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中編『狩人と護人』
五話
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―――数日後、静也と晴樹は雨谷の工房へ向かう。
飛び立って行く天狗を見送り、山を登り・・・迷うことなく工房に辿り着いた
静也達を、雪華が出迎えた。
「ようこそいらっしゃいました。静也様、晴樹様」
ご用件は?と雪華は聞く。雨谷に聞きたいことがあってと静也が言うと、雪華は
困ったような顔をした。
「申し訳ありません、雨谷様はまだ寝ていらっしゃるのです」
「寝てるって・・・あれ、今昼過ぎだよね?」
雪華の言葉に晴樹がそう言って首を傾げる。
雪華は頷くと、どうぞお入りくださいと二人を中へ通しつつ言った。
「ここ最近仕事が立て込んでおりまして、昨日やっと片付いたらしいのです。
流石に、数日間も徹夜されていた雨谷様を起こす訳にもいかず・・・」
「大変そうだな・・・」
静也がそう呟くと、雪華は滅多にないことですからねと苦笑いを浮かべた。
―――部屋に入った静也と晴樹に、雪華がお茶を出す。
「そろそろ起こした方が良いのでしょうか・・・」
雪華が困ったように呟くと、晴樹が言った。
「寝てたってことは、朝食も昼食も食べてないってことでしょ?流石に夕食までには
起こした方が良いとは思うけど・・・」
「そうですね、起こしましょうか」
雪華はそう言って部屋を出て行く。
少しして、二人分の足音が聞こえ扉が開く。静也と晴樹がそちらを見ると、
そこには雪華と眠そうに欠伸をする雨谷が立っていた。
「いらっしゃ~い」
雨谷はそう言ってひらひらと手を振る。そのままフラフラとした足取りで静也の
前に座った雨谷は、何の用事~?と静也を見た。
「聞きたいことがあってさ」
静也がそう言うと、雨谷はボーっとした顔のまま静也の目をじっと見る。
すると、ふらりと静也が倒れた。
「静兄?!!」
晴樹が驚いた声を上げ、静也を揺する。
「雨谷お前、何しやがった・・・」
目を開けた静也が、そう言いながら青い顔で雨谷を睨む。
雨谷はハッとした顔になると、慌てたように言った。
「ご、ごめんシズちん!大丈夫?!」
「雨谷様・・・」
雪華が呆れたような顔で雨谷を見る。雨谷は凄く申し訳なさそうな顔で静也に
言った。
「マジでごめん。オイラ寝ぼけてて、その・・・見すぎた」
「見すぎた?」
晴樹がそう言って首を傾げる。
「ハルちんは知らないんだっけ?・・・オイラは、相手の目を見ることで脳に干渉
できる。まあ、何でもかんでもできる訳じゃないんだけどさ。それで、その・・・
ちょっと、シズちんの頭の中覗きすぎちゃって」
加減するの忘れてた~と雨谷は両手で顔を覆う。
「突然頭の中かき乱されたかと思ったら、眩暈と吐き気が・・・」
静也がそう言って机に突っ伏す。雪華は静也の背中を擦りながら、溜息を吐いて
言った。
「・・・雨谷様。静也様だから良かったものの、他の人間に同じことをすれば最悪
ショック死しますからね」
「え?!」
晴樹が驚いた顔で静也と雨谷を交互に見る。
「あ、あはは~」
雨谷は冷や汗を流しながらも、ヘラヘラと笑うのだった。
―――静也の体調が良くなった頃には既に夕方で、雪華から夕食が振舞われる。
「・・・で、何だっけ?妖刀狩りに会って、色々と事情を知って、妖刀について
オイラに聞きに来たんだっけ」
「何も言わなくても全部伝わってるようで何よりだよ・・・」
雨谷の言葉に、静也は深い溜息を吐きながら言う。
「人間の妖刀使いが人間殺したってことはさあ、妖刀を無理矢理使ってたってこと
なんだよね~」
ご飯を口に運びながらそう言った雨谷に、静也と晴樹は首を傾げる。
「妖刀って、無理矢理使えるものなの?」
晴樹がそう言うと、雨谷は頷いて言った。
「前に雪華がそもそも妖刀は妖が人間を殺すために作り上げたもので、妖に刃を
向けることのできる妖刀は持ち主を自らの意思で選んでいるって言ったの覚え
てる?」
静也と晴樹が頷くと、雨谷は言葉を続ける。
「妖刀って普通は選ばれた人間が使うものなんだけどさ、構造はただの刀だから
鞘から抜いてしまえば普通に使えるんだよね~。・・・まあ、普通の刀と違って
それ相応の代償はあるんだけど」
「代償?」
静也が首を傾げると、雨谷はニッコリと笑って言った。
「代償の程度は、妖刀の性格とか製作者にもよるんだけどね。代償が払えなければ、
妖刀の意思が使用者を乗っ取るって仕組みなんだよ~」
よくできてるでしょ~と雨谷は笑う。
「じゃあ、静兄の持ってる夜月も仮に僕が使ったりしたら代償があるってこと?」
そう晴樹が聞くと、夜月に気に入られなければそうだね~と雨谷は頷く。
「夜月の場合は、どんな代償になるんだ?」
興味本位で静也が聞くと、雨谷は言った。
「夜月の代償かあ。・・・まあ夜月は人間の依頼で作ったってのもあって、割と
大人しい刀だったからね~。寿命数十年縮むくらいで済むんじゃない?」
「寿命数十年縮むのは、くらいって言えるのか・・・?」
静也が引き気味に言うと、まだ優しい方だよ~と雨谷は笑う。
「大人しくない刀だと、精神ごっそり削って自分の思い通りに使用者を動かそうと
したりとか、狂気で蝕んで自殺させようとしたりとか・・・意地でも気に入らない
奴を苦しませようとしてくるからね~」
ニコニコしながら言った雨谷に、静也と晴樹は唖然とする。
「・・・大人しいとかそうじゃないとか、分かるものなの?」
晴樹が聞くと、雨谷はさらりと言った。
「夜月作った時、オイラまだ『どっちつかず』だったし。刀が何考えてるか分かって
たんだよ~」
「雨谷様がまだ『どっちつかず』の神であった頃は、刀の意思を尊重し依頼者を
選んでおられたのですよ」
そう言った雪華に、相性悪いの分かっててほっといたら集落壊滅しちゃったしね~
と雨谷は苦笑いを浮かべる。
「今は意思とか分からないのか?」
静也が聞くと、雨谷は少し寂しそうな顔をしながら言った。
「妖に堕ちてからは、何となくそんな気がするって程度になっちゃったんだよね~。
・・・まあ、あまりにも意思の強い妖刀とかならちゃんと分るんだけどさ」
「そんな妖刀あるんだ」
晴樹がそう言うと、ご飯を食べ終わった雨谷は箸を置いて俯きがちにボソリと
言った。
「・・・陽煉がそう」
飛び立って行く天狗を見送り、山を登り・・・迷うことなく工房に辿り着いた
静也達を、雪華が出迎えた。
「ようこそいらっしゃいました。静也様、晴樹様」
ご用件は?と雪華は聞く。雨谷に聞きたいことがあってと静也が言うと、雪華は
困ったような顔をした。
「申し訳ありません、雨谷様はまだ寝ていらっしゃるのです」
「寝てるって・・・あれ、今昼過ぎだよね?」
雪華の言葉に晴樹がそう言って首を傾げる。
雪華は頷くと、どうぞお入りくださいと二人を中へ通しつつ言った。
「ここ最近仕事が立て込んでおりまして、昨日やっと片付いたらしいのです。
流石に、数日間も徹夜されていた雨谷様を起こす訳にもいかず・・・」
「大変そうだな・・・」
静也がそう呟くと、雪華は滅多にないことですからねと苦笑いを浮かべた。
―――部屋に入った静也と晴樹に、雪華がお茶を出す。
「そろそろ起こした方が良いのでしょうか・・・」
雪華が困ったように呟くと、晴樹が言った。
「寝てたってことは、朝食も昼食も食べてないってことでしょ?流石に夕食までには
起こした方が良いとは思うけど・・・」
「そうですね、起こしましょうか」
雪華はそう言って部屋を出て行く。
少しして、二人分の足音が聞こえ扉が開く。静也と晴樹がそちらを見ると、
そこには雪華と眠そうに欠伸をする雨谷が立っていた。
「いらっしゃ~い」
雨谷はそう言ってひらひらと手を振る。そのままフラフラとした足取りで静也の
前に座った雨谷は、何の用事~?と静也を見た。
「聞きたいことがあってさ」
静也がそう言うと、雨谷はボーっとした顔のまま静也の目をじっと見る。
すると、ふらりと静也が倒れた。
「静兄?!!」
晴樹が驚いた声を上げ、静也を揺する。
「雨谷お前、何しやがった・・・」
目を開けた静也が、そう言いながら青い顔で雨谷を睨む。
雨谷はハッとした顔になると、慌てたように言った。
「ご、ごめんシズちん!大丈夫?!」
「雨谷様・・・」
雪華が呆れたような顔で雨谷を見る。雨谷は凄く申し訳なさそうな顔で静也に
言った。
「マジでごめん。オイラ寝ぼけてて、その・・・見すぎた」
「見すぎた?」
晴樹がそう言って首を傾げる。
「ハルちんは知らないんだっけ?・・・オイラは、相手の目を見ることで脳に干渉
できる。まあ、何でもかんでもできる訳じゃないんだけどさ。それで、その・・・
ちょっと、シズちんの頭の中覗きすぎちゃって」
加減するの忘れてた~と雨谷は両手で顔を覆う。
「突然頭の中かき乱されたかと思ったら、眩暈と吐き気が・・・」
静也がそう言って机に突っ伏す。雪華は静也の背中を擦りながら、溜息を吐いて
言った。
「・・・雨谷様。静也様だから良かったものの、他の人間に同じことをすれば最悪
ショック死しますからね」
「え?!」
晴樹が驚いた顔で静也と雨谷を交互に見る。
「あ、あはは~」
雨谷は冷や汗を流しながらも、ヘラヘラと笑うのだった。
―――静也の体調が良くなった頃には既に夕方で、雪華から夕食が振舞われる。
「・・・で、何だっけ?妖刀狩りに会って、色々と事情を知って、妖刀について
オイラに聞きに来たんだっけ」
「何も言わなくても全部伝わってるようで何よりだよ・・・」
雨谷の言葉に、静也は深い溜息を吐きながら言う。
「人間の妖刀使いが人間殺したってことはさあ、妖刀を無理矢理使ってたってこと
なんだよね~」
ご飯を口に運びながらそう言った雨谷に、静也と晴樹は首を傾げる。
「妖刀って、無理矢理使えるものなの?」
晴樹がそう言うと、雨谷は頷いて言った。
「前に雪華がそもそも妖刀は妖が人間を殺すために作り上げたもので、妖に刃を
向けることのできる妖刀は持ち主を自らの意思で選んでいるって言ったの覚え
てる?」
静也と晴樹が頷くと、雨谷は言葉を続ける。
「妖刀って普通は選ばれた人間が使うものなんだけどさ、構造はただの刀だから
鞘から抜いてしまえば普通に使えるんだよね~。・・・まあ、普通の刀と違って
それ相応の代償はあるんだけど」
「代償?」
静也が首を傾げると、雨谷はニッコリと笑って言った。
「代償の程度は、妖刀の性格とか製作者にもよるんだけどね。代償が払えなければ、
妖刀の意思が使用者を乗っ取るって仕組みなんだよ~」
よくできてるでしょ~と雨谷は笑う。
「じゃあ、静兄の持ってる夜月も仮に僕が使ったりしたら代償があるってこと?」
そう晴樹が聞くと、夜月に気に入られなければそうだね~と雨谷は頷く。
「夜月の場合は、どんな代償になるんだ?」
興味本位で静也が聞くと、雨谷は言った。
「夜月の代償かあ。・・・まあ夜月は人間の依頼で作ったってのもあって、割と
大人しい刀だったからね~。寿命数十年縮むくらいで済むんじゃない?」
「寿命数十年縮むのは、くらいって言えるのか・・・?」
静也が引き気味に言うと、まだ優しい方だよ~と雨谷は笑う。
「大人しくない刀だと、精神ごっそり削って自分の思い通りに使用者を動かそうと
したりとか、狂気で蝕んで自殺させようとしたりとか・・・意地でも気に入らない
奴を苦しませようとしてくるからね~」
ニコニコしながら言った雨谷に、静也と晴樹は唖然とする。
「・・・大人しいとかそうじゃないとか、分かるものなの?」
晴樹が聞くと、雨谷はさらりと言った。
「夜月作った時、オイラまだ『どっちつかず』だったし。刀が何考えてるか分かって
たんだよ~」
「雨谷様がまだ『どっちつかず』の神であった頃は、刀の意思を尊重し依頼者を
選んでおられたのですよ」
そう言った雪華に、相性悪いの分かっててほっといたら集落壊滅しちゃったしね~
と雨谷は苦笑いを浮かべる。
「今は意思とか分からないのか?」
静也が聞くと、雨谷は少し寂しそうな顔をしながら言った。
「妖に堕ちてからは、何となくそんな気がするって程度になっちゃったんだよね~。
・・・まあ、あまりにも意思の強い妖刀とかならちゃんと分るんだけどさ」
「そんな妖刀あるんだ」
晴樹がそう言うと、ご飯を食べ終わった雨谷は箸を置いて俯きがちにボソリと
言った。
「・・・陽煉がそう」
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