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【第八章.魔女の書】
【三十九節.亡霊】
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「あなたは本当によく頑張った」
真っ白な空間。とても良いにおいと心落ち着く心音。安らぎに満たされたこの場所で、『愛情』が話す。
「わたしが乗り移る為の依代まで用意してくれた。おかげで接近も容易だった」
「依代……?」
「新田ヒナだよ。マコトくんの心の隙間になってたからね。わたしが入り込むのに、ちょうど良かった」
「じゃあ、ずっと俺がヒナだと思っていたのは……」
光に溢れるこの空間でも、相手が笑っているのが伝わる。
「うん、わたし。サクラの愛情だけが残った精神体。魔女『愛情』でした」
けらけらと、いたずらがバレた子供のように笑う。
そうか。彼は独り言つた。今までずっと恋人と過ごして、話していた、愛し合っていたと思っていたのは、全てこの子だった。アイがしきりに心配していたのも、『アイには見えない存在と話すマコト』そのものであったという訳だ。
「マコトくんは自分の罪を再認識した。あなたは穢れを持っている。わたしと同じ。後はわたしを邪魔するモノを排除してくれれば」
マコトは首を傾げる。この全能の神に等しい存在を邪魔するものなんて、想像もつかなかった。
「邪魔するモノ?」
「うん。教団のニンゲン達がわたしを封じるために呼んだ魔のモノ。そいつをやっつけてくれれば、わたしは晴れて地上に上がることが出来る。ママを地上に降臨させることが出来る」
明かりが弱まった。そして、目がきくようになると、廃墟のような所にいる事がわかった。この場所、マコトは知っている。
あの廃ホテルだ。自分が愛する女の子を手に掛けた、呪われた場所。
「さあ、マコトくん。ママが呼んでいるよ」
そして、その向かいに、上半身だけの巨大なビスクが居ることに気がついた。
『キィィィ──ッ!』
その姿は、新田ヒナの顔そのものだった。
◇
ピピピピ。
電子体温計のアラームが、未だ夢の中に居る彼の頭にじんわり染み込む。
──もう、朝か。
まだ目をつぶっていたくて、寝返りを打つ。そうしてようやく、隣でベッドに入っていたはずの愛してやまない片割れが、温かい体温だけ残して居なくなっていることに気がついた。
薄い毛布一枚。裸で眠る彼は、欠伸をひとつ吐いて、目を覚ました。
──ピピが鳴ってるよ。
「あいがとー。きょうはー。三十六度一分……と」
マコトは電子体温計のアラームを、肩を優しく叩くことで教えてあげる。もう、何も言わなくてもこの恋人には伝わるし、愛する女の子の気持ちも、伝わってくる。リンゴのマークのスマートフォンを優しくタップする音が、耳に心地よい。
彼女を殺してから、二ヶ月が経った。
心のバランスを崩して、心療内科に通い始めた。
捜査する警察に重要参考人として、マークされた。
所属するオカルトサークルのみんなと、真理弥村に来た。
「ママ。ママ。ヒナがママになれますように」
何も着ていない恋人が、その白い透き通る肌に唯一身につけている『蛇と林檎の絡まる十字架』のロザリオを握って、お祈りをしている。
もう、決して叶うことのない、祈りを。
◇
「そうだ、マコトくん」
『愛情』が巨大な亡霊と対峙するマコトに、声をかけてくる。
「これ、また貸してあげるよ。前にアイさんに捨てられちゃったでしょ?」
ふと、気がつくと手に何か握っている。見ると、ヒナが、否、『愛情』がずっと身につけていたロザリオがその手にあった。剣になれと念ずると、あの長剣に変化した。
──うん、あのムカデ人形とやったときと同じにやれば良いわけだ。
マコトは自分の胸に、自信と勇気が湧いてくるのを感じた。
が、しかし。
「あ、危ない」
「えっ?」
「前、前を見て」
だーん。
思いっきり振り下ろされた巨大なビスクの手により、マコトはすり潰されて床のシミになった。
……。
「はっ!」
マコトはまた光に包まれて、目を覚ます。
「ダメだよ、マコトくん。目の前の敵に集中してないと……まあ、こっちには村中のビスク達から吸い取った命があるから、何度でも起こしてあげられるけれどね」
『愛情』は、けらけらと、鈴を転がしたように笑った。
「さ、もう一度だ。マコトくん。頑張って」
真っ白な空間。とても良いにおいと心落ち着く心音。安らぎに満たされたこの場所で、『愛情』が話す。
「わたしが乗り移る為の依代まで用意してくれた。おかげで接近も容易だった」
「依代……?」
「新田ヒナだよ。マコトくんの心の隙間になってたからね。わたしが入り込むのに、ちょうど良かった」
「じゃあ、ずっと俺がヒナだと思っていたのは……」
光に溢れるこの空間でも、相手が笑っているのが伝わる。
「うん、わたし。サクラの愛情だけが残った精神体。魔女『愛情』でした」
けらけらと、いたずらがバレた子供のように笑う。
そうか。彼は独り言つた。今までずっと恋人と過ごして、話していた、愛し合っていたと思っていたのは、全てこの子だった。アイがしきりに心配していたのも、『アイには見えない存在と話すマコト』そのものであったという訳だ。
「マコトくんは自分の罪を再認識した。あなたは穢れを持っている。わたしと同じ。後はわたしを邪魔するモノを排除してくれれば」
マコトは首を傾げる。この全能の神に等しい存在を邪魔するものなんて、想像もつかなかった。
「邪魔するモノ?」
「うん。教団のニンゲン達がわたしを封じるために呼んだ魔のモノ。そいつをやっつけてくれれば、わたしは晴れて地上に上がることが出来る。ママを地上に降臨させることが出来る」
明かりが弱まった。そして、目がきくようになると、廃墟のような所にいる事がわかった。この場所、マコトは知っている。
あの廃ホテルだ。自分が愛する女の子を手に掛けた、呪われた場所。
「さあ、マコトくん。ママが呼んでいるよ」
そして、その向かいに、上半身だけの巨大なビスクが居ることに気がついた。
『キィィィ──ッ!』
その姿は、新田ヒナの顔そのものだった。
◇
ピピピピ。
電子体温計のアラームが、未だ夢の中に居る彼の頭にじんわり染み込む。
──もう、朝か。
まだ目をつぶっていたくて、寝返りを打つ。そうしてようやく、隣でベッドに入っていたはずの愛してやまない片割れが、温かい体温だけ残して居なくなっていることに気がついた。
薄い毛布一枚。裸で眠る彼は、欠伸をひとつ吐いて、目を覚ました。
──ピピが鳴ってるよ。
「あいがとー。きょうはー。三十六度一分……と」
マコトは電子体温計のアラームを、肩を優しく叩くことで教えてあげる。もう、何も言わなくてもこの恋人には伝わるし、愛する女の子の気持ちも、伝わってくる。リンゴのマークのスマートフォンを優しくタップする音が、耳に心地よい。
彼女を殺してから、二ヶ月が経った。
心のバランスを崩して、心療内科に通い始めた。
捜査する警察に重要参考人として、マークされた。
所属するオカルトサークルのみんなと、真理弥村に来た。
「ママ。ママ。ヒナがママになれますように」
何も着ていない恋人が、その白い透き通る肌に唯一身につけている『蛇と林檎の絡まる十字架』のロザリオを握って、お祈りをしている。
もう、決して叶うことのない、祈りを。
◇
「そうだ、マコトくん」
『愛情』が巨大な亡霊と対峙するマコトに、声をかけてくる。
「これ、また貸してあげるよ。前にアイさんに捨てられちゃったでしょ?」
ふと、気がつくと手に何か握っている。見ると、ヒナが、否、『愛情』がずっと身につけていたロザリオがその手にあった。剣になれと念ずると、あの長剣に変化した。
──うん、あのムカデ人形とやったときと同じにやれば良いわけだ。
マコトは自分の胸に、自信と勇気が湧いてくるのを感じた。
が、しかし。
「あ、危ない」
「えっ?」
「前、前を見て」
だーん。
思いっきり振り下ろされた巨大なビスクの手により、マコトはすり潰されて床のシミになった。
……。
「はっ!」
マコトはまた光に包まれて、目を覚ます。
「ダメだよ、マコトくん。目の前の敵に集中してないと……まあ、こっちには村中のビスク達から吸い取った命があるから、何度でも起こしてあげられるけれどね」
『愛情』は、けらけらと、鈴を転がしたように笑った。
「さ、もう一度だ。マコトくん。頑張って」
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