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本編
18.ことの顛末
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これまでの仕事では、ルーカスは犯人逮捕の時点で怪我をして入院治療が必要になっている、怪我でデスク仕事に回されているかだった。デスク仕事が苦手で好きではないルーカスにとってはそれは拷問のような時間だった。
自分が怪我をしている間、相棒がどれだけ心配してくれていたのか、デスク仕事でルーカスが現場に出られない間、相棒も一緒にデスク仕事をしてくれていたことなど、今になって気付くことがたくさんある。
ルーカスは今回の件に関しては、率先してデスク仕事をこなしていた。
「被害者の聞き取りに行ってくる」
「ルーカス、大丈夫?」
「平気だ。一緒に来てくれるか?」
「僕はルーカスの相棒だよ。もちろん行くよ」
エルネストはそんなルーカスの一番近くにいてくれた。
保護された被害者に聞き取りをすれば、組織の構成員は捕まえた二人以外にもいて、捕まえた二人が基本的に被害者の面倒を見ていたが、それ以外の構成員が来て、子どもや少年少女を連れ出すということもあったらしい。
人外は人外同士でお互いに自分たちが人外だということを感じられるので、構成員が全員人外であることは間違いなかった。
被害者の中でも連れ出されて戻ってきていないものもいるという。
「私に親切にしてくれたお兄さんが、警察の人外課のひとたちが助けに来る二日前に連れ出されて、戻ってきていないんです。あのお兄さんを助けてください」
「僕に優しくしてくれたお姉さんも戻ってきてない」
聞き込みを続けたところ、二人の青年期くらいの男女の人外が一斉検挙に入る二日前に連れ出されて、戻ってきていないということだった。
廃屋を調べている科学捜査班にもそのことを伝えて、その二人のDNA情報が廃屋の地下室に残っていないか調べてもらう。
それと同時に、一斉検挙の二日前に国外へ脱出した不審な飛行機がないかを調べていけば、一つの結論に辿り着いた。
「一斉検挙の前日に隣りの州の空港から自家用ジェットが飛び立っている。目的地はフランス」
「今ならまだ到着してすぐで、体制も整っていないだろう。フランスの警察の人外課に連絡を」
ルーカスとエルネストが被害者に聞き込みをして得た情報は犯人逮捕に役立った。
フランスの警察の人外課から二人の青年期の男女を連れた人身売買組織の構成員が捕まったと連絡があったのはそれからすぐのことだった。
全員殲滅とまではいかなかったが、被害者はこれで全員助けられた。
「エルネスト、俺は被害者を助けられた。助けられたぞ」
「ルーカス、よく頑張ったね。ルーカスが丁寧に被害者に聞き込みをした成果だよ」
「ありがとう、エルネスト」
組織の殲滅には至らなかったが、被害者だけでも全員救えたことはルーカスにとってはものすごい自信になっていた。
それも全部エルネストがいてくれたおかげだ。
アーリンもパーシーも最近はルーカスに対する態度が変わってきていた。
ルーカスが変わったからアーリンもパーシーも態度を変えてくれたのだと理解できる。
「デスク仕事なんてやる価値もないと思っていたが、大事な仕事だと思えた。被害者への聞き込みも地味だが必要な仕事だった。俺はそういうことに気付かずに、本当に恥ずかしい」
アーリンとパーシーの前で「すまなかった」と謝れば、アーリンもパーシーもルーカスを責めなかった。
「嫌がってはいたけど仕事はちゃんとしてたもの」
「これからは仕事の意味が分かってしてくれるのかと思うと安心するよ」
「どんな仕事も最終的には被害者の救出のためになるかもしれない。どんな仕事も必要だからしてるんだ。その意味が分かったよ」
「エルネストが来てからルーカスが変わってくれて本当によかったわ」
「君たち、まだ一緒に暮らしているの? もしかして二人は僕たちに言ってないことがあるんじゃない?」
「そ、そ、そんなこと、大人なんだから、言わないこともあるだろう!」
「まぁ、そりゃそうだよね」
パーシーには気付かれている気がする。
エルネストは自分を愛してくれていて、両思いだということを世界中に公表したいのだが、公表してしまえば相棒でいられなくなってしまうかもしれない。エルネストがいなければ仕事に支障をきたすくらいルーカスはエルネストを信頼しているので、相棒でなくなられるのは困る。
エルネストと相棒でいて、更に恋愛関係も公にできれば一番いいのだが、相棒関係になってしまうと、恋人同士だと私情を挟んでしまう可能性があるので、諮問会議にかけられかねない。それはルーカスにとっては本意ではなかった。
「エルネスト、カウンセリングが入っているんだ」
「分かったよ。一緒に行こう」
カウンセリングも業務の一環なのでエルネストも一緒に連れてくるように言われていたことを思い出し、ルーカスが誘えば、エルネストは頷いて一緒に来てくれる。
「カウンセリングも一緒なの?」
「できてるっていうか、保護者みたいだね」
保護者みたいと言われて、ルーカスは否定できない気がしていた。エルネストにそれだけ頼っている自覚はある。
カウンセリングルームのドアを叩くとジャスティンがドアを開けてくれた。ソファに招かれて、一人掛けのソファ二つにエルネストと並んで座る。
「初めまして、エルネスト・デュマです。ルーカスの相棒をしています」
「ジャスティン・マクマートリーです。ジャスティンと呼んでください。ルーカスとエルネストは恋愛関係にあるのですか?」
単刀直入に問いかけられて、誤魔化そうとするルーカスを遮って、エルネストが答えた。
「そうです。カウンセラーには守秘義務がありますよね?」
「ありますね。この話はどこにも漏らしません」
「まだ恋愛関係になったばかりですが、お互いにいい関係だと思います」
誠実に答えるエルネストの姿にルーカスは感動してしまう。エルネストは自分のことを誤魔化さずに恋人だと認めてくれた。それがエルネストの愛情の深さのような気がして、ルーカスは何も言えなくなってしまう。
「ルーカスはあなたをとても信頼しているようです。それがいい方向にルーカスを向かわせているのではないかと私は考えています」
「ルーカスの幼少期のことも、警察学校でのことも聞いています。ルーカスとはよく話をしています」
「私のカウンセリングよりも、あなたとの話の方がルーカスにとっては必要なことかもしれない。信頼できるひとに自分の過去を話せるというのはとても大事なことです」
ジャスティンの言葉にルーカスは口を開いた。
「エルネストがいたら、灯りを全部消すのは無理でも、手元のライトだけで眠れるようになりました」
「それは進歩していますね」
「もしかすると、エルネストがいたら暗闇も怖くなくなるかもしれないと思っています」
エルネストがいてくれたら、ルーカスは暗闇で閉じ込められていた過去を克服できるかもしれない。
「手元のライトだけで眠るのは、治療の段階として進めてみようかと思っていました。もうしていたんですね」
「最初はとても怖かったけれど、エルネストがいてくれれば、なんとか耐えられたし、眠れました」
ルーカスの話を聞いて、ジャスティンはパソコンに打ち込んでいた。
「このカルテはあなたたちの上司も見るので、恋愛関係については記載していません。今後は異変を感じたときにだけ、予約を取ってカウンセリングに来てください。それと、もし恋愛関係を公表するつもりなら、相棒関係が崩れないように私でよければ口添えをしましょう」
必要書類にサインをもらって、ルーカスは定期的にカウンセリングを受ける生活から解放された。必要書類はジャンルカに提出すれば、ジャンルカがジャスティンから話を聞いて、ルーカスが職場で働けることを証明してくれる。
「ありがとうございました」
「また何かあったら、いつでも来てください。小さなことでも気付いたら連れてくるようにお願いしますよ」
ルーカスだけでなくエルネストにもお願いするジャスティンに、ルーカスもエルネストも頭を下げてカウンセリングルームを辞した。
カウンセリングの結果の書類をジャンルカに提出すると、ジャンルカは満足したように頷いていた。
「ルーカスがカウンセリングを受ける気になって、カウンセリングで改善が見られたということで安心している。今後も油断せずに何かあったらすぐにカウンセリングを受けるように」
「分かりました、ジャンルカ課長」
ジャスティンならばカウンセリングを受けても嫌ではないとルーカスも思い始めていた。
人身売買組織からその時点での被害者を全員救いだしたとして、ルーカスの所属する州の警察の人外課は表彰されたのだった。
自分が怪我をしている間、相棒がどれだけ心配してくれていたのか、デスク仕事でルーカスが現場に出られない間、相棒も一緒にデスク仕事をしてくれていたことなど、今になって気付くことがたくさんある。
ルーカスは今回の件に関しては、率先してデスク仕事をこなしていた。
「被害者の聞き取りに行ってくる」
「ルーカス、大丈夫?」
「平気だ。一緒に来てくれるか?」
「僕はルーカスの相棒だよ。もちろん行くよ」
エルネストはそんなルーカスの一番近くにいてくれた。
保護された被害者に聞き取りをすれば、組織の構成員は捕まえた二人以外にもいて、捕まえた二人が基本的に被害者の面倒を見ていたが、それ以外の構成員が来て、子どもや少年少女を連れ出すということもあったらしい。
人外は人外同士でお互いに自分たちが人外だということを感じられるので、構成員が全員人外であることは間違いなかった。
被害者の中でも連れ出されて戻ってきていないものもいるという。
「私に親切にしてくれたお兄さんが、警察の人外課のひとたちが助けに来る二日前に連れ出されて、戻ってきていないんです。あのお兄さんを助けてください」
「僕に優しくしてくれたお姉さんも戻ってきてない」
聞き込みを続けたところ、二人の青年期くらいの男女の人外が一斉検挙に入る二日前に連れ出されて、戻ってきていないということだった。
廃屋を調べている科学捜査班にもそのことを伝えて、その二人のDNA情報が廃屋の地下室に残っていないか調べてもらう。
それと同時に、一斉検挙の二日前に国外へ脱出した不審な飛行機がないかを調べていけば、一つの結論に辿り着いた。
「一斉検挙の前日に隣りの州の空港から自家用ジェットが飛び立っている。目的地はフランス」
「今ならまだ到着してすぐで、体制も整っていないだろう。フランスの警察の人外課に連絡を」
ルーカスとエルネストが被害者に聞き込みをして得た情報は犯人逮捕に役立った。
フランスの警察の人外課から二人の青年期の男女を連れた人身売買組織の構成員が捕まったと連絡があったのはそれからすぐのことだった。
全員殲滅とまではいかなかったが、被害者はこれで全員助けられた。
「エルネスト、俺は被害者を助けられた。助けられたぞ」
「ルーカス、よく頑張ったね。ルーカスが丁寧に被害者に聞き込みをした成果だよ」
「ありがとう、エルネスト」
組織の殲滅には至らなかったが、被害者だけでも全員救えたことはルーカスにとってはものすごい自信になっていた。
それも全部エルネストがいてくれたおかげだ。
アーリンもパーシーも最近はルーカスに対する態度が変わってきていた。
ルーカスが変わったからアーリンもパーシーも態度を変えてくれたのだと理解できる。
「デスク仕事なんてやる価値もないと思っていたが、大事な仕事だと思えた。被害者への聞き込みも地味だが必要な仕事だった。俺はそういうことに気付かずに、本当に恥ずかしい」
アーリンとパーシーの前で「すまなかった」と謝れば、アーリンもパーシーもルーカスを責めなかった。
「嫌がってはいたけど仕事はちゃんとしてたもの」
「これからは仕事の意味が分かってしてくれるのかと思うと安心するよ」
「どんな仕事も最終的には被害者の救出のためになるかもしれない。どんな仕事も必要だからしてるんだ。その意味が分かったよ」
「エルネストが来てからルーカスが変わってくれて本当によかったわ」
「君たち、まだ一緒に暮らしているの? もしかして二人は僕たちに言ってないことがあるんじゃない?」
「そ、そ、そんなこと、大人なんだから、言わないこともあるだろう!」
「まぁ、そりゃそうだよね」
パーシーには気付かれている気がする。
エルネストは自分を愛してくれていて、両思いだということを世界中に公表したいのだが、公表してしまえば相棒でいられなくなってしまうかもしれない。エルネストがいなければ仕事に支障をきたすくらいルーカスはエルネストを信頼しているので、相棒でなくなられるのは困る。
エルネストと相棒でいて、更に恋愛関係も公にできれば一番いいのだが、相棒関係になってしまうと、恋人同士だと私情を挟んでしまう可能性があるので、諮問会議にかけられかねない。それはルーカスにとっては本意ではなかった。
「エルネスト、カウンセリングが入っているんだ」
「分かったよ。一緒に行こう」
カウンセリングも業務の一環なのでエルネストも一緒に連れてくるように言われていたことを思い出し、ルーカスが誘えば、エルネストは頷いて一緒に来てくれる。
「カウンセリングも一緒なの?」
「できてるっていうか、保護者みたいだね」
保護者みたいと言われて、ルーカスは否定できない気がしていた。エルネストにそれだけ頼っている自覚はある。
カウンセリングルームのドアを叩くとジャスティンがドアを開けてくれた。ソファに招かれて、一人掛けのソファ二つにエルネストと並んで座る。
「初めまして、エルネスト・デュマです。ルーカスの相棒をしています」
「ジャスティン・マクマートリーです。ジャスティンと呼んでください。ルーカスとエルネストは恋愛関係にあるのですか?」
単刀直入に問いかけられて、誤魔化そうとするルーカスを遮って、エルネストが答えた。
「そうです。カウンセラーには守秘義務がありますよね?」
「ありますね。この話はどこにも漏らしません」
「まだ恋愛関係になったばかりですが、お互いにいい関係だと思います」
誠実に答えるエルネストの姿にルーカスは感動してしまう。エルネストは自分のことを誤魔化さずに恋人だと認めてくれた。それがエルネストの愛情の深さのような気がして、ルーカスは何も言えなくなってしまう。
「ルーカスはあなたをとても信頼しているようです。それがいい方向にルーカスを向かわせているのではないかと私は考えています」
「ルーカスの幼少期のことも、警察学校でのことも聞いています。ルーカスとはよく話をしています」
「私のカウンセリングよりも、あなたとの話の方がルーカスにとっては必要なことかもしれない。信頼できるひとに自分の過去を話せるというのはとても大事なことです」
ジャスティンの言葉にルーカスは口を開いた。
「エルネストがいたら、灯りを全部消すのは無理でも、手元のライトだけで眠れるようになりました」
「それは進歩していますね」
「もしかすると、エルネストがいたら暗闇も怖くなくなるかもしれないと思っています」
エルネストがいてくれたら、ルーカスは暗闇で閉じ込められていた過去を克服できるかもしれない。
「手元のライトだけで眠るのは、治療の段階として進めてみようかと思っていました。もうしていたんですね」
「最初はとても怖かったけれど、エルネストがいてくれれば、なんとか耐えられたし、眠れました」
ルーカスの話を聞いて、ジャスティンはパソコンに打ち込んでいた。
「このカルテはあなたたちの上司も見るので、恋愛関係については記載していません。今後は異変を感じたときにだけ、予約を取ってカウンセリングに来てください。それと、もし恋愛関係を公表するつもりなら、相棒関係が崩れないように私でよければ口添えをしましょう」
必要書類にサインをもらって、ルーカスは定期的にカウンセリングを受ける生活から解放された。必要書類はジャンルカに提出すれば、ジャンルカがジャスティンから話を聞いて、ルーカスが職場で働けることを証明してくれる。
「ありがとうございました」
「また何かあったら、いつでも来てください。小さなことでも気付いたら連れてくるようにお願いしますよ」
ルーカスだけでなくエルネストにもお願いするジャスティンに、ルーカスもエルネストも頭を下げてカウンセリングルームを辞した。
カウンセリングの結果の書類をジャンルカに提出すると、ジャンルカは満足したように頷いていた。
「ルーカスがカウンセリングを受ける気になって、カウンセリングで改善が見られたということで安心している。今後も油断せずに何かあったらすぐにカウンセリングを受けるように」
「分かりました、ジャンルカ課長」
ジャスティンならばカウンセリングを受けても嫌ではないとルーカスも思い始めていた。
人身売買組織からその時点での被害者を全員救いだしたとして、ルーカスの所属する州の警察の人外課は表彰されたのだった。
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