玉ねぎが、恋のキューピットだったなんて僕は知らなかった

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第三話

3-4

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 足早に駐輪場に向かうと、双葉は何をするでもなく、ただ俯いて佇んでいた。

「ごめん、タイミングずらそうと思ったら遅くなった」
「ううん、大丈夫」
「……えっと、何だった?」

 小柄な彼女の上目遣いが、何だか切なげだ。期待と不安が鬩ぎ合い、彼女の言葉を待つことしか出来ない。

「あのね、私……」

 三分ほどの沈黙を、双葉の唇が静かに切り裂いた。しかし、その憔悴した語気が、さらに静寂を深めたようにも思える。

「私ね、引っ越す事になったの……」

 落とした目線の先で、双葉がぎゅっと裾を握った。
 鮮やかな夕焼けを背に、押し黙る。
 散ってゆく生徒たちの足音が耳に入らないくらいに、日向の気は動転していた。

「な、なんで……!?」

 やっと出てきた声には抑えることの出来ない焦燥が滲み出て、思わず表情も歪む。

「……家の都合でね……」

 哀調を帯びた吐息に続き、彼女は遠方にある都会の名前を口にする。
 あらゆる思考が巡り巡る中、双葉と出会ったあの場所を思い出す。

「畑は、どうするの……?」
「お父さんの知人が引き受けてくれるみたい」

 ゆくりなくも訊ねた質問に、彼女は口角に笑みを描き、答えた。それと同時に彼女の目元に滲み出した憂愁を、日向は見逃すことが出来ない。

「……なんか、ごめんね。皆にはまだ言ってないんだけど、日向くんには仲良くしてもらったから言っておきたくて。……もう日も落ちてきたことだし、帰ろうかな」

 何かを隠すように体を翻した彼女が、じゃあねと手を振った。

 呼び止めようにも、言葉が見つからない。徐々に小さくなってゆく背中から目を背け、トボトボと反対方向へと歩き出す。
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