37 / 59
第三章 刺激的なスローライフ
35.だからその手を離して??
しおりを挟む
……えっと?
俺が寝ぼけて変な聞き間違いをしたのだろうか?
今のトレーユの発言のどこをとっても、待ったく安心出来る要素が無かったような気がするのだが??
確かにオーガスタ様は王太子妃となるべく、物凄い努力を重ねられて来た方だったと、昔ギルマスから聞いた事があった。
そんなオーガスタ様のこれまでの苦労を思えば、彼女には過去の辛い思い出を乗り越え、本来あるべき場所に帰って欲しい気がしない訳ではない。
ないのだが……。
王太子は既に結婚していて、かわいい二人の子宝にも恵まれ、夫婦仲も睦まじいと聞く。
それなのに、トレーユはいったいどうやって彼女を王太子妃にするつもりだというのだろう??
同じことを疑問に思ったのであろう。
ローザが半ばトレーユを諫めるようにその事を問えば
「どうやっても何も、決まっているだろう。現在の王太子妃を廃し、義姉上を正妃とするんだ!」
トレーユは迷わずそう言い切って見せた。
単純に王太子妃を挿げ替えるつもりだったか……。
なんて超シンプル。
トレーユはその洗練された立ち居振る舞いや麗しい見目に似合わず、意外と脳筋らしい☆
「何を訳の分からないことを言っているんだ。ちょっと落ち着けって! 世界に平和が訪れた今、私は王太子妃の座になんてこれっぽちも未練なんてないよ??? 大体、キミが敬愛して止まない王太子である『兄上』の気持ちも考えてみろ。行き成りかつての婚約者が現れたからと言って、愛する妻子を放りだして何の悩みもなく私に乗り換えられるような、アレはそんな非道な男ではないだろう?」
カルルの必死の説得に、しかしやはりトレーユは『いいえ』と首を横に強く振り言った。
「言ったでしょう。王族はその見目や自分の好き嫌いで伴侶を選べるわけではないと。王太子となれば猶更です。兄上は将来賢きこの国の王となる方です。また、生まれの身分は低いですが、現王太子妃も、その子供達も皆自らの立場をしっかりわきまえた畏き者たちです。きっと皆分かってくれます!!」
「…………」
なんて事だ。
この国の王太子ご一家もまたトレーユ同様に堅物らしい。
国民としては喜ぶべきなのだろうが……。
唯一彼らのストッパーとなれるであろう第二王子と第三王子が、程ほどに軟派な人物であることを、この家族の為に祈るばかりだ。
しばらくして――
「全く……トレーユは昔から言い出したら聞かないからなぁ。分かったからとりあえず夜が明けるまでもうひと眠りすることにしよう。雨の夜道は危険だ。何、そんなに急がなくとも王城は逃げやしないさ」
やれやれキミには負けたよとばかりに、カルルがふにゃっと眉尻を下げて観念したように笑った。
そうして
「だから、いい加減手を離してくれ」
そう言いって、やんわりトレーユの手を解こうとした時だった。
「王城は逃げませんが、この手を離したら貴女は確実に逃げるでしょう? 城に帰るまで離しませんよ」
トレーユがまたパシッとカルルの反対の手を掴んだものだから、カルルが小さく舌打ちする音が静かな部屋に響いた。
オーガスタ様……。
その正体を知った時、てっきりトレーユの前で自らの出自を隠す為カルルという気まぐれでどこか不遜で行儀の悪い虚構の人物像を作り出し、長年その役を演じていらっしゃったのかとも思ったのだが?
存外、こちらが彼女の素なのかもしれない。
俺が寝ぼけて変な聞き間違いをしたのだろうか?
今のトレーユの発言のどこをとっても、待ったく安心出来る要素が無かったような気がするのだが??
確かにオーガスタ様は王太子妃となるべく、物凄い努力を重ねられて来た方だったと、昔ギルマスから聞いた事があった。
そんなオーガスタ様のこれまでの苦労を思えば、彼女には過去の辛い思い出を乗り越え、本来あるべき場所に帰って欲しい気がしない訳ではない。
ないのだが……。
王太子は既に結婚していて、かわいい二人の子宝にも恵まれ、夫婦仲も睦まじいと聞く。
それなのに、トレーユはいったいどうやって彼女を王太子妃にするつもりだというのだろう??
同じことを疑問に思ったのであろう。
ローザが半ばトレーユを諫めるようにその事を問えば
「どうやっても何も、決まっているだろう。現在の王太子妃を廃し、義姉上を正妃とするんだ!」
トレーユは迷わずそう言い切って見せた。
単純に王太子妃を挿げ替えるつもりだったか……。
なんて超シンプル。
トレーユはその洗練された立ち居振る舞いや麗しい見目に似合わず、意外と脳筋らしい☆
「何を訳の分からないことを言っているんだ。ちょっと落ち着けって! 世界に平和が訪れた今、私は王太子妃の座になんてこれっぽちも未練なんてないよ??? 大体、キミが敬愛して止まない王太子である『兄上』の気持ちも考えてみろ。行き成りかつての婚約者が現れたからと言って、愛する妻子を放りだして何の悩みもなく私に乗り換えられるような、アレはそんな非道な男ではないだろう?」
カルルの必死の説得に、しかしやはりトレーユは『いいえ』と首を横に強く振り言った。
「言ったでしょう。王族はその見目や自分の好き嫌いで伴侶を選べるわけではないと。王太子となれば猶更です。兄上は将来賢きこの国の王となる方です。また、生まれの身分は低いですが、現王太子妃も、その子供達も皆自らの立場をしっかりわきまえた畏き者たちです。きっと皆分かってくれます!!」
「…………」
なんて事だ。
この国の王太子ご一家もまたトレーユ同様に堅物らしい。
国民としては喜ぶべきなのだろうが……。
唯一彼らのストッパーとなれるであろう第二王子と第三王子が、程ほどに軟派な人物であることを、この家族の為に祈るばかりだ。
しばらくして――
「全く……トレーユは昔から言い出したら聞かないからなぁ。分かったからとりあえず夜が明けるまでもうひと眠りすることにしよう。雨の夜道は危険だ。何、そんなに急がなくとも王城は逃げやしないさ」
やれやれキミには負けたよとばかりに、カルルがふにゃっと眉尻を下げて観念したように笑った。
そうして
「だから、いい加減手を離してくれ」
そう言いって、やんわりトレーユの手を解こうとした時だった。
「王城は逃げませんが、この手を離したら貴女は確実に逃げるでしょう? 城に帰るまで離しませんよ」
トレーユがまたパシッとカルルの反対の手を掴んだものだから、カルルが小さく舌打ちする音が静かな部屋に響いた。
オーガスタ様……。
その正体を知った時、てっきりトレーユの前で自らの出自を隠す為カルルという気まぐれでどこか不遜で行儀の悪い虚構の人物像を作り出し、長年その役を演じていらっしゃったのかとも思ったのだが?
存外、こちらが彼女の素なのかもしれない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
71
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる