青春を窓に浮かべて

大原雪見

文字の大きさ
1 / 2
水溜りに映る君を見ていた。

竹中くん

しおりを挟む
春。
待ち遠しかったそれは、思っていたよりも普通なものだった。

中学時代、気の合う友達がいなかった。それは思春期の自分には重くのしかかり、わざわざ電車で一時間かかるこの高校へ進学した。幼馴染たちは、いない。
偏差値は地元の高校より高い。きっと自分のように、周りの人間と馴染めない、バカ真面目な人間が集まるのだろうと考えていた。それは苦しい中学での生活の中に差し込む光の筋であった。

現実はそう思い通りではない。
頭が良くても、騒がしい人間や、他人を馬鹿にする人間も存在する。
周りの人間は変わっても、自分は変わらない。

「隣の席だね、よろしく。」
「ああ、うん。」
一年三組、隣の席の杵島 智則きしま とものり。第一印象は、声が高くて女々しい奴。他人にそんな評価しかできない自分は、なんと愚かなのだろう。それほど、他人というものに期待をしていなかった。杵島はそれからも僕に話しかけてきた。

「名前聞いていい?」

「どこ中から来たの?」

「部活は何に入る?」


正直こういう人間は、自分から話題提起をしなくても話が続くから助かる。

竹中 進たけなか すすむ。大山西中。部活は、まだ決めてない。」

「大山西って、遠くない?すごいね。」

「そうでもないよ。」

自分が無愛想であることは百も承知だ。両親にも何度も「愛想を良くしなさい」と言われた。

「次移動教室だ、行こう。」

この学校では、芸術選択教科というものがあり、音楽か美術のどちらかを選択できる。今年は音楽選択者が多く、美術選択者は二クラス合わせても十数人しかいない。
美術室は一階。教室は四階なので、移動距離が長い。その間、マシンガントークを続ける杵島と気だるそうに過ごした。

「四人班で座れー。」

少し頭の薄い小太りな美術講師が待ち構えていたようで、来たもの順で島のような机に促された。窓際後ろの席。既にそこには、女子二人が座っていて、杵島はその二人にも積極的に話しかけていた。僕はただ、それを後ろから眺めていた。

「四組の 金田 優華かなだ ゆうかです。好きな教科はー、国語かなあ。よろしく。」

「四組の岡崎 楓おかざき かえでです。好きな教科は、社会科です。よろしくお願いします。」

「三組の杵島 智則でーす。好きな教科は美術。よろしくね。」

「三組、竹中 進。好きな教科は情報。よろしく。」

女子の視線は、なんだか値踏みをされているようなむずがゆさがある。第一印象でいうと、優華はクラスでも騒がしい方。楓は地味。

「今日は初日だし、映画鑑賞するぞー。」

教師がスクリーンのスイッチを押すと、白いシートに少し見にくい映像が映し出される。アニメ映画だが、綺麗だ。背景に凝っているのだと、素人目でもわかる。

「わーすごい綺麗。」

優華の声が、まるで違和感のないBMGのように静寂の中の流れた。

*

映画が後半に差し掛かると、過半数の生徒がウトウトと首を傾げていた。優華は腕を前で組んで完全に睡眠体勢で、杵島は頬杖をついて目をつぶっていた。そして、ふと横を見ると、楓は僕とは逆方向を向いていた。

窓を、じっと見つめていた。

視線の先に誰かがいるわけでもない。小動物が迷い込んでいるわけでも、大木が揺られているわけでもない。曇り空と校門しか見えないその窓のキャンパスを、彼女はじっと、まるでこの綺麗すぎる映画のワンシーンを眺めるように見つめていた。
なぜか、彼女から目が離せなかった。特別容姿が整っているわけではない。初対面で、会話もしたことがない。でも、彼女はもしかして自分と同じタイプの人間なのではないのかと、一瞬で感じ取った。

ここから、少し遅れて、僕の青春が走り出す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...