【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい

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第一章 悪役令嬢は『壁』になりたい

7.壁になる

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小説でのウィルとローザヒロインの関係性は、一方的なウィルの片思いでした。

しかしこちらでは、最近までウィルとローザは小説とは異なり婚約者同士として仲睦まじく過ごしていると聞いています。
一途なウィルは、突然の心変わりにより去っていくローザの背中を一体どんな思いで見送ったのでしょう……。

知識チートのある自分ならウィルを幸せに出来るのではと思い上がり、余計な事をしたせいで、私は小説以上にウィルの事を傷つけてしまいました。

私はいったいどうやってウィルに償えばいいのでしょう。


ずっとずっと弁えている振りをして、人との間に壁ばかり作ってきたむくいなのでしょうか。

『もう自分なんてどんなに傷ついても構わないから』

そんな風に今更思ったところで、こういう時どうすれば良いのかが分かりません。


自分ではもはや取返しのつかないことをしてしまったという後悔に押しつぶされたその時です。

『だったらもう一度この世界を全て壊してやり直せば?』

誰かが私の頭の中で囁きました。


酷く聞き覚えのある声と『もう一度』という引っかかりのある言葉……。
もしかしてこの声の主は、本物のリリーメイなのでしょうか?

『ダメ……どんな理由であろうとこれ以上ウィルが傷つく姿なんて見たくない……』

そう思うのに。
後悔の涙と共に零れ出る黒い黒い波動を帯びた魔力は、薄く薄く私の足元から水気を含んだ大きな雪片のように積もって行き……。
気づけばそれはあっという間に私を取り囲む壁となってしまいました。


私の殻を越えあふれ出た魔力は、じわじわと周囲を黒く呑み込んでいきます。

『結局、私はウィルを幸せにするどころか、傷つけただけだったな……』

そんな事を思いつつ、全て諦めて目を閉じた時でした。


キーン!

不意に金属同士をぶつけ合ったような澄んだ高い音がしました。
どうやら誰かが、私自身を閉じ込め呑み込んでしまおうとしている自分で築いてしまった魔力の厚い壁を、懸命に打ち壊そうとしてくれているようです。

暗く黒く冷たく周囲を拒絶するような私の魔力とは対照的に、その人の魔力は明るく真っ白で暖かく辺りを包み込む光のようで、懐かしいその感触に閉じていた目を薄く開けば……。
やはりその人は喧嘩別れしたきりずっとすれ違い続けていたウィルでした。


「リリー! キミを助けに来た!!」

ウィルがそう叫ぶのが聞こえます。

「子どもの頃はキミに助けてもらってばかりだったけど、キミのおかげで僕は強くなった。だから今度は僕がここからキミを絶対に助け出して見せるから!!」

壁を砕こうと、ウィルが勢い良く手を横に薙ぐ動作をして、いくつもの魔力の刃を壁に向かい放ちました。

私の魔力の壁とウィルの放つ光の刃がぶつかり合い、再びキーンという高く澄んだ音が、まるで曲を奏でるオルゴールのの様に辺りに響きます。


「王妃になりたいのならば、その願い叶えて見せる。キミが世界を望むのならばこの世界を君にプレゼントするよ。もし君がゼイムスを望むのなら、アイツの首に枷をかけて君の前にひれ伏させたっていい。だからリリー、こっちに戻って来て!」

物心つく前からゼイムスの婚約者であったため、王妃教育は受けて来ましたが……。
王妃になりたいと思った事なんて実は一度もありません。
それなのに世界??

『私の願いは壁としてウィルの幸せを見守る事よ?』

そう心の中で思った時でした。

「僕の幸せ?」

魔法の壁に突如そっと素手で触れたウィルが私の心を読んで苦く笑いました。


「じゃあ、そこから出てきて。そして……あの日酷い言い方をして君を傷つけた事を許して欲しい」

そう言って。
ウィルが、不意にクシャッと顔を歪めました。

さっきまで大胆不敵な美しい青年の顔をして、世界をもプレゼントして見せると大見栄を切ってみせたばかりだというのに……。
泣き出しそうなその顔は、喧嘩別れしたあの時のままの、どこか幼さの残るものでした。
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