曇天フルスイング

砂臥 環

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深井 清良②

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日曜──曇天。
私はまだ試合に行くのを躊躇っていた。

しかし、智香が家まで迎えに来た。
……更に何故か『西京コンドルズ』で一緒だった、原西と峰田まで。

「なんで二人がいんのぉ?」

他校に進学した彼等が来ることは智香も知らなかったようで、私よりも先に驚きの声をあげた。

「いやそれアンタもだよ……」

半ば呆れつつ、智香にそう言う。

「私は一ノ瀬チャンに『くれぐれも逃がさないように』って頼まれて」
「あー、俺はへーちゃんに」
「僕は小太郎に。 樋口も宮部に頼まれたらしいけど、模試で行けないからよろしくって」

「…………」

二の句が継げないとはこの事か。
なんなんだ、一体。

「まあほら、最後の試合だしね」
「永作は綺麗になったなぁ、カレシいんの?」
「ナンパしてんなよ……」
「清良は全然変わんないよね」
「……どういう意味だよ?」

和気あいあい……とはいかない(主に私が)感じで、私は3人の後に仕方なくついて行った。




学校に着いてからも、また驚いた。
やたらと人が多い。

「なにこのギャラリー数……」
「流石に最後は凄いねぇ」
「いやいや……」

明らかに学生じゃない、近所のオッサンっぽい人とかもいる。
私が疑問を投げるより先に、あまりに何も知らない私に呆れた口調で智香が説明をし出した。

「知らないの? 前々回から試合の時は解放してんだよ。 一応身分証とかの確認はするらしいけど。 校門で生徒会が」
「マジか……」

いつの間にか学校を巻き込んでいたらしい。1度も来たことが無いから、全く知らなかった。

グラウンドの端にはわざわざ運んできたらしい、会議机とマイク。そして、放送部の女の子。

「……なにあれ」
「いや、ウグイス嬢。 簡易的だけど」
「ウグイス嬢?!」

『お呼び出し致します。 西京第一高校と明星学園の代表の方は、メンバー表を持参の上、こちらまでお願いします』

「おお、マジだ。 ちゃんとしてんなぁ」
「…………」

再び二の句が継げなくなる私。むしろ原西が勝手にツッコんでくれるため、ツッコミすらしていない。

ウグイス嬢はまだわかる。
少年野球の非公式試合ですら、ある時はあるし……思いの外ちゃんとしてることに、ビックリしただけで。

──だがそれより目線の先の方……吹奏楽部までスタンバっているのには、驚いて当然だろう。

二の句(以下略)……もうなにに驚いたらいいか、良く分からない。なんでこんなに本格的なんだ。

ウチだけでなく明星学園の方までウチの吹奏楽部がいて、明星学園側の吹奏楽部と何かを話し合っていた。
そこへ一ノ瀬さんがやってきて、テキパキと指示を出している。

聞こえてきた周囲の話によると、いつもはウチの吹奏楽部が二隊に別れて双方を応援しているようだ。今回は明星学園からも来てくれたのだが、どうやら話が通ってなかった様子。

「あの子、いつも一生懸命だよねぇ」

智香が特に意図的でもなく言う。

噂話や群れるのは苦手。
内弁慶であり、本来は気が滅法強い私だ。

女子はすぐ群れるからあまり得意じゃないが……智香は、さして他人のことに踏み込んでこない。だからこそ彼女とは仲良くしてこられた。
勿論最後の試合だから、というのもあったのだろうが、そんな智香を動かしたのは間違いなく一ノ瀬さんの懸命さだろう。




ウチと対戦相手、明星学園。

ウチ……西京第一高校のチームは人数ギリギリ。5人は3年生で『西京コンドルズ』で馴染みのメンバー。

 平生 (ピッチャー)
 二宮ニノ(キャッチャー)
 仁平へーちゃん(セカンド)
 小太郎 (ショート)
 宮部 (センター)

残りの4人が2年生。名前こそ知らないが、なんとなく見たことのある顔ばかりだ。
唯一名前を知ってる畑くんは、バッティングセンターの常連である。いつも会釈程度に、挨拶をしてくれる。

弱小高校なのに、それなりに練習の厳しい野球部にわざわざ入ろうとする奴なんて、根っからの野球馬鹿……名前を知らない子も、おそらくどこぞで見掛けているに違いない。

対戦相手の明星学園は、ウチと同レベルのヘボ校で……違うのは偏差値。明星学園はこの近辺では唯一の進学校なのだ。
そんな中でも野球に興じ、練習試合をわざわざ敵のホームまで来てやろうってんだから、奴等も相当の野球馬鹿なのだろう。

そもそも他校との交流試合は、実はなにかと面倒なのだ。まず双方の手続きが。
それをわざわざ、学期毎に1回は行うという情熱……馬鹿としか言いようがない。

そんな 野球馬鹿 VS 野球馬鹿 のこの試合。




明星学園ナインが出てくると、フェンスの前の方に陣取っていた女子が黄色い声をあげる。

「「キャー! 岸田くーん♡」」

「……なにあれ」
「ああ、岸田ファン。 ウチの方にもいるんだよ、佐伯派じゃないのが」

岸田は私も知っている。二つほど離れた市の少年野球チームにいた子だ。

「毎回明星学園とだからねぇ。 アウェーとかもうあんまし関係ないんじゃないの」
「……へぇ」

両チームのシートノックが終わり、いよいよ試合が始まる。
始まりを告げるウグイス嬢のアナウンス。読み上げる内容は変えているところもあるようだが、アナウンスも含め、進行はかなり本格的だ。

「よぉ岸田、今日はよろしくー」
「佐伯……絶対負けねーからな!」

二宮ニノ (こちらの主将)と向こうの主将が審判に挨拶し、皆が整列をし出す中、両チームの筆頭馬鹿は元気に挨拶(?)を交わしている。
……そしてふたりとも怒られている。
流石は筆頭馬鹿。

岸田は少年野球時代から、平生を勝手にライバル視していた。
リトルの選抜チームからは彼も声を掛けられていたのだが、家が厳しくて断るしかなかったようだ。

そんな岸田のおかげで、明星学園との練習試合が始まったらしい。
……なんとなくエピソードが想像ができる。

向こうのチーム構成はウチに似ている。
特筆すべきは攻守共に、エースで4番、岸田のワンマンチームってところ。

岸田はかなりの自信家で負けず嫌い。いかにもピッチャーらしいといえば、らしい。こちらのエースで4番の、いつもヘラヘラしている平生とは真逆に見えないことも無いが、アイツも大概ワガママである。
岸田のチームメイトとの仲は悪くないようなので、おそらくチーム力的にも大差はないだろう。




実際、勝負は接戦。
互いに2-2のまま、最終回を迎えた。
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