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海洋国編
第19話:一時間の価値
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伯爵領メント、会談室。
長卓の中央を挟み、
帝国側と王国側は向かい合ったまま、席を立っていなかった。
ただ一つ違うのは――
ダスメア海洋国側だけが、卓の端、部屋の角へと身を寄せていることだ。
それは、皇太子アルトの言葉によって自然と生まれた配置だった。
「相談することは構わない
ただし、この部屋を出ることは認めない」
その条件が、
“逃げ場のない話し合い”を、この角に作り出していた。
国王レオニスは、声を潜めて言った。
「……率直に言え」
「属国という道は、本当に残っていると思うか」
誰もすぐには答えなかった。
答えが、あまりにも重かったからだ。
最初に口を開いたのは、宰相マルセルだった。
「陛下。
あれは選択肢ではありません」
「時間を与えられているだけです」
第一王子クラウスが、歯を噛みしめる。
「属国とは“内部統治を任される国”だ」
「だが我々は、その内部から帝国を裏切った」
視線が、自然と――
第二王子リヒトに集まる。
彼は、何も言わない。
言える立場ではなかった。
「属国になった瞬間から」
南方港湾公爵ローレンが低く言う。
「我々は、常時監視対象になる」
「王家が残る限り、“次の火種”を警戒され続ける」
「……そして」
宰相が、静かに追い打ちをかける。
「二度目は、ありません」
沈黙。
部屋の反対側では、
アルトが一言も発さず、静かに座っている。
だが、その沈黙こそが――
「もう結論は見えている」という無言の宣告だった。
国王は、苦しげに息を吐く。
「編入、という言葉の意味は理解している」
「国名は消える。王家も消える」
「……だが」
クラウスが、拳を握った。
「国民は、残る」
「帝国の法の下で、
少なくとも“安定”は保証される」
宰相が、ゆっくりと頷く。
「属国とは、猶予です」
「編入とは、清算です」
「帝国は、猶予を与えるつもりがない」
その言葉が、決定打だった。
国王は、目を閉じる。
王としての誇り。
国としての歴史。
海とともに生きてきた記憶。
それらすべてを、
この角で、静かに手放す覚悟を決める。
やがて、国王は目を開いた。
「……私は」
声は低く、しかし揺れていなかった。
「国を守る王ではなく」
「民を生かす王であることを選ぶ」
誰も反対しなかった。
できなかった。
「ダスメア海洋国は――」
一拍。
「帝国編入を、受け入れる」
その言葉が発せられた瞬間、
この国は“国家”であることを終えた。
国王は、最後にリヒトを見る。
「お前の行為が、この結論を招いた」
「身柄は、帝国に引き渡す」
第二王子は、ゆっくりと目を閉じた。
その沈黙が、この国の罪と終わりを、すべて物語っていた。
国王は、体を正し、視線を帝国側の超卓の中央へ戻す。
そして――
アルトと、真正面から目を合わせた。
もう、逃げ場はない。
次に口を開くのは、
国家としての“最終回答”だった。
長卓の中央を挟み、
帝国側と王国側は向かい合ったまま、席を立っていなかった。
ただ一つ違うのは――
ダスメア海洋国側だけが、卓の端、部屋の角へと身を寄せていることだ。
それは、皇太子アルトの言葉によって自然と生まれた配置だった。
「相談することは構わない
ただし、この部屋を出ることは認めない」
その条件が、
“逃げ場のない話し合い”を、この角に作り出していた。
国王レオニスは、声を潜めて言った。
「……率直に言え」
「属国という道は、本当に残っていると思うか」
誰もすぐには答えなかった。
答えが、あまりにも重かったからだ。
最初に口を開いたのは、宰相マルセルだった。
「陛下。
あれは選択肢ではありません」
「時間を与えられているだけです」
第一王子クラウスが、歯を噛みしめる。
「属国とは“内部統治を任される国”だ」
「だが我々は、その内部から帝国を裏切った」
視線が、自然と――
第二王子リヒトに集まる。
彼は、何も言わない。
言える立場ではなかった。
「属国になった瞬間から」
南方港湾公爵ローレンが低く言う。
「我々は、常時監視対象になる」
「王家が残る限り、“次の火種”を警戒され続ける」
「……そして」
宰相が、静かに追い打ちをかける。
「二度目は、ありません」
沈黙。
部屋の反対側では、
アルトが一言も発さず、静かに座っている。
だが、その沈黙こそが――
「もう結論は見えている」という無言の宣告だった。
国王は、苦しげに息を吐く。
「編入、という言葉の意味は理解している」
「国名は消える。王家も消える」
「……だが」
クラウスが、拳を握った。
「国民は、残る」
「帝国の法の下で、
少なくとも“安定”は保証される」
宰相が、ゆっくりと頷く。
「属国とは、猶予です」
「編入とは、清算です」
「帝国は、猶予を与えるつもりがない」
その言葉が、決定打だった。
国王は、目を閉じる。
王としての誇り。
国としての歴史。
海とともに生きてきた記憶。
それらすべてを、
この角で、静かに手放す覚悟を決める。
やがて、国王は目を開いた。
「……私は」
声は低く、しかし揺れていなかった。
「国を守る王ではなく」
「民を生かす王であることを選ぶ」
誰も反対しなかった。
できなかった。
「ダスメア海洋国は――」
一拍。
「帝国編入を、受け入れる」
その言葉が発せられた瞬間、
この国は“国家”であることを終えた。
国王は、最後にリヒトを見る。
「お前の行為が、この結論を招いた」
「身柄は、帝国に引き渡す」
第二王子は、ゆっくりと目を閉じた。
その沈黙が、この国の罪と終わりを、すべて物語っていた。
国王は、体を正し、視線を帝国側の超卓の中央へ戻す。
そして――
アルトと、真正面から目を合わせた。
もう、逃げ場はない。
次に口を開くのは、
国家としての“最終回答”だった。
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