内気な僕は悪役令息に恋をする

asagi

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221.ルーカスの懸念

 いつまでも立ち話をする意味もないので、ルーカスがソファに腰を下ろしたところで、ノアたちも席につく。
 そして、早速話題になったのは、ルーカスが先ほどこぼした言葉だった。

「――カールトン国の問題は、ほとんど片がついたと聞いていましたが、まだ殿下のお心を煩わせるようなことがあったのですか?」

 ノアがルーカスとサミュエルに問いかけると、二人は視線を交わして肩をすくめた。

「……問題というものは、次から次に湧いてくるものさ」

 ため息混じりにそう答えたのはルーカスだった。
 その言葉を継ぐように、サミュエルがノアに微笑みかけながら口を開く。

「前に、カールトン国の王位を継ぐ者は、傍系になると話しただろう?」
「ええ。……そのことで、もう影響が出ているのですか?」

 ノアは以前三人で話した時に出てきた情報を思い出し、軽く眉を寄せた。

 確か、次期王は傍系であるがゆえに、カールトン国王家の血が濃いルーカスやライアンを警戒するかもしれない、という話だったはずだ。

 明確に言うなら、王位継承の正統性を主張するために、傍系である次期王が、ルーカスたちの血筋を絶つよう動く可能性があるということ。

 ルーカスが王太子である以上、国家間の良好な関係を築くためにも、そう派手な行動はしないだろうと、ノアは予想していたのだが――。

「次期王自身は問題ないよ。彼は私の敵にはなりえないから」
「……なるほど」

 あっさりと答えるサミュエルは、当然のように、カールトン国の次期王とすでに接触し、優位な関係を築いているようだ。

 ノアは『サミュエル様だからな……』と納得した。ルーカスの方は、なにか言いたげな表情だったけれど、黙り込んでそっぽを向く。

「――では、その周囲の方に問題があるのですね?」

 次期王自身・・とわざわざ言ったからには、そういうことだろうと、ノアはサミュエルの言葉を先回りするように言及する。

「さすが、ノア、よく分かったね。……どうやら、彼の周囲で暴走している者がいるようでね。それ自体は彼が責任を持って対処すべきだと思うけど、万が一の場合に備えて、殿下の身の回りの安全は確保しておかないといけない」
「暴走……」

 先ほど、ルーカスが自身の死について語り、サミュエルが『自然死以外で立場を放棄させるつもりはない』と告げたことの背景には、そのような事情があったのだろう。

 ノアを始め、多くの貴族が気づかないうちに、ルーカスの身に危険が近づこうとしていたのだ。

 ノアはゾッとする気持ちで、ルーカスに視線を向ける。

「――なにか、実際に危害が……?」

 心配と気遣いを含んだ眼差しに、ルーカスがきょとんと目を丸くしてから、照れたように頬を緩める。

「いや、そのへんは、サミュエルが万事手を尽くしてくれているからな。でも、心配はありがたく受け取るよ。ノア殿もご存じのように、俺の周囲には、危害に怯える俺の繊細な心を思いやってくれる者がいなくて、少し悲しくなっていたんだ」

 泣き真似をするように、ルーカスが目元を押さえて、訴えてくる。
 でも、その声音は明るく軽快で、ノアはどう捉えたらいいか分からなかった。

「……ご無事で、なによりです……?」

 なんとも答えようがなく、とりあえずそう告げると、サミュエルが首を横に振る。

「ノア、騙されてはいけないよ。殿下はまったく気にされていないから。むしろ、せっかくつけている護衛の騎士から逃げようとするものだから、彼らの方が可哀想だ」
「それは……。殿下、御身のためにも、きちんとした警護を受けていただかないと」

 もし、護衛の騎士から逃げている最中に襲われでもしたらと想像するだけで恐ろしい。
 ノアが真剣に言い募ると、ルーカスは気まずそうに口ごもり、視線を逸らした。

「……いや、まぁ、それは……俺だって、一人の時間が……。でも、そうだよな……心配してくれる者もいるわけだしな……」
「はい、僕はもちろん、多くの方が殿下を心配していると思います」
「……分かった、気をつけよう」

 渋々とした口調ながら、ルーカスの顔は明るかった。ノアが心から心配している気持ちが伝わり、嬉しくなったのだろう。
 身近な者の心配ほど、普段はあまり耳目に入らないものだ。ノアくらいの距離感の方が、ルーカスの心に届きやすかったらしい。

「――言質は得ましたからね? これからは、遠慮なく、騎士たちを殿下のお側につけますので」

 サミュエルがにこりと笑む。途端に、ルーカスの顔が、なにか不味いものを口にしたかのように歪んだ。

「……まさか、ノア殿と一緒に、仕組んだのか?」
「え? 僕は、何も……」

 一転して疑わしげに見つめられたノアは、戸惑いながら首を振る。

 実際、ノアはサミュエルに何か指示を受けてはいない。ただ本心でルーカスを心配しただけである。
 サミュエルが、この展開を読んでいた可能性は否定しないけれど――。

 横目でチラリとサミュエルを窺うと、すぐに気づかれた。

「その疑いは、ノアに失礼でしょう」
「そうだな。お前が原因だけどな」

 サミュエルに苦々しい口調で返したルーカスは、それでも前言を撤回する言葉は告げなかった。
 代わりに、ノアに謝罪するように微笑みかける。

「――そんなわけで、カールトン国の問題は、いまだに後を引いているわけだ。それに加えて、ノア殿もご存じのように、俺の母親の問題が噴出してる。俺が頭を抱えたくなっても仕方ないだろう?」
「王妃殿下の問題……」

 その言葉が何を指すのか、図りかねたノアは、じっとルーカスを見つめ返す。

「ああ。そのことで、お茶会の前にノア殿と話す機会をもらったんだ」

 ようやく、話が本題に入るようだ。
 ノアはルーカスの改まった表情からそれを悟り、息を呑んで話に集中した。

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