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26.揶揄いへの対応
放課後。いつもの場所に行くと、見慣れない光景があった。
木漏れ日が差すベンチで、サミュエルが本を開いて眺めている。その横では猫が丸まり、時折撫でられると心地よさそうに喉を鳴らしていた。
(――なんだか、改めて見ても、絵になる人だなぁ……)
思わず足を止めて、ぼんやりと見つめてしまった。絵画のような光景を自分が壊してしまうのが勿体なく思える。
「――穴が開きそうだな」
揶揄うような声が聞こえて息を飲む。木の陰に隠れているつもりだったけれど、サミュエルに気づかれていたらしい。
「あの……すみません……。サミュエル様が先にいらっしゃっているのは珍しくて、声を掛けそびれてしまいました……」
「ははっ、ノアらしいね。ほら、早くこちらにおいでよ」
穏やかな笑みで謝罪を受け入れてもらえてホッとする。一歩間違えれば、気持ち悪い人だと思われかねない行動だった自覚はあった。
サミュエルの隣に腰を下ろしながら、そっと本を覗きこむ。ノアが読みたかった詩集だ。
「サミュエル様も、リンカーの詩集がお好きなのですか?」
「……そうだね。実はこの作者、グレイ公爵家が支援しているんだよ」
「え、そうなんですか……!」
秘密を打ち明けるように潜められた声で告げられた言葉に、思わず目を見開いてサミュエルを見つめる。リンカーはその経歴が隠された謎に満ちた作者だと言われていた。まさかグレイ公爵家が支援していたなんて、全く知らなかった。
「――もしかして、グレイ公爵家の縁者の方……?」
「さて、そこまでは教えられないな。だけど、可愛らしいファンがいるようだと伝えておくよ」
「……それは、僕のことですか?」
にこりと笑みが向けられた。冗談なのか本気なのか判断できなくて、返す言葉が見つからない。
戸惑うノアの手に詩集が渡された。
「ぜひ、感想を教えて。きっと喜ぶよ」
「……恥ずかしいので、やめておきます」
「そう言わずに」
これは明らかに揶揄っている。細められた目から視線を逸らし、本題を切り出すことにした。人付き合いが苦手なノアは、このような揶揄にどう対応すべきか分からない。
「――アシェルさんのことですが」
「ああ、君が密会していた子だね」
「……そのようなおっしゃられようは、あまり好ましくありません」
ノアが思わず軽く睨むと、サミュエルは肩をすくめた。両手を軽く上げて姿勢を正している。
「失礼。少々言い過ぎたようだ。……でも、気をつけた方がいいよ。噂は沈静化したとはいえ、彼はまだ注目の的だ。ノアが彼に関わっていると知られると、再び騒ぎが起こるだろう」
真摯な眼差しだった。当て擦りのように感じられた言葉は、ノアを心配したからだったのか。咎めたのが申し訳なくなる。
「……ご心配をおかけしてすみません」
「大半が私の個人的な感情による発言だから、そんなに萎れないでほしいな。私の方こそすまないね」
「個人的な、感情……?」
よく分からないけれど、ノアとサミュエル双方に反省すべき点があったということだろうか。ノアの疑問に答える気がなさそうなサミュエルを見て、首を傾げた。
「それはともかく、アシェル殿の話だね。どうして彼と資料室なんて密室で話し込むことになったんだい?」
「……サミュエル様は、どこからご覧になっていたんですか?」
「君がアシェルを引き連れて資料室に入るところを見ただけだよ。随分と長く話し込んでいたようだけど」
やはり、ばっちり見られていた。その視線に気づかなかった自分の間抜けさに呆れる。これだけ存在感がある人なのに、気配を消せるサミュエルに感心もするけれど。一体どこでそんな方法を身につけたのだろうか。
「……とても大事な話をしていたのです。あまり否定しないで聞いていただきたいのですが――」
アシェルには申し訳ないけれど、サミュエルに話す許可は事後承諾になりそうだ。ノア以上に力になってくれるはずだから許してもらいたい。
木漏れ日が差すベンチで、サミュエルが本を開いて眺めている。その横では猫が丸まり、時折撫でられると心地よさそうに喉を鳴らしていた。
(――なんだか、改めて見ても、絵になる人だなぁ……)
思わず足を止めて、ぼんやりと見つめてしまった。絵画のような光景を自分が壊してしまうのが勿体なく思える。
「――穴が開きそうだな」
揶揄うような声が聞こえて息を飲む。木の陰に隠れているつもりだったけれど、サミュエルに気づかれていたらしい。
「あの……すみません……。サミュエル様が先にいらっしゃっているのは珍しくて、声を掛けそびれてしまいました……」
「ははっ、ノアらしいね。ほら、早くこちらにおいでよ」
穏やかな笑みで謝罪を受け入れてもらえてホッとする。一歩間違えれば、気持ち悪い人だと思われかねない行動だった自覚はあった。
サミュエルの隣に腰を下ろしながら、そっと本を覗きこむ。ノアが読みたかった詩集だ。
「サミュエル様も、リンカーの詩集がお好きなのですか?」
「……そうだね。実はこの作者、グレイ公爵家が支援しているんだよ」
「え、そうなんですか……!」
秘密を打ち明けるように潜められた声で告げられた言葉に、思わず目を見開いてサミュエルを見つめる。リンカーはその経歴が隠された謎に満ちた作者だと言われていた。まさかグレイ公爵家が支援していたなんて、全く知らなかった。
「――もしかして、グレイ公爵家の縁者の方……?」
「さて、そこまでは教えられないな。だけど、可愛らしいファンがいるようだと伝えておくよ」
「……それは、僕のことですか?」
にこりと笑みが向けられた。冗談なのか本気なのか判断できなくて、返す言葉が見つからない。
戸惑うノアの手に詩集が渡された。
「ぜひ、感想を教えて。きっと喜ぶよ」
「……恥ずかしいので、やめておきます」
「そう言わずに」
これは明らかに揶揄っている。細められた目から視線を逸らし、本題を切り出すことにした。人付き合いが苦手なノアは、このような揶揄にどう対応すべきか分からない。
「――アシェルさんのことですが」
「ああ、君が密会していた子だね」
「……そのようなおっしゃられようは、あまり好ましくありません」
ノアが思わず軽く睨むと、サミュエルは肩をすくめた。両手を軽く上げて姿勢を正している。
「失礼。少々言い過ぎたようだ。……でも、気をつけた方がいいよ。噂は沈静化したとはいえ、彼はまだ注目の的だ。ノアが彼に関わっていると知られると、再び騒ぎが起こるだろう」
真摯な眼差しだった。当て擦りのように感じられた言葉は、ノアを心配したからだったのか。咎めたのが申し訳なくなる。
「……ご心配をおかけしてすみません」
「大半が私の個人的な感情による発言だから、そんなに萎れないでほしいな。私の方こそすまないね」
「個人的な、感情……?」
よく分からないけれど、ノアとサミュエル双方に反省すべき点があったということだろうか。ノアの疑問に答える気がなさそうなサミュエルを見て、首を傾げた。
「それはともかく、アシェル殿の話だね。どうして彼と資料室なんて密室で話し込むことになったんだい?」
「……サミュエル様は、どこからご覧になっていたんですか?」
「君がアシェルを引き連れて資料室に入るところを見ただけだよ。随分と長く話し込んでいたようだけど」
やはり、ばっちり見られていた。その視線に気づかなかった自分の間抜けさに呆れる。これだけ存在感がある人なのに、気配を消せるサミュエルに感心もするけれど。一体どこでそんな方法を身につけたのだろうか。
「……とても大事な話をしていたのです。あまり否定しないで聞いていただきたいのですが――」
アシェルには申し訳ないけれど、サミュエルに話す許可は事後承諾になりそうだ。ノア以上に力になってくれるはずだから許してもらいたい。
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