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158.初代の話
ノアたちがお茶を飲んで落ち着いたところで、マーティンがぐったりとした様子で項垂れる。何もしていないのに打ちのめされた雰囲気なのは、ノアたちからの拒絶感を感じ取ったからだろうか。
「――はぁ……なんで俺は、こうも貧乏くじを……」
よく分からないことを言って嘆いているマーティンを、慰める者はここにはいない。マーティンは正しく孤立無援だった。
それに対して少し憐れむ気持ちはあるけれど、ノアはそろそろこの状況から解放されたいので、マーティンにはさっさと色々と白状してほしいと望むばかりだ。
「殿下が全てをさっさと話してしまえばいいことなのですよ?」
「……それができたら苦労しない。お前だって、守るべき秘密があることは知っているだろう。口が軽い者は信頼されない」
「殿下が誰かに信頼されているようには思えませんが」
サミュエルの痛烈な言葉に、マーティンは閉口した。恨めしげな目でサミュエルを見つめると、大きくため息をつく。
(サミュエル様、容赦がなくなったなぁ……)
さもありなん、とノアは思いながらも、マーティンを見つめた。これまでのマーティンの言動で、サミュエルは既にマーティンを罰する相手と見なしているのだ。最低限の敬語だけが維持されているのが、奇跡であるように思える。
「……はぁ……なんの話だったか」
「ノアの話です。あるいは、初代国王の配偶者の話とも言えますね」
「……そこまで分かっているのだから、俺から聞くことでもないだろう」
「いえ。崇拝されている存在とノアが重ねられていることは分かっていますが、あまりに常識外れな崇拝の仕方への疑問は解消されていません」
冷めた表情ながらも、サミュエルは探るように言葉を選んでマーティンを見据えていた。ハミルトンとアダムは少し戸惑った雰囲気だったけれど、沈黙を貫く。
逡巡していたマーティンが、再びため息と共に言葉を吐き出した。
「……我が国において、初代国王は神聖化された存在だ」
「ええ。存じ上げています。確か、予知のような力で、苦難を乗り越え、最も繫栄した国を築き上げたのですよね」
「そうだ。それは表向きの話だが」
「表向き……?」
マーティンの含みのある言葉に、全員の意識が集中した。
ノアも同じようにマーティンを見ていたけれど、『予知のような力』という言葉が気になって、いまいち集中しきれない。
(……見方を変えてみると、アシェルさんの知識も、ある種の予知に近いような? まぁ、ゲームの知識通りに進んではいないから、予知と言っていいのかは分からないけど)
首を傾げているノアをよそに、マーティンは苦々しい表情で言葉を続けた。
「ああ。初代国王はその前にあった国の貴族だった。国が内乱により疲弊した後に、内乱を鎮圧して、新たな国の王として立つことになったんだ。……不思議だと思わないか? 彼は類まれなカリスマ性を認められていたが、王族の血は一切流れていなかった。内乱が起きたと言っても、当時の王族の全てが絶えたわけではない。順当に考えれば、残った王族の誰かに王位を返還することが、貴族として相応しい対応だった」
ノアは目を見張りながら、マーティンの言葉に聞き入った。驚いたのは、マーティンが初代国王に批判的な態度を見せていたからだ。自身の系譜の元になる人物に対する言葉とは思えない。王族としての血統の不当を訴えているようなものだ。
ノアと同じように、ハミルトンやアダムも動揺した雰囲気だった。それとは対照的に、ルーカスとサミュエルは静かな面持ちで耳を傾けている。
「……なぜ、初代国王は、殿下曰く『相応しい対応』をなさらなかったのだと思うのですか?」
問いかけたサミュエルに対し、マーティンが歪んだ笑みを見せる。
「ほしいものがあったからだ。そして、それこそが、初代国王が賢王として称賛される理由ともなった」
不意にマーティンの視線がノアを捉えた。その目に浮かぶのは、何かを強く求めるような熱情と、それに相反する冷たく疎むような色。
ノアはゾッとするものを感じて、身を竦めた。それに気づいたサミュエルが胸元に抱き寄せる仕草に逆らわず、その温かな腕の中で呼吸を整える。
「……配偶者、か」
呟いたのはルーカスだった。その目は既に真実を見出し、苦々しい感情を滲ませている。
マーティンはノアからルーカスへと視線を移した。既に瞬間的に噴き出した感情は跡形もなく、どことなく諦念を漂わせているように見えた。
「そうだ。初代国王の配偶者は、前の国の王族だった。そして、予知のような力を持ち、初代国王の国政を支えたと、王家には伝わっている」
「なるほど。初代国王の功績はその配偶者によるものだったのですね。自身の功績を初代国王のものだと偽ることを良しとしたということは、その配偶者の方も初代国王に惹かれていたのでしょうか?」
サミュエルが尋ねると、すぐにマーティンが首を横に振る。
「いや、そんなにいいものじゃなかったはずだ。初代国王と比べ、配偶者はほとんど表舞台に立たなかった。監禁状態だったという認識が正しい。初代国王は一方的な愛情で配偶者を縛っていたんだ。……あぁ、正しいかは分からないが、前の国で内乱が起こったこと自体、初代国王が叶わない恋に苦しんだが故の策謀だったという話もあるな」
吐き捨てるような言い方から、根拠がないその話を、マーティンが真実なのだと考えていることが伝わってきた。
(つまり、王族に恋したがゆえに、貴族の青年は内乱により国を倒し、王位について恋する相手を手に入れた……?)
話をまとめてみると、なんだかゾッとする。初代国王の賢王という評判とは相反する、ドロドロとした執着心を感じ取ってしまったのだ。
そして、その感覚と近いものを、ノアはついさっき感じたことに気づく。
(――あぁ……そうか。マーティン殿下の感情に、似ている……。でも……マーティン殿下自身は、その感情を疎んでもいる……?)
ノアは理解に苦しみながら、サミュエルの腕に縋った。
「――はぁ……なんで俺は、こうも貧乏くじを……」
よく分からないことを言って嘆いているマーティンを、慰める者はここにはいない。マーティンは正しく孤立無援だった。
それに対して少し憐れむ気持ちはあるけれど、ノアはそろそろこの状況から解放されたいので、マーティンにはさっさと色々と白状してほしいと望むばかりだ。
「殿下が全てをさっさと話してしまえばいいことなのですよ?」
「……それができたら苦労しない。お前だって、守るべき秘密があることは知っているだろう。口が軽い者は信頼されない」
「殿下が誰かに信頼されているようには思えませんが」
サミュエルの痛烈な言葉に、マーティンは閉口した。恨めしげな目でサミュエルを見つめると、大きくため息をつく。
(サミュエル様、容赦がなくなったなぁ……)
さもありなん、とノアは思いながらも、マーティンを見つめた。これまでのマーティンの言動で、サミュエルは既にマーティンを罰する相手と見なしているのだ。最低限の敬語だけが維持されているのが、奇跡であるように思える。
「……はぁ……なんの話だったか」
「ノアの話です。あるいは、初代国王の配偶者の話とも言えますね」
「……そこまで分かっているのだから、俺から聞くことでもないだろう」
「いえ。崇拝されている存在とノアが重ねられていることは分かっていますが、あまりに常識外れな崇拝の仕方への疑問は解消されていません」
冷めた表情ながらも、サミュエルは探るように言葉を選んでマーティンを見据えていた。ハミルトンとアダムは少し戸惑った雰囲気だったけれど、沈黙を貫く。
逡巡していたマーティンが、再びため息と共に言葉を吐き出した。
「……我が国において、初代国王は神聖化された存在だ」
「ええ。存じ上げています。確か、予知のような力で、苦難を乗り越え、最も繫栄した国を築き上げたのですよね」
「そうだ。それは表向きの話だが」
「表向き……?」
マーティンの含みのある言葉に、全員の意識が集中した。
ノアも同じようにマーティンを見ていたけれど、『予知のような力』という言葉が気になって、いまいち集中しきれない。
(……見方を変えてみると、アシェルさんの知識も、ある種の予知に近いような? まぁ、ゲームの知識通りに進んではいないから、予知と言っていいのかは分からないけど)
首を傾げているノアをよそに、マーティンは苦々しい表情で言葉を続けた。
「ああ。初代国王はその前にあった国の貴族だった。国が内乱により疲弊した後に、内乱を鎮圧して、新たな国の王として立つことになったんだ。……不思議だと思わないか? 彼は類まれなカリスマ性を認められていたが、王族の血は一切流れていなかった。内乱が起きたと言っても、当時の王族の全てが絶えたわけではない。順当に考えれば、残った王族の誰かに王位を返還することが、貴族として相応しい対応だった」
ノアは目を見張りながら、マーティンの言葉に聞き入った。驚いたのは、マーティンが初代国王に批判的な態度を見せていたからだ。自身の系譜の元になる人物に対する言葉とは思えない。王族としての血統の不当を訴えているようなものだ。
ノアと同じように、ハミルトンやアダムも動揺した雰囲気だった。それとは対照的に、ルーカスとサミュエルは静かな面持ちで耳を傾けている。
「……なぜ、初代国王は、殿下曰く『相応しい対応』をなさらなかったのだと思うのですか?」
問いかけたサミュエルに対し、マーティンが歪んだ笑みを見せる。
「ほしいものがあったからだ。そして、それこそが、初代国王が賢王として称賛される理由ともなった」
不意にマーティンの視線がノアを捉えた。その目に浮かぶのは、何かを強く求めるような熱情と、それに相反する冷たく疎むような色。
ノアはゾッとするものを感じて、身を竦めた。それに気づいたサミュエルが胸元に抱き寄せる仕草に逆らわず、その温かな腕の中で呼吸を整える。
「……配偶者、か」
呟いたのはルーカスだった。その目は既に真実を見出し、苦々しい感情を滲ませている。
マーティンはノアからルーカスへと視線を移した。既に瞬間的に噴き出した感情は跡形もなく、どことなく諦念を漂わせているように見えた。
「そうだ。初代国王の配偶者は、前の国の王族だった。そして、予知のような力を持ち、初代国王の国政を支えたと、王家には伝わっている」
「なるほど。初代国王の功績はその配偶者によるものだったのですね。自身の功績を初代国王のものだと偽ることを良しとしたということは、その配偶者の方も初代国王に惹かれていたのでしょうか?」
サミュエルが尋ねると、すぐにマーティンが首を横に振る。
「いや、そんなにいいものじゃなかったはずだ。初代国王と比べ、配偶者はほとんど表舞台に立たなかった。監禁状態だったという認識が正しい。初代国王は一方的な愛情で配偶者を縛っていたんだ。……あぁ、正しいかは分からないが、前の国で内乱が起こったこと自体、初代国王が叶わない恋に苦しんだが故の策謀だったという話もあるな」
吐き捨てるような言い方から、根拠がないその話を、マーティンが真実なのだと考えていることが伝わってきた。
(つまり、王族に恋したがゆえに、貴族の青年は内乱により国を倒し、王位について恋する相手を手に入れた……?)
話をまとめてみると、なんだかゾッとする。初代国王の賢王という評判とは相反する、ドロドロとした執着心を感じ取ってしまったのだ。
そして、その感覚と近いものを、ノアはついさっき感じたことに気づく。
(――あぁ……そうか。マーティン殿下の感情に、似ている……。でも……マーティン殿下自身は、その感情を疎んでもいる……?)
ノアは理解に苦しみながら、サミュエルの腕に縋った。
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