殺人事件ライラック (ブリキの花嫁と針金の蝶々)

尾崎諒馬

文字の大きさ
51 / 155
第三部 世界のすべて

〇〇〇お茶会 3

しおりを挟む
   〇〇〇お茶会 3
  
 水沼の手記が書かれたあと、藤沢がちゃちゃを入れてしまったのか? 順番で言うと次は鹿野信吾の手記になりそうなのだが、いつまで経ってもそれは書かれず、Web小説「殺人事件ライラック~」の連載は更新されなかった。
 しかし、尾崎凌駕からメールが来て、三回目の〇〇〇お茶会が開催され、藤沢は参加した。メンバーは……

 藤沢
 尾崎凌駕
 信吾(諒馬)
 水沼
 
 それに……
 
 近藤グループ名誉会長室
 
 ウィンドウには二人の人物――サングラスとマスクで変装しており顔で区別がつかない――服が青いのと黒いのと……
 尾崎凌駕「近藤名誉会長は自殺された……。でも会長室はまだあってそこのお二人、ということでしょうか?」
 と、近藤グループ名誉会長室のウィンドウが消え、新たに二つのウィンドウが開く。ハンドル名は……
 
 「黒服」と「青服」
 
 尾崎凌駕「ふーむ。埴谷雄高の死霊ですか……」
 少し呆れたといった呟き……
 信吾(諒馬)「亡くなった会長さんの指示ですか? 会長が亡くなったら会長室のお二人にも引き続き、お茶会に参加するように、と」
 黒服「左様でございます」
 信吾(諒馬)「このWeb小説『殺人事件ライラック~』の作者はあくまで僕なんですが、実際の現実の事件にリンクしているため、本格ミステリーにしようとすれば、正しい情報を読者に与えるという点で、僕だけでは書けない――それは理解いただけると思うし、実際に尾崎凌駕、藤沢さん、水沼、それに亡くなりましたが近藤会長に協力いただいてここまでやってきました。ですが、近藤会長――カメラで事件を見ていた――謂わば神の視点を持つ近藤会長が自らの死を選んだことで先に進むのが困難になっている。なので会長室のお二人を――。会長さんはたぶんそう……」
 尾崎凌駕「ふーむ、神の視点……」
 水沼「ちょっと待ってくれ! 信吾、俺の手記を無視する気か! お前の期待通りに、本当に臍の『左』に手術痕があったのか? そう質問したんだぞ! それに答えるんじゃないのか?」
 信吾(諒馬)「まあ、それは待ってくれ! まだ準備が足りない。仮にそれに答えても、読者は余計混乱するだけです」
 水沼「ん? まあ、そうかもしれない……しかし……」
 尾崎凌駕「じゃあ、会長室のお二人続けてください」
 黒服「確かに私達はあの日、あの別荘で設置されていたカメラの映像をリアルタイムで見ておりました。そういう意味では神の視点に近い視点であの事件を見てはおります。俯瞰的に――」
 尾崎凌駕「神の視点に『』視点とは? 神の視点ではなくて」
 黒服「カメラの映像は見てはおりますが、神ではございませんので、見えた人物の心の中まではわからない、そういう意味です。AI解析で口元を読むくらいはできなくはないですが……」
 藤沢「なるほど。ではお二人は完全ではないが、ここにいる誰よりも事件を正しく書き下せる、と」
 青服「いえ、我々が見ておりましたのはあの別荘に設置されたカメラで見える範囲だけです。それ以外は――」
 藤沢「ああ、カメラ設置は限定的でしたね。離れのバスルームと二階のバスルームにはない」
 青服「はい、二階のウォーキングクローゼットの中もございません。あとは外に一台――離れの玄関前に――」
 黒服「カメラについてはそれくらいで――。とにかく我々は会長に最も近いところで働いておりましたので、会長についてもかなりのことを知っております。先にこれはフィクションとしておりますので、それについても喋ることは可能です。すべてではないですが……」
 尾崎凌駕「フィクション――、つまりお二人はこのWeb小説『殺人事件ライラック~』を読んではいる?」
 黒服「いいえ」
 青服「私も読んではおりません。ですから会長も含め、我々の証言は現実の事件について話しております。ただ、その現実はこの小説に取り込まれるわけで――。そういう意味でフィクションと……」
 黒服「先日の会長の御発言もそのような意味かと……」
 青服「フィクションでなければ我々のどちらかは介錯しておりますので、罪に問われる可能性が……」
 藤沢「会長は本当に割腹自殺したんでしょうか? 介錯したのはお二人のどちらかはわかりませんが……」
 水沼「おいおい、藤沢さんとやらと尾崎凌駕は実際に映像で見たんじゃないのか?」
 尾崎凌駕「まあ、その話は――、とにかく青服、黒服、お二人の話を黙って聞きましょう」
 青服「我々が『黒服』『青服』と名乗っていることからもお分かりかと思いますが、埴谷雄高の――」
 黒服「割腹自殺で三島由紀夫を思い出すかもしれませんが、あの三島が起こした事件の前に、三島由紀夫と埴谷雄高のある対談がございまして……」
 青服「三島が、とある二流の――失礼ですがこれは三島が言っていることですが――演技力が二流のある歌舞伎役者が入水自殺することで一流になった、と、そう言っておりまして」
 黒服「つまり芸術はすべて二流で最後自ら死ぬような覚悟――実際に自殺することで一流に達する――」
 青服「武士は命を懸けているから一流で、役者はどんなに優れた演技をしても二流だけども、その二流という悲哀を知って最後自殺すれば一流となる――これは私のかみ砕いた表現ですが――」
 黒服「そういう考えの三島はあの事件を……」
 信吾(諒馬)「その対談は知っています。その三島の考えに埴谷さんは異を唱える」
 青服「左様でございます。暗示者は死ぬ必要はない――二十一世紀の芸実家は死ぬんじゃなくて、死を示せばいい。そうおっしゃっています」
 黒服「これに――この埴谷さんの考えに吉本隆明は賛同していて、三島由紀夫には<死>と<死の伝達>の区別がついていない、<芸術>と<芸術の伝達>の区別がついていない、と――」
 尾崎凌駕「なるほど……」
 藤沢「うーん、なんとなく、そうかな、とは思いますが」
 尾崎凌駕「会長の切腹についてはそこまでにしましょう。今はあの別荘の事件――現実の事件について――。まずはカメラについて――」
 青服「確かにあの別荘にはカメラが複数設置されていました。あの当時でも撮影データはデジタルで、別荘内にサーバーがございました。一階の三つの客室の一つに籠って、私はサングラスとマスクで変装してずっとカメラの映像を監視しておりました」
 藤沢「変装男はあなただったと――。すると、水沼は?」
 青服「小説に書かれているのなら、その方もサングラスとマスクで変装した一人だと思いますが、彼はちょっとしたお遊びでやっただけでしょう」
 水沼「ああ、サングラスとマスクは近藤社長からもらってたんで、ちょっと信吾にちょっかいを掛ける時の変装に使った。それだけのことだ」
 尾崎凌駕「しかし、なぜカメラを設置したのですか?」
 黒服「会長は心配してたのです。尾崎諒馬――ここにおられる信吾さんの次回作『針金の蝶々』の執筆支援、内緒のプレゼント、サプライズを映像に収める、ということではあったのですが、御子息のサイコパス気質――幼いころからかなりオカシカッタと聞いておりますが――わざわざ死体の人体模型や小道具として本物の自分の血液を用意する異常性から、本当に別荘で何か惨劇が起こることもあるかもしれない――いや、これにはきっかけが……」
 青服「あくまでカメラを設置したのは『針金の蝶々』の執筆支援ですが、リアルタイムの監視員を送り込んだのには理由があります」
 藤沢「それはどういう?」
 青服「いえ、まだ言える段階ではないんじゃないかと……」
 藤沢「そうですか……」
 青服「説明を続けます。とにかく私はずっと徹夜でカメラの映像を監視していたのでございます。そして最初の殺人が起きた。それで……」
 藤沢「その監視映像は記録してたんですよね?」
 青服「ええ、当時はネット上にサーバーをおいて遠隔で映像監視することはできませんでしたので画像データはローカルの――別荘の一室のサーバー上のハードディスクに記録されておりました。それで何か起きたらすぐ会長に電話をして指示を仰ぐと――」
 黒服「当然、会長も映像を見たいとのことで、データを届けたいのですが非常に大きなデータですので、携帯電話で送ることもできず……。現在ならスマホで簡単ですが……。当時はハードディスクからリムーバブルなメディア、ZIPだったか、JAZだったか? 果たしてMOだったか? とにかくそういうメディアにコピーしてそれを持ってバイクで会長の元に持参するという……」
 青服「小説では会長とその部下がリアルタイムで見ているようになっていると聞いていますが、リアルタイムで見たのは私――青服一人でございまして、母屋の二階で最初の殺人が起きましたので慌てて、会長に連絡しその部分の映像データを会長にお見せするためコピーして……」
 尾崎凌駕「ちょっと待って。先ほどお二人は小説は読んでいない、そうおっしゃいました。今も、小説ではこうなっている、と聞いています、そうおっしゃいました。誰から聞いているのですか?」
 青服「それは今は申せません。とにかくまだ話す時期ではないとそちらから指示されています」
 尾崎凌駕「その人はここにいますか?」
 青服「さあ、どうでしょう」
 尾崎凌駕「わかりました。続けてください」
 黒服「では、続きを……。その連絡――母屋の二階で殺人があったという連絡は私にもありましたので入れ替わりに私が……。私は万が一のリザーブでして……別荘の客室に空きがなかったものですから、麓のホテルにおりまして……。彼――青服が別荘を出てから三十分ほどで到着したかと思いますが……交代でリアルタイムで監視を……」
 藤沢「映像データは今も残っているのですか?」
 黒服「いえ、会長に見せるためにコピーはとったんですが、会長がご覧になられたあと廃棄されました。なので現在は確認できません。オリジナルのハードディスクはご存じの火災で消失しました。それと……」
 青服「それは私から説明します。これは私のミスなんですが……。まさか監視中に本当に殺人事件が起こるとは思っておらず、気が動転してカメラの録画を誤って止めてしまったのです。それでその後の映像が残っておらず……」
 黒服「私が到着して復旧させましたので、その後の映像は撮れているのですが……三十分ほど空白の時間がございます。しかし、その後の映像はしっかりと……コピーして……」
 尾崎凌駕「なるほど、その映像は残ってはいないが、その内容について、ここで話してはいただける、と」
 黒服&青服「はい」
 藤沢「本格ミステリーとしては奇妙な展開ですが、一応制限はあるものの、神に近い視点を持つものが事件について語る、と」
 黒服「はい、ある程度まで……」
 藤沢「ある程度というのは?」
 青服「やはりフィクションつまりミステリーですので」
 藤沢「なるほど」
 青服「あの……、気を付けてはおりますが、一応、まず、こう宣言させてください」
 藤沢「宣言?」
 青服「はい、というか注意ですが――」
 黒服「以下、がございますので、注意してください」
 尾崎凌駕「うーん。まるで本格ミステリーの巻末の解説に書かれるような文言ですねぇ」
 藤沢「しかし、とにかく、お二人の登場で役者がすべて揃った気がしますね。この『夢の国――ワンダーランド』というの住人――つまり生き残った者すべてがこのお茶会に参加しているわけです」
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣人意識調査の結果について

三嶋トウカ
ホラー
「隣人意識調査を行います。ご協力お願いいたします」 隣人意識調査の結果が出ましたので、担当者はご確認ください。 一部、確認の必要な点がございます。 今後も引き続き、調査をお願いいたします。 伊佐鷺裏市役所 防犯推進課 ※ ・モキュメンタリー調を意識しています。  書体や口調が話によって異なる場合があります。 ・この話は、別サイトでも公開しています。 ※ 【更新について】 既に完結済みのお話を、 ・投稿初日は5話 ・翌日から一週間毎日1話 ・その後は二日に一回1話 の更新予定で進めていきます。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...