あの子を甘やかして幸せにスローライフする為の、はずれスキル7回の使い方

tea

文字の大きさ
13 / 59
第二章 スローライフ希望のはずなのに、毎日それなりに忙しいのだが?

【番外編】ハクタカの帰省 【side アリア】

しおりを挟む
田舎にある小さな村で初めてハクタカが倒れている私を見つけてくれた時、私は彼の名前も何も思い出せなかった。

でもそのトパーズ色した暖かな眼差しが、酷く懐かしくてたまらなかった。

だから、魔王を倒して王都に凱旋してしばらく経った後一人放浪の旅に出たのは、無意識に彼を探していたからなのだろうと思った。




過保護なハクタカは、出会い頭道に倒れていた私の事を、長い間酷く心配していた。

しかし、ようやく私の体調がとっくの昔にすっかり良くなっている事に納得してくれたらしい。
ある日突然、

「顔を見せに王都に戻ろう」

そんな事を言いだした。

王都に凱旋した後、放浪の旅に出るまでの間ローザの家に厄介になっていた事を私が話したから。
律儀なハクタカは私の保護者代わりのローザを安心させなければと思ったのだろう。

反対する理由も特になかったから。
私は深く考えもせず旅行気分でハクタカについて言われるがまま王都に戻ることにした。






◇◆◇◆◇

「ハクタカ! お前無事だったか?!」

「手紙一つ寄越さないで、この薄情者め!」

「ちゃんとご飯食べてるのかい?」

「ハクタカ久しぶり! いつ戻ってきたの?」

「こっちには長くいられるんでしょう??」

王都に着くなりハクタカは行く人行く人に声をかけられていて。
私は、ハクタカのその人気者ぶりに驚いた。

下手すると、王子であるトレーユ以上に皆がハクタカと話をしたそうに見える。
しかし、少し考えればハクタカはやる事成す事スマートだし、優しい上に気遣いまで出来るのだから当然か。

改めてハクタカをよく見れば。
彼が今着ている服は村で調達できる普通の物を組み合わせただけのものなのに、王都育ち故のセンスの良さなのか元の素材が良いのか、こちらでも十分にあか抜けて見えた。


国最強と謳われるギルドのマスターと気さくに話をしている姿にまた驚けば

「親父のコネなんだよ」

ハクタカはそれさえもまたいつもの様にあっさり謙遜して見せた。





しばらくして、ギルドマスターから連絡を受けたローザが会いに来てくれた。

「アリアを送って来てくれてありがとう」

ローザのそんな言葉を聞いた瞬間、私は思わずその場に凍り付いた。
ローザに言われたその言葉で、ハクタカが赤の他人である私をあの家に再び連れて帰ってくれる道理が何一つ無い事に、今更ながらようやく気づいたのだ。


『ここでハクタカとはお別れなのか』

そう思って無償に悲しくなり、思わず俯いた時だった。

私の表情を読んだハクタカが

「さて、顔見せも済んだ事だし。アリア、帰るぞ」

そう言って手を伸べてくれた。
途惑いローザを振り返れば、ローザはやれやれと肩を竦めて見せつつも、優しく目を細め

「またすぐに顔を見せにくるんだぞ」

と手を振ってくれた。


私……。
ハクタカともっと一緒に居てもいいのかな?


泣き出しそうになりながらおずおずとその手を取れば、ハクタカがまた私を甘やかすように優しく優しく微笑んでくれた。






◇◆◇◆◇

村への帰り道、

「安物で悪いんだけどさ……」

そう言いながらハクタカがお守りをくれた。
ハクタカの瞳と同じ色をした石のついた首飾りだった。

それを見た瞬間、かつて自分がこれを欲しいと思って見ていた時の事を思い出した。


相手が誰かは記憶の中からごっそり抜け落ちてしまっているが、とっても大事な人の瞳の色と一緒だった為それを見た瞬間、それが欲しいと強く心惹かれたことは強く覚えている。

しかし、瞳と同じ色のアクセサリーを送るのは恋人相手だけと相場が決まっているから、彼の恋人でも何でもない私は、……自身の気持ちにも無自覚であった今よりも幼かった私は、その時それを欲しいと口に出すことが出来なかったのだった。


思い出した記憶の中では、その『大事な人』に関する記憶だけが切り取られたように欠落しているためそれが誰かは正確には分からない。

しかし……。
この胸の痛みから察するに、その人はハクタカなのだろう。


「いざという時、アリアの贄守りになるように」

かつての私より少し大人になった私の気持ちなど、何も気づいていないのだろう。
ハクタカは、そう言って私の首に彼の瞳と同じ色の首飾りをかけてくれた。


ハクタカの優しい思いやりを無にするようで申し訳ない。
でもきっと、何より大切となってしまったハクタカの瞳と同じ色のこの首飾りを、私はきっと贄に使う事など出来ないだろう。

ハクタカに手を引かれ暖かな気持ちで家に向かって歩いて帰りながら、私はそんな事を思ったのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...