【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい

tea

文字の大きさ
54 / 57
第三章 魅了王子は嫌われたい イライアスとシュゼット

29.化けの皮(side イライアス)

しおりを挟む
会場に着き、シュゼットの姿を懸命に探せば。
まさに今、一人の男が彼女の手をとらんとするところだった。


「シュゼット、探したよ!!」

息せき切らせ駆け寄り、間一髪間に合って。
自らの長躯で彼女に触れようとした男から、シュゼットを隠し、ボクだけがその細い手に触れた。


「随分遅くなってしまったけれど……夜に会いに来たよ」

彼女と初めて会った、幼かったあの日、掴めなかった手を、今度こそちゃんと握れたことが嬉しくて。
ホッと詰めていた息を吐いた時だ。


「彼女をどこに連れて行くつもりだ? 今宵彼女をエスコートしているのは僕だ。勝手な真似は止めてもらおう!」

そう言って、ボクの邪魔をしてみせたのは……。
ボクが完全に存在を忘れていたリュシアンだった。


別にリュシアンに飽きて、彼とはもう遊びたくないとか、そういう訳ではないのだけれど。
ようやくシュゼットと会えたのだ。
今ばかりは少し遠慮して欲しい。

そんな実に勝手な事を思い、のらりくらり、心ここにあらずと言った感じでリュシアンの言葉を躱していたら。


「もう限界だ!!!! シュゼット嬢、これ以上コイツの相手をしていたらバカが移ります。行きましょう!」

そう言って、リュシアンが許可なくボクの・・・シュゼットの手に触れた。


それだけでも十分に度し難いのに。

「っ!!」

シュゼットが痛みにより声にならない悲鳴を上げるのを聞いた瞬間、怒りで目の前が真っ赤になる。


「リュシアン! その手を離せ!!」

思わず腹の底から洩れた自らの怒声に煽られ。
自分を止められなくなって、衝動のまま怒気と共にありったけの魔力を放ってしまった時だった。

その瞬間、これまでボクに好意的な視線を向けていた周囲の人々が恐怖に凍り付き、まるで恐ろしくもおどろおどろしい化け物を見るかのような怯えた表情を、一斉にボクに向けた。


ボクがこの醜く歪んだ本性を晒せば、うわべだけを精一杯取り繕ったのボクを慕ってくれている人達が皆、離れていくだろう事など分かっていたはずのに。

強い劣等感から、途端に息の仕方が分からなくなる。






******


シュゼットを連れ歩き去るリュシアンの背中を硬直したまま見送って。
どれだけの間、そうやって突っ立っていただろう。

再び上がった花火のドン!! という音で、ボクの魔力にあてられていた皆はハッとしたように硬直を解くと、蜘蛛の子を散らす様にボクの傍から逃げて行った。


『馬鹿な奴だとは思っていたが。お前は本当に愚かだな』

シュゼットを連れ去る間際、噛み含めるようにそう言ったリュシアンの言葉がグルグルと頭の中を回る。

「……愚か、か」

そんな事、改めて言われずとも分かっている。

ボクだって、なれるものなら父の様にこの国を守れる賢き王になりたいと、ずっと、ずっと、ずっと、そう思っていた。

でも、不器用で軽薄なボクは、綿密に立てられた計画を、いつだって気まぐれで全て穴だらけにしてしまうものだから、どうやっても父やリュシアンの様には上手く立ち回れない。




『この大事な局面で、自分が勝つ事よりも見ず知らずの生徒を助ける事を優先するなんて。……はぁ。貴方ってば本当にしょうがない人ね』

そう呆れながら。
いつだって最後までボクを見捨てず、ボクが穴だらけにしてしまったその計画の穴埋めを手伝ってくれるのがクラリッサで、

『全く、お前らはどうしていつもいつもそうなんだ?!!』

ボロボロになったボクとクラリッサを間一髪のところで救い出しては、実に口煩く母親か何かのように世話を焼いてくれるのがチェスターだっ
た。

二人がいれば、どんな無茶も怖くなかった。
二人がいてくれて、初めてボクは自らの暗い本性と欠点を上手く隠し、皆の期待する王太子として振る舞う事が出来た。

だから、今でもあの二人がボクの傍にいてくれたのならと、過去の愚かな振る舞いを悔やまなかった日はなかったというのに。




シュゼットの前でボクの化けの皮をこんなにも無残に剥いで、リュシアンはこれで満足だろうか。

そんな事をグルグル考えていた時だった。
またドン!と音がし、空に光が差して、足元に暗い暗いボクの影が落ちた。


もう一度ドン!と響いた音がして。
足元に、そして生皮を剥がされた心から血の様にドロドロと溢れてくる漆黒の思考に、ボクの影が落ちるのを見た瞬間だ。

ボクは、ボクの胸の中にも、シュゼットが暮らしているのであろう清廉な月光が降り注ぐ静かな夜とは異なる、大きな大きな真っ暗闇が、堕ちて来たのを感じた。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

処理中です...