内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

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27.サミュエルの見解

 ノアなりにアシェルの話をかみ砕いて説明すると、サミュエルは興味深そうに目を輝かせた。

「――なるほどねぇ……そんなことが……」
「ええ。一応お聞きしますが、サミュエル様は転生者ですか?」

 転生者であっても、素直に肯定する可能性は低いから、本当に念のための確認だった。
 サミュエルが楽しそうに笑う。

「そうであったら面白いんだけどね。残念ながら違うよ」
「そうなのですか……」
「でも、転生者の話を聞くのは二度目だな」
「え……?」

 意外な発言に目を見開く。固まるノアをサミュエルが流し目で見て、再び笑った。ノアは少々間抜けな顔をしていたかもしれないと、表情を引き締める。

「昔、私のことを悪役だと宣う者がいてね。随分と頭がおかしい人だと思っていたけど……なるほど、アシェルの話との共通点が多い。もしかして、彼もアシェルが言うBLゲームというものの知識があるのかもね」
「それは、なんというか……凄い方がいましたね?」

 公爵令息であるサミュエルと話ができるというだけで、それなりの地位にある人物か、あるいは使用人の類だと思う。それでも、「悪役」と本人に言ってしまうのはあり得ないことだけれど。

「――もしかして、その人物の影響で、シナリオが狂っているのでしょうか?」

 アシェルが危惧していたことを呟くと、サミュエルも首を傾げる。

「そもそも、そのシナリオというものが、本当に私たちに適応されるか疑問があるけど。BLゲームの中に本来転生者という存在がいないのだとしたら、その可能性もあるかもね。でも……『人生は選択に満ちている。選択により未来は枝分かれし、定められた未来というものは存在しえない』だよ」

 サミュエルがノアの膝にある詩集の表紙を指先で叩く。確か、この詩集の中にそのような言葉を意味する詩が載っていたはずだ。

「――アシェルという存在。他の転生者の存在。それに関わる私たちの感情と行動。全ての要素が複合的に絡み合い、状況は変化していくものだ。シナリオというものがあったとして、それが崩れる原因がどれだなんて、特定するのは難しいよ。砂浜から一粒の砂金を見つけるようなものだ」
「そうですね……僕も、同じことを考えていました」

 ノアは頷きホッと息をつく。アシェルはシナリオにこだわっていたようだけれど、生きている人間がそれに従って行動するとは、全く考えられなかった。

「さて……現実問題として、アシェルのことだけど――」
「はい」

 不意に真剣さが増した声音に、ノアの背筋が伸びる。真っ直ぐ見つめると、複雑そうな表情のサミュエルが声を潜めて呟いた。

「彼のことは、私の家や王家でも問題視されている。もちろん彼の家の事情についても調査されているし、多少憐れまれてもいるけど、アシェルに責任を取らせようと考えている人はゼロではない。ライアン殿下の失点となると、諸外国への印象も悪くなるしね」
「っ……それは、なかなか厳しい状況ですね」

 これだけ学園内で騒がれていれば当然のことだけれど、そこまで話が進んでいるとは思わなかった。ノアもサミュエルも高位貴族の一員だ。でも、まだ子息という立場で正式に爵位を持っているわけではない。王家やグレイ公爵がアシェルへの懲罰を決めたら、それを止めるのは難しいのだ。

 思わず眉を寄せて考え込む。ゆっくりとアシェルの話を聞いて、ライアンと距離をとるように説得しようと思っていたけれど、そんなに悠長にしていられないようだ。

「アシェルが殿下を利用しようとしたのは良くないことだったけど、殿下自身の考えの浅さが招いた事態でもある。アシェル一人に責任を負わせるのは道理が通らないだろう。なにより、それでは殿下が一向に反省しない。同じことをこの先も繰り返す可能性がある」
「そうですね。……殿下の貴族に対する偏見も、あまり良いことではありませんし」
「ああ。だから、私なりに動こうかと思っているんだ。――ノアも協力してくれるよね?」

 微笑んで顔を覗き込んでくるサミュエルに目を見開く。その自信に満ちた瞳の輝きに目を奪われて、ノアはいつの間にか頷いていた。もちろん、元々サミュエルの助けになりたいと思っていたし、アシェルを救ってあげたいと思っていたからでもあったけれど。

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