森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

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森之宮家の三兄弟

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第2性をなんとなく意識はしていたが、こうして眼の前に突きつけられると、実はとても恐ろしいものなのではないかと思う。裕司が躍起になって新薬の開発に力を注いだ理由がわかる。アルファも発情したオメガに当てられてヒートを起こす。ヒートを起こすと無理矢理妊娠せてしまう可能性が出てくる。しかし、ヒートは理性でどうにもできない。
まるで、獣だ。
アルファは優秀な種だと言われているが、いつヒートを誘発させられるかという爆弾を抱えて生きる。特に両親は、華が発情期に入ってしまい、裕司はヒートを誘発された。教訓として咲也の出生について両親から聞かされている。
「あちぃ~そんで風呂、狭ぇ~」
「だから!俺、一人で入るって、言った!」
「いぶ兄、うるさーい」
裕司と共に、風呂に入っていた伊吹と開斗がリビングに入ってきた。
「いいだろ、たまにはパパと入るのも。二人共、大きくなったなぁ」
「裕司と入るの嫌だ。狭いしうっとおしいから」
「俺、さく兄と入りたかったぁ」
「なんなのこの子達…まだお話中?気にせんで続き、どうぞ~」
裕司は伊吹と開斗を連れてキッチンに入る。
「伊吹、開斗、ちゃんとお茶飲んでね!」
華は騒がしい三人に声をかけてから、咲也に向き合った。
「少し、参考になった?」
「うん、かなり。ありがとう、華」
「傍に、いてあげて。それだけで十分だから」
乗り越えるのは、朝陽君だから。
言い残して華は騒がしいキッチンに消えた。コップを持った開斗がやってきて、膝に収まる。
「華とお話して、元気出た?」
飲み物を飲みながら開斗が聞いてきた。そんなに落ち込んだ顔をしていだろうか。見上げてくる開斗に、咲也は笑いかけた。
「そんなに、元気なさそうだった?」
「うん。暗~い顔。今は、ちょっと違う」
「そうだな…お話して、元気出た。ありがとな、心配してくれて」
咲也の答えに、開斗はにぱっと笑った。開斗はこの家の三兄弟の中では一番華に似ている。そのせいか父の裕司が溺愛している。しかし開斗は咲也にとても懐いていた。きっと幼い頃に面倒を見ていたことが、今も開斗の中に染み付いているのだろう。
朝陽ともう一度、ちゃんと話をしよう。咲也は開斗の頭を撫でた。



翌日。朝陽を校舎裏に呼び出した。
朝陽は久しぶりの登校で、咲也と顔を合わせるのも第二性の授業があったあの日以来だ。
「体調、大丈夫か?」
「…うん。平気」
朝陽は暗い顔で俯いて、咲也の顔を見ようとしない。
授業中、この校舎裏はあまり人が来ない。一時間目開始のチャイムが鳴った。
咲也は短く息を吐いて、話始める。
「この前の話だけど、俺は森之宮を継がない。跡取りとか子供とか、考えなくていいから」
「そ、んな…そんなの、僕たちで、決めていいことじゃ、ないでしょ?」
「親父には話した。継ぐ気はないことも、子供を作る気がないってことも。継がなくていいって言われた」
「いいわけないよ!パパさんは、優しいから…そう言ってくれたんだよ」
「あの人は、優しさでそんなことを言わない。そんな人間じゃない」
やる気のない人間に会社を継がせないと言ったのも、森之宮は途絶えていいと言ったのも全て父の本心だ。やりたくないならやらなくていいし、やる気がないならやらせない。
朝陽は『でも、だって』と否定したものの、それ以上言葉は出てこなかった。
「俺も、継ぐ気がない。薬学にも製薬会社にも興味が涌かない。それもたぶん、親父に見抜かれてる。どっか行ける大学に行って、行けそうな企業に入ってやれそうな仕事するんだと思う」
アルファは華やかな職業の人間が多い。スポーツ選手だったり学者であったり。咲也は割となんでもできる。しかし本気を出してやりたいものがない。そんな華やかな職業にはつけない。森之宮製薬の社長はやる気がない人間にやらせないと言われたがその通りで、熱意や貪欲さがなければ続かないだろう。咲也にはあまりそういう熱さがない。すぐに癇癪を起こす伊吹の方がよほど熱意や爆発力があると思う。
咲也は言葉を切った。朝陽は顔を上げて、不安気に咲也を見た。久しぶりに顔を見た気がする。
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