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第一章〜商店街は妖怪騒ぎの巻〜
その㉑
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むすびちゃんが戦っている中、みくじちゃんと妖怪たちはただただ見守ることしかできなかった。
遠くのほうで、炎が一直線に飛ぶ音、舌が風を切る音が鮮明に聞こえる。
「このままじゃむっちゃんが負けちゃう!」
むすびちゃん同様、みくじちゃんも焦りの混じった声で嘆いた。
「無駄だ無駄だ。親分は強いんだぞ!」
「並大抵の人間じゃ相手にならないんよー!」
妖怪たちは野次を飛ばした。
「…」
「言いすぎですよ。相手も子供なんですし…」
ろくろ首がたしなめるも、勢いは増すばかりであった。
のっぺらぼうは顔を激しく左右に揺らし、おおがまとむすびちゃんの動向を必死に追っている。
「…しょうがないか」
みくじちゃんはぼそりと呟くと、少し離れたところへ移動した。
「なんだなんだ?またなんか呼び出すのかよ?」
「もう五円玉はないんよー!」
「…」
みくじちゃんはただ、そこに突っ立っている。
そして、視線の先は影。
月明かりに照らされ、くっきりとした輪郭の普通の影だった。
みくじちゃんは自分から伸びる真っ黒な影をじっと見つめていた。
すると、次第に影が長く長く伸び、ゆっくりと、そこから何かが出てきた。
なんだろう?
猫だ。
いや、猫又だ。
猫又はかなり弱っていて、小刻みに震えている。
二本の尻尾を力なく垂らし、顔は真っ青になっていた。
猫又が完全にその姿を現すと、影は元の大きさへと戻った。
「…へ?」
さっきの勢いはどこへやら、牢屋内はしんと静まり返った。
「猫又じゃん、え?え?なんで?」
「そういえば…どうして私たち今まで忘れていたんでしょう?」
「い、今影の中から出てきたんよ…」
のっぺらぼうはぴくりとも動くことなく、驚いていた。
そしてみくじちゃんはそんなことお構いなしに、乱暴に猫又の首根っこを掴むと言った。
「五円玉、持ってるでしょう」
「…にゃ?」
「ちょうだい」
「…」
猫又は数時間前に見たときとは大違いのぼさぼさでかさかさな毛皮をまさぐり、震える手で五円玉を渡した。
「じゃあ、あなたはもういらない」
みくじちゃんは躊躇いなく猫又を掴んでいた手を離した。
「にぎゃっ!」
猫又は受け身を取りきれず、地面に強く叩きつけられてしまった。
「猫又!」
小鬼は咄嗟に牢屋から抜け出し、猫又のもとへと駆け寄った。
「あっ、ちょっとルール違反ですよ…」
「言ってる場合か⁉」
「猫又!大丈夫なん⁉一体どうしたんよ…」
「…」
「ちょっと!これはどういうつもりなんよ⁉」
小鬼は泣きそうな表情でみくじちゃんに問いかけた。
「あなたたちに話すことなんてない」
そう言うと、みくじちゃんは立ち去ろうとした。
「それはねーんじゃねーの?説明くらいしてくれよ!」
一つ目小僧はみくじちゃんを追いかけ、叫ぶ。
背後から「あっ、またルール違反…」と声が聞こえたが、もう聞こえないふりをした。
「…」
「お前初めに会ったときそんな感じじゃなかっただろ!弱弱しいっていうか…俺らのこと怖がってたし…」
「…」
「何とか言ったらどうだよ!」
「さっきも言った通りだけど」
みくじちゃんは振り返ることなく、淡々と告げた。
「あなたたちに話すことなんてないから」
一つ目小僧は悟った。
この少女に何を言っても無駄だろう。
そして、絶対に反抗するべきではないと。
みくじちゃんから伸びる影は、小柄な彼女の体と対照的にさっきよりも長く大きく、一つ目小僧を包み込んでいた。
これ以上詮索すれば、きっと自分は取り込まれる。
この黒い黒い真っ暗闇の空間に。
「…」
もう、一つ目小僧は黙ることしかできなかった。
「あなたたちごときの妖怪ならいつでもこうできるってこと、覚えておいてね」
みくじちゃんはそう言い残し、その場から立ち去った。
その後もしばらく、辺りには静寂が漂っていた。
そして、恐怖に包まれていた。
むすびちゃんが戦っている中、みくじちゃんと妖怪たちはただただ見守ることしかできなかった。
遠くのほうで、炎が一直線に飛ぶ音、舌が風を切る音が鮮明に聞こえる。
「このままじゃむっちゃんが負けちゃう!」
むすびちゃん同様、みくじちゃんも焦りの混じった声で嘆いた。
「無駄だ無駄だ。親分は強いんだぞ!」
「並大抵の人間じゃ相手にならないんよー!」
妖怪たちは野次を飛ばした。
「…」
「言いすぎですよ。相手も子供なんですし…」
ろくろ首がたしなめるも、勢いは増すばかりであった。
のっぺらぼうは顔を激しく左右に揺らし、おおがまとむすびちゃんの動向を必死に追っている。
「…しょうがないか」
みくじちゃんはぼそりと呟くと、少し離れたところへ移動した。
「なんだなんだ?またなんか呼び出すのかよ?」
「もう五円玉はないんよー!」
「…」
みくじちゃんはただ、そこに突っ立っている。
そして、視線の先は影。
月明かりに照らされ、くっきりとした輪郭の普通の影だった。
みくじちゃんは自分から伸びる真っ黒な影をじっと見つめていた。
すると、次第に影が長く長く伸び、ゆっくりと、そこから何かが出てきた。
なんだろう?
猫だ。
いや、猫又だ。
猫又はかなり弱っていて、小刻みに震えている。
二本の尻尾を力なく垂らし、顔は真っ青になっていた。
猫又が完全にその姿を現すと、影は元の大きさへと戻った。
「…へ?」
さっきの勢いはどこへやら、牢屋内はしんと静まり返った。
「猫又じゃん、え?え?なんで?」
「そういえば…どうして私たち今まで忘れていたんでしょう?」
「い、今影の中から出てきたんよ…」
のっぺらぼうはぴくりとも動くことなく、驚いていた。
そしてみくじちゃんはそんなことお構いなしに、乱暴に猫又の首根っこを掴むと言った。
「五円玉、持ってるでしょう」
「…にゃ?」
「ちょうだい」
「…」
猫又は数時間前に見たときとは大違いのぼさぼさでかさかさな毛皮をまさぐり、震える手で五円玉を渡した。
「じゃあ、あなたはもういらない」
みくじちゃんは躊躇いなく猫又を掴んでいた手を離した。
「にぎゃっ!」
猫又は受け身を取りきれず、地面に強く叩きつけられてしまった。
「猫又!」
小鬼は咄嗟に牢屋から抜け出し、猫又のもとへと駆け寄った。
「あっ、ちょっとルール違反ですよ…」
「言ってる場合か⁉」
「猫又!大丈夫なん⁉一体どうしたんよ…」
「…」
「ちょっと!これはどういうつもりなんよ⁉」
小鬼は泣きそうな表情でみくじちゃんに問いかけた。
「あなたたちに話すことなんてない」
そう言うと、みくじちゃんは立ち去ろうとした。
「それはねーんじゃねーの?説明くらいしてくれよ!」
一つ目小僧はみくじちゃんを追いかけ、叫ぶ。
背後から「あっ、またルール違反…」と声が聞こえたが、もう聞こえないふりをした。
「…」
「お前初めに会ったときそんな感じじゃなかっただろ!弱弱しいっていうか…俺らのこと怖がってたし…」
「…」
「何とか言ったらどうだよ!」
「さっきも言った通りだけど」
みくじちゃんは振り返ることなく、淡々と告げた。
「あなたたちに話すことなんてないから」
一つ目小僧は悟った。
この少女に何を言っても無駄だろう。
そして、絶対に反抗するべきではないと。
みくじちゃんから伸びる影は、小柄な彼女の体と対照的にさっきよりも長く大きく、一つ目小僧を包み込んでいた。
これ以上詮索すれば、きっと自分は取り込まれる。
この黒い黒い真っ暗闇の空間に。
「…」
もう、一つ目小僧は黙ることしかできなかった。
「あなたたちごときの妖怪ならいつでもこうできるってこと、覚えておいてね」
みくじちゃんはそう言い残し、その場から立ち去った。
その後もしばらく、辺りには静寂が漂っていた。
そして、恐怖に包まれていた。
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