7 / 57
第一章 悪役令嬢は『壁』になりたい
7.壁になる
しおりを挟む
小説でのウィルとローザの関係性は、一方的なウィルの片思いでした。
しかしこちらでは、最近までウィルとローザは小説とは異なり婚約者同士として仲睦まじく過ごしていると聞いています。
一途なウィルは、突然の心変わりにより去っていくローザの背中を一体どんな思いで見送ったのでしょう……。
知識チートのある自分ならウィルを幸せに出来るのではと思い上がり、余計な事をしたせいで、私は小説以上にウィルの事を傷つけてしまいました。
私はいったいどうやってウィルに償えばいいのでしょう。
ずっとずっと弁えている振りをして、人との間に壁ばかり作ってきた報いなのでしょうか。
『もう自分なんてどんなに傷ついても構わないから』
そんな風に今更思ったところで、こういう時どうすれば良いのかが分かりません。
自分ではもはや取返しのつかないことをしてしまったという後悔に押しつぶされたその時です。
『だったらもう一度この世界を全て壊してやり直せば?』
誰かが私の頭の中で囁きました。
酷く聞き覚えのある声と『もう一度』という引っかかりのある言葉……。
もしかしてこの声の主は、本物のリリーメイなのでしょうか?
『ダメ……どんな理由であろうとこれ以上ウィルが傷つく姿なんて見たくない……』
そう思うのに。
後悔の涙と共に零れ出る黒い黒い波動を帯びた魔力は、薄く薄く私の足元から水気を含んだ大きな雪片のように積もって行き……。
気づけばそれはあっという間に私を取り囲む壁となってしまいました。
壁を越えあふれ出た魔力は、じわじわと周囲を黒く呑み込んでいきます。
『結局、私はウィルを幸せにするどころか、傷つけただけだったな……』
そんな事を思いつつ、全て諦めて目を閉じた時でした。
キーン!
不意に金属同士をぶつけ合ったような澄んだ高い音がしました。
どうやら誰かが、私自身を閉じ込め呑み込んでしまおうとしている自分で築いてしまった魔力の厚い壁を、懸命に打ち壊そうとしてくれているようです。
暗く黒く冷たく周囲を拒絶するような私の魔力とは対照的に、その人の魔力は明るく真っ白で暖かく辺りを包み込む光のようで、懐かしいその感触に閉じていた目を薄く開けば……。
やはりその人は喧嘩別れしたきりずっとすれ違い続けていたウィルでした。
「リリー! キミを助けに来た!!」
ウィルがそう叫ぶのが聞こえます。
「子どもの頃はキミに助けてもらってばかりだったけど、キミのおかげで僕は強くなった。だから今度は僕がここからキミを絶対に助け出して見せるから!!」
壁を砕こうと、ウィルが勢い良く手を横に薙ぐ動作をして、いくつもの魔力の刃を壁に向かい放ちました。
私の魔力の壁とウィルの放つ光の刃がぶつかり合い、再びキーンという高く澄んだ音が、まるで曲を奏でるオルゴールの音の様に辺りに響きます。
「王妃になりたいのならば、その願い叶えて見せる。キミが世界を望むのならばこの世界を君にプレゼントするよ。もし君がゼイムスを望むのなら、アイツの首に枷をかけて君の前にひれ伏させたっていい。だからリリー、こっちに戻って来て!」
物心つく前からゼイムスの婚約者であったため、王妃教育は受けて来ましたが……。
王妃になりたいと思った事なんて実は一度もありません。
それなのに世界??
『私の願いは壁としてウィルの幸せを見守る事よ?』
そう心の中で思った時でした。
「僕の幸せ?」
魔法の壁に突如そっと素手で触れたウィルが私の心を読んで苦く笑いました。
「じゃあ、そこから出てきて。そして……あの日酷い言い方をして君を傷つけた事を許して欲しい」
そう言って。
ウィルが、不意にクシャッと顔を歪めました。
さっきまで大胆不敵な美しい青年の顔をして、世界をもプレゼントして見せると大見栄を切ってみせたばかりだというのに……。
泣き出しそうなその顔は、喧嘩別れしたあの時のままの、どこか幼さの残るものでした。
しかしこちらでは、最近までウィルとローザは小説とは異なり婚約者同士として仲睦まじく過ごしていると聞いています。
一途なウィルは、突然の心変わりにより去っていくローザの背中を一体どんな思いで見送ったのでしょう……。
知識チートのある自分ならウィルを幸せに出来るのではと思い上がり、余計な事をしたせいで、私は小説以上にウィルの事を傷つけてしまいました。
私はいったいどうやってウィルに償えばいいのでしょう。
ずっとずっと弁えている振りをして、人との間に壁ばかり作ってきた報いなのでしょうか。
『もう自分なんてどんなに傷ついても構わないから』
そんな風に今更思ったところで、こういう時どうすれば良いのかが分かりません。
自分ではもはや取返しのつかないことをしてしまったという後悔に押しつぶされたその時です。
『だったらもう一度この世界を全て壊してやり直せば?』
誰かが私の頭の中で囁きました。
酷く聞き覚えのある声と『もう一度』という引っかかりのある言葉……。
もしかしてこの声の主は、本物のリリーメイなのでしょうか?
『ダメ……どんな理由であろうとこれ以上ウィルが傷つく姿なんて見たくない……』
そう思うのに。
後悔の涙と共に零れ出る黒い黒い波動を帯びた魔力は、薄く薄く私の足元から水気を含んだ大きな雪片のように積もって行き……。
気づけばそれはあっという間に私を取り囲む壁となってしまいました。
壁を越えあふれ出た魔力は、じわじわと周囲を黒く呑み込んでいきます。
『結局、私はウィルを幸せにするどころか、傷つけただけだったな……』
そんな事を思いつつ、全て諦めて目を閉じた時でした。
キーン!
不意に金属同士をぶつけ合ったような澄んだ高い音がしました。
どうやら誰かが、私自身を閉じ込め呑み込んでしまおうとしている自分で築いてしまった魔力の厚い壁を、懸命に打ち壊そうとしてくれているようです。
暗く黒く冷たく周囲を拒絶するような私の魔力とは対照的に、その人の魔力は明るく真っ白で暖かく辺りを包み込む光のようで、懐かしいその感触に閉じていた目を薄く開けば……。
やはりその人は喧嘩別れしたきりずっとすれ違い続けていたウィルでした。
「リリー! キミを助けに来た!!」
ウィルがそう叫ぶのが聞こえます。
「子どもの頃はキミに助けてもらってばかりだったけど、キミのおかげで僕は強くなった。だから今度は僕がここからキミを絶対に助け出して見せるから!!」
壁を砕こうと、ウィルが勢い良く手を横に薙ぐ動作をして、いくつもの魔力の刃を壁に向かい放ちました。
私の魔力の壁とウィルの放つ光の刃がぶつかり合い、再びキーンという高く澄んだ音が、まるで曲を奏でるオルゴールの音の様に辺りに響きます。
「王妃になりたいのならば、その願い叶えて見せる。キミが世界を望むのならばこの世界を君にプレゼントするよ。もし君がゼイムスを望むのなら、アイツの首に枷をかけて君の前にひれ伏させたっていい。だからリリー、こっちに戻って来て!」
物心つく前からゼイムスの婚約者であったため、王妃教育は受けて来ましたが……。
王妃になりたいと思った事なんて実は一度もありません。
それなのに世界??
『私の願いは壁としてウィルの幸せを見守る事よ?』
そう心の中で思った時でした。
「僕の幸せ?」
魔法の壁に突如そっと素手で触れたウィルが私の心を読んで苦く笑いました。
「じゃあ、そこから出てきて。そして……あの日酷い言い方をして君を傷つけた事を許して欲しい」
そう言って。
ウィルが、不意にクシャッと顔を歪めました。
さっきまで大胆不敵な美しい青年の顔をして、世界をもプレゼントして見せると大見栄を切ってみせたばかりだというのに……。
泣き出しそうなその顔は、喧嘩別れしたあの時のままの、どこか幼さの残るものでした。
20
あなたにおすすめの小説
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
モブ令嬢、当て馬の恋を応援する
みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる