【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい

tea

文字の大きさ
49 / 57
第三章 魅了王子は嫌われたい イライアスとシュゼット

24.昼と夜の境で(side シュゼット)

しおりを挟む
私……。
私。
イライアス様を恋い慕う自分の願いに思いに素直になって、その求婚を本当にお受けしてしまって本当に良いのでしょうか?


自分ではもう分からなくてしまい、対立していた筈のリュシアン様に、助けを求めるよう目で縋れば

「上出来とは程遠いですが……。シュゼット嬢、最初の約束通りイライアスを僕の前で跪かせたので今回は特別にこれで不問とします。どうぞ、末永くお幸せに。あぁ、僕は生まれてくる子供と妻を置いて国を離れたくないので、結婚式には呼ばないでくださいね」

リュシアン様は酷く面倒くさそうに溜息をついた後、それだけおっしゃると。
息を吸うように腹芸を駆使するクリストファー様、ブライアン様と、まるで何事も無かったかのように談笑されつつ、私とイライアス様に背を向けてその場を立ち去って行かれたのでした。


「あぁ分かった。子供が生まれたら、またこっちからすぐ会いに行くから心配しないで~」

また、そんな軽~い口調で小さくなっていくリュシアン様の後ろ姿に手を振り声をかけたイライアス様に対して

「絶対に来なくていい!!」

振り返りざま、やはり猫の様に『シャー!!』と肩を怒らせるリュシアン様の背が遠く小さく見えます。


リュシアン様……。
イライアス様に一方的に執着され振り回され、隣国の王太子故無下にも出来ず、ただただイライアス様の事を迷惑に思っていらっしゃるのかと思っていましたが。

その嫌そうな素振りはただのパフォーマンスで。
実際の所は、ご友人であるイライアス様の悩みを、そしてイライアス様が長年抱えていらっしゃった葛藤を乗り越えられるようお手伝いして下さる為、わざわざネザリアまでいらしてくださった、そうなのですね?!


リュシアン様の、そんな大人の振る舞いに、イライアス様への友情に感動し、小さくなるその背をいつまでも感謝の念を込めて見送っていた時でした。

「……プロポーズした男の前で、さっそく別の男に目移り? シュゼットは本当にボクを煽るのが上手だよね?」

イライアス様が、初めてお会いした時と同じドロッと低く、しかし妙にお腹に響く声でそんな事をおっしゃるから。

嫌な予感に冷や汗が止められなくなった私は麦粒のように小さくなったリュシアン様の背に向かい助けて欲しいと、そう必死に叫んでお願いしたのですが……。

その後、待てど暮らせど、聞こえなかった態を貫くリュシアン様が、私を助ける為にまだまだ私の身に残されていたアクセサリー転移の魔具を起動させてくださる事は、残念ながら無かったのでした。




リュシアン様の姿が完全に見えなくなった後、少しして。

「シュゼット、プロポーズの返事をもう一度ちゃんと聞かせて」

イライアス様に再度、優しく、しかし真剣な声でそう問われました。

権力でもって無理に従える事も、なし崩し的に事を進める事も出来る筈なのに。
最後にはこうして、きちんと私の気持ちを尊重し、私の言葉を待って下さるイライアス様の優しさを、改めて眩しく、暖かく思います。


長い長い沈黙の後

「……はい。私、……私、イライアス様をお慕いしております」

ようやく。
ようやく、胸に秘めてばかりだった思いを口にすれば。

イライアス様はかつて、幼い頃の私が夢見たようにギュッと抱きしめて下さった後……。
少々歪んでいらっしゃるご自身をも愛して見せるとの宣言通り

「リュシアンに一杯喰わされた事は悔しいけど……。こうして堂々シュゼットを手に入れるの逃げ道を塞ぐ事が出来たから、まぁいいか」

私の耳元で、私だけに聞こえる様、ドロッと甘く仄暗い声で。
イライアス様はその腹黒さをもう隠す素振りも見せず、そんな私の背筋がまたゾワッとするような事を呟かれたのでした。






******

父から結婚の了承を得る為、イライアス様と二人家に戻れば。

「シュゼット!」

ジェレミーが階段を駆け下りてくるなり、またいきなり私の手を掴もうとしたので。
私は、スッと半身を引きその手を躱しました。
いつもなら大人しくジェレミーのされるがままにしていた私が抗った事で、流石のジェレミーも色々と察するものがあり、観念したのでしょう。

「シュゼット……オレ……」

いつもは女心というものを全く解さず、言いたい放題のジェレミーが声を詰まらせました。


「……シュゼットを苦しめたかったわけじゃなかったんだ」


『どうしていつもそうやって意地悪ばかりするの?!』

家を出る前に放った私の幼い言葉が、彼を傷つけたのでしょう。
何か言わねばと口を開いたジェレミーの瞳から、後悔の言葉の代わりにボロッと一粒、涙が零れました。


『強がらなくていい、変わらなくていい。お前はオレがずっと守ってやる』

泥だらけのドレスのまま、そう言って私を、私と変わらないその小さな腕の中に抱きしめた時のジェレミーの言葉を思い出します。

やり方は、不器用な彼らしく間違っていましたが。
彼なりに、確かに懸命に、私を守ろうとして来てくれたのでしょう。

『さようなら』の言葉の代わりに

「これまで守ってくれてありがとう。でも私ね、これからは強くなりたいの」

そう言えば。
ジェレミーはしばらく黙った後、それ以上の独白は敢えて全て飲み込んで、

「殿下、ご婚約おめでとうございます」

そう言って、イライアス様の前で跪き、臣下の礼を取ってみせたのでした。






******


「また夜に会いに来るよ」

馬車に乗りこむ前にそう言ったイライアス様に

「今度は王太子妃教育の為、私がお昼にお城に上がる予定になっていますよ」

笑ってそう返せば。


「それでも。……ようやく君の居場所を見つけたんだ。時を止めてあげられない代わりに、何度でも。もう二度とキミを悲しい思い込みの世界に取り残したりしないで済む様、ボクが夜に会いに来るよ」

昼と夜の色が混ざった美しい紫の夕日を背に。
触れるだけの唇への初めてのキスとともに、不器用なまでに真摯に、イライアス様は私に向かいそんな言葉を下さったのでした。










――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

シュゼットのお話、最後まで読んで下さり本当にありがとうございます。

引き続きイライアスsideのお話投稿予定です。
次話の投稿は、夜以降になってしまうかと思いますが、ドキドキしながらHOTランキングどこまで行けるか見ているので、もし、もしよろしければ『しおり』や『お気に入り』入れて応援しながらお待ちいただければとってもとっても嬉しいです(≧◇≦)

ご感想等もお気軽にお寄せいただければ泣いて喜びます。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

処理中です...