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前世の二万七千円分

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「推しの……いる、世界」

それは、肉じゃがになるのかはたまたシチューになるのかわからない、存在の胡乱な具材を煮込んだ鍋に、突如ぶちこまれし固形カレールゥの如し。

胡乱且つ投げやりだった『私』という名も無き具材汁は『カレーダイアン』として生きる意味を持った……その瞬間だった。

齢7歳の具材人生は喜んでその中に溶け出し混ざり合っていたのである。
人生とはなんてスパイシー。
カレーだけに。

「そう、私はカレー……ゲフンゲフン、」(※間違えた)


「──私はダイアン!!
推しと共に生き!
推しの為に生きる者!!」

立ち上がった私はそう叫ぶ。

私は目覚めと共に真の姿に覚醒を果たしたのだ!  

今日はその誕生日と言ってもいい。

「なにしろここは推しのいる世界らしいぜ?! ヒャッハー!! 神様ありがとう!! ハッピーバースデー!!」

私は誕生の喜びに歓喜し、ここが地下室だとか一人だとかは関係なく、陽気なパリピと化していた。
もう、孤独など一切感じない。
私には推しがいる。

人生は上々で、世界は美しい。




こうなると私が虐げられキャラドアマッターだとかなんて、最早些細な問題である。
むしろ毒親を差し引いても、侯爵令嬢とか滅茶苦茶オイシイ。

権力万歳!!

「ステータス・オープン!」

戯れにそんなことを叫んでみるも、残念ながら現在のステータスがゲーム画面のように開示されることはなかった。
だが自分に魔力があることは、神殿での検査で既に知っている。



──ゲームでも高位貴族は魔力が多い。
チュートリアル時に高位貴族令嬢を選ぶと、市井の魅力的な殿方との出会いが減る分、魔力初期値と初期上限が格段に上がるのだ。

ちなみに高位貴族令嬢は、アプリ配信スタート時の攻略対象キャラクター5人のいずれかと仲良くなって手に入れた経験値の宝石ジェム5000個~か、五千円~の課金をしなければ手に入れられないという、なかなか世知辛い仕様。
上限も一杯までいけば、ジェムか課金で更にUPすることができる。


仕様がわからなくてモダモダするのが嫌だった私は先に調べ、公式サイトのキャラクター紹介の画像で魔王様に興味を抱いた。

無論、魔王様が我が推し様だ。

ゲームではなく公式が出しているキャラクター小説からスタートしたところ、そこでズブズブに惚れてしまった私はゲームスタート前からいきなり廃課金信者となった。

数度目の配信から登場した魔王様と関わるには、魔力は必須。
即課金したのは言うまでもない。

一番早く仲良くなれる『亡国の姫騎士』からスタートした。
二万七千円だった。



それに比べると侯爵令嬢はかなり劣るが、幸いまだ7歳……スキルアップの時間は存分にある。

「埋めてみせる……課金した二万七千円分を!!」

なんなら課金以上の成果を上げたい。

打倒!『亡国の姫騎士』!!


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