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223.ノアの影響力
王妃に対するルーカスの考えを知ったところで、気になるのは、ルーカスが言っていた、現状を打破するためにノアならば取り得る手段についてだ。
ここまで聞いても、ノアは自分が何かの役に立てるだなんて思えなかった。
侯爵家の嫡男であるとはいえ、領内のことならばともかく、王政に関わるような影響力はまだ持っていない。
その点でいうと、サミュエルの方が格段に影響力があるだろう。
「……それで、結局、ルーカス殿下は僕に、何をお望みなのですか? 王妃殿下を他所に送るというのは、最悪の場合ですよね」
改めて問い質すノアに、ルーカスは再び迷いの浮かんだ眼差しを向ける。
ノアの横で、サミュエルがつまらなそうにそっぽを向いた。どうにも、現在交わされている会話に興味が持てないようだ。
退屈を紛らわすように、ノアの手を取り、撫でたりキスをしたりと、なかなか自由な行動をしている。
「――サミュエル様……」
「なんだい? 私は、時間を有効活用しているだけだよ」
まったく悪びれた様子を見せないサミュエルに、ノアはじとりとした視線を注いだ。
ノアが必死に思考を巡らせているのだから、サミュエルも少しは本腰を入れて話を聞いてほしいものである。
ただ、サミュエルがノアに関わる案件にもかかわらず、無関心であるということは、ノアの安全を保証しているのと同義である。
それだけでもありがたいのだから、サミュエルの戯れ程度は許容するべきか。
「……セクハラ親父か」
ルーカスがぼそりと呟く。途端に、サミュエルがじろりとルーカスを睨んだ。
「殿下は私を敵に回したいとおっしゃる?」
「俺は見たままを言っただけだ。その評価が嫌なら、態度を改めろ」
目を細め、冷たい表情のサミュエルと、シレッとした顔のルーカスを、ノアは交互に見つめ、ため息をついた。
仲が良いのは素晴らしいことだけれど、状況を選んで遊んでほしい。そして、ノアを巻き込まないでくれたら、さらに喜ばしい。
「殿下。僕にできることがあるのでしたら、ご遠慮なくお申し付けください」
サミュエルを振る舞いは見なかったことにして、ノアはルーカスとの話を進めた。
「殿下がなにかをおっしゃったところで、それをノアが受け入れるとは限りませんし、私が妨害する可能性も高いですけどね」
せっかくのノアの進言を妨げるように、サミュエルが言い添える。
ルーカスに対して、敬意もなにもない言い様だけれど、間違ってもいないので、ノアはそれに対してのコメントを避け、ルーカスを見据えた。
「……分かってる。というか、そう言ってくれると、俺も話しやすいな」
ルーカスは苦笑混じりに呟き、肩をすくめる。どうやら、サミュエルの遠慮のない物言いを聞いて、話をする覚悟が決まったようだ。
一呼吸おいて、再び口を開く。
「――ノア殿に頼みたいのは、王妃と少し親しくしてやってほしい、ということなんだ」
「え……?」
予想外な言葉を聞いて、ノアは目を丸くする。
その頼みをノアが叶えることで、状況が改善するという考えは、理解しがたいものがある。
「――なぜ、そのようなお考えに……? 僕が王妃殿下と親しくしたところで、状況に変化はないと思うのですが」
ノアが正直な思いを告げると、ルーカスがチラリとサミュエルに視線を向けた。サミュエルは軽く肩をすくめて、ノアの肩を抱き寄せる。
「ノアはとても慎ましいので。自己評価が低いとも言えますが。……これでも、多少改善したのですよ?」
「知ってる。ただ、あまりに客観的評価との溝があるよな」
「社交界と距離を置いているのが、一因ではありますね。頻繁にパーティーに参加することになれば、自然と理解すると思いますけど……ノアに無理をさせるつもりはないので。私のノアを、有象無象に見せびらかすのも業腹ですし」
「……そこでも、お前の独占欲が関係してくるわけか」
サミュエルとルーカスが、ノアには理解しがたい会話を始めた。ノアが首を傾げて話を聞いていると、ルーカスがため息をつく。
「――ノア殿は、自身に、信者と評される集団がいることは知っているな?」
「あ……ええ、それは、まぁ……」
すっかり思考の外に追いやっていた存在が急に出てきて、ノアはパチパチと目を瞬かせる。
(――そういえば、そんな方々もいたなぁ。……ここでそれを言われるということは、その影響力が、有用だということかな?)
少し他人事のような顔をしているノアを、ルーカスが複雑そうな表情で見やった。
「俺からすると、あいつらは、そう簡単に無視できるもんじゃないと思うんだがな」
「ノアにとっては一切害がないんですから、仕方ないのでは」
「……それもそうか」
ルーカスが疲労感に満ちたため息をつく。
「――ノア殿は軽視しているようだが、信者どもは結構な勢力を持っていて、社交界での影響力は大きい。さすがに、グレイ公爵家に匹敵するほどではないが、数の上での有利は、疑いようがない」
「へぇ、そうなんですね」
ノアは目を丸くして、ルーカスの話に聞き入る。
信者と称される人々のことは知っているけれど、実際に会ったことがあるのは、学園内にいる令息令嬢だけである。それが、社交界――つまり大人の貴族の中にも存在しているというのは、まるで実感が湧かなかった。
「そうなんですねって……ノア殿は呑気だな……」
「可愛いでしょう?」
「お前は、甘やかしすぎなんじゃないか?」
なぜか誇らしげに言い、愛おしそうにノアを見つめるサミュエルを、ルーカスがじとりと睨んだ。
ここまで聞いても、ノアは自分が何かの役に立てるだなんて思えなかった。
侯爵家の嫡男であるとはいえ、領内のことならばともかく、王政に関わるような影響力はまだ持っていない。
その点でいうと、サミュエルの方が格段に影響力があるだろう。
「……それで、結局、ルーカス殿下は僕に、何をお望みなのですか? 王妃殿下を他所に送るというのは、最悪の場合ですよね」
改めて問い質すノアに、ルーカスは再び迷いの浮かんだ眼差しを向ける。
ノアの横で、サミュエルがつまらなそうにそっぽを向いた。どうにも、現在交わされている会話に興味が持てないようだ。
退屈を紛らわすように、ノアの手を取り、撫でたりキスをしたりと、なかなか自由な行動をしている。
「――サミュエル様……」
「なんだい? 私は、時間を有効活用しているだけだよ」
まったく悪びれた様子を見せないサミュエルに、ノアはじとりとした視線を注いだ。
ノアが必死に思考を巡らせているのだから、サミュエルも少しは本腰を入れて話を聞いてほしいものである。
ただ、サミュエルがノアに関わる案件にもかかわらず、無関心であるということは、ノアの安全を保証しているのと同義である。
それだけでもありがたいのだから、サミュエルの戯れ程度は許容するべきか。
「……セクハラ親父か」
ルーカスがぼそりと呟く。途端に、サミュエルがじろりとルーカスを睨んだ。
「殿下は私を敵に回したいとおっしゃる?」
「俺は見たままを言っただけだ。その評価が嫌なら、態度を改めろ」
目を細め、冷たい表情のサミュエルと、シレッとした顔のルーカスを、ノアは交互に見つめ、ため息をついた。
仲が良いのは素晴らしいことだけれど、状況を選んで遊んでほしい。そして、ノアを巻き込まないでくれたら、さらに喜ばしい。
「殿下。僕にできることがあるのでしたら、ご遠慮なくお申し付けください」
サミュエルを振る舞いは見なかったことにして、ノアはルーカスとの話を進めた。
「殿下がなにかをおっしゃったところで、それをノアが受け入れるとは限りませんし、私が妨害する可能性も高いですけどね」
せっかくのノアの進言を妨げるように、サミュエルが言い添える。
ルーカスに対して、敬意もなにもない言い様だけれど、間違ってもいないので、ノアはそれに対してのコメントを避け、ルーカスを見据えた。
「……分かってる。というか、そう言ってくれると、俺も話しやすいな」
ルーカスは苦笑混じりに呟き、肩をすくめる。どうやら、サミュエルの遠慮のない物言いを聞いて、話をする覚悟が決まったようだ。
一呼吸おいて、再び口を開く。
「――ノア殿に頼みたいのは、王妃と少し親しくしてやってほしい、ということなんだ」
「え……?」
予想外な言葉を聞いて、ノアは目を丸くする。
その頼みをノアが叶えることで、状況が改善するという考えは、理解しがたいものがある。
「――なぜ、そのようなお考えに……? 僕が王妃殿下と親しくしたところで、状況に変化はないと思うのですが」
ノアが正直な思いを告げると、ルーカスがチラリとサミュエルに視線を向けた。サミュエルは軽く肩をすくめて、ノアの肩を抱き寄せる。
「ノアはとても慎ましいので。自己評価が低いとも言えますが。……これでも、多少改善したのですよ?」
「知ってる。ただ、あまりに客観的評価との溝があるよな」
「社交界と距離を置いているのが、一因ではありますね。頻繁にパーティーに参加することになれば、自然と理解すると思いますけど……ノアに無理をさせるつもりはないので。私のノアを、有象無象に見せびらかすのも業腹ですし」
「……そこでも、お前の独占欲が関係してくるわけか」
サミュエルとルーカスが、ノアには理解しがたい会話を始めた。ノアが首を傾げて話を聞いていると、ルーカスがため息をつく。
「――ノア殿は、自身に、信者と評される集団がいることは知っているな?」
「あ……ええ、それは、まぁ……」
すっかり思考の外に追いやっていた存在が急に出てきて、ノアはパチパチと目を瞬かせる。
(――そういえば、そんな方々もいたなぁ。……ここでそれを言われるということは、その影響力が、有用だということかな?)
少し他人事のような顔をしているノアを、ルーカスが複雑そうな表情で見やった。
「俺からすると、あいつらは、そう簡単に無視できるもんじゃないと思うんだがな」
「ノアにとっては一切害がないんですから、仕方ないのでは」
「……それもそうか」
ルーカスが疲労感に満ちたため息をつく。
「――ノア殿は軽視しているようだが、信者どもは結構な勢力を持っていて、社交界での影響力は大きい。さすがに、グレイ公爵家に匹敵するほどではないが、数の上での有利は、疑いようがない」
「へぇ、そうなんですね」
ノアは目を丸くして、ルーカスの話に聞き入る。
信者と称される人々のことは知っているけれど、実際に会ったことがあるのは、学園内にいる令息令嬢だけである。それが、社交界――つまり大人の貴族の中にも存在しているというのは、まるで実感が湧かなかった。
「そうなんですねって……ノア殿は呑気だな……」
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「お前は、甘やかしすぎなんじゃないか?」
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