処刑

黒い影

女はふと本から視線を外した。
あいつだ。

気配を殺し、近くにあった鈍器を握り締める女。
自分の咄嗟の行動で理解する。小説では武器として刃物が使われていたが、錯乱した精神状態で素人が闇雲に刃物を振り回したところで殺害は難しい。
刃物は殺傷力自体高いが、打突部の面積は鈍器より圧倒的に小さい。

その上、偶発的な事件で凶器に刃物が選ばれるのもおかしな話。
間違いなく計画的犯行。

そんなことに思いを巡らせていると、女はあることに気がついた。
女はあいつが来たときの対策について考えていた。
確実にあいつを仕留めるために準備はしていた。そのくせそれらを忘れ手近な鈍器を握り締めてしまう自分に苦笑する。