皇女サリ

冬野ハナヤ

文字の大きさ
7 / 16

第6話 シェーン

しおりを挟む

「どうすればあえるかな?」
自室へ向かう中、エリザベスと約束した青の騎士との面会の方法を考えていた。
侍女長に聞いてみればわかるかも。
「サリ」
物陰からヌッと、アレックスが姿を現した。
「・・・殿下、どうなさいましたか?」
数歩後退し距離をとる。
「今日は一回も共に食事を摂れなかったじゃないか」
不思議そうに首を傾けた。
「昨日殿下からご助言いただいた通り、講義に出席してました」
それとなく気を使いながら話をする。そうでないと何となく私の侍女長や侍女、ないと思いたいがエリザベスにも危害が及ぶのではと考えたからだ。
初めて会った日から、そんなことを脳裏で考えてしまうほど、危機感のない私でも警戒するほどにこのアレックスという男からは危ない何かを感じた。
普段は侍女長や侍女が付き添っているが今は私ひとりだ。
そのことにもっと考えを巡らすべきだった。
「サリは僕の言いなりなんだね、それでこそ僕のサリだ!」
驚いた。急に大声を出したと思ったら、大股で近寄ってきて、抱き着いてきたのだ。
「!!!」
声なんか出ない。恐怖でしかない。拳で肩口を叩くが興奮したアレックスは気づかない。
怖い!!!!!!!!!!!
「何をされているんですか?」
アレックスを引きはがし、私を守るように間に割って入ってきた長身の若い男。背中の外套には騎士団のユニコーンのエンブレムがついていた。
「王族直属の騎士団・・・」
アレックスの顔が急に恐怖で慄いていた。
「ヒ・・・ヒイイイィイイ!!!」
目を見開き絶叫しながら手と足を揃えて走り去った行った。
アレックスの姿が見えなくなったところで騎士団員は私の前で跪いた。
「遅れて申し訳ありませんでした」
何が起こっているのかわからなくてただただ彼を見下ろしていた。
「サリ様!!!」
侍女長が駆け寄ってくる。
「大丈夫でしたか?!」
お怪我は?と、泣きそうな顔で私の顔や頭を撫でまわした。
急に力が抜けて、涙が零れた。

力が入らない体を支えられ、自室にもどった。
侍女長の話だと、私が講義に出ているときに陛下から呼び出しがあったらしい。話を聞くと私に護衛騎士を与えてくださったとのことだった。
講義が終わる時間に侍女長と護衛騎士が講師室に向かうとすでに私は退室した後で1時間近く私を探し回っていたとのことだった。
「どこにいらっしゃったのですか?」
侍女長が入れてくれたココアをすすりながら、どう誤魔化そうかと考えを巡らしていたが変に噓をつくと今さっき会ったばかりの護衛騎士は騙せても12年の付き合いになる侍女長は騙せないため言葉を濁すことにした。
「少し庭園を回っていたら迷ってしまって、庭園のベンチに座り講義の振り返りをしていました」
侍女長の隣には護衛騎士が立っている。騎士自体見慣れないため思わず目を逸らすことを忘れる。騎士は直立不動だった。
侍女長は訝しんだ様子だったが安堵のため息をついた。
「そうですか、何となく腑に落ちないですがまあ、わかりました」
何とか落としてくれ、頼む。
「・・・あの、お名前を伺っても?」
何とか話をすり替えようと護衛騎士に話しかけてみる。
すると再び、傅く。
「王家直属護衛騎士団副隊長シェーンと申します」
お・・・?
「本日より王命を受け、サリ様の身辺警護を承りました」
身辺警護?
終始キョトン顔の私に侍女長が一つ咳払い。
「サリ様の護衛騎士としてこれからはシェーン様と行動を共にしていただきます」
「え?!」
それだとまるっきり自由が利かなくなる。そう言おうと思ったが、先ほどの侍女長の
私を心から心配しきっていた表情を思い出すとわがままなことは言い出せなかった。
「・・・これからよろしくお願いいたします」

時間は深夜2時頃だろうか。全く眠れない。ココア効果で気持ちは落ち着いたが目が冴えてしまっていた。
ふと、自室の扉の向こうが気になる。
護衛騎士なんて就いたことがなかったためもう休んだのかゆっくりと扉を開けて確かめてみることにした。
「どうかなさいましたか、サリ様」
開けた扉は数ミリだったのにすでに気づかれてしまった。
扉の向こうではシェーンが扉を背に立っていた。しっかり顎を上げ見上げないとシェーンの顔が見えない。外套のエンブレムとその姿には不思議な感覚を覚えた。
「今日は助けてくれてありがと」
閉じかけた扉の隙間から言い忘れていた言葉を伝える。
シェーンは少しだけ振り向き笑った気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...