18 / 25
第三話
3-4
しおりを挟む
足早に駐輪場に向かうと、双葉は何をするでもなく、ただ俯いて佇んでいた。
「ごめん、タイミングずらそうと思ったら遅くなった」
「ううん、大丈夫」
「……えっと、何だった?」
小柄な彼女の上目遣いが、何だか切なげだ。期待と不安が鬩ぎ合い、彼女の言葉を待つことしか出来ない。
「あのね、私……」
三分ほどの沈黙を、双葉の唇が静かに切り裂いた。しかし、その憔悴した語気が、さらに静寂を深めたようにも思える。
「私ね、引っ越す事になったの……」
落とした目線の先で、双葉がぎゅっと裾を握った。
鮮やかな夕焼けを背に、押し黙る。
散ってゆく生徒たちの足音が耳に入らないくらいに、日向の気は動転していた。
「な、なんで……!?」
やっと出てきた声には抑えることの出来ない焦燥が滲み出て、思わず表情も歪む。
「……家の都合でね……」
哀調を帯びた吐息に続き、彼女は遠方にある都会の名前を口にする。
あらゆる思考が巡り巡る中、双葉と出会ったあの場所を思い出す。
「畑は、どうするの……?」
「お父さんの知人が引き受けてくれるみたい」
ゆくりなくも訊ねた質問に、彼女は口角に笑みを描き、答えた。それと同時に彼女の目元に滲み出した憂愁を、日向は見逃すことが出来ない。
「……なんか、ごめんね。皆にはまだ言ってないんだけど、日向くんには仲良くしてもらったから言っておきたくて。……もう日も落ちてきたことだし、帰ろうかな」
何かを隠すように体を翻した彼女が、じゃあねと手を振った。
呼び止めようにも、言葉が見つからない。徐々に小さくなってゆく背中から目を背け、トボトボと反対方向へと歩き出す。
「ごめん、タイミングずらそうと思ったら遅くなった」
「ううん、大丈夫」
「……えっと、何だった?」
小柄な彼女の上目遣いが、何だか切なげだ。期待と不安が鬩ぎ合い、彼女の言葉を待つことしか出来ない。
「あのね、私……」
三分ほどの沈黙を、双葉の唇が静かに切り裂いた。しかし、その憔悴した語気が、さらに静寂を深めたようにも思える。
「私ね、引っ越す事になったの……」
落とした目線の先で、双葉がぎゅっと裾を握った。
鮮やかな夕焼けを背に、押し黙る。
散ってゆく生徒たちの足音が耳に入らないくらいに、日向の気は動転していた。
「な、なんで……!?」
やっと出てきた声には抑えることの出来ない焦燥が滲み出て、思わず表情も歪む。
「……家の都合でね……」
哀調を帯びた吐息に続き、彼女は遠方にある都会の名前を口にする。
あらゆる思考が巡り巡る中、双葉と出会ったあの場所を思い出す。
「畑は、どうするの……?」
「お父さんの知人が引き受けてくれるみたい」
ゆくりなくも訊ねた質問に、彼女は口角に笑みを描き、答えた。それと同時に彼女の目元に滲み出した憂愁を、日向は見逃すことが出来ない。
「……なんか、ごめんね。皆にはまだ言ってないんだけど、日向くんには仲良くしてもらったから言っておきたくて。……もう日も落ちてきたことだし、帰ろうかな」
何かを隠すように体を翻した彼女が、じゃあねと手を振った。
呼び止めようにも、言葉が見つからない。徐々に小さくなってゆく背中から目を背け、トボトボと反対方向へと歩き出す。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる