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後編
43.君のくれるもの
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「……嫌だったかい?」
ティノールトに背中を流してもらいながら、レーネはぽつりと問いかけた。将軍向けに作られた寮の部屋には専用の風呂がついていて、ティノールトの求めに応じてレーネはずっとそこを使っている。
「……Collarのことですか?」
優しく湯をかけられたあと、ティノールトが後ろから抱きしめてくる。回ってきた腕はいつも通り力強くて、レーネを嫌がっているようには感じられない。
レーネがしょんぼりした気持ちのまま振り返った先には、湯に濡れても落ちついて光っているCollarがある。自画自賛するようだが、きれいに作れた、と思う逸品だ。
「……あんまり、嬉しそうじゃ、なかった」
「すみません、その……驚きが、先に来て」
ティノールトに贈るものだったから、レーネは自分で用意したかったのだ。自分で作れる確信もあった。
しかし、普通は何もないところから何かを作り出すことはできないらしい。プルーメでさえ驚いて、他の人の前でやらないようにと念押しされたから、文字通り、レーネだけの魔法だ。
自分だけできる魔法、というのはよくあることだからいいのだが、それでティノールトに喜んでもらえなかった、というのが悲しかった。やっぱり、店で売っているようなちゃんとしたCollarがほしかったのだろう。
「……外して、ちゃんと、Collar作ってくれるお店に」
「嫌です」
言葉の途中できっぱりと言いきられて、レーネはびくりと固まった。その間にティノールトに膝の上に乗せられて、向き合う形になる。
「これはレーネさんが俺のために、俺だけに作ってくれた大事なCollarです。絶対外しません」
驚いて、ぱちぱちと瞬きをするレーネの目から涙がこぼれた。途端にティノールトが慌てた顔になって、レーネの背中を撫でてくる。
「すみません、怖かったですか? 驚かせるつもりじゃなくて、いや、その」
「……僕のCollar、嫌じゃない?」
今度はティノールトが目を瞬いて、首のCollarに触れた。すり、と真ん中あたりに触れるところりと石が動いて、レーネの瞳と同じ色で光る。
「触れるだけでも、すごく幸せです」
そう言ったティノールトの顔がとても嬉しそうで、またレーネの目からぽろぽろと涙がこぼれた。
嫌だったわけではない。嬉しくなかった、わけでもない。ちゃんと、喜んでくれている。
安心して、ぎゅっと抱きついて、レーネはティノールトがせっかく綺麗にした体をまた涙で濡らした。
「よかっ、た、君が、嬉しくなかったと、思って、悲しくて」
「……すみません、俺がすぐお礼を言わなかったから……俺にCollarをくださって、ありがとうございます」
ティノールトに優しい声で言われて背中を撫でられると、余計に涙が溢れてくる。何か話そうとしてもえうえうと嗚咽になってしまって、うまく声が出せない。
ぐすぐす泣いてしまうレーネをそのまま抱き上げて、ティノールトが湯船に戻った。冷えないように湯を肩にかけてくれて、何も言わずにただ膝の上に抱えて、レーネを待ってくれる。優しい。
温かい湯船で撫でてもらっているうちに落ちついてきて、レーネはすりすりとティノールトに頬をすりつけた。
「落ちつきました?」
「うん……ありがとう」
あがりましょう、と抱っこで連れ出されて、ティノールトが甲斐甲斐しく体や髪を拭いてくれて、服も着せてくれる。レーネの世話をするのが楽しいらしい。ティノールトがずっと嬉しそうに微笑んでいるので、レーネも徐々に気持ちが安らいできて、うまく笑えるようになってきた。
「ティノールトくん、もう自分でできる」
「……俺がやりたい、って言っても、だめですか?」
そういう言い方をされると困る。ティノールトのしたいようにさせてやりたくなる。
髪だけレーネの魔法で乾かして、櫛を入れたり、爪を整えたりするのもすべてティノールトに任せてしまう。絶対に自分でやらないと気が済まないほどのこだわりはないし、どちらかといえばレーネはめんどくさがりだ。やってもらえるならいくらでも甘えられる。
そうして足の先までぴかぴかに磨き上げられたうえ、レーネはベッドの上まで自分の足で歩くことはなかった。Subが尽くしたがる性質なのは知っているが、ここまでくると少々やりすぎなのではないだろうか。ただ、ティノールトがとても幸せそうなので、止めようとは思わないが。
「レーネさん……お願いが、あるんですが」
ベッドの上に座らせたレーネのそばに、少しためらってからティノールトも腰を下ろした。レーネがそっと手を伸ばして撫でると、安心したように微笑んでくれる。床にKneelの姿勢を取るかどうか、迷ったのだろう。
「何だい」
「このCollarのデザインを、見てみたい……です」
そういえば、ティノールトには見せずにそのまま首につけてしまった。見てみたいと思うのも当然だろう。
両手を広げてふわりとCollarを再現して、ティノールトに差し出す。
「……そんなに簡単に作れるんですか」
「一度作ったから」
レーネの手からそっと持ち上げて、ティノールトがじっとCollarを見つめる。壊れものに触れるような手つきなのがおかしくて、レーネもちょいちょいと指でつついた。
「丈夫にしてある」
「こんなに繊細な作りなのに……」
ティノールトを傷つけないようなめらかにして、かぶれないよう常に浄化の魔法が働くようにして、もしものときには強力な結界を張るように魔法を仕込んである。
しかし丈夫さばかり考えて無骨な見た目にするのは、ティノールトの優しさが見えていないようで嫌だった。ティノールトは将軍だし、体格もよくて強い騎士なのだろうが、レーネにとっては、繊細で優しくてかわいい、大切な人なのだ。
だから、以前ティノールトが褒めてくれたレースの魔法といろいろな植物を参考に、透かし彫りのような作りにして、少し広めにとった空洞の部分に、レーネの目の色に似た石を収めておいた。このSubはレーネのものだというのも、きちんと主張したかったからだ。
「……こんなに素晴らしいCollarをくださってたんですね」
ティノールトが嬉しそうに笑って、手の上のCollarの形を確かめるように撫でた。愛おしげな手つきだが本物はそちらではないし、レーネにとって大切なのは、そのCollarをティノールトがつけてくれているということだ。手を取って首元に持っていかせて、ティノールトにそちらも撫でさせる。
「ちゃんと、つけてる」
「……はい」
それにも嬉しそうに笑って、ティノールトがキスを落としてくる。こそばゆい。くすくす笑うレーネの手に、ティノールトがそっとCollarを返してくれた。二つはいらないだろうし消してしまおうと思うのだが、指を一つ一つ丁寧になぞられて、Collarどころではない。
「どうかしたのかい」
「……Collarのデザインを、お借りしてもいいですか」
デザインと言われて首を傾げたレーネに、ティノールトはちょっと言葉につまったような顔をした。言葉を探すように視線を動かしてから、Collarを抱えているレーネの手を包むように、ティノールトの両手が添えられる。
「俺はレーネさんからCollarをいただいたので……俺も、レーネさんに何かあげたくて」
押しいただくように持ち上げられた指先に、ティノールトの唇が柔らかく触れる。見つめてくる瞳は春の空のような穏やかさなのに、レーネは急に、ティノールトの手が触れているところが熱い気がした。
「俺が作ることはできませんが、職人に頼んで、似たデザインの指輪を作ってもらおうかと……嫌ですか?」
「……僕に、くれるの」
口にしてから、レーネは自分の声が震えていることに気がついた。ティノールトが不安そうな顔をしているのも見える。違う。嫌がっているわけではなくて、喜んでいるのだと伝えなければ。
「うれ、し」
なんとかそこまで口にして、レーネはくしゃっと顔を歪めた。どうしてか、今日はよく涙が出てしまう。今までこんなに、泣くのを我慢できなかったことなどほとんどなかったのに。
ティノールトがまた慌てていて、涙は止まらないのに笑いもあふれてきてしまって、レーネは手に持っていたCollarを放り出してティノールトに抱きついた。
「あり、がと、ティノールトくん。うれしい、すごく……うれしい」
DomからSubにCollarを贈ることはあっても、SubからDomに返礼として何かが贈られるということは、あまりない。レーネも期待していたわけではないし、考えもしなかった。だから、ティノールトがそうやってレーネのために心を砕いてくれるというのが、とても嬉しい。
「……よかった」
ありがとう、と何度もくり返してぎゅうぎゅうくっつくレーネの背中を、ティノールトが優しく撫でてくれる。大きくてたくましい体にレーネが腕を回しても、少しも揺らがずに受け止めてくれるのが頼もしくて、包み込まれるような安心感があって幸せだ。
「レーネさん」
ぴょい、と顔を合わせたレーネの目元を優しく指で拭いながら、ティノールトの口元が弧を描く。
「キスしても、いいですか」
「Kiss」
答える代わりにCommandでねだって、レーネはティノールトを受け入れた。
ティノールトに背中を流してもらいながら、レーネはぽつりと問いかけた。将軍向けに作られた寮の部屋には専用の風呂がついていて、ティノールトの求めに応じてレーネはずっとそこを使っている。
「……Collarのことですか?」
優しく湯をかけられたあと、ティノールトが後ろから抱きしめてくる。回ってきた腕はいつも通り力強くて、レーネを嫌がっているようには感じられない。
レーネがしょんぼりした気持ちのまま振り返った先には、湯に濡れても落ちついて光っているCollarがある。自画自賛するようだが、きれいに作れた、と思う逸品だ。
「……あんまり、嬉しそうじゃ、なかった」
「すみません、その……驚きが、先に来て」
ティノールトに贈るものだったから、レーネは自分で用意したかったのだ。自分で作れる確信もあった。
しかし、普通は何もないところから何かを作り出すことはできないらしい。プルーメでさえ驚いて、他の人の前でやらないようにと念押しされたから、文字通り、レーネだけの魔法だ。
自分だけできる魔法、というのはよくあることだからいいのだが、それでティノールトに喜んでもらえなかった、というのが悲しかった。やっぱり、店で売っているようなちゃんとしたCollarがほしかったのだろう。
「……外して、ちゃんと、Collar作ってくれるお店に」
「嫌です」
言葉の途中できっぱりと言いきられて、レーネはびくりと固まった。その間にティノールトに膝の上に乗せられて、向き合う形になる。
「これはレーネさんが俺のために、俺だけに作ってくれた大事なCollarです。絶対外しません」
驚いて、ぱちぱちと瞬きをするレーネの目から涙がこぼれた。途端にティノールトが慌てた顔になって、レーネの背中を撫でてくる。
「すみません、怖かったですか? 驚かせるつもりじゃなくて、いや、その」
「……僕のCollar、嫌じゃない?」
今度はティノールトが目を瞬いて、首のCollarに触れた。すり、と真ん中あたりに触れるところりと石が動いて、レーネの瞳と同じ色で光る。
「触れるだけでも、すごく幸せです」
そう言ったティノールトの顔がとても嬉しそうで、またレーネの目からぽろぽろと涙がこぼれた。
嫌だったわけではない。嬉しくなかった、わけでもない。ちゃんと、喜んでくれている。
安心して、ぎゅっと抱きついて、レーネはティノールトがせっかく綺麗にした体をまた涙で濡らした。
「よかっ、た、君が、嬉しくなかったと、思って、悲しくて」
「……すみません、俺がすぐお礼を言わなかったから……俺にCollarをくださって、ありがとうございます」
ティノールトに優しい声で言われて背中を撫でられると、余計に涙が溢れてくる。何か話そうとしてもえうえうと嗚咽になってしまって、うまく声が出せない。
ぐすぐす泣いてしまうレーネをそのまま抱き上げて、ティノールトが湯船に戻った。冷えないように湯を肩にかけてくれて、何も言わずにただ膝の上に抱えて、レーネを待ってくれる。優しい。
温かい湯船で撫でてもらっているうちに落ちついてきて、レーネはすりすりとティノールトに頬をすりつけた。
「落ちつきました?」
「うん……ありがとう」
あがりましょう、と抱っこで連れ出されて、ティノールトが甲斐甲斐しく体や髪を拭いてくれて、服も着せてくれる。レーネの世話をするのが楽しいらしい。ティノールトがずっと嬉しそうに微笑んでいるので、レーネも徐々に気持ちが安らいできて、うまく笑えるようになってきた。
「ティノールトくん、もう自分でできる」
「……俺がやりたい、って言っても、だめですか?」
そういう言い方をされると困る。ティノールトのしたいようにさせてやりたくなる。
髪だけレーネの魔法で乾かして、櫛を入れたり、爪を整えたりするのもすべてティノールトに任せてしまう。絶対に自分でやらないと気が済まないほどのこだわりはないし、どちらかといえばレーネはめんどくさがりだ。やってもらえるならいくらでも甘えられる。
そうして足の先までぴかぴかに磨き上げられたうえ、レーネはベッドの上まで自分の足で歩くことはなかった。Subが尽くしたがる性質なのは知っているが、ここまでくると少々やりすぎなのではないだろうか。ただ、ティノールトがとても幸せそうなので、止めようとは思わないが。
「レーネさん……お願いが、あるんですが」
ベッドの上に座らせたレーネのそばに、少しためらってからティノールトも腰を下ろした。レーネがそっと手を伸ばして撫でると、安心したように微笑んでくれる。床にKneelの姿勢を取るかどうか、迷ったのだろう。
「何だい」
「このCollarのデザインを、見てみたい……です」
そういえば、ティノールトには見せずにそのまま首につけてしまった。見てみたいと思うのも当然だろう。
両手を広げてふわりとCollarを再現して、ティノールトに差し出す。
「……そんなに簡単に作れるんですか」
「一度作ったから」
レーネの手からそっと持ち上げて、ティノールトがじっとCollarを見つめる。壊れものに触れるような手つきなのがおかしくて、レーネもちょいちょいと指でつついた。
「丈夫にしてある」
「こんなに繊細な作りなのに……」
ティノールトを傷つけないようなめらかにして、かぶれないよう常に浄化の魔法が働くようにして、もしものときには強力な結界を張るように魔法を仕込んである。
しかし丈夫さばかり考えて無骨な見た目にするのは、ティノールトの優しさが見えていないようで嫌だった。ティノールトは将軍だし、体格もよくて強い騎士なのだろうが、レーネにとっては、繊細で優しくてかわいい、大切な人なのだ。
だから、以前ティノールトが褒めてくれたレースの魔法といろいろな植物を参考に、透かし彫りのような作りにして、少し広めにとった空洞の部分に、レーネの目の色に似た石を収めておいた。このSubはレーネのものだというのも、きちんと主張したかったからだ。
「……こんなに素晴らしいCollarをくださってたんですね」
ティノールトが嬉しそうに笑って、手の上のCollarの形を確かめるように撫でた。愛おしげな手つきだが本物はそちらではないし、レーネにとって大切なのは、そのCollarをティノールトがつけてくれているということだ。手を取って首元に持っていかせて、ティノールトにそちらも撫でさせる。
「ちゃんと、つけてる」
「……はい」
それにも嬉しそうに笑って、ティノールトがキスを落としてくる。こそばゆい。くすくす笑うレーネの手に、ティノールトがそっとCollarを返してくれた。二つはいらないだろうし消してしまおうと思うのだが、指を一つ一つ丁寧になぞられて、Collarどころではない。
「どうかしたのかい」
「……Collarのデザインを、お借りしてもいいですか」
デザインと言われて首を傾げたレーネに、ティノールトはちょっと言葉につまったような顔をした。言葉を探すように視線を動かしてから、Collarを抱えているレーネの手を包むように、ティノールトの両手が添えられる。
「俺はレーネさんからCollarをいただいたので……俺も、レーネさんに何かあげたくて」
押しいただくように持ち上げられた指先に、ティノールトの唇が柔らかく触れる。見つめてくる瞳は春の空のような穏やかさなのに、レーネは急に、ティノールトの手が触れているところが熱い気がした。
「俺が作ることはできませんが、職人に頼んで、似たデザインの指輪を作ってもらおうかと……嫌ですか?」
「……僕に、くれるの」
口にしてから、レーネは自分の声が震えていることに気がついた。ティノールトが不安そうな顔をしているのも見える。違う。嫌がっているわけではなくて、喜んでいるのだと伝えなければ。
「うれ、し」
なんとかそこまで口にして、レーネはくしゃっと顔を歪めた。どうしてか、今日はよく涙が出てしまう。今までこんなに、泣くのを我慢できなかったことなどほとんどなかったのに。
ティノールトがまた慌てていて、涙は止まらないのに笑いもあふれてきてしまって、レーネは手に持っていたCollarを放り出してティノールトに抱きついた。
「あり、がと、ティノールトくん。うれしい、すごく……うれしい」
DomからSubにCollarを贈ることはあっても、SubからDomに返礼として何かが贈られるということは、あまりない。レーネも期待していたわけではないし、考えもしなかった。だから、ティノールトがそうやってレーネのために心を砕いてくれるというのが、とても嬉しい。
「……よかった」
ありがとう、と何度もくり返してぎゅうぎゅうくっつくレーネの背中を、ティノールトが優しく撫でてくれる。大きくてたくましい体にレーネが腕を回しても、少しも揺らがずに受け止めてくれるのが頼もしくて、包み込まれるような安心感があって幸せだ。
「レーネさん」
ぴょい、と顔を合わせたレーネの目元を優しく指で拭いながら、ティノールトの口元が弧を描く。
「キスしても、いいですか」
「Kiss」
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