蒼い春も、その先も、

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秘める春信

3-1

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「つーばき!」

 棚に書籍を並べていた椿は、快活な少女の声に振り向いた。

 書店の名前がプリントされたエプロンを身に付けた彼女は、松原まつばら千冬ちふゆと言う。椿の同級生、そして同僚であり、幼馴染だ。

「……今バイト中だよ」
「お客さん全然いないから大丈夫だよー」
「そういうことじゃないよ。お金貰ってるんだからちゃんと働かなきゃ」
「相変わらず真面目だなー。それより、椿って朝比奈くんと仲良いの?」

 千冬の口から穂希の名前が出てきたことが意想外で、一瞬固まる。

「……なんで?」
「だって毎日保健室に会いに行ってるじゃん?」
「え、知ってたの?」
「ふふふー。椿のことだったら私に知らないことはありませーん」

 椿は苦笑した。
 彼女が椿自身やその周囲のことを珠の他把握しているのは事実だ。

 だが、性的嗜好の異常性には気付いていないようだった。

 当然のことだ。椿は自身のセクシュアリティを、穂希以外の誰にも打ち明けていないのだから。

 椿も、千冬の事を他人ひとよりは把握しているつもりだ。だからこそ、言えるわけがなかった。

「にしても、やっぱああいう子もほっとかないんだね。さすがクラス委員長」
「クラス委員長だからじゃないよ。……心配じゃないか、全然教室に来れない子だし」

 千冬が腑に落ちない様子で唸る。彼女の手元は、申し訳程度に乱れた陳列棚を整えていた。

「でもさ、皆気味悪がって近付かないじゃん」
「そうなの?」
「だって傷やばいもん。無駄に気遣うし、私もどんな風に声掛けたらいいか分かんない」

 悪気が無い事は分かっている。けれども彼女の発言には、抗いたくなるものがあった。

「……穂希くんは普通の、優しい子だよ」

 ちょうど受任していた仕事が終わり、椿は千冬の顔も見ずにその場を立ち去った。

 バックルームに戻り、雑誌にビニールを掛ける作業を開始するも、何となく進歩が甘い。
 おまけに、小さな溜め息まで出てくる。

 先程の発言と、昨日聞いた、穂希を軽蔑するクラスメイトの声とが、脳内で再生される。


 ――――千冬や他の生徒の反応が普通なのだとしたら、きっとその“普通”は間違いだ。
 異常で気味が悪いのは、確実に自分の方だと言うのに。
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