異世界唯一のオメガ、恋を選ぶまでの90日

秋月真鳥

文字の大きさ
12 / 131
一章 オメガの神子、召喚される

12.神子のお披露目

しおりを挟む
 王宮に行く日、おれは緊張して馬車に乗っていた。
 現代日本生まれのおれは、馬車に乗ったことがない。馬車というのがこんなに揺れて尻が痛いものだとは思わなかった。物語やテレビ、映画の中の貴族は馬車に優雅に乗っているが、おれはがたがたと揺られて落ち着かなかった。
 窓の外に見える街並みは、煉瓦と石で作った建物が多く、日本の木造建築やコンクリートの建造物などは見当たらなかった。地面は石で舗装された石畳のようで、これが馬車を揺らしている原因だった。

 遠くに見えるのは麦畑だろうか。青々と茂っている。
 そんな光景を目にしながら小一時間馬車に揺られて、堅牢な石造りの門に辿り着いた。
 門には兵士がいたが、オルランド閣下が声をかけるとすぐに門を開けてくれた。門を通ると、広い庭があって、そこを馬車で抜けていくと、巨大な城が見えてくる。
 これが王宮なのだろう。
 王宮は堅牢な石造りの壁に面しているところもあって、そこにはバルコニーが設置されているようだ。あそこからおれは手を振るのだろうか。

 まず国王陛下との謁見が待っていた。
 謁見の間に通されると、おれは膝を突こうとしたが、それをオルランド閣下が止めて、王座に座っていた国王陛下の方が玉座から降りて床に膝を突く。

「神子に挨拶をさせていただきます。わたしはこの国の国王にして、ジェラルドの父です」

 ジェラルド殿下がまだ十九歳ということもあるだろうし、この国は現代日本よりも結婚が早そうなので、国王陛下はおれの両親よりもずっと若く見えた。

「初めまして、おれは……」
「神子は名乗ってはなりませんよ。神子の名前を聞くことができ、呼ぶことを許されるのは伴侶だけです」
「そうでした」

 オルランド閣下に注意されて、おれは名乗るのをやめる。
 これ以上何を言っていいか分からなかったが、国王陛下はおれのために椅子を用意させた。おれだけが椅子に座って、国王陛下もジェラルド殿下もオルランド閣下もファウスト様も立っている。
 おれはどうやら、国王陛下よりも身分が高いようだ。

「おれだけ座っているのは落ち着きませんから、みんなで座りませんか?」
「父上、神子はとても丁寧で、ぼくたちに心を砕いてくれます。形式ばっていると神子も話しにくいでしょう。別の場所に移りませんか?」

 ジェラルド殿下の提案により、謁見の間から場所を応接室に移して、お茶を飲んでお菓子を摘まみながらの話になった。
 神殿で飲んでいるのと同じ紅茶の香りにおれはほっとする。

「神子は本当に男性なのですね。驚きました」
「おれで本当にいいのでしょうか?」
「召喚に応じてくださったということは、あなた以外に神子はおられません。どうか、自信を持ってください」

 国王陛下はおれが男性であることは聞いていたようだが、実際に見てみてとても驚いている様子だった。それでも事前の説明があったので受け入れてくれている。

「神子は男性ですが、子どもを産めると聞いています」
「おれはオメガという子どもを産める男性で、九十日に一度の発情期……フェロモンを出してアルファを求めるヒートという期間には、その……致したアルファの子どもを妊娠することができます」

 ここでも性教育をしなければいけないのがちょっとつらい。

「アルファとはどのようなものを指すのでしょう?」
「オメガのフェロモンに反応する、優秀な方を指します。ジェラルド殿下も、オルランド閣下も、ファウスト様もアルファです」

 多分、国王陛下もアルファなのだろうが、それは口に出さないでおく。神託を受けて選ばれたものだけがおれの夫候補となるのだが、国王陛下にもその可能性があったなんてことはとても言えない。
 カルロ大公閣下とアンドレーア様がアルファであったことも言及しないことにした。おれしか分からないのだから、アルファではないと思われていれば、おれの夫候補から外されたのも国王陛下は納得してくれるだろう。

「ジェラルドもオルランドもファウストも、神子と交わって子どもを作れる可能性があるのですね」
「そうなります」

 説明していると、ジェラルド殿下やオルランド閣下、ファウスト様との行為を想像してしまって、おれは顔が熱くなってくる。もう次のヒートまで八十五日しかない。この期間で誰と番うか決めてしまわないと、事故で番になるなど絶対に嫌だった。

「神子として召喚されたのだから、子どもが産めることを疑ってはおりません。ただ、国民の中には男性の神子に驚くものもいるかもしれません」
「そうですよね。これまでの神子はみんな女性だったのでしょう?」
「そうなのです。国民に説明はしますが、話を聞かないものというのはどうしてもいるもので……」

 ため息をつく国王陛下に、オルランド閣下が発言した。

「恐れながら、国王陛下。新聞に神子のことを説明して書かせるのはいかがですか?」
「それは悪くないかもしれないな」

 この世界にも新聞はあるらしい。おれにとって新聞とはもうデジタル化されているもののイメージだが、この世界では印刷して作るのだろう。

「詳しくオメガとアルファのことを教えてもらえますか?」
「父上、神子が奇異の目で見られるのは嫌です。子どもを産める奇跡の男性ということにすればいいではないですか」
「それもそうだな。神子の素性を詳しく載せることもないだろう」

 また詳しく説明しなければいけないのかとげっそりしていたら、ジェラルド殿下が助けに入ってくれた。
 神子ならば奇跡くらい起こすのだろう。子どもを産める奇跡の男性ということならば、おれのヒートのこととか恥ずかしい話を聞かせなくて済むので助かる。

「ご配慮ありがとうございます、ジェラルド殿下、国王陛下」
「神子にはどうか心安く暮らしてほしいのです。誰を選んだとしても」

 それが世界を救うことに繋がるから。

 国王陛下の言葉に、おれは深く頷き、おれにできることなら何でもしようと決めた。

 バルコニーから手を振ることになって、おれは少し怖気づいていた。ヒートの中、甲子園の準決勝でピッチャーとして投げたときよりも緊張はしていないが、それでも、男性のおれを見て国民がどう思うかは怖い。

「我が親愛なる国民よ。この度召喚に応じた神子は男性だが、奇跡の力で子どもを産むことができる。神子の祈りにより、この地に雨が降り、今年の豊穣が約束された。神子のお姿を拝むことを許そう!」

 バルコニーに国王陛下が先に出て、おれの説明をしてくれているが、なかなかバルコニーに出る勇気が持てない。
 躊躇っていると、ジェラルド殿下がおれの肩を抱いた。

「一緒に行きましょう。大丈夫です、ぼくがいます」

 ジェラルド殿下の優しい声に勇気付けられて、おれはバルコニーに出る。
 石の塀の向こうに集まっている国民がざわついたのが分かった。

「男性の神子!?」
「本当に子を産めるのか!?」
「男性が子どもを産んだなんて話、聞いたことがない!」

 国王陛下の説明があっても、やはり信じられないものは信じられないのだ。
 俯きそうになるおれに、ジェラルド殿下が大きく声を上げた。

「神子は神の使い! 聖なる存在だ! 男性であろうとも、奇跡で子どもが産めることは確か! この国の王太子であるぼく、ジェラルド・ガブリエーレがそれを証明してみせる!」

 いやいやいや、まだジェラルド殿下を選んだわけではないのですけれども!

 慌てるおれに、ジェラルド殿下の声を聞いた国民が拍手をしている。

「ジェラルド殿下、万歳! 神子様、万歳!」
「神子様に栄光あれ!」

 誤解はされてしまったようだが、ジェラルド殿下のおかげでおれの疑惑も薄れたようだった。おれが手を振ると、国民は大きく拍手をし、手を振り返してくれた。

 おれのお披露目は成功したようで、おれはほっと胸を撫で下ろしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アケミツヨウの幸福な生涯【本編完結】

リラックス@ピロー
BL
ごく普通の会社員として日々を過ごしていた主人公、ヨウはその日も普通に残業で会社に残っていた。 ーーーそれが運命の分かれ道になるとも知らずに。 仕事を終え帰り際トイレに寄ると、唐突に便器から水が溢れ出した。勢い良く迫り来る水に飲み込まれた先で目を覚ますと、黒いローブの怪しげな集団に囲まれていた。 彼らは自分を"神子"だと言い、神の奇跡を起こす為とある儀式を行うようにと言ってきた。 神子を守護する神殿騎士×異世界から召喚された神子

魔王様と元 村人Aは一つ屋根の下

くろねこや
BL
橋の上で絶望してたらトラックが突っ込んできて、そのまま異世界へ落ちたオレ。 村人Aとしてスローライフを始めたものの、やはり元の世界に戻ることを諦めきれない。 ドラゴンも魔族も魔王もいるこの世界。 「あ、魔王を倒せば元の世界に帰れるんじゃね?」 ところが、倒すために探し出した魔王様はオレの記憶に興味津々で…。 「私もそなたと共に行く。そちらの世界はとても興味深い」 この時のオレは想像すらしていなかった。 そう遠くない未来、その“魔王様”と出会ったオレが、日本家屋で一つ屋根の下、一緒にのんびり暮らすことになるなんて。 ※こちらは『イライラしてますか?こちらへどうぞ』の世界と繋がっています。 ※『横書き』設定にてお読みください。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

溺愛極道と逃げたがりのウサギ

イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。 想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。 悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。 ※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。 二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

処理中です...