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106.サミュエルの愛は
見つめ合うノアとサミュエルの動きを停止させたのは、ルーカスの呆れた声だった。
「さて、ノア殿も納得したなら、俺が話してもいいか?」
「ええ、もちろんです!」
ノアは慌ててサミュエルから離れて、ルーカスに視線を向けた。
まるで二人だけしかここにいないみたいな雰囲気を漂わせていた自覚がノアにはある。ルーカスが声を掛けてくれなければ、そのままサミュエルにキスをされていたかもしれないという予想もあった。
いくら婚約者とはいっても、過度な接触はふしだらである。ノアは自戒を込めて、サミュエルからさらに拳一つ分離れた。
「ノア――」
「サミュエル、俺は話を続けたいんだ。いちゃつくなら、お前を追い出すぞ?」
不満そうに何かを言おうとしたサミュエルを、ルーカスが制した。サミュエルが少しわざとらしいくらい驚愕した表情でルーカスを見据える。
「まさか私のノアと二人きりになるつもりですか? 殿下であろうと、それは許しませんよ」
「……悋気を起こすな。俺には可愛い婚約者がいる。牽制は不要だ」
ルーカスが疲れた様子で呟いた。その返答にサミュエルはあっさりと穏やかな表情に戻ったから、おそらくルーカスで遊んだだけなのだろう。
その仲が良さそうな雰囲気に、ノアの方が悋気を起こしてしまいそうだ。遊ばれるルーカスは少し憐れでもあるけれど。
「それで、なんの話ですか?」
シレッとした顔で話を促すサミュエルを、ルーカスが恨めしげに睨んだ。ついで「こんな、見た目は極上でも性悪な男を好きになるヤツらの気が知れない。みんな目がついてないんじゃないか……」とぼやいている。でも、当然のようにサミュエルに無視された。
ノアはその『みんな』には自分も含まれるんだろうなと思った。それでも好きなのだから、別に見る目がないと批判されようと構わない。そのくらいには、ノアのサミュエルに向ける気持ちは捨てられないものになっているのだから。
それに、そんな憎まれ口を叩いているルーカスも、サミュエルを側近として重用し、信頼しているのだから、本心で『性悪』と言っているわけではないだろう。ただのじゃれあいだ。
(……やっぱり羨ましくなっちゃうな。なんというか、男同士の友情?)
ノアはそんなことを思いながらも、自分には縁遠そうだと思った。ノアの友人といえばアシェルだけれど、なんとなく『男同士の友情』という感じではない。
「……マーティン殿下がノア殿に惚れているというのは、俺や王妃殿下が考える仮定に過ぎない。事実を確かめるためにも、王妃殿下の方から、カールトン国に探りを入れてもらってはいるが……あの方はどちらかというと今でもカールトン国の方を重視している方だからな……。カールトン国にとって非がある事実は誤魔化されるだろう」
「なるほど……王妃殿下のその傾向は、私たち貴族もなんとなく存じ上げてはいましたが、殿下がそうおっしゃるくらいですか……」
ルーカスの言葉に、サミュエルが難しそうな表情になる。王妃が絶対的な味方とは言えないと、その息子である王子に断言されたのだから、その表情になるのも不思議ではない。
一方で、ノアは少し気まずい思いを抱いていた。
王妃とルーカスは他人行儀な関係だと感じたからだ。この公式ではない場所で、ルーカスは王妃のことを「王妃殿下」と呼び、母親として慕っている様子を一切見せない。
家族仲の良いノアには、あまり理解できない関係だった。
ライアンに関して、王妃の疑惑を知るからかと思ったけれど、どうやらそれだけではなさそうだ。自国ではなく母国に肩入れする者を、王太子という立場として信ずることができないのかもしれない。
「というわけで、サミュエルも探りを入れるのだろうが、真実が明らかになるまで少し時間がかかると思う。俺もマーティン殿下に接触して真意を確認しようとしているが……あの方はさりげなく俺を避けている。国同士の友好のため、という大義名分を放り投げている態度だから、それを咎めてもいいんだが、まだことを荒立てる段階ではないだろう」
「そうですね。マーティン殿下は完全に下手を打つような真似はしていませんから。まだ要観察、というところですか」
頷いたサミュエルに、ルーカスが肩をすくめて疲れた様子でため息をつく。
マーティンにはこの国を害する意思がある可能性があり、ルーカスも気が張っているのだろう。でも、サミュエルにその辺のフォローを求めるのは無理そうだ。サミュエルは優秀だけれど、基本的に優しさはノア相手にしか発揮しないので。
「……あまり、ご無理をなさらないでくださいね。サミュエル様ほど頼りにはならないと思いますが、僕も頑張りますから。愚痴でもなんでも、いつでも聞きますよ。僕、口は堅い方なんです」
失礼かなと思いつつも、自然と言葉が零れ落ちていた。
サミュエルが不満そうに目を向けてくるので、軽く手を叩いて宥める。これくらいで悋気を起こさないでほしい。
「……サミュエルにノア殿の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。こいつも少しは他人への優しさを身につけてくれないものか」
「ノアのものであれば飲んでも構いませんけど」
「え……それはさすがに……」
シレッと答えたサミュエルに、ノアは少し身を引いた。サミュエルが慌てて言い訳のように「例えだから! 実際にはしないよ!」というので、一応納得しておいた。
最近『サミュエル様の愛って重すぎるのでは……?』と感じているのだけれど……どうかこれ以上重くならないでほしい。ノアでも受け止められなくなる気がするから。
「さて、ノア殿も納得したなら、俺が話してもいいか?」
「ええ、もちろんです!」
ノアは慌ててサミュエルから離れて、ルーカスに視線を向けた。
まるで二人だけしかここにいないみたいな雰囲気を漂わせていた自覚がノアにはある。ルーカスが声を掛けてくれなければ、そのままサミュエルにキスをされていたかもしれないという予想もあった。
いくら婚約者とはいっても、過度な接触はふしだらである。ノアは自戒を込めて、サミュエルからさらに拳一つ分離れた。
「ノア――」
「サミュエル、俺は話を続けたいんだ。いちゃつくなら、お前を追い出すぞ?」
不満そうに何かを言おうとしたサミュエルを、ルーカスが制した。サミュエルが少しわざとらしいくらい驚愕した表情でルーカスを見据える。
「まさか私のノアと二人きりになるつもりですか? 殿下であろうと、それは許しませんよ」
「……悋気を起こすな。俺には可愛い婚約者がいる。牽制は不要だ」
ルーカスが疲れた様子で呟いた。その返答にサミュエルはあっさりと穏やかな表情に戻ったから、おそらくルーカスで遊んだだけなのだろう。
その仲が良さそうな雰囲気に、ノアの方が悋気を起こしてしまいそうだ。遊ばれるルーカスは少し憐れでもあるけれど。
「それで、なんの話ですか?」
シレッとした顔で話を促すサミュエルを、ルーカスが恨めしげに睨んだ。ついで「こんな、見た目は極上でも性悪な男を好きになるヤツらの気が知れない。みんな目がついてないんじゃないか……」とぼやいている。でも、当然のようにサミュエルに無視された。
ノアはその『みんな』には自分も含まれるんだろうなと思った。それでも好きなのだから、別に見る目がないと批判されようと構わない。そのくらいには、ノアのサミュエルに向ける気持ちは捨てられないものになっているのだから。
それに、そんな憎まれ口を叩いているルーカスも、サミュエルを側近として重用し、信頼しているのだから、本心で『性悪』と言っているわけではないだろう。ただのじゃれあいだ。
(……やっぱり羨ましくなっちゃうな。なんというか、男同士の友情?)
ノアはそんなことを思いながらも、自分には縁遠そうだと思った。ノアの友人といえばアシェルだけれど、なんとなく『男同士の友情』という感じではない。
「……マーティン殿下がノア殿に惚れているというのは、俺や王妃殿下が考える仮定に過ぎない。事実を確かめるためにも、王妃殿下の方から、カールトン国に探りを入れてもらってはいるが……あの方はどちらかというと今でもカールトン国の方を重視している方だからな……。カールトン国にとって非がある事実は誤魔化されるだろう」
「なるほど……王妃殿下のその傾向は、私たち貴族もなんとなく存じ上げてはいましたが、殿下がそうおっしゃるくらいですか……」
ルーカスの言葉に、サミュエルが難しそうな表情になる。王妃が絶対的な味方とは言えないと、その息子である王子に断言されたのだから、その表情になるのも不思議ではない。
一方で、ノアは少し気まずい思いを抱いていた。
王妃とルーカスは他人行儀な関係だと感じたからだ。この公式ではない場所で、ルーカスは王妃のことを「王妃殿下」と呼び、母親として慕っている様子を一切見せない。
家族仲の良いノアには、あまり理解できない関係だった。
ライアンに関して、王妃の疑惑を知るからかと思ったけれど、どうやらそれだけではなさそうだ。自国ではなく母国に肩入れする者を、王太子という立場として信ずることができないのかもしれない。
「というわけで、サミュエルも探りを入れるのだろうが、真実が明らかになるまで少し時間がかかると思う。俺もマーティン殿下に接触して真意を確認しようとしているが……あの方はさりげなく俺を避けている。国同士の友好のため、という大義名分を放り投げている態度だから、それを咎めてもいいんだが、まだことを荒立てる段階ではないだろう」
「そうですね。マーティン殿下は完全に下手を打つような真似はしていませんから。まだ要観察、というところですか」
頷いたサミュエルに、ルーカスが肩をすくめて疲れた様子でため息をつく。
マーティンにはこの国を害する意思がある可能性があり、ルーカスも気が張っているのだろう。でも、サミュエルにその辺のフォローを求めるのは無理そうだ。サミュエルは優秀だけれど、基本的に優しさはノア相手にしか発揮しないので。
「……あまり、ご無理をなさらないでくださいね。サミュエル様ほど頼りにはならないと思いますが、僕も頑張りますから。愚痴でもなんでも、いつでも聞きますよ。僕、口は堅い方なんです」
失礼かなと思いつつも、自然と言葉が零れ落ちていた。
サミュエルが不満そうに目を向けてくるので、軽く手を叩いて宥める。これくらいで悋気を起こさないでほしい。
「……サミュエルにノア殿の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。こいつも少しは他人への優しさを身につけてくれないものか」
「ノアのものであれば飲んでも構いませんけど」
「え……それはさすがに……」
シレッと答えたサミュエルに、ノアは少し身を引いた。サミュエルが慌てて言い訳のように「例えだから! 実際にはしないよ!」というので、一応納得しておいた。
最近『サミュエル様の愛って重すぎるのでは……?』と感じているのだけれど……どうかこれ以上重くならないでほしい。ノアでも受け止められなくなる気がするから。
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