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本編
11.エルネストの元相棒
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ベッドの上で悶え転がった割には、ルーカスはぐっすりと眠って、朝、いい匂いに目を覚ました。
キッチンに立ってエルネストが朝食を作ってくれている。
起きて着替えようとすると、洗濯機で洗濯乾燥された下着がアイロンをかけられて置いてあるのが見える。スーツのシャツにもピシッとアイロンがかかっていた。
「おはよう、もう少しで朝食ができるから待ってて。朝はコーヒー? それとも、紅茶?」
「エルネストに合わせるよ」
「それじゃ、紅茶にしようか」
朝食の準備をしてくれたエルネストが、手早くベッドをソファに戻し、布団とシーツと枕を片付け、テーブルに皿を置く。皿の上にはバターの塗られたトーストと目玉焼きとカリカリに焼かれたベーコンとサラダがワンプレート方式で並べられていた。
朝食はどこかで買って食べるか、食べないことも多いので、ルーカスは朝からしっかりと用意されたプレートに気圧されてしまう。
「先に食べてていいよ。紅茶を入れてくるからね」
「悪いよ。待ってる」
バスルームで着替えさせてもらって戻ってきたルーカスはソファに座ってエルネストを待っていた。
「こんなちゃんとした朝ご飯は施設にいたとき以来かもしれない」
「君、昼も食べないのに、朝も食べてないの!?」
「休憩室で食べてないだけだ。ちょっとは口にする」
言い訳をしたが、飲む栄養ゼリーとか固形のビスケット型の栄養バランス食品とか、そういうものしか朝も昼も口にしていないルーカスにとっては、エルネストの食生活はあまりにも違って驚かされるものだった。
独身の男性で警察官なんてみんな自分と同じような生活をしていると思っていた。
こんな風に丁寧な暮らしをしているエルネストのような男性がいるだなんて、想像もしなかった。
茶葉から入れた紅茶は香り高く部屋中にいい匂いを漂わせる。
あまり食べることがないだけで、食欲自体がないわけではないので、ルーカスは朝食のプレートを完食して紅茶に牛乳を入れて飲んだ。
エルネストも完食して紅茶を飲んでいる。
「僕は時間があるけど、ルーカスは急いだ方がいいんじゃないかな?」
「そうだった。……色々、ありがとう」
「気にしないで。僕は君の相棒なんだからね」
一晩過ごしたエルネストの部屋はあまりにも居心地がよかった。後ろ髪引かれる気分で駐車場に降りて行って車に乗ると、ルーカスは自分のマンションに戻る。
素早く着替えをして車で警察署に出勤すると、エルネストも出勤してきたところだった。
「おはよう、ルーカス」
「お、おはよう、エルネスト」
エルネストの部屋に泊まったことなど忘れたかのように爽やかに挨拶してくるエルネストに、ルーカスは昨晩のことをエルネストがルーカスに配慮して内緒にしてくれるのだと感じる。ルーカスにとっては、停電でエルネストに弱みを見せたことも、保護対象者を守れなくてエルネストに苦しみを打ち明けようと甘えてしまったことも、他の同僚たちには知られたくないことだった。
そのことをエルネストはよく理解して、昨晩のことは二人だけの秘密にしてくれようとしている。
タイムカードを押して、デスクに着くと、保護対象者の検死報告がパソコンに届いていた。お腹にいた胎児のDNA鑑定も終わっている。
DNA鑑定から、お腹にいた胎児は隣りの州の大金持ちだと分かる。若いころに軽犯罪を犯して、DNAのデータが残っていたのだ。
「バウンド……いや、アーリン」
「え!? ルーカスが私をアーリンって呼んだ!?」
「あの……いや、その……これまでは態度が悪くてすまなかった。許してくれとは言わないが、これからは改善したいと思っている」
「謝ったー!?」
椅子から飛び上がるくらいに驚いているアーリンにそれだけ告げて、続いてパーシーの方を見る。
「パーシーも……」
「分かった。エルネストがルーカスを変えてくれたんだね! すごいや、エルネスト!」
謝っているのは自分なのにエルネストの方を評価されるのは若干気に食わないところもあったが、図星なので何も言えない。
心を入れ替えようとしているルーカスを、アーリンもパーシーも驚きながらも快く受け入れてくれる。
「隣りの州に行ってくる。この大金持ちに事情聴取してくる」
「ルーカス、行こう」
データの入った端末をカバンに入れたルーカスに、エルネストが頷いて一緒に行ってくれる意思を示す。
エルネスト共に行った隣りの州の警察署で、杖を突いた黒髪の男性が迎えてくれた。
「エルネスト、会えて嬉しいよ」
「クロヴィス、新しい相棒なんだ。ルーカスだよ」
「よろしく、ルーカス。私はクロヴィス・ニベル」
「初めまして、ルーカス・ソロウです」
親し気な様子を見ているだけで、ルーカスはクロヴィスがエルネストの前の相棒だと察する。エルネストは白銀の狼だったが、クロヴィスは漆黒の狼なのだろう。
「こっちの部屋だ。聴取には私も同席させてもらう」
「クロヴィスでよかった。州をまたぐ事件だと、警察官同士が反発しあうこともあるからね」
「向こうの州でもうまくやれているようで安心したよ」
和やかに話すクロヴィスとエルネストに、ルーカスは一抹の寂しさを感じていた。クロヴィスとエルネストの間には長年一緒にいた独特の空気があって、そこに入り込めない気配がする。
それに、クロヴィスはエルネストの特別な相手だと言っていた。
エルネストをどんな風に抱いたのだろうと考えてから、エルネストが抱かれる方だとは限らないとルーカスは頭を振って邪念を振り払おうとする。
しかし、なかなか邪念が晴れてくれない。
クロヴィスがエルネストをどんな風に抱いたのか考えてしまうということは、ルーカスもエルネストを抱きたいと思っているということだ。エルネストの方が体格はいいし、年上なのだが、ルーカスも男なので抱く方に回りたいという深層心理が出てしまった。
まだ誰も抱いたことがない、抱かれたこともないルーカスだけに、エルネストの昨夜のちらりと見えた分厚い胸の谷間を思い出すだけで、股間が反応しそうになる。
仕事中だと必死に落ち着こうとするのだが、エルネストをルーカスが性的な目で見てしまうのはもうどうしようもなかった。
「初めまして、隣りの州の警察人外課のルーカス・ソロウと言います」
「同じく、エルネスト・デュマです」
通された部屋で大金持ちの人外は不安そうな顔をして椅子に座っていた。
「私は何も知らなかったんです。代理出産をしてくれる女性とはネットで知り合いました。手順通りに精子を採取して送って、金を振り込んだんです。代理出産は違法ではないでしょう?」
大金持ちの人外の言うとおりだった。代理出産自体は違法ではない。違法なのはそれを無理やりにさせた人身売買組織の方である。
「採取した精子をどこに送ったか覚えていますか?」
「記録しています。データを送ります」
本当に信じていいのか分からないが、大金持ちの人外は自分は正規の手続きで代理出産を頼んだと思っていると主張し、人身売買組織の存在は知らなかったと言っている。
本当かは分からないが、大金持ちの人外の言い分も聞いておくのが警察というものだ。
採取した精子を送った住所やネットでのやり取りをした端末を任意で提出してもらって、エルネストとルーカスとクロヴィスは部屋を出た。
「クロヴィス、あの男にしばらく監視をつけておいてくれ」
「分かった。エルネスト、思ったより大きな事件かもしれない。気を付けて」
「ありがとう」
クロヴィスに指示をするエルネストの様子は慣れていて親しげだ。間に入れない気配を感じ取って黙っているルーカスに、エルネストが顔を向ける。
「ルーカス、証拠品を科学捜査班に届けよう」
「分かった」
車に乗り込んで、ルーカスとエルネストは科学捜査班に端末や住所のデータを届けた。
キッチンに立ってエルネストが朝食を作ってくれている。
起きて着替えようとすると、洗濯機で洗濯乾燥された下着がアイロンをかけられて置いてあるのが見える。スーツのシャツにもピシッとアイロンがかかっていた。
「おはよう、もう少しで朝食ができるから待ってて。朝はコーヒー? それとも、紅茶?」
「エルネストに合わせるよ」
「それじゃ、紅茶にしようか」
朝食の準備をしてくれたエルネストが、手早くベッドをソファに戻し、布団とシーツと枕を片付け、テーブルに皿を置く。皿の上にはバターの塗られたトーストと目玉焼きとカリカリに焼かれたベーコンとサラダがワンプレート方式で並べられていた。
朝食はどこかで買って食べるか、食べないことも多いので、ルーカスは朝からしっかりと用意されたプレートに気圧されてしまう。
「先に食べてていいよ。紅茶を入れてくるからね」
「悪いよ。待ってる」
バスルームで着替えさせてもらって戻ってきたルーカスはソファに座ってエルネストを待っていた。
「こんなちゃんとした朝ご飯は施設にいたとき以来かもしれない」
「君、昼も食べないのに、朝も食べてないの!?」
「休憩室で食べてないだけだ。ちょっとは口にする」
言い訳をしたが、飲む栄養ゼリーとか固形のビスケット型の栄養バランス食品とか、そういうものしか朝も昼も口にしていないルーカスにとっては、エルネストの食生活はあまりにも違って驚かされるものだった。
独身の男性で警察官なんてみんな自分と同じような生活をしていると思っていた。
こんな風に丁寧な暮らしをしているエルネストのような男性がいるだなんて、想像もしなかった。
茶葉から入れた紅茶は香り高く部屋中にいい匂いを漂わせる。
あまり食べることがないだけで、食欲自体がないわけではないので、ルーカスは朝食のプレートを完食して紅茶に牛乳を入れて飲んだ。
エルネストも完食して紅茶を飲んでいる。
「僕は時間があるけど、ルーカスは急いだ方がいいんじゃないかな?」
「そうだった。……色々、ありがとう」
「気にしないで。僕は君の相棒なんだからね」
一晩過ごしたエルネストの部屋はあまりにも居心地がよかった。後ろ髪引かれる気分で駐車場に降りて行って車に乗ると、ルーカスは自分のマンションに戻る。
素早く着替えをして車で警察署に出勤すると、エルネストも出勤してきたところだった。
「おはよう、ルーカス」
「お、おはよう、エルネスト」
エルネストの部屋に泊まったことなど忘れたかのように爽やかに挨拶してくるエルネストに、ルーカスは昨晩のことをエルネストがルーカスに配慮して内緒にしてくれるのだと感じる。ルーカスにとっては、停電でエルネストに弱みを見せたことも、保護対象者を守れなくてエルネストに苦しみを打ち明けようと甘えてしまったことも、他の同僚たちには知られたくないことだった。
そのことをエルネストはよく理解して、昨晩のことは二人だけの秘密にしてくれようとしている。
タイムカードを押して、デスクに着くと、保護対象者の検死報告がパソコンに届いていた。お腹にいた胎児のDNA鑑定も終わっている。
DNA鑑定から、お腹にいた胎児は隣りの州の大金持ちだと分かる。若いころに軽犯罪を犯して、DNAのデータが残っていたのだ。
「バウンド……いや、アーリン」
「え!? ルーカスが私をアーリンって呼んだ!?」
「あの……いや、その……これまでは態度が悪くてすまなかった。許してくれとは言わないが、これからは改善したいと思っている」
「謝ったー!?」
椅子から飛び上がるくらいに驚いているアーリンにそれだけ告げて、続いてパーシーの方を見る。
「パーシーも……」
「分かった。エルネストがルーカスを変えてくれたんだね! すごいや、エルネスト!」
謝っているのは自分なのにエルネストの方を評価されるのは若干気に食わないところもあったが、図星なので何も言えない。
心を入れ替えようとしているルーカスを、アーリンもパーシーも驚きながらも快く受け入れてくれる。
「隣りの州に行ってくる。この大金持ちに事情聴取してくる」
「ルーカス、行こう」
データの入った端末をカバンに入れたルーカスに、エルネストが頷いて一緒に行ってくれる意思を示す。
エルネスト共に行った隣りの州の警察署で、杖を突いた黒髪の男性が迎えてくれた。
「エルネスト、会えて嬉しいよ」
「クロヴィス、新しい相棒なんだ。ルーカスだよ」
「よろしく、ルーカス。私はクロヴィス・ニベル」
「初めまして、ルーカス・ソロウです」
親し気な様子を見ているだけで、ルーカスはクロヴィスがエルネストの前の相棒だと察する。エルネストは白銀の狼だったが、クロヴィスは漆黒の狼なのだろう。
「こっちの部屋だ。聴取には私も同席させてもらう」
「クロヴィスでよかった。州をまたぐ事件だと、警察官同士が反発しあうこともあるからね」
「向こうの州でもうまくやれているようで安心したよ」
和やかに話すクロヴィスとエルネストに、ルーカスは一抹の寂しさを感じていた。クロヴィスとエルネストの間には長年一緒にいた独特の空気があって、そこに入り込めない気配がする。
それに、クロヴィスはエルネストの特別な相手だと言っていた。
エルネストをどんな風に抱いたのだろうと考えてから、エルネストが抱かれる方だとは限らないとルーカスは頭を振って邪念を振り払おうとする。
しかし、なかなか邪念が晴れてくれない。
クロヴィスがエルネストをどんな風に抱いたのか考えてしまうということは、ルーカスもエルネストを抱きたいと思っているということだ。エルネストの方が体格はいいし、年上なのだが、ルーカスも男なので抱く方に回りたいという深層心理が出てしまった。
まだ誰も抱いたことがない、抱かれたこともないルーカスだけに、エルネストの昨夜のちらりと見えた分厚い胸の谷間を思い出すだけで、股間が反応しそうになる。
仕事中だと必死に落ち着こうとするのだが、エルネストをルーカスが性的な目で見てしまうのはもうどうしようもなかった。
「初めまして、隣りの州の警察人外課のルーカス・ソロウと言います」
「同じく、エルネスト・デュマです」
通された部屋で大金持ちの人外は不安そうな顔をして椅子に座っていた。
「私は何も知らなかったんです。代理出産をしてくれる女性とはネットで知り合いました。手順通りに精子を採取して送って、金を振り込んだんです。代理出産は違法ではないでしょう?」
大金持ちの人外の言うとおりだった。代理出産自体は違法ではない。違法なのはそれを無理やりにさせた人身売買組織の方である。
「採取した精子をどこに送ったか覚えていますか?」
「記録しています。データを送ります」
本当に信じていいのか分からないが、大金持ちの人外は自分は正規の手続きで代理出産を頼んだと思っていると主張し、人身売買組織の存在は知らなかったと言っている。
本当かは分からないが、大金持ちの人外の言い分も聞いておくのが警察というものだ。
採取した精子を送った住所やネットでのやり取りをした端末を任意で提出してもらって、エルネストとルーカスとクロヴィスは部屋を出た。
「クロヴィス、あの男にしばらく監視をつけておいてくれ」
「分かった。エルネスト、思ったより大きな事件かもしれない。気を付けて」
「ありがとう」
クロヴィスに指示をするエルネストの様子は慣れていて親しげだ。間に入れない気配を感じ取って黙っているルーカスに、エルネストが顔を向ける。
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