内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

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14.寛容と反発

 不安な思いを抱えながら、いつも通り学園に通う日々。サミュエルと親交を深めたり、他の貴族令息令嬢たちとの会話を試みたりしていたが、遂に恐れていた時がきてしまった。

 講義室が並ぶ廊下。人通りの多いそこで、アシェルとサミュエルがばったりと出会ってしまったのだ。
 図書室に行こうと歩いていたノアは、それを目撃して目眩がする気がした。

「――大丈夫かい?」
「は、はい……大丈夫です……」

 廊下で転んだアシェルに、サミュエルが手を差し伸べている。ライアンと出会った時も転んでいたけれど、アシェルは転びやすい体質なのだろうか。それとも不注意が過ぎるのか?

 おずおずとサミュエルの手を取ったアシェルが立ち上がり、気まずそうに見上げている。

「――あいつ、サミュエル様にぶつかっておいて、謝罪もないのかよ……」
「本当に礼儀知らずだな」
「ああも不躾に見つめて……殿下だけでなく、グレイ公爵令息にも媚びを売るつもりか?」

 ざわめきの中から拾った言葉は、どれもアシェルを咎めるものばかり。急速に悪意が渦巻いていくように感じて、ノアは気分が悪くなった。確かにアシェルの振る舞いは礼儀がなっていないけれど、そこまで嘲るほどのものだろうか。

「君はグラシャ男爵家の子息かな?」
「はい……あの、ライアンとの噂のことでしたらっ――」
「初対面なら、まずは名乗りの挨拶をするべきだよ。それが貴族としての礼儀だからね」

 アシェルの言葉を遮り、サミュエルが穏やかに告げる。周囲から忍び笑う声が聞こえた。アシェルを馬鹿にしているのだ。
 でも、サミュエルにアシェルを嘲る意思はなかったと思う。ただ、まだその礼儀を習っていないのだとしたら、早急に正してやるべきだと思っただけで。

 それに、アシェルがライアンのことを呼び捨てにしたのを、サミュエルは誤魔化したように聞こえた。王太子を名前で呼び捨てるなんて、高位貴族でもしてはならないことだ。その暗黙の了解を男爵家の者が破るなんて、不敬罪で投獄される可能性もある。

「っ、僕は、グラシャ男爵家のアシェルです! ……これで、いいですか」

 なんだか反感に満ちた口調だった。まるで敬意が感じられず、挨拶に相応しいとは思えない。ライアンの権力を笠に着て、サミュエルを見下しているのだろうか。決していい気分はしない。

「満点とは言えないけど、正しい挨拶は後できちんと講師にでも学ぶといい。私はグレイ公爵家のサミュエルだ。よろしく」

 苦笑気味のサミュエルはアシェルの矯正を諦めたようだ。礼儀に則った挨拶を返し、そのまま立ち去ろうとする。これ以上、アシェルに対して周囲の貴族たちからの悪意が向くのを避けようとしているのだと、ノアは瞬時に察した。
 サミュエルとアシェルが揃っている光景に、ノアだけでなく誰もが足を止めて様子を窺っている。この状況だけで、アシェルに更なる噂が立てられるのは一目瞭然だ。

「待ってください!」

(嘘だろう……まさかサミュエル様の袖を掴んで引き止めるなんて……)

 ノアは目の前の光景に呆然とした。高位貴族の服に勝手に触れるなんて、無礼にもほどがある。それも、立ち去る意思を見せているのを引き止めるなんて、あり得ないことだった。
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