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まぼろしの城 9 ひたぶるに術争べせむ
「ようやっとその気になったようじゃの。良し良し! しかし実にあっけない。あの小娘め、おぬしと一戦するかと思いきや、儂の与えた力をろくに振るいもせずに退くとは……」
「ナミはあんたが思ってるほど馬鹿でも単純ではないという事だ」
「ふむ、ところで今さっき小娘に殴られたおり、おぬしはなにか術を使ったはずじゃ。そうでなければあの勢いで殴られて無事ではすむまい。いったいどのような術をもちいたのじゃ?」
硬功夫。あるいは鉄布衫功と呼ばれる気功術。体内の気を張り廻らせて肉体を鉄のように硬化させる術。
長続きするものではないが上手く呼吸を合わせれば小口径の銃弾くらいなら無傷で防ぐことが可能だ。
思わずそのようなことを口にしようとして、とどまった。
なぜそんなことを今から戦う相手に教えなければならないのか?
「あー、なんもしてないね。あのシチュエーションでこっそり防御するとか、かっこ悪いだろ? そんなことしないって。黙って普通に素直に殴られたからね、俺は。……つうか操心の呪を乗せた言霊とか。つくづく人の頭と心をいじるのが好きなじじいだな」
「ふむ、さすがに効かぬか」
「あたり前だ」
鬼一は普段から思うところがある。
能力バトルもの作品に登場するキャラクターの中には、戦いの最中にもかかわらず、自分の能力についてベラベラと説明する者がいるが、どうしてそんな種明かしをするのだろう?
勝ってもいない相手に手の内をさらすなど愚の骨頂ではないか。
視聴者や読者に能力について説明したければナレーションを入れるか地の文章で書くか、心中のモノローグで言わせればいいのに、と。
「では、ゆくぞ」
果心居士が手にした杖を無造作に放り出した。
杖は中空で大きな音を立てて砕け散り、その木片が無数の杭となって襲いくる。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、前、行!」
臨む兵、闘う者、皆陣を列べて前を行く。
鬼一は神仙系の早九字を高速で結印、格子状をした呪力の防壁が出現して飛来する杭をすべて防いだ。
「まだじゃ、似蛇、等牙剥。疾く!」
蛇に似る、等しく牙を剥きたり。
食い止められた杭が蛇に変化し、呪壁を食い破ろうとうごめく。
「花淵善兵衛通りゃんせ!」
岩手県の民間伝承に伝わる蛇除けのまじない言葉。鬼一はそれに呪力をくわえることで本物の『呪』に仕立て上げた。
以前にもちいた雷除けの『くわばら』同様、精巧にして玄妙な言霊術。
蛇たちはいっせいに動きを止め、床に落ち、煙を上げて木片に戻った
「まだじゃまだじゃ」
果心居士が結印し念を凝らすと、木片が一つにかたまり一匹の竜と化して牙を剥く。だが鬼一はそれには目をくれず地面に向けて刀印を切る。
「PIGYAAAッ!」
いつの間にそこにいたのか、奇怪な声を上げて卒倒したのは双頭のねずみだった。
竜は目くらましの幻術。地を走るねずみの姿をした呪詛式こそ本身の攻撃と察し、それを祓ったのだ。
「珍しき蛇除けの呪。そして幻術に惑わされぬその眼力。良し良し! さぁ、次はおぬしからくるがよい」
「そうさせてもらおう。先ほど見せた符術の礼にこちらも符術の大盤振る舞いを馳走する」
青、赤、黄、白、黒。五色の呪符――木火土金水の五行符をすべて打ち放った。桜吹雪の如く呪符が舞い散る。
「東方太歳星君、南方荧惑星君、西方太白星君、北方辰星君、中央鎮星君。陰陽五行の太極に位置する陽中の陰と陰中の陽の星々、つどいて散り、散りてつどえ。急急如律令!」
木気は火気を生み、火気は土気を生み、金気は水気を生み、水気は木気を生む――。
陰陽道の根柢を成す五行思想にもとづいた相生相克を利用した呪術。
相生を重ねるごとに威力を倍加させた呪力が純然たる破壊の力を生じて荒れ狂い、御座の間を吹き飛ばす。
「やりおるわ! オン・マリシ・エイ・ソワカ」
果心居士は摩利支天の真言を唱え、結界を展開。
怒涛の勢いでせまりくる呪力の波を防ぐのではなくすり抜けた。
陽炎を神格化した天尊である摩利支天は隠形を司る象徴だ。
たわめた人差し指を親指で弾く弾指を三度おこない、さらに摩利支天の真言を唱える。
「サラティ・サラティ・ソワカ――オン・マリシ・エイ・ソワカ」
調伏相手を打擲する摩利支天の神鞭法。呪力の鞭がうなりを上げて鬼一に迫る。
「苦哉大聖尊、入真加太速、諸天猶決定、天人追感得、痛哉天中天、入真如加滅。急急如律令」
あらゆる厄災から身を守る道教の呪文。呪力による堅固な盾が生じ神鞭を防ぐが、その衝撃までは消せなかった。
衝撃が貫通し鬼一の全身の霊気を、霊体を打ち据える。痺れをともなう痛みが身体中に走る。
やはり、強い。
鬼一はあらためてそう思う。
先ほどの五行方陣の術式に隙がったとは思えない。それを摩利支天の隠形法をもちいたとはいえ回避したのは、この果心居士と称する怪老がそれだけの実力をそなえているからに他ならない。
(だが摩利支天の隠形術。そうそう連発できるものでも持続できる術ではないはずだ。仮にできたとしても、貫く!)
あえて一枚ずつ残した五行符に気を凝らし、素早く結印する。
「東に少陽青龍、南に老陽朱雀、西に少陰白虎、北に老陰玄武、中央に太極黄龍。陰陽五行の印もって相応の地の理を示さん。急急如律令!」
さきほど使用した五行方陣に匹敵する威力を持つも術式の異なる呪術が炸裂。
四神を象った呪力が生じて荒れ狂い、呪術の嵐がふたたび吹き荒れる。
鬼一と果心居士の戦い、術くらべは終わる気配を見せない。
「凄い……これが異世界の魔術⋯⋯いや、呪術!」
「あたしはワッシャー島でキイチのもっとわっぜか術を目の当たりにしたばい。じゃっどん、これも凄か!」
ナミとレリエルはアリフレテラ大陸に広く流布するコモン・マジック。ルーン魔術とは毛色の異なる未知の呪術の応酬に目を見張る。
不動金縛り、符術、セーマンドーマンの呪壁、言霊、幻術、火界咒、兎歩、雷法、厭魅、蠱毒、持禁――。
千変万化の呪。
古今に知られた数多ある練達の技。ありとあらゆる呪術の応酬。
その中には明らかにルーン魔術とは異なる系統、術式のものもが多数あった。
霊気が渦巻き呪力が交差する。
鬼一と果心居士。二種の力が激しく入り交じり、熱気とも冷気とも知れない霊風が吹きすさぶ。
まるで戦う二人を中心に、竜巻が荒れ狂っているかのように。
激しい。
激しい、激しい、激しい。
あまりにも激しい呪術戦の余波を受け、御座の間は天守閣のある御殿ごと崩壊した。
それでもなお周囲にあるかがり火と月明かりの光の下で、なお両者は術をくり出し続ける。
レリエルとナミがあらかじめ持てる魔術、魔力のすべてを絞り出して堅固な魔法の盾を展開していなければ霊圧にさらされ、そのの身もただではすまなかっただろう。
それでもなお身体が、霊体が焙られているようだ。
「ノウマクサマンダ・バザラダンカン――」
鬼一の手が転法輪印から呪縛印を続けて組み、不動金縛りの術を発動させると同時に苦無を象った簡易式を打つ。
だがそのどちらも狙いは微妙にはずれ、果心居士にはとどかない。
「クツクツ、手元が狂ったかの? そろそろ疲れが――ッ!?」
果心居士は困惑の表情を浮かべ身を固める。
「こ、これはどうしたものか? なにゆえ身体が動かぬ!? 今のぬしの金縛りは不発に終わったはず……、はっ!」
視線を落としてそれを見た瞬間、その表情は困惑から驚愕に変わった。
金色の月光に照らされて落とすおのれの影に苦無が刺さっている。
「こ、これは影縫い! ううむ、さしもの儂もこのような忍びの術は門外漢よ、返しかたは知らぬ」
「そうか、なら詰みだな。今の状態では印も結べず、ほとんどの術は使用できないだろ。負けを認めてもらおうか」
「なんのまだまだ、無粋を承知で力業にいかせてもらおう!」
「はぁ?」
「喝ーッ!」
叫びとともに怪老の矮躯から途方もない霊力が爆発的にあふれ出た。
完全に『かかった』術を力づくで解除する。
圧倒的な霊力呪力があるからこそ可能な力業。影に刺さった苦無は地面から押し出されるように抜け落ち、そのまま影に飲み込まれた。
鬼一の影縫いは高い完成度で発動したが、果心居士の霊力呪力にくらべると、それでもまだ差があった。
技術ではなく総量の差。圧倒的なパワーの差だ。
「おぬしの呪、倍にして返すぞ!」
影が大きく伸び、うねり、漆黒の竜と化す。その咢には鬼一の苦無が牙となってならんでいた。
影の竜が猛烈な勢いで喰らわんと迫る。
それはまるで黒い瀑布のよう。
「オン・ロホウニュタ・ソワカ」
一千もの光明を発することによって天下を照らし、その光により諸苦の根源たる無明の闇や悪鬼邪気を滅尽するという日光菩薩の真言。
眩い閃光が奔り、影の竜はあっけなく消滅した。鬼一の簡易式符のみがたゆたう。
「なんと、光か」
「そうだ、光だ」
鬼一は自分の簡易式符を回収しつつ、うんざりした顔で応える。
「なるほど、まんべんなく光をあてれば影は消える。その手があったか」
あと真っ暗闇にして影そのものを消すことでも影縫いから逃れられるけどな。
そう胸中で思うもけっして口にはしない鬼一であった。
「愉快、愉快、ぬしとの術くらべ。まことに面白し。さぁ、続きじゃ」
「……いや、勝負あっただろ」
「なにを言う。儂はこのとおり健在ぞ」
「完全にかかった術を術理にもとづき解くのではなく、力づくでどうこうした時点で、この術くらべ。呪術勝負はあんたの反則負けだろ、じいさん」
「否。力業もまた技なり。呪術者が目的のためにもちいるのなら、それがなんであっても呪ぞ」
ビキリ。
これがコミックだったらこめかみに怒筋マークでも浮かんでいたことだろう。
さんざん術くらべ術くらべとごねたから、しぶしぶ『術』限定で相手をしてやって、なおこのようなもの言いである。
年寄りだろうと人ならざる存在だろうと、もはや加減はいらぬ。鬼一はそう決めた。
「ナミはあんたが思ってるほど馬鹿でも単純ではないという事だ」
「ふむ、ところで今さっき小娘に殴られたおり、おぬしはなにか術を使ったはずじゃ。そうでなければあの勢いで殴られて無事ではすむまい。いったいどのような術をもちいたのじゃ?」
硬功夫。あるいは鉄布衫功と呼ばれる気功術。体内の気を張り廻らせて肉体を鉄のように硬化させる術。
長続きするものではないが上手く呼吸を合わせれば小口径の銃弾くらいなら無傷で防ぐことが可能だ。
思わずそのようなことを口にしようとして、とどまった。
なぜそんなことを今から戦う相手に教えなければならないのか?
「あー、なんもしてないね。あのシチュエーションでこっそり防御するとか、かっこ悪いだろ? そんなことしないって。黙って普通に素直に殴られたからね、俺は。……つうか操心の呪を乗せた言霊とか。つくづく人の頭と心をいじるのが好きなじじいだな」
「ふむ、さすがに効かぬか」
「あたり前だ」
鬼一は普段から思うところがある。
能力バトルもの作品に登場するキャラクターの中には、戦いの最中にもかかわらず、自分の能力についてベラベラと説明する者がいるが、どうしてそんな種明かしをするのだろう?
勝ってもいない相手に手の内をさらすなど愚の骨頂ではないか。
視聴者や読者に能力について説明したければナレーションを入れるか地の文章で書くか、心中のモノローグで言わせればいいのに、と。
「では、ゆくぞ」
果心居士が手にした杖を無造作に放り出した。
杖は中空で大きな音を立てて砕け散り、その木片が無数の杭となって襲いくる。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、前、行!」
臨む兵、闘う者、皆陣を列べて前を行く。
鬼一は神仙系の早九字を高速で結印、格子状をした呪力の防壁が出現して飛来する杭をすべて防いだ。
「まだじゃ、似蛇、等牙剥。疾く!」
蛇に似る、等しく牙を剥きたり。
食い止められた杭が蛇に変化し、呪壁を食い破ろうとうごめく。
「花淵善兵衛通りゃんせ!」
岩手県の民間伝承に伝わる蛇除けのまじない言葉。鬼一はそれに呪力をくわえることで本物の『呪』に仕立て上げた。
以前にもちいた雷除けの『くわばら』同様、精巧にして玄妙な言霊術。
蛇たちはいっせいに動きを止め、床に落ち、煙を上げて木片に戻った
「まだじゃまだじゃ」
果心居士が結印し念を凝らすと、木片が一つにかたまり一匹の竜と化して牙を剥く。だが鬼一はそれには目をくれず地面に向けて刀印を切る。
「PIGYAAAッ!」
いつの間にそこにいたのか、奇怪な声を上げて卒倒したのは双頭のねずみだった。
竜は目くらましの幻術。地を走るねずみの姿をした呪詛式こそ本身の攻撃と察し、それを祓ったのだ。
「珍しき蛇除けの呪。そして幻術に惑わされぬその眼力。良し良し! さぁ、次はおぬしからくるがよい」
「そうさせてもらおう。先ほど見せた符術の礼にこちらも符術の大盤振る舞いを馳走する」
青、赤、黄、白、黒。五色の呪符――木火土金水の五行符をすべて打ち放った。桜吹雪の如く呪符が舞い散る。
「東方太歳星君、南方荧惑星君、西方太白星君、北方辰星君、中央鎮星君。陰陽五行の太極に位置する陽中の陰と陰中の陽の星々、つどいて散り、散りてつどえ。急急如律令!」
木気は火気を生み、火気は土気を生み、金気は水気を生み、水気は木気を生む――。
陰陽道の根柢を成す五行思想にもとづいた相生相克を利用した呪術。
相生を重ねるごとに威力を倍加させた呪力が純然たる破壊の力を生じて荒れ狂い、御座の間を吹き飛ばす。
「やりおるわ! オン・マリシ・エイ・ソワカ」
果心居士は摩利支天の真言を唱え、結界を展開。
怒涛の勢いでせまりくる呪力の波を防ぐのではなくすり抜けた。
陽炎を神格化した天尊である摩利支天は隠形を司る象徴だ。
たわめた人差し指を親指で弾く弾指を三度おこない、さらに摩利支天の真言を唱える。
「サラティ・サラティ・ソワカ――オン・マリシ・エイ・ソワカ」
調伏相手を打擲する摩利支天の神鞭法。呪力の鞭がうなりを上げて鬼一に迫る。
「苦哉大聖尊、入真加太速、諸天猶決定、天人追感得、痛哉天中天、入真如加滅。急急如律令」
あらゆる厄災から身を守る道教の呪文。呪力による堅固な盾が生じ神鞭を防ぐが、その衝撃までは消せなかった。
衝撃が貫通し鬼一の全身の霊気を、霊体を打ち据える。痺れをともなう痛みが身体中に走る。
やはり、強い。
鬼一はあらためてそう思う。
先ほどの五行方陣の術式に隙がったとは思えない。それを摩利支天の隠形法をもちいたとはいえ回避したのは、この果心居士と称する怪老がそれだけの実力をそなえているからに他ならない。
(だが摩利支天の隠形術。そうそう連発できるものでも持続できる術ではないはずだ。仮にできたとしても、貫く!)
あえて一枚ずつ残した五行符に気を凝らし、素早く結印する。
「東に少陽青龍、南に老陽朱雀、西に少陰白虎、北に老陰玄武、中央に太極黄龍。陰陽五行の印もって相応の地の理を示さん。急急如律令!」
さきほど使用した五行方陣に匹敵する威力を持つも術式の異なる呪術が炸裂。
四神を象った呪力が生じて荒れ狂い、呪術の嵐がふたたび吹き荒れる。
鬼一と果心居士の戦い、術くらべは終わる気配を見せない。
「凄い……これが異世界の魔術⋯⋯いや、呪術!」
「あたしはワッシャー島でキイチのもっとわっぜか術を目の当たりにしたばい。じゃっどん、これも凄か!」
ナミとレリエルはアリフレテラ大陸に広く流布するコモン・マジック。ルーン魔術とは毛色の異なる未知の呪術の応酬に目を見張る。
不動金縛り、符術、セーマンドーマンの呪壁、言霊、幻術、火界咒、兎歩、雷法、厭魅、蠱毒、持禁――。
千変万化の呪。
古今に知られた数多ある練達の技。ありとあらゆる呪術の応酬。
その中には明らかにルーン魔術とは異なる系統、術式のものもが多数あった。
霊気が渦巻き呪力が交差する。
鬼一と果心居士。二種の力が激しく入り交じり、熱気とも冷気とも知れない霊風が吹きすさぶ。
まるで戦う二人を中心に、竜巻が荒れ狂っているかのように。
激しい。
激しい、激しい、激しい。
あまりにも激しい呪術戦の余波を受け、御座の間は天守閣のある御殿ごと崩壊した。
それでもなお周囲にあるかがり火と月明かりの光の下で、なお両者は術をくり出し続ける。
レリエルとナミがあらかじめ持てる魔術、魔力のすべてを絞り出して堅固な魔法の盾を展開していなければ霊圧にさらされ、そのの身もただではすまなかっただろう。
それでもなお身体が、霊体が焙られているようだ。
「ノウマクサマンダ・バザラダンカン――」
鬼一の手が転法輪印から呪縛印を続けて組み、不動金縛りの術を発動させると同時に苦無を象った簡易式を打つ。
だがそのどちらも狙いは微妙にはずれ、果心居士にはとどかない。
「クツクツ、手元が狂ったかの? そろそろ疲れが――ッ!?」
果心居士は困惑の表情を浮かべ身を固める。
「こ、これはどうしたものか? なにゆえ身体が動かぬ!? 今のぬしの金縛りは不発に終わったはず……、はっ!」
視線を落としてそれを見た瞬間、その表情は困惑から驚愕に変わった。
金色の月光に照らされて落とすおのれの影に苦無が刺さっている。
「こ、これは影縫い! ううむ、さしもの儂もこのような忍びの術は門外漢よ、返しかたは知らぬ」
「そうか、なら詰みだな。今の状態では印も結べず、ほとんどの術は使用できないだろ。負けを認めてもらおうか」
「なんのまだまだ、無粋を承知で力業にいかせてもらおう!」
「はぁ?」
「喝ーッ!」
叫びとともに怪老の矮躯から途方もない霊力が爆発的にあふれ出た。
完全に『かかった』術を力づくで解除する。
圧倒的な霊力呪力があるからこそ可能な力業。影に刺さった苦無は地面から押し出されるように抜け落ち、そのまま影に飲み込まれた。
鬼一の影縫いは高い完成度で発動したが、果心居士の霊力呪力にくらべると、それでもまだ差があった。
技術ではなく総量の差。圧倒的なパワーの差だ。
「おぬしの呪、倍にして返すぞ!」
影が大きく伸び、うねり、漆黒の竜と化す。その咢には鬼一の苦無が牙となってならんでいた。
影の竜が猛烈な勢いで喰らわんと迫る。
それはまるで黒い瀑布のよう。
「オン・ロホウニュタ・ソワカ」
一千もの光明を発することによって天下を照らし、その光により諸苦の根源たる無明の闇や悪鬼邪気を滅尽するという日光菩薩の真言。
眩い閃光が奔り、影の竜はあっけなく消滅した。鬼一の簡易式符のみがたゆたう。
「なんと、光か」
「そうだ、光だ」
鬼一は自分の簡易式符を回収しつつ、うんざりした顔で応える。
「なるほど、まんべんなく光をあてれば影は消える。その手があったか」
あと真っ暗闇にして影そのものを消すことでも影縫いから逃れられるけどな。
そう胸中で思うもけっして口にはしない鬼一であった。
「愉快、愉快、ぬしとの術くらべ。まことに面白し。さぁ、続きじゃ」
「……いや、勝負あっただろ」
「なにを言う。儂はこのとおり健在ぞ」
「完全にかかった術を術理にもとづき解くのではなく、力づくでどうこうした時点で、この術くらべ。呪術勝負はあんたの反則負けだろ、じいさん」
「否。力業もまた技なり。呪術者が目的のためにもちいるのなら、それがなんであっても呪ぞ」
ビキリ。
これがコミックだったらこめかみに怒筋マークでも浮かんでいたことだろう。
さんざん術くらべ術くらべとごねたから、しぶしぶ『術』限定で相手をしてやって、なおこのようなもの言いである。
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