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水溜りに映る君を見ていた。
竹中くん
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春。
待ち遠しかったそれは、思っていたよりも普通なものだった。
中学時代、気の合う友達がいなかった。それは思春期の自分には重くのしかかり、わざわざ電車で一時間かかるこの高校へ進学した。幼馴染たちは、いない。
偏差値は地元の高校より高い。きっと自分のように、周りの人間と馴染めない、バカ真面目な人間が集まるのだろうと考えていた。それは苦しい中学での生活の中に差し込む光の筋であった。
現実はそう思い通りではない。
頭が良くても、騒がしい人間や、他人を馬鹿にする人間も存在する。
周りの人間は変わっても、自分は変わらない。
「隣の席だね、よろしく。」
「ああ、うん。」
一年三組、隣の席の杵島 智則。第一印象は、声が高くて女々しい奴。他人にそんな評価しかできない自分は、なんと愚かなのだろう。それほど、他人というものに期待をしていなかった。杵島はそれからも僕に話しかけてきた。
「名前聞いていい?」
「どこ中から来たの?」
「部活は何に入る?」
正直こういう人間は、自分から話題提起をしなくても話が続くから助かる。
「竹中 進。大山西中。部活は、まだ決めてない。」
「大山西って、遠くない?すごいね。」
「そうでもないよ。」
自分が無愛想であることは百も承知だ。両親にも何度も「愛想を良くしなさい」と言われた。
「次移動教室だ、行こう。」
この学校では、芸術選択教科というものがあり、音楽か美術のどちらかを選択できる。今年は音楽選択者が多く、美術選択者は二クラス合わせても十数人しかいない。
美術室は一階。教室は四階なので、移動距離が長い。その間、マシンガントークを続ける杵島と気だるそうに過ごした。
「四人班で座れー。」
少し頭の薄い小太りな美術講師が待ち構えていたようで、来たもの順で島のような机に促された。窓際後ろの席。既にそこには、女子二人が座っていて、杵島はその二人にも積極的に話しかけていた。僕はただ、それを後ろから眺めていた。
「四組の 金田 優華です。好きな教科はー、国語かなあ。よろしく。」
「四組の岡崎 楓です。好きな教科は、社会科です。よろしくお願いします。」
「三組の杵島 智則でーす。好きな教科は美術。よろしくね。」
「三組、竹中 進。好きな教科は情報。よろしく。」
女子の視線は、なんだか値踏みをされているようなむずがゆさがある。第一印象でいうと、優華はクラスでも騒がしい方。楓は地味。
「今日は初日だし、映画鑑賞するぞー。」
教師がスクリーンのスイッチを押すと、白いシートに少し見にくい映像が映し出される。アニメ映画だが、綺麗だ。背景に凝っているのだと、素人目でもわかる。
「わーすごい綺麗。」
優華の声が、まるで違和感のないBMGのように静寂の中の流れた。
*
映画が後半に差し掛かると、過半数の生徒がウトウトと首を傾げていた。優華は腕を前で組んで完全に睡眠体勢で、杵島は頬杖をついて目をつぶっていた。そして、ふと横を見ると、楓は僕とは逆方向を向いていた。
窓を、じっと見つめていた。
視線の先に誰かがいるわけでもない。小動物が迷い込んでいるわけでも、大木が揺られているわけでもない。曇り空と校門しか見えないその窓のキャンパスを、彼女はじっと、まるでこの綺麗すぎる映画のワンシーンを眺めるように見つめていた。
なぜか、彼女から目が離せなかった。特別容姿が整っているわけではない。初対面で、会話もしたことがない。でも、彼女はもしかして自分と同じタイプの人間なのではないのかと、一瞬で感じ取った。
ここから、少し遅れて、僕の青春が走り出す。
待ち遠しかったそれは、思っていたよりも普通なものだった。
中学時代、気の合う友達がいなかった。それは思春期の自分には重くのしかかり、わざわざ電車で一時間かかるこの高校へ進学した。幼馴染たちは、いない。
偏差値は地元の高校より高い。きっと自分のように、周りの人間と馴染めない、バカ真面目な人間が集まるのだろうと考えていた。それは苦しい中学での生活の中に差し込む光の筋であった。
現実はそう思い通りではない。
頭が良くても、騒がしい人間や、他人を馬鹿にする人間も存在する。
周りの人間は変わっても、自分は変わらない。
「隣の席だね、よろしく。」
「ああ、うん。」
一年三組、隣の席の杵島 智則。第一印象は、声が高くて女々しい奴。他人にそんな評価しかできない自分は、なんと愚かなのだろう。それほど、他人というものに期待をしていなかった。杵島はそれからも僕に話しかけてきた。
「名前聞いていい?」
「どこ中から来たの?」
「部活は何に入る?」
正直こういう人間は、自分から話題提起をしなくても話が続くから助かる。
「竹中 進。大山西中。部活は、まだ決めてない。」
「大山西って、遠くない?すごいね。」
「そうでもないよ。」
自分が無愛想であることは百も承知だ。両親にも何度も「愛想を良くしなさい」と言われた。
「次移動教室だ、行こう。」
この学校では、芸術選択教科というものがあり、音楽か美術のどちらかを選択できる。今年は音楽選択者が多く、美術選択者は二クラス合わせても十数人しかいない。
美術室は一階。教室は四階なので、移動距離が長い。その間、マシンガントークを続ける杵島と気だるそうに過ごした。
「四人班で座れー。」
少し頭の薄い小太りな美術講師が待ち構えていたようで、来たもの順で島のような机に促された。窓際後ろの席。既にそこには、女子二人が座っていて、杵島はその二人にも積極的に話しかけていた。僕はただ、それを後ろから眺めていた。
「四組の 金田 優華です。好きな教科はー、国語かなあ。よろしく。」
「四組の岡崎 楓です。好きな教科は、社会科です。よろしくお願いします。」
「三組の杵島 智則でーす。好きな教科は美術。よろしくね。」
「三組、竹中 進。好きな教科は情報。よろしく。」
女子の視線は、なんだか値踏みをされているようなむずがゆさがある。第一印象でいうと、優華はクラスでも騒がしい方。楓は地味。
「今日は初日だし、映画鑑賞するぞー。」
教師がスクリーンのスイッチを押すと、白いシートに少し見にくい映像が映し出される。アニメ映画だが、綺麗だ。背景に凝っているのだと、素人目でもわかる。
「わーすごい綺麗。」
優華の声が、まるで違和感のないBMGのように静寂の中の流れた。
*
映画が後半に差し掛かると、過半数の生徒がウトウトと首を傾げていた。優華は腕を前で組んで完全に睡眠体勢で、杵島は頬杖をついて目をつぶっていた。そして、ふと横を見ると、楓は僕とは逆方向を向いていた。
窓を、じっと見つめていた。
視線の先に誰かがいるわけでもない。小動物が迷い込んでいるわけでも、大木が揺られているわけでもない。曇り空と校門しか見えないその窓のキャンパスを、彼女はじっと、まるでこの綺麗すぎる映画のワンシーンを眺めるように見つめていた。
なぜか、彼女から目が離せなかった。特別容姿が整っているわけではない。初対面で、会話もしたことがない。でも、彼女はもしかして自分と同じタイプの人間なのではないのかと、一瞬で感じ取った。
ここから、少し遅れて、僕の青春が走り出す。
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