救済(BL、本編完結)

Oj

文字の大きさ
2 / 44

2

しおりを挟む
光希は帰宅し、両親へダイベンシャ様は出かけた旨を伝えて自室に入った。清は自宅へは寄らず、高校へ登校していった。
光希は高校に通っていない。今日はとても、普段以上に疲れた。きっと両親は寝かせてくれる。光希はベッドに潜り込んだ。怖くて仕方なかったが、すぐに眠りは訪れた。
夜になり、母に起こされた。
「昨日はとても、頑張ったのね」
満足気に微笑む母に光希はばれてしまったのかと思った。返事に窮する光希を気にするでもなく母は去っていった。光希は呼吸を整えてからリビングに顔を出す。祭壇に祈りを捧げてからの食事。なかなか箸は進まなかったが、なんとか食事を終えた。
自室に戻る前に清の部屋へ向かう。清はいつも食事は自室で取る。最近では自宅にいないことも多いが、この日、清は自室にいた。
清の部屋は元々物置だった場所だそうで、とても狭い。長身で体の大きな清には窮屈そうに思えた。
清に手で招かれて、光希は清の傍に腰を下ろす。
「清、あの…」
「飯、終わったのか?」
「んぴゃっ!ん、ぐ」
清は光希の腰を抱いて耳元に直接声を吹き入れてくる。
光希はくすぐったさに首をすくめた。光希の奇声に清は光希の口を手で塞ぐ。またしても清は光希の耳に囁いた。
「でけぇ声出すな。荷物、まとめておけよ。夜中にお前の部屋に行く」
「…にもつ、って、なに?」
光希は清の指を縫って、小声で声を吐き出した。
一人でいるのは不安で怖い光希は清と夜を過ごそうと思っていた。夜中迎えに来るということは、自室に戻れということだろう。荷物、とは、何をまとめればいいのか。
「もうこの家に戻らない。服と、持ち出したい物を詰めて、部屋で待っとけ」
「や、やだ。一人、怖いから。やだ」
「親にバレたらどうすんだ、余計に家抜けられんなくなるぞ。このまま、ここにいられるわけないだろ」
光希は清を見た。清は怒っているわけではないと思う。しかし眉間に皺を寄せて苦しそうに光希を見る清に、光希は少し怯えてしまう。
「光希、お前…見てたんだよな?あそこで、俺が…アイツと、どんなこと、してた?」
光希は目を泳がせて、清から視線を反らした。清の顔が見られなかった。あそこ、とは、昨日二人でいたダイベンシャ様の屋敷だ。光希の腰を抱く清の腕に力がこもる。まるで催促されているようで、光希は震えながら口を開いた。
「お…『お勤め』、してた」
「なんで、知ってるんだ?」
「お、お風呂、お風呂のところから、見てた。あと、窓の、外から。ダイベンシャ様と、ずっと、朝まで、裸で…体、舐めたり、舐められたり、して…あと、おしり、入れるの。ダイベンシャ、様の」
「光希」
清に強く顎を掴まれて、光希は驚いて言葉に詰まった。すぐ目の前に清の顔がある。清は顔を歪めている。
「ごめんなさいって、言ったよな。見て、見ぬふりしたって」
光希は小さな悲鳴を上げた。光希の秘密が暴かれた。パニックになって暴いたのは自分だが、一生隠し通すつもりだった秘密を、自ら明かしてしまった。
「い、嫌だったと、思う。気持ち悪くて、痛くて、臭くて…ご、ごめんなさい、なにも、できなくて」
「…クソ…ちくしょう…」
清は頭を抱えて苦しそうに呟いた。きっと清自身も隠したかった。ダイベンシャ様に、あんなことを強要され続けた。清はしばらく俯いていたが、顔を上げて光希を見た。清は光希を睨みつける。
「光希。俺は、あいつとしてた。やらされてた。俺が、お前のかわりに、だ。部屋に戻れ。今夜家を出る。わかるよな?俺の言うこと、きけるよな?」
「………あぃ」
念をおされて、光希は承諾の返事をした。清の強い瞳に気圧された。今まで黙って、清がされていることを見ていた。助けることも、手を差し伸べることもなかった。光希は、清の兄なのに。
本当は警察に通報したほうがいい。しかし、もうそうすることはできない。
これは光希への、清からの罰だ。黙って、清の言うことを聞かなければならない。せめてもの贖罪だ。
清は光希から手を離した。光希は両手を合わせる。指を交互に重ねて握り込み、清に頭を下げる。信者達がカミ様やダイベンシャ様に祈りを捧げる時の姿勢だ。
「ごめんなさい…罪を、償います」
光希は両親に見つからないよう清の部屋を出た。両親の姿はなく、家の中は静まり返っている。
光希は自室に戻って荷造りをした。大好きな毛布は大きくて鞄に入らない。もうこの毛布に包まるのも最後だ。光希は布団に潜り込んだ。


深夜1時。光希の部屋に清が来た。
「荷物、これでいいのか?」
光希のカバンを開いて清は中身を確認する。ロウソクやペンダントなど、お祈りに必要なものを全て取り出してしまった。空いたスペースに光希の服や下着を詰めて行く。光希の抱えていた毛布は清が丸めて清のバッグにしまってくれた。
「後は?」
光希がテレビを指差すと、清は眉間に皺を寄せた。
「馬鹿かお前。持ってけるわけねぇだろ」
叱られて光希は下を向く。ふっと声が聞えて顔を上げると、清は呆れたように笑っていた。
光希は清が詰め直してくれた鞄を抱える。音を立てないように注意して外に出た。村の夜は真っ暗だ。光希は怖くて清にぴったり寄り添う。清も荷物を退けて光希を抱えるようにして歩いてくれた。
どこにいくのかわからぬまま清にくっついて歩く。どのくらい歩いたのか。足が痛くなってきた頃に、一軒の家に辿り着いた。ボロボロのその家は廃屋のようだ。シャッターが開いたままのガレージの中にバイクが置いてあった。
「こっから、バイクで移動する。ちゃんと捕まっとけよ」
光希は清にヘルメットをかぶせてもらい、清にしがみつく。バイクはエンジン音を響かせて走り出した。


しばらく走ったバイクはお城のような建物に到着した。真夜中にキラキラと輝くお城に清は入っていく。部屋に入ると大きなベッドがあった。清は荷物を放おってベッドに倒れ込んだ。
「ここ、お泊まりするの?」
光希は部屋を見渡した。全体的に薄暗い。しかしテレビを見つけて光希は嬉しくなった。光希にとってテレビが唯一の娯楽だ。リモコンで電源を入れようとして、清に止められてしまった。
「やめとけ、お前の好きなもんはたぶん、やってない。あとでスマホで見せてやるから。大人しくしてろ」
光希はリモコンを置いて、清の隣に横になった。大きなベッドは光希の部屋のものより大きい。ゴロゴロと何度も寝返りを打っていたら、清とぶつかり、目があった。
「ここ、住むの?」
「住めるかよ。明日…いや、明後日、じいちゃんのとこにいく」
「じいちゃ…海の、近く、住んでる?」
「山だよ。お前は、会ったこと…」
「一緒に、虫取りしたね。カブトムシ。じいちゃんと、清と、3人で」
うっそうとした山の中、木の幹に張り付くカブトムシやクワガタを、祖父から教えてもらって清と二人で取った。夏の日差しが暑くて、祖父の家に戻ってからジュースを飲んだ。美味しくて幸せだった。光希が記憶を巡らせて清の瞳を見つめていると、清の手が頬を撫でた。
「…その、じいちゃん家に行く。もうあの家にも村にも、戻れねぇ。あいつ、殺したんだ。あそこにいたら無事じゃすまなかった。わかるか?」
光希は唾を飲み込んだ。あの村は全員がカミ様と、カミ様のお言葉を伝えてくださるダイベンシャ様を信仰している。一番偉い、権力者であるダイベンシャ様を殺した。清はもちろん、見ていた光希も何をされるかわからない。
「あ、ありがとう。清が、連れてきてくれたから、僕、無事、で」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

前世が悪女の男は誰にも会いたくない

イケのタコ
BL
※注意 BLであり前世が女性です ーーーやってしまった。 『もういい。お前の顔は見たくない』 旦那様から罵声は一度も吐かれる事はなく、静かに拒絶された。 前世は椿という名の悪女だったが普通の男子高校生として生活を送る赤橋 新(あかはし あらた)は、二度とそんのような事ないように、心を改めて清く生きようとしていた しかし、前世からの因縁か、運命か。前世の時に結婚していた男、雪久(ゆきひさ)とどうしても会ってしまう その運命を受け入れれば、待っているの惨めな人生だと確信した赤橋は雪久からどうにか逃げる事に決める 頑張って運命を回避しようとする話です

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...