内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

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15.一人相撲

 サミュエルも、あまりに予想外のことだったのか、目を見開いて固まってしまっていた。それ故、アシェルの言葉を止めることができなかったのだろう。

「ライアンはあなたの言動を悲しんでいます! もう少し、ライアンに寄り添ったらどうでしょう? サミュエル様はライアンの婚約者なんですから。あっ、僕とライアンの噂は嘘ばかりですので、気にしないでくださいね!」

 言ってやったぞと言わんばかりの達成感に満ちた表情だった。あまりの勢いに誰もが呆然としてしまう。アシェルの言葉が理解しがたい。咎める点が多すぎて、誰もが陰口さえ上手く紡げないでいた。

 まず、せっかくサミュエルが誤魔化してくれたのに、「ライアン」と連呼するなんて愚かとしか言えない。アシェルは自殺願望でもあるのだろうか。
 そして、ライアンとサミュエルの仲に嘴を挟むなんて、男爵令息に許されることではない。地位なんて関係なく、婚約者の関係に部外者が何かを言うべきではないし。
 あと、自身に関して立てられている噂への対処が雑すぎる。そんな口先だけの言葉を、誰が信用するというのか。初対面の相手に通用するなんて考えているなら、驚くほど楽観的だ。

 総じて敬語ができていないのは、もう目を瞑ることにする。それを言い出したら、指摘するところが多すぎてノアの頭はパニックになる。

「……君は学ぶことが多そうだね。学園生活を有意義に過ごすといい。私への失礼な発言は、今回は見逃そう。でも、私とライアン殿下の関係に、これ以上何かを言うことは許せなくなるよ」
「っ、僕を、馬鹿にしているんですね……!」

 アシェルが泣きそうな顔になる。ノアは『なんでそうなる……?』と唖然とした。サミュエルの対応は慈悲の心に満ちたものだったはず。むしろ、甘すぎるとサミュエルが反感をかってもおかしくない。その可能性を分かった上で、アシェルに配慮を示した優しさを、何故理解できないのか。

「……君と話すことはなさそうだ。くれぐれも、国に損害を与える振る舞いを慎んでくれるよう祈っているよ」
「そんなこと、僕はしてません……!」

 再び立ち去る意思を見せたサミュエルに、アシェルが追い縋る。これだけ否を突きつけられているのに、まだ立ち向かっていけるとは、繊細そうな見た目に反して精神が強い。変な感心をしてしまった。

「何をしているんだ!」

 不意にライアンの声が聞こえた。サッと令息令嬢が避けて道ができる。不機嫌そうに近づいてきたライアンが、アシェルを背後に庇うようにサミュエルに向かい合った。

「サミュエル、アシェルをこんな衆目にさらすような真似をするなんて、何を考えている!?」

 恫喝するような声。思わずノアは身体を縮めた。権力がある存在が無闇に怒る様を見せているのは恐ろしい。

「殿下、少し落ち着いてください」

 穏やかに返すサミュエルの声に安心して、ホッと息をついた。そこでふと冷静に今の状況を客観視する。
 こんな状況を、ただ静観しているのは正しいことだろうか。

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