする」
「あんまり飲めないからだよ。水飲む?少し休みな?」
また小さく頷いた葵を支えながら体を離すと葵は私の腕を掴んでくる。それに少し笑ってベッドに座らせると私はコップに水を入れて葵に渡した。この様子だとエッチどころではない。今日は疲れただろうしそのせいもあってよく酒が回ったんだろう。
「本当にお疲れさま。頑張って偉いね」
水を飲んだ葵からコップを受け取ってテーブルに置くと頭を軽く撫でる。すると葵は眠そうにしながら私の腰に抱きついてきた。
「……中々帰れなくて、ごめんね」
強く抱きつく葵は酒のせいでさらに甘えたがりになっているみたいだ。
「いいよ。それよりお風呂入ってきな?疲れたでしょ?」
「うん、でも……まだこうしてたい」
「はいはい。ちょっとだけね」
抱きついている葵の頭を優しく撫でていると葵はおもむろに顔を上げて私を見た。眠そうだけど目がとろんとしていていつもよりも魅力的で可愛らしかった。
「由季、キスしたい」
「ん?いいよ」
甘えたがりの葵に優しくキスをすると嬉しそうに笑った葵は
「隣に来て?」
とベッドをとんとん叩いた。言われた通り隣に座って葵の方に体を向けると葵は待ってましたと言わんばかりに私の首に勢い良く抱きついてきた。
「由季大好き」
「こら葵、危ないでしょ」
体を片手をついて支えながら腰に手を回す。葵はそんなこと気にもしていないように私にぎゅっと力を入れる。今日は珍しく酒が入っているから仕方ないかと思いながらそのままにしとくと葵は耳元で嬉しそうに話し出した。
「今日すっごく頑張ったから…由季が誉めてくれて嬉しかった」
「今日はいつもよりかっこよかったからね。葵はいつも頑張ってて偉いけど、今日は本当に凄かったよ。初めて見たけどキラキラしてて圧倒された」
今日で思い知らされたこともあったけどちゃんと見て思った本心を伝えた。
「‥ありがとう。由季にそう言われると……自信つくし、嬉しくなっちゃう」
「わっ!葵!」
葵はさらに勢いをつけて私に強く抱きついてきたからベッドに倒れてしまった。嬉しさのあまりなんだろうがそれでも私に擦り寄るように抱きつく葵を仕方なく抱き締めた。
「葵?どうしたのいきなり」
何となく分かってはいたけど可愛らしい葵に優しく聞いた。
「由季が私を誉めてくれて、プレゼントまでくれたから……嬉しくて舞い上がっちゃった」
「そんなに大したことじゃないよ」
私の返答に葵は私の横に体をずらして私を見つめる。不満そうに。
「だって、由季が初めてプレゼントくれたんだよ?それに、私のこと……また好きになってくれたから……嬉しくて、嬉しくて……浮かれちゃうに決まってるよ」
「大袈裟だよ。私はずっと葵が好きだし、プレゼントだってこれから沢山あげるよ。今からそんなに喜んでどうするの?」
可愛らしい葵の頬を撫でて笑いかけると葵は私の手を掴んで指を絡ませるように手を繋いだ。
「そんなの、今以上にもっともっと由季が好きになって本当に離れられなくなるよ。私、由季がいないと……本当に生きていけない」
葵は私を愛しそうに見つめた。この子にこう言わせたのは私で愛情を深く感じるのと同時に後ろめたい気持ちが芽生えた。狙った訳じゃないがこのように仕向けたのは私なんだろう。私は本気で言っているであろう葵に少しでも軽く言ってほしくてまた笑った。
「だから大袈裟だよ葵は」
だけど葵はやっぱり否定してきた。
「ううん。本当だよ?私の生き甲斐とか、生きてる意味を実感する時はね、いつも由季がいるの」
「私?でも、私がいなくても葵は楽しい時とかあるでしょ?」
遠くから見て分かったことが葵によって改めて証明されるようで怖かった。でも葵は当たり前のように言った。
「それはあるけど、私は由季といないと本当に心から笑ったり楽しかったり満たされたりしないの。由季が笑うとね、嬉しくて私も自然に笑っちゃう。由季が私を触ってくれると本当に嬉しくて由季の愛情を感じて、満たされて幸せ。その幸せを感じると生きてるって実感する。私はこのために生きてきたのかなって。今日もね、由季が私を誉めてくれて仕事に遣り甲斐を持てた。モデルしてて良かったなって初めて思ったの。……由季がいてくれるから頑張れるのに、由季がいなくなったら何にもできなくて、感じられなくなっちゃうよ」
「……じゃあ、本当に私がいなくなったら葵はどうなっちゃうの?」
私は今後この子を変えていかないとならない。この想いを聞いて私がいないと心が不安定な葵に不安になった。だから聞いてみた。この子の私が知らない心の底を。葵は私の質問にすぐに答えた。
「由季がいなくなったら死んじゃうと思う」
葵は迷いなく言った。控えめにいつもみたいに笑って。私はそれに心を鷲掴みにされた気分になる。私がいないと葵は命を投げ出す。それは重く心にのし掛かるようだった。葵は嘘は言わないし冗談も言わない。いつも真面目に答えてくるのを知っているから返答ができなかった。葵はそんな私に控えめにキスをした。
「由季がいないと何も意味がないから死んじゃうよきっと。今みたいにキスも触れることもできなくて、私を分かってくれる由季がいなくなったら私は壊れちゃうと思う。心が死んじゃって、生きるのをやめちゃうよ」
「……でも、いつかはお互いに死んじゃうんだよ?私が先に死んだら葵も死んじゃうの?」
希望を込めて聞いた。否定してほしかったから。でも葵の様子は変わらない。
「うん。死ぬよ。由季がいないなら死ぬ。由季がいなくなるなんて考えたくもないけどいなくなったら私はもう幸せになれないもん。由季以外好きになれないし、由季以外に触られたりとかしたくないの。…私は一生由季だけを愛して由季に愛されたい…。他の人はどうでもいい。由季みたいに私を本当に理解してくれて好きでいてくれる理想の人はいないから、死んでも由季を離したくないし離れたくない」
葵は握っていた私の手を自分の頬に押し付けて頬擦りをする。私への気持ちは生きることを放棄する位膨らんで大きくなった。死を選ぶなんてやめてほしいのに葵はいつもみたいに穏やかな表情をしている。
私はその顔を見てまた悟った。私への愛は葵を根底から変えているようだ。葵の言動はやはり今日思った通りなんだ。
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