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町を見下ろして
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「混んでる!」
ウォーターチューブに並ぼうとした俺たちは驚いた。
階段の下の下まで行列ができ、蛇行している。
代表して声を上げたのはリッコだった。
「混んでるよケースケおにーさん!」
「これは……、並んでるうちにお昼時を超えてしまいそうだなぁ。どう思う、レイジ」
「タイミングが悪いなこれ」
午前中に遊びに来た層が、まずこれを楽しもうと一度に並んでいるのだろう。
「だよな。ちょっと後回しにした方がよさそうだ」
「えっ!?」
と俺の言葉に目を丸くするレムネア。
いやだって、これ並ぶと下手すりゃ1時間コースだぞ。
楽しみになっているところ悪いけど、先に他のことをした方がいい。
「そうですか……」
目に見えてションボリしたレムネアに、美津音ちゃんが声を掛ける。
「それ……なら、私、レムネアお姉ちゃんに泳ぎを教えて……欲しい、です」
「あ、私もよかったら……」
「なにナギサ、まだ泳ぎが苦手だったの?」
「う、うるさいな。リッコだって教えられるほどじゃないって言ってたでしょう?」
「いやまあ、そうなんだけど」
どうやら三人は泳ぎが不得意らしい。
車の中で「レムネアは泳ぐのうまいらしいぞ」って俺が吹聴したからな。教えて貰いたい勢が発生した。
「どうだレムネア、三人に泳ぎを教えてあげられないか?」
「わ、私がですか!?」
「泳ぎ、得意なんだろ?」
「得意です!」
えっへん、と胸を張るレムネアだった。
女の子三人組が、頭を下げた。
「「「教えてください」」」
「し、仕方ないですねぇ~」
というわけで。
俺とレイジはプールサイドで休みながら、彼女たちの練習を眺めることにしたのだった。
◇◆◇◆
「じゃあ皆さん、まず息の続く限り水に潜ってみましょう」
レムネアの指示で水の中に潜る三人娘。
一分も経たずに水面に顔を出したのは美津音だった。
「ぷわぁっ!」
よっぽど慌てて顔を出したのか、しばらく大きな呼吸を続ける美津音。
レムネアは小首を傾げながら尋ねる。
「あらら。美津音ちゃんは、そんなに息が続きませんか?」
「えっと、その……。息は……まだ続きそうなんだけど、もし続かなくなったら、って……思っちゃって」
美津音がそう言って俯くと、二分くらいは潜っていたリッコが困り顔で肩を竦める。
「ミッツンは怖がりなんだよね。だから、もし急に息が続かなくなったらってすぐ顔を上げちゃう」
「ふむむ。なにがそんなに怖いのですか、美津音ちゃん?」
「目が……」
と、美津音は顔を覆って。
「目が見えない中で、なにが起こるか、わからないのが、怖い……です」
「なるほど。美津音ちゃんは、水の中で目を開けられないのですね」
「は……い」
それなら、とレムネアは何処からともなく杖を手にした。
「水の中で目を開けるのが苦にならない魔法」
杖で、コツンと美津音の頭に触れる。
「これで大丈夫です。水の中で簡単に目を開けられると思いますよ」
「ま、魔法なのですかレムネアさん!」
「はい、魔法ですよナギサちゃん」
「私にも掛けて欲しいです!」
食い入り気味にレムネアに詰め寄るナギサ。
レムネアは勢いに押されてナギサに魔法を掛けるも。
「単に水の中で目を開けやすくなるだけですよ?」
「それでも構わないんです。魔法を体感してみたいだけですから」
「なら私にも、私にも掛けて!」
リッコも参戦してきたので、結局三人に魔法を掛けたのだった。
そして三人は、水中で目を開ける。
「がぼ、がぼがぼ」
「がぼぼ、がぼ」
「がぼぼぼぼぼ」
水中で喋ろうとしたのか、リッコとナギサがガボガボ言う。
そしてすぐに二人は水面に顔を上げた。
「あれ! お二人とも、さっきよりも短くないですか!? なんで!?」
「この魔法、凄いです!」
まずはナギサが声を上げた。
リッコが続く。
「水中で、こんなハッキリと目が利くなんて! しかも全然目が痛くならないし!」
「……そんな大げさな。初歩的な生活魔法ですよ?」
「いいえ、これは大した魔法ですとも。水中ゴーグルの類と違って視界が狭まらないから、水の中を思いっきり堪能できそうです」
(そんなものなのかな?)
レムネアは不思議そうな表情で首を傾げた。
彼女が魔法を用いて泳ぎを練習していたときは必死だった。
あちらの世界では水辺には危険が多いから、気が休まらないままに練習していたのだ。あまり『楽しむ』という方向に意識が行くことはなかった。
レムネアがそんなことを考えていると。
「ぷあっ!」
と、美津音が水から顔を上げた。
「ミッツン、長かったじゃーん!」
「今回はだいぶ長時間水の中にいたね、ミッツン」
ふー、と息を付いている美津音の周りでピョンピョン跳ねながら「えらいえらーい!」、リッコとナギサが彼女を褒めた。
「長く……、息を止められ……ました、です」
自分でも信じられない、という顔で、美津音が目をしばたかせた。
興奮しているのか、水中から出たばかりなのに頬が紅潮している。
「よかった美津音ちゃん。えらいですよ」
「えへへ……、レムネアお姉さん、のおかげ……です」
美津音の嬉しそうな顔を見て、レムネアも思わず嬉しくなった。
やっぱり人が喜ぶ顔はいいなぁ。そう思う心のどこかに、啓介が喜んでいる顔が浮かんでいる。人の役に立てるって、いいものです。
「じゃあ美津音ちゃん。これを少し続けて、水の中に慣れてしまいましょう」
「は、はい、です……」
美津音はしばらく魔法を掛けたまま練習をした。
その結果、魔法を解いても長い時間潜っていられるようになった。
「よかったねーミッツン、これで泳げるよ!」
「ミッツン頑張った」
「……ありがとう、リッコちゃんナギサちゃん。やった、です」
うんうん。
三人の様子を見てレムネアも嬉しそうに頷いた。
そんな彼女に美津音はひとしきり礼儀正しく。
「レムレア……お姉さん、ありがとうござい……ます。少しだけ……、自信が付いた気がします、です」
「水にさえ慣れてしまえたら、あとはもう簡単だと思いますよ」
「そうそう、時間の問題だよ」
「リッコの言う通りだよミッツン、あとは時間の問題」
と、美津音を祝福する三人の元に、啓介がやってきた。
「おーい、四人ともー」
「……はい、如何なさいました、ケースケさま?」
「レイジの奴が、今ならウォーターチューブ空いてそう、だって言ってるんだけど」
水際にしゃがみこんで、四人の顔を見る啓介。
「どうする? 昼食前に一回遊ぶか昼食を先にするか」
「「「「遊び」」」」
四人の声がハモる。
「ましょう!」「に一票!」「たいですね」「……たい、です」
どれが誰の言葉だかわからないくらいに、被りまくる。
「よし、じゃあ水から上がって」
元気の良い四人に苦笑しながら、ケースケは皆に促したのだった。
◇◆◇◆
高いところまで続く階段の途中で、俺たちは風に吹かれていた。
日差しはまだまだ暑いので、風が頬に気持ち良い。
レムネアは風になびく髪を片手で整えながら、俺に振り向いた。
「わくわくしますねぇケースケさま」
「そうだな。俺もこんな大きなプールに来たことがないから、ウォーターチューブには少しドキドキしてるよ」
「こちらの世界でもプールとは稀有な遊びなのでしょうか?」
「そんなことはないんだけど……」
独身のアラサーが一人で来るような場所じゃないのは確かだ。
最後にこんな大きなプール施設に行ったのは、大学のときか? もうだいぶ経つ。
「まあ、ボッチ気味だった俺にはあまり縁のない場所だったのは確かだよ」
「そうでしたか。でも今はお友達がたくさんですからね。気兼ねなくこれて良かったです」
確かに。
この土地に来て、友達が増えた気がする。
野崎さんたちを友達、と言うのは失礼な気もするが、良くしてくださる人、という意味で大事な人と言うことはできる。
会社に居た頃は、知り合いこそ多かったけど友達と言える人は居なかったよなぁ。
そう考えたら今の俺は充実してる。嬉しい限りだな。
「だいぶ高いですねぇ」
「ん?」
「いえ、ほらここから見ると広いプールが一望できますので」
「そうだな、人がたくさん。九月だけどまだまだ夏が続いてる感じだよ」
高いところからの景色は気持ちいいものだ。
見てると、あれ、なにかを思い出すような……。
「滑り丘を思い出しませんか?」
「ああ」
それだ。俺も今、それが出てきそうだったんだ。
子供たちと板で草の坂を滑って遊んだ、あの丘の上から見た景色。
「ふふ。あそこから見下ろした町も、ほんと広くて、でも小さくて」
「そうだった。続く畑、田んぼ。緑があちこちに点在する街並み、どれも小さかった」
俺の言葉に、レムネアが微笑んだ。
その笑顔はなんだかとても温かいもので。
「あのときはまだ少し、お客さんのような気持ちでしたけど……」
わかる。あのときは、ちょっと遠くにあの景色を見ていたけど。
「今はもう、俺たちの住む町なんだよな」
「はい……。私、あの土地が大好きです。あの土地に居る皆さんが大好きです」
高い高い階段の上からプールを見下ろしながら、俺たちは笑った。
ああそうだ。
あそこは、俺たちがこれから生きていく土地なのだ、と。
「二人とも、なにをボンヤリしてるんだ?」
「え?」
「もうお前たちの番だぞ、後ろがつかえてるんだから。イチャイチャしてないで早くいけよ」
「わ、悪い、レイジ」
「は、はいレイジさん」
レイジに促された俺は、急いでチューブに入ろうと思った。
だがどうも、それはレムネアも同じだったらしく。
「だ、ダメですよ。危ないですお客さん!」
「えっ!?」
「きゃっ!」
ひゃああああー、と、二人で同時にチューブに入ってしまった。
身体をくっつけたまま、俺たちはチューブの中を滑り落ちていく。
チューブはグルグル。
大きく回転しながら、俺たちは滑っていく。
二人分の体重で、勢いが上がる。あわわ。
ざっぱーーんッッッ!
目を回した俺たちは、出口のプールに勢いよく飛び出して。
しばらくプカプカと水に浮かんでしまったのだった。
ウォーターチューブに並ぼうとした俺たちは驚いた。
階段の下の下まで行列ができ、蛇行している。
代表して声を上げたのはリッコだった。
「混んでるよケースケおにーさん!」
「これは……、並んでるうちにお昼時を超えてしまいそうだなぁ。どう思う、レイジ」
「タイミングが悪いなこれ」
午前中に遊びに来た層が、まずこれを楽しもうと一度に並んでいるのだろう。
「だよな。ちょっと後回しにした方がよさそうだ」
「えっ!?」
と俺の言葉に目を丸くするレムネア。
いやだって、これ並ぶと下手すりゃ1時間コースだぞ。
楽しみになっているところ悪いけど、先に他のことをした方がいい。
「そうですか……」
目に見えてションボリしたレムネアに、美津音ちゃんが声を掛ける。
「それ……なら、私、レムネアお姉ちゃんに泳ぎを教えて……欲しい、です」
「あ、私もよかったら……」
「なにナギサ、まだ泳ぎが苦手だったの?」
「う、うるさいな。リッコだって教えられるほどじゃないって言ってたでしょう?」
「いやまあ、そうなんだけど」
どうやら三人は泳ぎが不得意らしい。
車の中で「レムネアは泳ぐのうまいらしいぞ」って俺が吹聴したからな。教えて貰いたい勢が発生した。
「どうだレムネア、三人に泳ぎを教えてあげられないか?」
「わ、私がですか!?」
「泳ぎ、得意なんだろ?」
「得意です!」
えっへん、と胸を張るレムネアだった。
女の子三人組が、頭を下げた。
「「「教えてください」」」
「し、仕方ないですねぇ~」
というわけで。
俺とレイジはプールサイドで休みながら、彼女たちの練習を眺めることにしたのだった。
◇◆◇◆
「じゃあ皆さん、まず息の続く限り水に潜ってみましょう」
レムネアの指示で水の中に潜る三人娘。
一分も経たずに水面に顔を出したのは美津音だった。
「ぷわぁっ!」
よっぽど慌てて顔を出したのか、しばらく大きな呼吸を続ける美津音。
レムネアは小首を傾げながら尋ねる。
「あらら。美津音ちゃんは、そんなに息が続きませんか?」
「えっと、その……。息は……まだ続きそうなんだけど、もし続かなくなったら、って……思っちゃって」
美津音がそう言って俯くと、二分くらいは潜っていたリッコが困り顔で肩を竦める。
「ミッツンは怖がりなんだよね。だから、もし急に息が続かなくなったらってすぐ顔を上げちゃう」
「ふむむ。なにがそんなに怖いのですか、美津音ちゃん?」
「目が……」
と、美津音は顔を覆って。
「目が見えない中で、なにが起こるか、わからないのが、怖い……です」
「なるほど。美津音ちゃんは、水の中で目を開けられないのですね」
「は……い」
それなら、とレムネアは何処からともなく杖を手にした。
「水の中で目を開けるのが苦にならない魔法」
杖で、コツンと美津音の頭に触れる。
「これで大丈夫です。水の中で簡単に目を開けられると思いますよ」
「ま、魔法なのですかレムネアさん!」
「はい、魔法ですよナギサちゃん」
「私にも掛けて欲しいです!」
食い入り気味にレムネアに詰め寄るナギサ。
レムネアは勢いに押されてナギサに魔法を掛けるも。
「単に水の中で目を開けやすくなるだけですよ?」
「それでも構わないんです。魔法を体感してみたいだけですから」
「なら私にも、私にも掛けて!」
リッコも参戦してきたので、結局三人に魔法を掛けたのだった。
そして三人は、水中で目を開ける。
「がぼ、がぼがぼ」
「がぼぼ、がぼ」
「がぼぼぼぼぼ」
水中で喋ろうとしたのか、リッコとナギサがガボガボ言う。
そしてすぐに二人は水面に顔を上げた。
「あれ! お二人とも、さっきよりも短くないですか!? なんで!?」
「この魔法、凄いです!」
まずはナギサが声を上げた。
リッコが続く。
「水中で、こんなハッキリと目が利くなんて! しかも全然目が痛くならないし!」
「……そんな大げさな。初歩的な生活魔法ですよ?」
「いいえ、これは大した魔法ですとも。水中ゴーグルの類と違って視界が狭まらないから、水の中を思いっきり堪能できそうです」
(そんなものなのかな?)
レムネアは不思議そうな表情で首を傾げた。
彼女が魔法を用いて泳ぎを練習していたときは必死だった。
あちらの世界では水辺には危険が多いから、気が休まらないままに練習していたのだ。あまり『楽しむ』という方向に意識が行くことはなかった。
レムネアがそんなことを考えていると。
「ぷあっ!」
と、美津音が水から顔を上げた。
「ミッツン、長かったじゃーん!」
「今回はだいぶ長時間水の中にいたね、ミッツン」
ふー、と息を付いている美津音の周りでピョンピョン跳ねながら「えらいえらーい!」、リッコとナギサが彼女を褒めた。
「長く……、息を止められ……ました、です」
自分でも信じられない、という顔で、美津音が目をしばたかせた。
興奮しているのか、水中から出たばかりなのに頬が紅潮している。
「よかった美津音ちゃん。えらいですよ」
「えへへ……、レムネアお姉さん、のおかげ……です」
美津音の嬉しそうな顔を見て、レムネアも思わず嬉しくなった。
やっぱり人が喜ぶ顔はいいなぁ。そう思う心のどこかに、啓介が喜んでいる顔が浮かんでいる。人の役に立てるって、いいものです。
「じゃあ美津音ちゃん。これを少し続けて、水の中に慣れてしまいましょう」
「は、はい、です……」
美津音はしばらく魔法を掛けたまま練習をした。
その結果、魔法を解いても長い時間潜っていられるようになった。
「よかったねーミッツン、これで泳げるよ!」
「ミッツン頑張った」
「……ありがとう、リッコちゃんナギサちゃん。やった、です」
うんうん。
三人の様子を見てレムネアも嬉しそうに頷いた。
そんな彼女に美津音はひとしきり礼儀正しく。
「レムレア……お姉さん、ありがとうござい……ます。少しだけ……、自信が付いた気がします、です」
「水にさえ慣れてしまえたら、あとはもう簡単だと思いますよ」
「そうそう、時間の問題だよ」
「リッコの言う通りだよミッツン、あとは時間の問題」
と、美津音を祝福する三人の元に、啓介がやってきた。
「おーい、四人ともー」
「……はい、如何なさいました、ケースケさま?」
「レイジの奴が、今ならウォーターチューブ空いてそう、だって言ってるんだけど」
水際にしゃがみこんで、四人の顔を見る啓介。
「どうする? 昼食前に一回遊ぶか昼食を先にするか」
「「「「遊び」」」」
四人の声がハモる。
「ましょう!」「に一票!」「たいですね」「……たい、です」
どれが誰の言葉だかわからないくらいに、被りまくる。
「よし、じゃあ水から上がって」
元気の良い四人に苦笑しながら、ケースケは皆に促したのだった。
◇◆◇◆
高いところまで続く階段の途中で、俺たちは風に吹かれていた。
日差しはまだまだ暑いので、風が頬に気持ち良い。
レムネアは風になびく髪を片手で整えながら、俺に振り向いた。
「わくわくしますねぇケースケさま」
「そうだな。俺もこんな大きなプールに来たことがないから、ウォーターチューブには少しドキドキしてるよ」
「こちらの世界でもプールとは稀有な遊びなのでしょうか?」
「そんなことはないんだけど……」
独身のアラサーが一人で来るような場所じゃないのは確かだ。
最後にこんな大きなプール施設に行ったのは、大学のときか? もうだいぶ経つ。
「まあ、ボッチ気味だった俺にはあまり縁のない場所だったのは確かだよ」
「そうでしたか。でも今はお友達がたくさんですからね。気兼ねなくこれて良かったです」
確かに。
この土地に来て、友達が増えた気がする。
野崎さんたちを友達、と言うのは失礼な気もするが、良くしてくださる人、という意味で大事な人と言うことはできる。
会社に居た頃は、知り合いこそ多かったけど友達と言える人は居なかったよなぁ。
そう考えたら今の俺は充実してる。嬉しい限りだな。
「だいぶ高いですねぇ」
「ん?」
「いえ、ほらここから見ると広いプールが一望できますので」
「そうだな、人がたくさん。九月だけどまだまだ夏が続いてる感じだよ」
高いところからの景色は気持ちいいものだ。
見てると、あれ、なにかを思い出すような……。
「滑り丘を思い出しませんか?」
「ああ」
それだ。俺も今、それが出てきそうだったんだ。
子供たちと板で草の坂を滑って遊んだ、あの丘の上から見た景色。
「ふふ。あそこから見下ろした町も、ほんと広くて、でも小さくて」
「そうだった。続く畑、田んぼ。緑があちこちに点在する街並み、どれも小さかった」
俺の言葉に、レムネアが微笑んだ。
その笑顔はなんだかとても温かいもので。
「あのときはまだ少し、お客さんのような気持ちでしたけど……」
わかる。あのときは、ちょっと遠くにあの景色を見ていたけど。
「今はもう、俺たちの住む町なんだよな」
「はい……。私、あの土地が大好きです。あの土地に居る皆さんが大好きです」
高い高い階段の上からプールを見下ろしながら、俺たちは笑った。
ああそうだ。
あそこは、俺たちがこれから生きていく土地なのだ、と。
「二人とも、なにをボンヤリしてるんだ?」
「え?」
「もうお前たちの番だぞ、後ろがつかえてるんだから。イチャイチャしてないで早くいけよ」
「わ、悪い、レイジ」
「は、はいレイジさん」
レイジに促された俺は、急いでチューブに入ろうと思った。
だがどうも、それはレムネアも同じだったらしく。
「だ、ダメですよ。危ないですお客さん!」
「えっ!?」
「きゃっ!」
ひゃああああー、と、二人で同時にチューブに入ってしまった。
身体をくっつけたまま、俺たちはチューブの中を滑り落ちていく。
チューブはグルグル。
大きく回転しながら、俺たちは滑っていく。
二人分の体重で、勢いが上がる。あわわ。
ざっぱーーんッッッ!
目を回した俺たちは、出口のプールに勢いよく飛び出して。
しばらくプカプカと水に浮かんでしまったのだった。
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