蒼い春も、その先も、

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心は淡雪のように

6-2

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「はい、これ冷めたら冷蔵庫ね」

 五種類ほどの副菜を保存容器に詰め、丁寧に蓋をする。
 十八時に来て一時間半ほど調理をしていた葉月を、穂希は不安げに一瞥した。

 彼女の意思とは言え、休日だけではなく放課後の時間さえ奪ってしまっているのは気が咎める。

 何とかしてこの状況を打開しなければと考えていると、葉月のスマートフォンから流行りの曲が鳴り出した。

「あ、やばっ……電話だ」

 焦りの色を浮かべて、葉月は背を向け電話に出た。穂希は無意識に息を詰める。

 受話口から微かに漏れ出しているのは、おっとりとした母親の声だった。懐かしく感じる物柔らかな語気は、穂希を震撼させた。

「お兄ちゃん、ごめん。今日はもう帰るね」
「……分かった。今日もありがと、もう暗いから気を付けて帰ってね」

 素早く帰り支度をし、見送りすら辞退した彼女は急ぎ足で自宅を後にした。
 ドアが完全に閉じ、部屋には静寂が訪れる。

 ――――心臓の音が、やけにうるさく聞こえた。

 次の瞬間、穂希は我知らずとデザインナイフを握り締めていた。

 制御不能の苛立ちが右手を暴走させ、左の手の甲を刃先で突き刺す。押し込めば、当然激痛が走った。
 流れ出した血には構わずに何度も切っていると、漸く気持ちが落ち着いてきた。

 マラソンした直後のように、心音と息が整わない。
 机上を汚す血液を呆然と見つめ、自分でもおかしくなるほど急に我に返る。
 自責の念に襲われ、穂希は慌てて傷口にティッシュペーパーを宛がった。

 何度同じことを繰り返せば気が済むのだろう。
 こんなことを思うのでさえ、いつもと同じだ。

 しかし今日は、自傷行為後の心情に、明らかな変化があった。
 未だ血の滲む皮膚を見て、穂希はぽつりと呟いた。

「……椿が喜んでくれるならいっか」
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