異能力と妖と短編集

彩茸

文字の大きさ
上 下
14 / 42

朝雪華

しおりを挟む
―――珍しく、寝坊した。昨夜あるじに誘われて共に酒を嗜んだ。酔う前に眠りに就いた
はずだったのだが。

雪華せつか、ボーっとしてたら焦げるよ~」

「あっ、申し訳ありません!」

 ・・・私は今、主と共に朝食を作っている。

「大丈夫?眠いなら寝てた方が・・・」

「大丈夫です」

 心配してくれる主にそう返しつつ、卵焼きを皿に乗せる。

雨谷うこく様、わざわざ手伝ってくださらなくても良かったのですよ?」

「いつもより早く起きちゃったし、たまにはオイラも手伝いたくてさ」

「ありがとうございます」

 主の優しさに触れつつ、ちらりと主の手元を見る。
 流石は元刀作りの神と言うべきか、彼の包丁捌きはいつも料理をしている私よりも
 上手だ。
 余った人参で飾り切りを始めた主を見ていると、主は手を止めずにちらりと私を
 見て言った。

「ねえ雪華、これも味噌汁に入れて良い?」

「はい、良いですよ」

 頷くと、主は嬉しそうな顔で笑う。
 ・・・あの頃と比べて、よく笑ってくれるようになった。そう思いながら、出汁を
 入れた鍋に具材を入れていく。

「雨谷様、そろそろ」

「ちょ、ちょっとだけ待って!」

 慌てたように手を動かす主にクスリと笑いながら、味噌の蓋を開ける。
 ・・・ああ、良い香りだ。



―――出来上がった朝食を、二人で一緒に食べる。

「卵焼き、味付け変えた?」

「本日は砂糖を少し多めにしてみました。・・・お口に合いませんでしたか?」

「ううん、すっごく美味しい」

「それは良かったです」

 そんな会話をしながら、箸を進める。
 そろそろ食べ終わるという時、主は言った。

「・・・今日さ、行きたい所があるんだ」

 一緒に行ってくれない?と主は私を見る。
 いつも通りさして用事もないので頷くと、主は笑みを浮かべる。

「のんびりしに行こう」

「のんびり、ですか?」

 主の言葉に首を傾げると、主は頷いて言った。

「そう、のんびり。オイラも最近仕事が忙しくてゆっくりできてなかったからさ、
 二人で羽を伸ばそうよ」

 ・・・言われてみれば、確かにここ数ヶ月は妖刀の注文が立て続けにあって忙し
 そうにしていた。

「そうですね、そうしましょう」

 私が微笑むと、主も嬉しそうな顔をする。
 たまには私も主の傍でのんびりしよう。そんなことを考えながら、最後の一口を
 口に運ぶ。
 ・・・ああ、楽しみだ。
しおりを挟む

処理中です...