嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん

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豊穣祈願祭

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 今年の豊穣を祈願する祭りが始まった。
 春を前にしたこの時期、冬から残った食べ物を神にお供えする儀式だ。

 食べ物がたくさん残っていたときは、神さまに素直な感謝を。お供えすべき食べ物が少ない、または全然ないような年は、神さまに恨み言とちょっとした脅迫を。お供えが欲しかったら来年は豊作にしろ、と。それぞれ種まき前に伝えるのである。

 今年は魔物の脅威が去ったこともあって、大豊作と言うべき年だったからお供え物も多い。供えたあとは皆で一気に消費するので、祭りも大規模になる。
 街道整備の甲斐もあって、商人、旅人、冒険者、他領から来た者らもひしめきあっている。メイン会場の広場は当然として、広場に向かう少し広い道はどこも人がごった返していた。

 最終日である三日目の午後には、領主である俺や、婚約者であるミューゼア嬢が中央広場の祭壇に赴いて、神返しの儀を執り行う予定だ。降臨してくださっている神さまを、丁重にお返しする儀式であり、代々領主がこれを仕切っている。

 もしルナがミューゼア嬢を狙うなら、この時をおいて他にはないだろう。
 集まる人の波も最高潮で、一番警護が難しくなる瞬間なのだから。

「セバス、見張りの様子はどうか」
「はいギリアムさま。お伝えした予定通りに見張りを配置、現在のところは異常はないようです」
「ということは、ルナが攻めてくる予定のルートも」
「設定済みです。意図的に見張りの盲点を作ってありますので、来るならばきっとそこから」

 セバスの発案で、見張りの膜を一部薄くしてある。
 ルナは暗殺者、諜報もお手の物だろう。そういった『スジ』の者が見れば、薄手になっている場所があることには気づくはず。他はガッチリ固めてあるので、もし罠だろうと予測していたとしても、そこを使う可能性は高い。

「わしの方もセバスの配置案に沿って問題なく配置済みじゃよ。ところで、ギリアム考案の三人組システムじゃが、魔族は戦闘力も高いから二人組くらいでも良くないかの?」
「だめだ」

 俺はガリアードレの言葉をピシャリと跳ねのけた。

「ルナに、万が一でもここで殺人を犯して欲しくない。あいつは強いから、三人を組ませておけば武力行使を面倒事として避ける確率が上がると思うんだ。二人だと、隙を見せてしまい取り返しの付かないことになりかねない」

 俺は繰り返しになることを、何度か目として言い続ける。

「俺たちは彼女の身と心、両方を救いたいと思っている。プロとしてとはいえ、この土地で殺しをされたら、それが困難になってしまうからね」
「……そうじゃな、ギリアムの言う通りじゃった。ルナの奴を甘くみないことを、ここに誓おう」

 俺が頷くと、横にいたミューゼア嬢が今度は俺に聞いてきた。

「やってくる本命は、三日目の神返しの儀の最中ですよね?」
「そうですね。一番貴女を狙いやすい状況ですから」
「ルートが限られている以上、素直に正面策を取ってくるとは限らない気がするのですが……」
「そうですね。ルナはたぶん、なにかしら策を講じてくると思います。それだけに三人組を徹底しながら、気を付けていきましょう。わかったな、セバス、ガリアードレ?」

 二人は頷くと、また警備の確認に戻っていった。
 一日目、二日目は、大方の予想通りなにもなかった。そして三日目だ。神返しの儀が近づきつつある。

「ではミューゼア嬢、そろそろ俺たちは準備しましょう」
「はいギリアムさま」

 俺たちが中央広間の祭壇に向かうと、領民たちの祭り騒ぎは最高潮になった。
 一緒に見ている旅人たちも興奮気味で、屋台の肉串を片手に楽しそうに見物だ。

 そんな中、セバスとガリアードレが広場から離れていく。
 ルナを待ち受けるべく、警備を薄するルートの最終確認に向かったのだった。
 彼らの後ろ姿を横目に、俺とミューゼア嬢は祭壇へと上がった。

「天より降りて参られた我らが神よ。豊穣神エクディアよ!」

 俺は豊穣感謝の祝詞を唱え始めた。
 ざわついていた広場から次第、声が減っていき。俺の声だけが流れていく。
 広場中が粛々とした空気に支配された頃――。

 町の外れ、ルナの侵入予定ルートで異変が起こっていたのだった。

 ◇◆◇◆

 ボロいフードとマントに身を包んだ、ルナと思しき体躯をした者が、警備の隙を突いて町へと駆け込んできた。
 素早い走りで、一気に突入してくる。

「待っておったのじゃ、ルナよ!」

 巨大な鉄篭手を掲げたガリアードレが、建物の屋根上から現れた。
 喜々とした表情で、道路の上に飛び降りる。

「約束通り、わしはお主を救うのじゃ! お主に聞かせてやりたいこともあるでな。じゃが――」

 にんまり笑いのガリアードレ。

「まずは腕試しと行こうではないか、拳で語り合うのも重要ぞ!」

 言いざま、ヒャッハーと大ジャンプ。
 見事な跳躍でボロフードに近づいて、巨大鉄拳を振るう。ボロフードは、彼女を攻撃を避けもしなければ受け止めもしなかった。胴体に、見事なクリーンヒット。

「な、なんじゃっ!?」

 手ごたえも薄かった。ガリアードレが目を丸くしたのは、殴った相手が幾つにも何十にも破砕したからだ。破砕した欠片は、それぞれが地面に落ちる。

 それは円錐の形に加工された、手のひらにでも乗せられそうな程度の大きさをした『牙』だった。物理攻撃派のガリアードレはそこまで魔法に詳しくないので、それがなにか気づけない。気がついて声を上げたのは、後から現れたセバスだった。

「ご注意を、ガリアードレさま! それは竜の牙にございます!」
「竜の牙?」

 コロコロコロ。
 転がった数十の円錐が、全て綺麗に地面の上に「立った」。その動きはそれぞれ不自然で、横たわったはずのものはピョコンと跳ねて立つ。

 立った竜の牙が、地面から伸びてくる。伸びたそれは、ツノだった。ツノを持ったしゃれこうべが地面から、ぬぅっと、浮上してきた。しゃれこうべの後には骨の身体が続き、最後には足までの人の形をした『骨人形』が姿を現したのである。

「なんと、あにやら怪しい魔法であったか!?」
竜牙兵ドラゴントゥースウォリアーにございます。ドラゴンの牙を触媒とした、暗黒魔法ですな」

 二人の前に、数十体を数える竜牙兵ドラゴントゥースウォリアーが立っていた。それぞれシミターと盾を構えたそれらは、高次魔法により作成された使い魔だった。

「おおおぅ、数で推して参るつもりかの」
「さて、どうするおつもりでしょうか」

 すると竜牙兵ドラゴントゥースウォリアーたちは、一斉にマントとフードを被った。剣盾を構えてはいるが、マントとフードを被るとどれも見た目がルナの体躯に近くなる。

「なるほど。数に紛れての突破であるらしいですな、ガリアードレさま」
「この中にルナが混ざっているということじゃな。にしても、そんなことが出来るものかのぅ、わしら二人を前にして」
「おや? 私もお手伝いして構わないと?」

 意外そうな顔でセバスはガリアードレのことを見た。
 戦闘大好きな彼女のことである、ここは一人で任せろ、というかと思っていたのだが。

「万一のもここを抜けさせたくはないからの。手伝え、セバス」
「そういうことでございましたら……」

 なるほど。
 ライゼル領民のことを大事に考えてくれておられるらしい、とセバスは理解した。
 それならば自分も、期待に答えなくてはなるまい。

「フンッ!」

 セバスが筋肉を強調させるポーズを取ると、上半身の衣服――執事服がバリバリッッッ、と破け散った。

「ふん、相変わらずじゃの。歳に似合わぬ身体をしておる」
「恐縮にございます」

 ニコッと笑ったセバスは声を上げる。

「お聞きになられましたね、警備員の皆さん! 各班、リーダーに従いここからは住民の避難を担当してください!」

 各所からハイ! わかりました! と了解の声が上がる。

「ではいきますぞ、お先にでございます!」
「あ、この! わしを差し置くな!」

 セバスとガリアードレは、剣と盾を持ったスケルトン、竜牙兵ドラゴントゥースウォリアーの群れに突っ込んでいったのだった。

 ――――。

「……なにか、聞こえませんでしたか?」

 祭壇を前にしたミューゼアが疑問に首を傾げた。
 ギリアムが、それに頷く。

「どうやら始まったみたいです」
「え?」
「俺もちょっと言ってきますよ。ルナの奴を出迎えに」
「わ、わかりました。ご武運を」
「ミューゼア嬢はここに留まっててください。今だとここが一番安全なはずです」

 頷くミューゼアに笑いかけると、ギリアムは――ドン、と飛び上がったのだった。

 ◇◆◇◆

 遥か上空。それはとてもじゃないが地上からは視認できないような、高空。
 ルナはそこにいた。地上を見下ろして、これまでずっと事態の推移を見守っていた。

 予定通り、『敵』は竜牙兵ドラゴントゥースウォリアーに食いついてくれた。
 万一、ルナがそこに居ないことを見破ったとしても、町に被害を出さないために、彼らは全力で竜牙兵ドラゴントゥースウォリアーの排除に力を使わないとならないはずだ。

 見下ろしながら、彼女は思わず耳を塞ぐ。
 暗殺者として、特別耳の良い彼女には、地上で騒ぐ領民たちの『楽しそうな』笑い声が聞こえてきてしまう。

 なんとしたことか、ライゼルの領民たちは今、セバスやガリアードレの戦いを『楽しみながら』見物していた。

「セバスさま、久々の筋肉ですー! キャー!」
「さすがガリアードレさまだ、骨なんか軟弱なものは、鉄篭手で一発KO!」

 なんと緊張感のない。ここの領民は非常識だ。なんで、なんであんな楽しそうに。自分たちの身だって、危ないはずなのに。うるさくて仕方ない。耳が良いことを今ほど呪ったことはないルナだった。

「笑い声……耳障り」

 なんであいつらは……、魔族と人間なのに、一緒に笑いあえるの?
 ズルい。ズルい。ズルい。私はこんなに苦しいのに、せっかくあの人に貰った命なのに、苦しみしかない。

 妬ましいな、と改めて思った。
 ミューゼア・セルベールが妬ましいな、と。

 あの人もセルベール家の者なのに、一人こんな楽しそうな土地に来て、喜びを享受しているんだ。妬ましい、ああ妬ましい。

 絶対に、あいつは「あの人」のことを知っていたはずなんだ。
 だって、絶対に他の人が知らないはずのことを知ってたんだから。
 なんで教えてくれなかった。それがボクから最後の希望さえ奪った。あいつが笑ってるかと思うと、胸の中に黒い沁みが広がって苦しい。

 ミューゼア・セルベールの幸福が、私を一番傷つける。なんで、なんで、なんで。

「いや……もういいよ」

 全部、終わらしてしえばいいだけなんだ。
 あの女を殺して、仕事を終わらせれば、あとはここから離れるだけ。

 この眩しすぎる町も、あの女の笑顔も、私のこのどうしようもない心も、全部。それで忘れてしまうことができる。

 これまでと同じ。
 なにも考えずにさえいれば、なにも感じずに居られる。
 この、胸の中に渦巻くグログロとした暗く熱いを感じずに居られる。こんなイヤな気持ちにならなくて済む。

 ああ――いっそ、ここで死んでしまうのも悪くないかもしれない。

 この高度から最大限に勢いをつけてミューゼア・セルベールに向かって落ちていけば、たとえあの邪魔そうな領主が守りに入ったとしても、押し込んであの女を殺せる。私も死ぬだろうけど、ああ、それは丁度いいかもしれない。そうしようか。

 ――うん、そうしよう。

 ルナは心を落ち着けた。
 決めてしまえば、もうどこかすっきりするものがあった。

「全て終わると思えるって、こんな救済だったんだ……」

 ひとりごちた。

「死ぬには良い天気」

 と、ルナが下から前へと視線を移した、そのとき。

「いや。死なせないけどな?」

 高高度のこの空、イカロスでもない限りはとても上がってこれるはずもない場所に、ギリアムがいたのだった。

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