EDEN's Order(エデンズオーダー)

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ディアブロ・カルテル 篇

新たな生活を告げる朝

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 朝の四時。起床を告げる目覚まし音が鳴り響く。但し今朝流れているのはいつものアナログ的な目覚まし時計のベルの音ではなく聞き慣れぬアラーム音。枕元に置いたスマートフォンからけたたましくリビング中に響き渡る。

「うおっ、なんだもう朝かよ。いつもの音じゃねーからビビるだろうがチクショウ」

 慌てて飛び起きたデュランはスマートフォンを掴み取りアラームの解除を試みる。

「スヌーズ? なんだそりゃ。いや、その前にロックの解除だったか? どうやりゃいいんだっけ? あぁクソっ! 全然止まらねーじゃねーか! だぁーめんどくせぇ! ブッ壊してやらぁ!」

 思い通りにアラームを止めることが出来ず、しびれを切らしたデュランは壁に目掛けてスマートフォンをブン投げた。

「うぉぉぉい!? 昨日買ったばっかなのに何してんのさ!!」

 タイミング良く起きて来たウィリアムが壁にぶつかる寸前でデュランのスマートフォンを見事に掴んだ。千ドル以上の品をたった一日で破壊されては堪ったものではない。パジャマのままで起き抜けにダイビングキャッチをやるハメになるとは夢にも思わなかったウィリアムは立ち上がるとアラームを解除してデュランに返す。

「勘弁してくれよデュラン。通話とアラームの操作だけ覚えてくれればいいから壊さないでよね。それと、アイラはまたここで寝てるの?」

 頭をポリポリと掻きながらウィリアムはデュランの腹の上に目をやる。そこには今し方の騒ぎでも目覚めることなく可愛らしい寝息を立てているアイラがいた。

「毎朝気付いたら俺の上で寝てやがるんだよ。これじゃあ寝室を譲ってやった意味がねーぜ」

「ふむ……確かにそれは困ったね。そうかそうか、なるほど。まずはそこから変えていく必要があるか」

 ウィリアムは顎に手を当て、一人でぶつぶつと呟きながらあれこれ思案を巡らせている。デュランは知っていた。コイツがこういう仕草をする時、決まって面倒な提案をしてくるということを。そしてそれはいくら反対したとしても理論武装でこちらの反論を悉く退けてくるということも。あまつさえ、口先だけでなくきちんと順序立てて計画通り遂行するということも。

「お、おい。今度はなに企んでやがるんだウィリアム」

 デュランの問いは耳に入っていないようで、ウィリアムからの返事はない。しばらく一人で考えた末、顔を上げたウィリアムはデュランの目を見てこう答えた。

「よし決めた。この家を建て直そう」

 ウィリアムの意見はこうだ。
 元々誰が住んでいたかわからぬ空き家だったここは、デュラン一人だった頃は問題ない広さだったがそこにウィリアムが転がり込んだことで手狭になり、更に年頃の女の子が加わったということも考慮するとプライバシーの観点からもアイラ専用の部屋を作る必要がある。また、外壁にも無数のクラックやコーキングの劣化が顕著に見られる為、時期的にも足場をかけて外壁や屋根の補修を行なう必要がある。で、あるならば増改築を行なうよりいっそ上物を全て取り壊して一から設計、建て直しをした方が良いと言う。

「お前の意見はもっともだがよ。そんな大金あるわけねーだろ。それに空き家ならこのジェイルタウンにゃ腐るほどあるだろうが。手狭なら住まいだけ近場に引っ越しゃいいじゃねーか」

「なにいってんのさ。アイラの為にも綺麗な新築にして可愛い子供部屋を用意してあげなきゃ可哀想だよ。それに一階の店舗も弾痕だらけだし設備も古いしこれを機に全部新しくした方が良いって。それに僕が経理やってるんだよ? お金に関してはノープロブレム。問題があるとしたらジェイルタウンまで建設業者を招き入れる手筈くらいかな。でもその点は虎皇会の息がかかったエデンの建設業者を使えば解決すると思うんだよ」

「ここを取り壊したとして、その間俺たちは何処に住むんだよ。それに店がしばらく開けれねーなら収入源が無いじゃねぇか」
 
「竣工までの間はエデンに仮住まいを探すよ。そんで、それまでの繋ぎの仕事としてキッチンカーでの移動販売をやろうと思うんだ。この間の事件でエデンには復興事業で工事関係の業者が他所からも多く集まっているはずだから、サンドイッチや屋台で食べられているメニューは飛ぶように売れるはずだよ。もしくはメイファンさんの持ってるレストランで臨時で働かせてもらう手もあるけど、それはイヤでしょ?」

「わかってんなら聞くなよ。それだけは死んでもお断りだ」

「じゃあそれ以外ならOKってコトだよね」

 これがウィリアムの話術である。

 メイファンの店で働くことを死ぬほど嫌がっているデュランの心理を逆手に取り、エデンへの仮住まいを通したのだ。そもそもデュランはエデンという街自体を嫌っているため、この提案に関しては滅多なことでは首を縦に振らないことは分かり切っていた。そこで敢えてメイファンへ借りを作る案をぶら下げて不満をそこにだけ集中させたのだ。

 実際のところ、デュラン自身も「それならまだ幾分かマシか」という心境になっている。しばらく経ってから、またしても口車に乗せられたと気付くのだが時既に遅し。更に言えば〝男に二言無し〟を信条としているデュランの性格上、一度認めたことを覆すというのは恥ずかしくて出来るはずもない。事実上、ウィリアムの提案は可決したに等しいというわけだ。

 ウィリアムは交渉の順序や相手の性格を加味して言葉を紡ぐ。加えて、英語以外にもイタリア語、ドイツ語、フランス語、中国語など様々な国の語学も堪能である為、メイファンの依頼で何度か虎皇会と別組織の取引の場でネゴシエーターを務めたこともあるほど弁が立つ。単細胞なデュランを言い包めることなど造作もない。ウィリアムにもお手上げな相手がいるとすれば話すらまともに出来ない程にイカれた奴か、対話が不可能な動物や災害くらいのものだ。

「というわけで、今日からしばらく店は休業ね。朝食を済ませたら僕は早速エデンのハウスメーカーや不動産屋を回ってくるよ。一応メイファンさんのとこにも挨拶ついでに事情を説明してくるから、留守番はよろしくね」

 ウィリアムはそう言うと食パンに苺ジャムとピーナッツバターをアホほど塗りたくった、所謂ピーナッツバター&ジェリーサンドイッチをオレンジジュースで流し込み、高級ブランド、イード&レイヴェンスクロフトで仕立てたというオーダーメイドスーツとネクタイで身支度を整えてそそくさと出掛けていった。

 そんな忙しないウィリアムの様子をソファーで見ていたデュランはスマートフォンの画面で時刻を確認する。もう間も無く五時。いつもなら店にて仕込みをしている時間ではあるが、急遽決まった臨時休業。そしてアイラはまだ夢の中。

「ったく、こんな朝っぱらからやってる不動産屋なんてあるわけねぇだろうが。しゃーねぇ……寝るか」

 特にやることもなくなったデュランはアイラを腹の上に乗せたまま久方振りの二度寝を満喫したのだった。
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