3 / 6
前世の二万七千円分
しおりを挟む「推しの……いる、世界」
それは、肉じゃがになるのかはたまたシチューになるのかわからない、存在の胡乱な具材を煮込んだ鍋に、突如ぶちこまれし固形カレールゥの如し。
胡乱且つ投げやりだった『私』という名も無き具材汁は『カレー』として生きる意味を持った……その瞬間だった。
齢7歳の具材は喜んでその中に溶け出し混ざり合っていたのである。
人生とはなんてスパイシー。
カレーだけに。
「そう、私はカレー……ゲフンゲフン、」(※間違えた)
「──私はダイアン!!
推しと共に生き!
推しの為に生きる者!!」
立ち上がった私はそう叫ぶ。
私は目覚めと共に真の姿に覚醒を果たしたのだ!
今日はその誕生日と言ってもいい。
「なにしろここは推しのいる世界らしいぜ?! ヒャッハー!! 神様ありがとう!! ハッピーリバースデー!!」
私は誕生の喜びに歓喜し、ここが地下室だとか一人だとかは関係なく、陽気なパリピと化していた。
もう、孤独など一切感じない。
私には推しがいる。
人生は上々で、世界は美しい。
こうなると私が虐げられキャラだとかなんて、最早些細な問題である。
むしろ毒親を差し引いても、侯爵令嬢とか滅茶苦茶オイシイ。
権力万歳!!
「ステータス・オープン!」
戯れにそんなことを叫んでみるも、残念ながら現在のステータスがゲーム画面のように開示されることはなかった。
だが自分に魔力があることは、神殿での検査で既に知っている。
──ゲームでも高位貴族は魔力が多い。
チュートリアル時に高位貴族令嬢を選ぶと、市井の魅力的な殿方との出会いが減る分、魔力初期値と初期上限が格段に上がるのだ。
ちなみに高位貴族令嬢は、アプリ配信スタート時の攻略対象キャラクター5人のいずれかと仲良くなって手に入れた経験値の宝石5000個~か、五千円~の課金をしなければ手に入れられないという、なかなか世知辛い仕様。
上限も一杯までいけば、ジェムか課金で更にUPすることができる。
仕様がわからなくてモダモダするのが嫌だった私は先に調べ、公式サイトのキャラクター紹介の画像で魔王様に興味を抱いた。
無論、魔王様が我が推し様だ。
ゲームではなく公式が出しているキャラクター小説からスタートしたところ、そこでズブズブに惚れてしまった私はゲームスタート前からいきなり廃課金信者となった。
数度目の配信から登場した魔王様と関わるには、魔力は必須。
即課金したのは言うまでもない。
一番早く仲良くなれる『亡国の姫騎士』からスタートした。
二万七千円だった。
それに比べると侯爵令嬢はかなり劣るが、幸いまだ7歳……スキルアップの時間は存分にある。
「埋めてみせる……課金した二万七千円分を!!」
なんなら課金以上の成果を上げたい。
打倒!『亡国の姫騎士』!!
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
7
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる