ジェリー・ベケットは愛を信じられない

砂臥 環

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第十三話

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クラリッサの元で働いていた時のような業務から始まった仕事は、その延長の感じで少しずつウォーレンの補佐や秘書的な業務に変わり、一年程で小さな商談を任されるまでになった。

生活能力のなさは、仕事仲間のカーヤという女性とのルームシェアで一応は解決した。

就労時間の関係上洗濯だけは人を雇い、他は都度協力分担という形で彼女に教えてもらい、できるようになった……と本人は述べているが、実際は多少マシになったくらいである。


カーヤはウォーレンと旧知の仲らしく、とてもクールな仕事のできるシゴデキ美女。年齢は聞けていない、なんとなく。

彼女につけられたふたつ名は、なんと『氷の姫君』だそう。 


「だから学園で初めて耳にした時、も~笑いを堪えるのに大変でさぁ~」

「「……」」


今更になってわかったどうでもいい真実。

いい話風に語られていた『興味が湧いた』という話の顛末に、妙なオチがついていた。


ちなみに、ウォーレンはジェリーより10歳程上らしい。本人は『若く見えるのが自慢』だとかうそぶいているけれど、カーヤがそれを僅かに鼻で笑っていたあたり、本当はそうでもないようだ。


(劣等感を抱いたり、虚勢や見栄を張ったりするのは、別に私だけじゃないのよね……なにも特別なことじゃないんだわ)


それは大したことなどなく、あまりに普遍的な……だがあまり認識はしないような、そわんな気付き。

前よりも少し大人になったジェリーは、呆れを前面に出した『馬鹿だな』という言葉の中に含まれた別のいくつかに、かすかに触れた気がした。


過ぎていく日々の中。

家族だった人達のことを思い出すことはないけれど、モーガンのことは度々思い出す。

幸せを祈ってはいても、彼が幸せならそれで……などと思えたことは一度もない。思おうとしたことはあるけれど。


(やっぱり私って気持ち悪いわ)


──モーガンを、愛している。

多分、船の中で認識したのは恋であり、それも含めこの気持ちは愛なのだろう。


気付くのが遅い上にやはり気持ちも悪いけれど、ジェリーはもう特に悩まなかった。『案外、埋もれないもんだな』と思ったくらいで。


母国では読まなかった新聞を、ジェリーは業務の為に毎日読むようになった。


母国で読まなかったのは、宮廷の意向らしく王立学園の図書室には置いてなかったことや、ジェリーが離れで過ごしていたことによる。単純に、目にしなかったのだ。

交流以外で情報を得られる、このあまりに簡単な方法に気付けなかった事実に、ジェリーは今更ながらも強くほぞを噛んだ。


母国と今いる国の、数社分。

その中にどうしても、モーガンや、彼との繋がりのありそうな事柄を探してしまう自分がいる。

相変わらずジェリーはウォーレンにモーガンのことを聞こうとはしなかったけれど、新聞に書かれた諸々を含めた周囲の様々な事柄から、今までの事の次第をなんとなく想像できるようになっていた。


この国の情勢と、母国の関係。

いくつかの不穏な噂や起きた事件。

母国第一王子の立太子式典の話。

二国間会談により締結した事象、新聞に掲載されているそこに携わった人達の名前。


ウォーレンに頼まれた、一見すると業務に関係ありそうな些細な調べ物。

扱っているらしい、一部の商品。

クライトンの他もうひとつある彼の名前と、かなり上の実年齢。

なんでもできる右腕、カーヤ。


並べるとなんとも怪しげなそれらだが、実際は膨大な情報の中の極一部であり、職場のふたりも精々『癖が強い』で片付けられる程度には社会に馴染んでいる。ジェリーの携わっている業務にも、不審なところは特にない。

クラリッサのところでもそうだったように、必要な情報を把握し抽出、振り分け分類し纏めるのは、案外得意だったらしい。





数年後。

結婚式を目前にした大火事のニュースと共に、ベケット子爵家は消失した。

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