神と従者

彩茸

文字の大きさ
19 / 169
第一部

襲撃者

しおりを挟む
―――それから数日後のことである。料理中に、襲撃を受けた。
折角稲荷寿司を作っていたのに。そう思いながら、御鈴を庇うように前に立つ。

『柏木』

 そう言って出した柏木に、神の力を纏わせる。

「タイミング悪すぎるんだよ・・・」

 柏木を構えながら言うと、人間に鬼の角を生やしたような姿をした襲撃者は
 ニタリと笑った。

「タイミングを図って襲いに来るほど、オレは利口じゃないんでね」

 言葉を喋った襲撃者に驚く。今まで襲い掛かってきた奴らは奇声こそ上げど、
 こんな風には喋らなかった。
 知能の高い奴は厄介だ。そう思いながら警戒の眼差しを向けると、襲撃者は
 言った。

「お前、名前は?」

「・・・人に名前を聞くときは、先に名乗れって教わらなかったか?」

 突然名前を聞かれたことに驚きつつ、そう返してみる。襲撃者は少し驚いた顔を
 した後、クスリと笑って言った。

「これは失礼。オレは糸繰いとくり、以後お見知りおきを」

「・・・蒼汰だ」

 俺が答えると、襲撃者・・・糸繰はニタリと笑う。そしてまるで敵意を感じさせ
 ない歩き方で、俺に近付いてくる。
 いつでも殴れるようにと柏木を動かすと、糸繰は言った。

「悪いね、なんだ」

 その瞬間、俺は壁に背中を打ち付けていた。
 一瞬の事で何があったか理解できないでいると、糸繰は御鈴に手を伸ばす。

「やめっ・・・!」

 立ち上がろうとするも、背中が痛くて動けない。令が御鈴と糸繰の間に割って
 入るが、糸繰が軽く手を振っただけで吹き飛ばされてしまった。
 気絶した令を見た御鈴は距離を取ろうと後ろに下がるが、生憎ここは家の中。
 すぐに追い詰められてしまう。
 躊躇いがちに、御鈴は俺を見る。大方、命令するか悩んでいるのだろう。

「神様、貴女のお名前は?」

 糸繰が御鈴の頬に触れる。
 何故名前を聞くんだ、知らないのかと思っていると、ふと思い出した。令と初めて
 会った日、彼が言っていた言葉を。
 妖の中には、名前を使って無理矢理操れる奴もいる。それだけじゃない、呪術に
 使われることもある。
 もしかして、こいつ・・・!

「答えるな!」

 口を開いた御鈴に叫ぶ。御鈴は驚いた顔で俺を見つつ口を閉ざす。糸繰は俺を睨み
 つけると、小さく舌打ちをして言った。

「・・・良い従者をお持ちのようで」

 糸繰は懐から手のひらサイズの小さな人形のようなものを取り出すと、ブツブツと
 何かを呟き始めた。
 ゾワリと寒気がし、柏木を持つ手に力を籠める。

「お前、って言ったよな」

 糸繰の言葉に、まずいと思った。糸繰は何処かから取り出した待ち針を人形の腕に
 刺す。
 そして、ニタリと笑って言った。

『汝は蒼汰。その体、我が思うままに操らせよ』

 その瞬間、柏木を持っていた右腕に激痛が走った。
 あまりの痛みに声も出ず、握っていた柏木を落とす。

「蒼汰!!」

 俺に駆け寄ろうとした御鈴の首根っこを糸繰は掴み、持ち上げる。暴れる御鈴に
 糸繰は困った顔をすると、御鈴に向かって言った。

「あんな使えない従者、捨てちゃえば良いんじゃないですか?神様。使えないものは
 捨てる、オレは主にそう習いましたけど」

 御鈴は動きを止める。そして、冷たい目で糸繰を見て言った。

「妾の選んだ従者を侮辱するか、貴様」

 初めて見る御鈴の表情に、その氷のように冷たい目に、背筋が凍る。糸繰も多少
 ビビったようで、表情を強張らせた。

「・・・まあ良いです。オレは貴女の名前が分からないと殺せませんし、取り敢えず
 主の所へ連れ帰ります」

 ああ、従者と会うのは最後になりますかね。そう言って糸繰がニタリと笑う。
 ・・・このままだと御鈴が。どうする、そうすれば良い?どんどん強くなっていく
 痛みで飛びそうな意識を、どうにか繋ぎ止めながら考える。
 もっと俺に力があれば。・・・・・・あれ、力?

「離せ!このっ!」

 ジタバタと暴れ続ける御鈴をニタニタと笑いながら掴んでいる糸繰が、クルリと
 背を向ける。
 俺は胸の辺りが温かくなるのを感じながら、右腕に手を当てて呟いた。

『消えよ』

 一瞬にして腕の痛みが消える。そのまま背中に手を当て、もう一度消えよと呟く。
 柏木を掴み、痛みの消えた体でゆらりと立ち上がる。そして、思いっ切り地面を
 蹴った。跳躍し、家から出て行こうとする糸繰と距離を詰める。御鈴の命令で
 動いたあの時のように跳躍は出来ないが、それでもいつもより高く跳んだ気が
 する。
 柏木を振り上げた俺は、静かに言った。

「俺の主を返せ」

 振り返った糸繰は、俺の姿を見て目を見開く。それと同時に柏木を振り下ろすと、
 糸繰は御鈴から手を離してそれを避けた。
 今の避けるのかよと思いながら、御鈴を守るように立つ。

「何で動ける。オレのは効いてたはずだが?」

 糸繰がそう言って俺を睨む。俺は糸繰を睨み返して言った。

「人間舐めんな」

 俺の言葉を聞いた糸繰は何かに気付いたようで、ああなるほどと呟く。

「そうか、お前人間だもんな。人間は名前が分かれているんだっけか」

 そうだそうだと自嘲するように笑った糸繰は、柏木を警戒しているのか俺から
 視線を外すことなく家から出て行く。

「じゃあな蒼汰、また会おう」

 ニタリと笑った糸繰は、俺達の前から姿を消した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

今まで尽してきた私に、妾になれと言うんですか…?

水垣するめ
恋愛
主人公伯爵家のメアリー・キングスレーは公爵家長男のロビン・ウィンターと婚約していた。 メアリーは幼い頃から公爵のロビンと釣り合うように厳しい教育を受けていた。 そして学園に通い始めてからもロビンのために、生徒会の仕事を請け負い、尽していた。 しかしある日突然、ロビンは平民の女性を連れてきて「彼女を正妻にする!」と宣言した。 そしえメアリーには「お前は妾にする」と言ってきて…。 メアリーはロビンに失望し、婚約破棄をする。 婚約破棄は面子に関わるとロビンは引き留めようとしたが、メアリーは婚約破棄を押し通す。 そしてその後、ロビンのメアリーに対する仕打ちを知った王子や、周囲の貴族はロビンを責め始める…。 ※小説家になろうでも掲載しています。

魔法学園の幼稚園〜ちっちゃな魔法使い達と25才のお世話係

のの(まゆたん)
ファンタジー
小さな魔法使いの子供達 お世話するのは25才の

経済的令嬢活動~金遣いの荒い女だという理由で婚約破棄して金も出してくれって、そんなの知りませんよ~

キョウキョウ
恋愛
 ロアリルダ王国の民から徴収した税金を無駄遣いしていると指摘されたミントン伯爵家の令嬢クリスティーナ。浪費する癖を持つお前は、王妃にふさわしくないという理由でアーヴァイン王子に婚約を破棄される。  婚約破棄を告げられたクリスティーナは、損得を勘定して婚約破棄を素直に受け入れた。王妃にならない方が、今後は立ち回りやすいと考えて。  アーヴァイン王子は、新たな婚約相手であるエステル嬢と一緒に王国の改革を始める。無駄遣いを無くして、可能な限り税金を引き下げることを新たな目標にする。王国民の負担を無くす、という方針を発表した。  今までとは真逆の方策を立てて、進んでいこうとするロアリルダ王国。彼の立てた新たな方針は、無事に成功するのだろうか。  一方、婚約破棄されたクリスティーナは商人の国と呼ばれているネバントラ共和国に移り住む計画を立て始める。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...