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理由と勉強と

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花坂 弥琴は、目の前の光景を呆れた顔で見て
いた。
妖の死骸を食べる、ハイエナのような見た目
の式神を撫でながら、まあこうなりますよね
と思う。
ある日の実践授業。討伐対象の妖を一人で
討伐してしまった武が、浩太に怒られて
いた。

「お前が一人で倒してしまっては、後輩達の
    学びにならないだろう!」

「ご、ごめん...」

武は浩太から目を逸らし、気まずそうな顔
をする。

「ま、まあほら、見るのも勉強だって言い
    ますし!」

麗奈がそう言って浩太を宥めようとするが、
浩太は麗奈を見て言った。

「...突然飛び出して一瞬で妖の首を切った
    状況の、何処に勉強になるようなものが
    あるんだ?」

「そ、それは...」

麗奈は助けてと言いたげな目で弥琴を見る。
弥琴は溜息を吐くと、武に言った。

「山霧先輩、ずっと聞きたかったことが
    あるんですけど」

「ん?」

「先輩って、どうしていつも能力使う時に
    声出してるんですか?妖の動きを止める
    時に『かーげ踏ーんだっ!』って言ったり
    とか」

弥琴の問いに、武はその...と恥ずかしそうに
頬を掻く。

「あー…これ、他の奴には内緒な?」

そう言った武に弥琴がキョトンとしながら
頷くと、武はボソボソと言った。

「癖…なんだ、実は。小さい頃、能力の
    制御が下手でさ。親父の提案で、遊び
    ながら能力使う練習をしてたんだ」

「その名残りなんですか」

弥琴の言葉に、武は頷く。

「何も言わなくても使えるようにはなったん
    だけど、何か落ち着かなくて」

苦笑いを浮かべてそう言った武に、麗奈が
言った。

「あたしてっきり、発動条件なんだと思って
    ました...」

「俺はてっきり、妖に今から能力使うぞって
    親切に伝えているんだと...」

浩太の言葉に、違ぇよとムスッとした顔で
武は言う。
弥琴は口角を上げると、武に言った。

「ありがとうございます、先輩。
    なりました」

弥琴は浩太を見る。浩太は弥琴の言いたい
ことを察したのか、溜息を吐いて言った。

「...勉強になったなら良い。戻るぞ」

ほっと息を吐いた麗奈は、弥琴にありがとう
と口パクで伝える。弥琴は小さく笑うと、
浩太の後ろに付いて歩き出した。
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