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終わりと始まり

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 -ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。
 電車に揺られながら思う。今までの旅路は果たしていいものだったのだろうか。自分のしたいこと、やりたいことが見つからずに家を飛び出しそこら中を歩き、時には船に乗り、時には今のように電車に揺られたりと。今思えばよく金が続いただろう。金がなくなるたびに短期雇用のバイトをしたりしていたが、それでも我ながら頑張ったと思う。
 今この電車が向かっているのは地元。つまり俺の住んでいた町だ。
 旅の中で多くの人と関わった。疲れた顔のサラリーマン、土方の親父、髭面のホームレス、無邪気な子供たち。それぞれが夢を語り、今の苦しみを耐えていた。中でもホームレスは傑作だっただろう。
「俺はなぁ、いつか南の島に行ってウクレレを弾くんだ。そんでもって、かわゆいねーちゃん達と毎日豪勢な生活をするのさ。どうだ?いいだろ?」
 このホームレス、もとはミュージシャンを目指していたらしいが、才能が見いだせず、だが他には何もなく今の生活をしているらしい。
 「そうだ兄ちゃん、旅が終わってもよ帰る場所なかったらこっち来いよ。段ボールハウス作ってやるぜ。」
 なんとも心強い言葉。これがきっかけで帰ってみようと思ったのだ。
 駅に電車がとまる。ここだ。地元の地名を見るだけで何かこみあげてくるものがある。駅に降りると懐かしい空気が俺を包んだ。
 なにも変わらないんだなぁ。
 試しに町を歩いてみる。あ、ここの駄菓子屋なくなってる。こんなところにハンコ屋なんてあったっけ。ああそうだ、思い出した。かーちゃんハンコ作ってたっけ。ぶらぶら歩くと、いつの間にか家の前についていた。よし。入ってみよう。
 ノブを握って見たがあかない。チャイムを押して待つこと数秒。ドアが開いた。
「はーい、どちら様?」
 俺を迎えたのは見覚えのない顔。はっと家の標識を見る。苗字が変わっていた。
「ここに、住んでいた人知りませんか?」
俺の問いに、不思議そうな顔して返す。
「え、確か夫婦ともに亡くなって一人息子は行方不明らしいけど…」
「分かりました。失礼します。」
「え、もしかして行方不明の!?まって!」
こんなところにいたくなかったが呼ばれてびくっと反応した。
「これ、部屋にあったんだけど…、あなたのじゃない?」
そこには、一通の手紙があった。自分の名前宛に書いてある手紙を受け取ると、そのまま走って逃げた。なぜかは分からないが逃げ出していた。
 幼いころよく遊んだ公園のベンチに座り、ゆっくりと封を開けた。
『この手紙を読むころには私たちがどうなっているかは分かりません。ですが、一つ、伝えたいことがあります。あなたが関わってきた人は皆、あなたとの再会を望んでいます。それは紛れもない事実です。そのことだけは忘れないでください。 父、母より。』
 読み終えるころには涙が止まらなかった。俺に帰る場所があったのか、そんなことにも気づかずに家を飛び出していたのか。なんて馬鹿なのだろうか。
 ひとしきり泣き終えると、すっと立ち上がった。記憶の限り、俺と関わってくれた人たちに感謝を伝える旅に出るために。
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