アラフォーおっさんの美少女異世界転生ライフ

るさんちまん

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クーベルタン市編Ⅳ 初陣の章

2 冒険者ギルド

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「そんなことがあったの。カリスト・ビスタークはどうあっても私と会う気はなさそうね」
 先刻の商会でのいきさつをセレスに伝え終えたところだ。
 待ち合わせ先に現れた彼女は相変わらずの鎧姿だが、中の衣服は着替えて来ているのだろう。
「あの様子じゃ、もし会えたとしても圧力を取り消す気はなさそうだよ」
「やはり、ランベール兄様の意向が働いているんだわ。どうあっても冒険者を続けさせないつもりなのでしょう」
 そんなことをしても無駄なのに、とセレスが伏し目がちに呟いた。意味がわからず俺は思わず彼女の顔を覗き込む。
「不思議そうな表情ね。別に難しいことじゃないのよ。ランベール兄様が幾ら偉いと言っても所詮は伯爵家の次男に過ぎないわ。その権勢が通用するのは自領内だけ。だったら簡単な話よ。私が領内にいなければ良いのよ。ここでなければ冒険者を続けられないってわけでもないしね」
 セレスの言うことは確かに理に適っている。が、しかし──。
「でも、貴族の娘が勝手に自領を出て行くなんてできるの?」
 俺はそう訊いてみた。
「普通は無理でしょうね。家の体面もさることながら深窓の佳人として育てられたお嬢さんに、生活費を稼ぐなんてことがまずできっこない。駆け落ちした令嬢が貧しさに耐え切れず出戻るなんて貴族の間じゃよく聞く笑い話よ」
 確かにありそうなことではある。だが、それが理由ならセレスには当て嵌まりそうにない。
「わかったでしょ? 私には既に冒険者という生活の糧がある。元は庶民だから質素な暮らしにも慣れている。お金にまつわる障害は無いも同然なのよ。そりゃ怪我なんかして稼げなくなる心配はあるけど、それは私に限ったことじゃないものね。残るは世間体を気にして許されないということだけど、そんなの館の奥深くにでも閉じ込めておかない限り、止めることなんてできやしないわ」
 セレスは他領に行くつもりなのか、と訊ねたら、今すぐというわけじゃない、という返答が返ってきた。
「ただ、そういうことも有り得るということが兄様には想像の埒外なのよ。この街で冒険者が続けられなくなれば私が諦めると思っているんでしょう」
 そんな話をしながら歩いていると、冒険者ギルドの建物が見える場所までやって来た。
 重厚そうな扉を押して中に入る。
 意外にも内部は広々として立派な造りになっていた。冒険者ギルドと言ったら荒くれ者が集う、もっと混沌とした殺風景な場所をイメージしていたが、どちらかといえば少々騒がしい銀行のロビーといった感じだ。思ったよりも人は少ない。
 そうセレスに言うと、この時間だからということだった。
「冒険者は大体、朝イチで依頼を受けて戻る時間はみんなバラバラだから昼過ぎ以降はさほど混み合うことはないわ。すぐに夜になって市門は閉じられるから今の時間に出発するパーティーも余程の特殊な事情を除けばまずないしね」
 それで閑散としているのか。五席ほどある受付カウンターも今は二人しかギルド職員と思われる担当者は付いていない。
 それにしてもセレスはやはり有名人のようだ。入るなり皆の注目を集め、ヒソヒソ声で噂話の対象となっていた。
 そうした好奇の視線には取り合わず、セレスは受付の向かいにある壁に貼られた大きなボードの前に歩いて行く。
「依頼はここに張り出されるわ。これを見て冒険者は自分に合った内容を選んで受付に持って行くのが一般的な受諾の方法ね。この時間だと余り物がほとんどだけど、たまに緊急の用件があったりして、そういう時は割の良いことが多いから、敢えてそれを狙うって冒険者もいるわね」
 セレスが指差すボードには隙間が多く、所々に依頼が書かれているであろう羊皮紙が申し訳程度に張られている。さらにその横には、それより半分ほどの大きさになる別のボードもあり、こっちのは? と俺は訊ねた。
「そっちは素材採取専用だから剥がしちゃ駄目よ」
 俺が頭に『?』を浮かべていたからだろう。もう少し詳しくセレスが説明してくれた。
「素材採取は他の依頼と違って独占できず、納品した先着順なのよ。別の依頼を遂行中に偶然、手に入ることも珍しくないしね。書かれているのは必要量と買取額よ。指定した量に達した時点で募集は打ち切られるわけ。だから出掛ける前にあったからといって戻った時にその依頼が残っているとは限らない」
「その場合は無駄足になるってこと?」
「ギルドは引き取ってくれないから自分達で業者に卸すしかないわね。大抵は買い叩かれるけど」
 なので採取を専門にしている冒険者は重複しなさそうな獲物を狙うか、ギルドを通さない直接取引可能なお得意様を持っている場合が多いと言う。
「ふーん、でも私には何て書いてあるのかさっぱりよ。それだと冒険者になるのは難しいんじゃない?」
 俺はそう訴えてみた。依頼票を見ても内容はチンプンカンプンだ。
「大丈夫よ。読み書きのできない平民は少なくないから、依頼票には簡単な書式しか使われないの。すぐに覚えられるわよ」
 この国の識字率の低さからすると、そうしなければならないらしい。
「じゃあ、冒険者に申し込めばその場で依頼を受けたりもできるの?」
 フィオナ達は登録するのに犯罪者か奴隷である以外に制限はないと言っていたが、実際のところはどうなのだろう?
「一応、ギルドの審議官による面接があるから、その結果待ちに二、三日は掛かるのが普通ね。この間に犯罪歴や逃亡奴隷でないかなどが調べられるけど、誤魔化すのは簡単だから落とされることはまずないわ。あとはそうねぇ、白銀級以上の冒険者の推薦があれば審査は免除で即座に冒険者としての活動は可能よ。ユウキなら私が推薦人になってあげても良いけど、それは避けた方が無難ね。色々と目を付けられかねないわ」
 今更、手遅れな気もするが、冒険者登録をするにしても急ぐ必要はないので、ここはセレスの助言に従うのが賢明だろう。
 そんな感じでしばらく勝手にギルド内をウロウロしていると、依頼ボードの前で溜め息を吐くセレスの姿が目に留まった。
 そちらに近付いて行って俺は声を掛ける。
「やっぱり、依頼は受けられそうにない?」
「ええ。どれも私を除外する条件が付けられているわ。御丁寧にもパーティーを組んだ相手にも適用されるようにね」
 落ち込むセレスのためにもあまり長居しない方が良さそうだ。そろそろ出ようか、と言いかけた時、入口の扉が勢い良く開き、何やら騒々しい一団が飛び込んで来た。
「だから言ったろ、これくらいラクショーだって」
「この調子ならあっという間に紅鉄に昇格だぜ」
「馬鹿言え。紅鉄なんて単なる通過点に過ぎないさ。年内に白銀かひょっとしたら黄金だって狙えるかも知れないぞ」
 そんな景気の良い会話をしながら大手を振って受付カウンターに歩いて行く。
「あれ? あいつらってもしかして?」
「ええ、そうみたいね」
 よく見ると、クーベルタン市に着いた翌日、俺に絡んで来た三人組の若者だ。
 受付で背嚢から取り出した魔物の部位らしきものを並べると、それを見た周囲の冒険者の間で、おお、という歓声が上がる。何か余程の戦利品があった模様だ。
 だが、何故かセレスが浮かない表情でそれを見ているのに気付いた。
「どうかしたの?」
「それが妙なのよ。彼らが持ち込んだ魔物素材は実力的に見合わない物ばかりだわ。自分達で討伐したとは思えない」
 運が良ければ偶然、他の魔物が倒した獲物の『喰いさし』を手に入れられることはあるが、それにしては種類が雑多過ぎると言う。
「まるで強力な魔物の巣にでも飛び込んだみたい」
 そんな真似をすれば、命が幾らあっても足りないとセレスは言う。
 そこにギルド職員の女性が声を掛けてきた。
「セレスさん、ちょっと良いですか?」
 彼女に付いて行き、俺達は部屋の片隅で話を聞く。
「ヴァレリー達が還って来ない?」
 職員の話に耳を傾けていたセレスが、話の途中でそう声に出す。
「そうなんです。彼らの受けた依頼内容からすると、遅くとも昼前には戻っていないとおかしいんですが、まだ帰還されていなくて……」
 少し考え込んでからセレスが改めて口を開いた。
「でも、冒険者パーティーが出先で予定外の行動を取るなんてよくあることでしょう? 三日や四日も還って来ないならともかく、一日くらいの遅れなら普通は気にしないものではなくて?」
「通常ならそうなんですが、今回彼らが受けた依頼は期限厳守でそれが今日までなんです。それに──」
 ギルド職員の女性がチラリと受付にいる三人組の冒険者に目をやる。
「私もさっきまでは単なる報告の遅れだと思っていました。依頼そのものは今日のうちに遂行されていれば問題ないので。ですが、ヴァレリーさん達が向かった先とあそこにいる彼らが探索を行った場所というのがさほど離れていなくて、それが偶然とは思えないんです」
「──つまり、彼らのあの分不相応な成果がヴァレリー達の未帰還に関係としていると、あなたは見ているわけね?」
 職員の女性は小さくだが、はっきりと頷いた。
「言いたいことはわかったわ。私も彼らが正攻法で依頼をこなしたとは思えない。でも、それをどうやって証明したらいいのかしら? 真正面から訊ねてもどうせ答えないでしょうし」
 隣で話を聞いていた限りでは、三人組が何か不正なことをして、それにヴァレリー達が巻き込まれて帰還が遅れているということらしい。
 要するにあいつらにボロを出させればいいのか。それなら簡単だ。
「私に考えがある。任せておいて」
 俺はそう言うと、二人の返事を待たずに受付へと向かった。
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