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屋根を修理しよう
しおりを挟むレムネアがウチで働きたいという。
昨晩の凄い魔法を見たあとだ。手の平くるっくるで我ながら節操ない気はするけど、正直に言えば願ったり。
雇ったなら彼女はウチにとって代えがたい戦力となってくれる気がする。
「あの力を貸してくれるなら俺も嬉しいけど……、でもいいのか、あまり大した賃金は払えないぞ?」
「構いません。ケースケさまは私の魔法を評価してくださいました。それでしたら、やりがいがあります」
キリッとした目で、俺を真っすぐ見据える彼女だった。
そうなるなら、俺もしっかりと答えないとなるまい。
「わかった、俺もレムネアの手を借してもらいたい。賃金はともかく、せめて衣食住は充実させて貰おうと思う」
かくしてレムネアは俺のところで働くことになった。
午前中は昨日の耕作放棄地で軽くゴミ拾いをして、食事を取った午後は屋根の修復だ。
彼女が空から落ちてきたときに出来た大穴は、そのままにしておけない。
早く直しておかないとね。雨でも降られたら困るし。
「ケースケさまー、この板で良いのでしょうか―?」
「ああそれだ、それを渡してくれー」
了解致しましたー。と庭に立つレムネアが杖を振る。
すると、地面に置いてあった薄い板が数枚、屋根上に居る俺の元へとフワフワ浮いてくる。
生活魔法らしい。
こちらの世界の概念では『念力』とでも言えばいいのだろうか。めちゃくちゃ便利だ。
なんでも、ちょっとした重い物はこうして魔法で運ぶのが『呪文使い』の常とのことだ。
キミ全然無能じゃないじゃん、と言ってみたが、あちらの世界で『呪文使い』に求められているのは、本来そんなことじゃないとのこと。
攻撃に使える魔法が一番なのだという。
なので自分は無能なのだと、彼女は言い張った。
まあいいよ。『こちらの世界』では凄い便利なのだから。
「オーライ、オーライ。はい、ここに置いて!」
トスン、と板が屋根瓦の上に置かれた。
よし、準備オッケー。俺はタオルで汗を拭きながら板を手にする。
屋根には50センチ大の大穴が開いていた。
とはいえ、屋根の骨組みである垂木は無事だったのは幸いだ。
修理の行程をしては、破れた野地板を張り替えてその上に防水シートを敷き、屋根瓦を再度組み直すと言ったところになる。
実は軽いメンテナンスなら、何回かやったことがある。
これだけの大穴の修繕は初めてなので、インターネットで調べながらの作業だ。
業者に頼もうかとも思ったのだが、レムネアとの初共同作業としてはこれが一番相応しいんじゃないかと思い、頑張ることにした。
まあ、業者に頼むとお金もすごく掛かるしね。
「どうでしょう様子は? ケースケさま」
「うん。板も丁度いい大きさだ、大きめに張り替えちゃいたいところだね」
フワフワと浮きながら屋根へと上がってきたレムネアに答えつつ、俺は作業を始める。
「あ、レムネア。そこらへんの屋根瓦もちょっと剥がしておいて」
「了解しました」
彼女の作業は全部魔法によるものだ。
この世界で魔法とか、目立つにも程があるからどうしようかと一瞬悩みもしたのだけれど、とりあえず屋根の修繕は急務でもあるからな。
周囲の人目に気をつけながら使ってもらえば、そーんな問題もあるまい。
あるかな? あるな。
「レムネア、屋根に上るときくらいは魔法でなく梯子を使ってくれないか? あまり目立ちすぎるのも良くないし」
「わかりました」
一応彼女が言うには、俺が魔法に対してひどくビックリしていた反省から、存在感が薄くなる魔法を自らに掛けながら魔法を行使しているのだとかなんとか。
それを掛けておけば、魔法を使っているところを見られてもあまり気にされないはず、だとかなんとか。
「それも生活魔法なのか?」と聞いてみたら、
「いえこれは便利魔法です」と返答された。なんだよ便利魔法って。
屋根瓦ふわふわ。
浮き上がった屋根瓦は、彼女が屋根の上を歩くと一緒に空中を移動する。
これを見られても不自然なことと思われないなら、なんでもアリだな。
苦笑しながら俺が板を交換していると、庭の先にある道路をお爺さんが歩いていた。
こちらを見ているので頭を下げると、お爺さんも頭を下げる。
横でレムネアが屋根瓦をフワフワさせてながら歩いているのに、お爺さんはなにも不思議がっていないように見えた。
「キミのことが見えていないのか?」
「見えてるけど、あまり意識されていないというのが正しいですね」
もちろん限度があるとのことで、あまりにも変なことをしたり、対象がイヤがること困ることをすれば、すぐに気がつかれる程度のものだそう。
「変に目立ちたくなかったので、元の世界でもよく使ってました。皆さん私を居ないものとしてスルーしてくれてましたよ」
「……そんな悲しいことを胸張りながら言うなよ」
俺がそう言ってジト目で見つめても、なぜかレムネアはどこか嬉しげだ。
自分の得意魔法が、いましっかり役に立っているのが喜ばしいのかもしれない。
俺は苦笑しながら作業を続けた。
まあね、少しづつでいいから、彼女にはそうやって自信をつけて貰いたいものだ。
しかししばらく時が経って、
「ひあっ!?」
と声が聞こえた。
なんだろう? と声のした方に目を向けてみる。
道路で、今度はランドセルを背負ったおさげ髪の女の子が、ペタリと地面に座り込んでこちらを見ていた。
こちら? いや。
きっと俺の方じゃない、屋根瓦をフワフワ宙に纏わせているレムネアのことを見ているのだ。
座り込んでる姿勢も、よく見れば驚いて尻もちをついたように思える。
「なあレムネア、あの子めっちゃおまえを見て驚いてないか?」
「……え?」
レムネアも地面に座り込んだその子に気づいたらしい。
「あああ、あの子にはたぶんこの魔法が効いていません!」
「この魔法って、気配が薄くなる魔法のことか?」
「はい」
それは困る。俺はレムネアにそう言った。
「も、申し訳ありません。ごくたまに居るのです、魔法の効きにくい相手というのが」
「そうなんだ」
魔法抵抗、とかいうものなのかな?
俺はゲームで良くある、そういう設定を思い出していた。
とはいえ、困るのは確かだった。
彼女の魔法の力は頼りにしたいけど、近所で噂になったりするのは避けたい俺だったのだ。まあ、図々しいと言えば図々しい。
「仕方ありません。一時催眠の魔法を掛けてきます」
そういうとレムネアは屋根から浮き上がり。
「お、おいっ!?」
俺が止める間もなく、件の尻もちをついた小学生のところまで飛んで行った。
「ぴゃあぁぁあーっ!」
女の子の悲鳴。
屋根から突然女の人が一直線に飛んで来たら、そりゃ怖いよな。俺は少し女の子に同情した。ちょっとしたトラウマものかもしれない。
レムネアは一瞬で女の子の目の前に立つと、彼女の額に杖の頭をコツン。
すると女の子の動きが止まった。
動かなくなった女の子をその場に残してこちらに戻ってきたレムネアが、申し訳なさそうな顔で俺を見る。
「ほんの少しの短い間しか効きませんが、ちょっとした催眠状態にしてきました」
「へえ? 催眠状態」
「こちらの世界では魔法が無いとのことですから、気がついたときにはきっと、目の錯覚だったとでも思ってくれるのではないかと」
「なるほどね」
「よっぽど魔法抵抗が高い子でない限りは、きっとこれでどうにか――」
とレムネアが改めて女の子の方を見た、そのとき。
「ぴぃぃあぁーーっ!」
ランドセルの女の子は走って逃げていった。
その後ろ姿を目で追ったのち、俺たちはゆっくりと顔を合わせた。
「魔法抵抗……」
「よっぽど、高かった……、みたいですね」
レムネアがペコペコと頭を下げてきた。
「申し訳ありませんケースケさま。まさか、あそこまで魔法抵抗が高い子が居るなんて」
「まいったな」
あれ、どう考えてもレムネアの魔法を見て驚いてたんだよなぁ。
俺は目を瞑って、「んー」と腕を組んだ。組んだ結果、うん、結論が出た。
「今さら気にしても仕方ないな。作業を続けよう、今日中に防水シートまで被せてしまいたいんだ」
「だ、大丈夫なのでしょうか!」
「わからないけど、どうにもならないからね。なにかあるなら、その時に個別対処で」
気楽に考えておこう。
子供だったのが不幸中の幸いというか、周囲に言ったとしてもなにかの見間違いだと諭されるんじゃないかな。ないかな!
大人の持ってる固定観念は強固だからね。
俺だってレムネアが本物のエルフだと認めるのに、めっちゃ段階踏んだし。
「あ、その木材取って」
「は、はいケースケさま」
「別に手で取らないでいいよ。魔法で渡してくれれば」
「ですけど!」
「大丈夫大丈夫」
今さらだからね。俺は笑ってみせた。すると。
「……ぷっ」
レムネアに笑われてしまった。クスクスと笑いながら、彼女は木材を足元に置く。
「ケースケさま、お気楽すぎます」
「いいじゃん。気楽にいこう」
「わかりました。それではお気楽に」
ふわり、レムネアは再び木材を魔法で運び始めたのだった。
――――。
ところで、今日、作業の最中に気がついたことがある。
なにかと問われると、ちょっとレムネアに聞かれたら憚られるのでこっそり言うが、なんというかアレだ。
『目のやり場に、困った』
おいおい、レムネアの奴! 下着つけてないのか!?
考えてみたらそりゃそうなのかもしれないけど、迂闊だった。
動くたびに胸がポヨポヨ揺れるし、汗を掻くと、ほら、なんだ? 透けるんだよ、シャツが! なにがどうとは言わないけど、透けてしまうのだ!
というわけで、緊急動議なのである。
明日は、レムネアの服を買いに行こう。軽トラを出して、郊外型ショッピングモールに出撃だ。
独身の若い男には目の毒すぎる!!
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