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一章 オメガの神子、召喚される
12.神子のお披露目
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王宮に行く日、おれは緊張して馬車に乗っていた。
現代日本生まれのおれは、馬車に乗ったことがない。馬車というのがこんなに揺れて尻が痛いものだとは思わなかった。物語やテレビ、映画の中の貴族は馬車に優雅に乗っているが、おれはがたがたと揺られて落ち着かなかった。
窓の外に見える街並みは、煉瓦と石で作った建物が多く、日本の木造建築やコンクリートの建造物などは見当たらなかった。地面は石で舗装された石畳のようで、これが馬車を揺らしている原因だった。
遠くに見えるのは麦畑だろうか。青々と茂っている。
そんな光景を目にしながら小一時間馬車に揺られて、堅牢な石造りの門に辿り着いた。
門には兵士がいたが、オルランド閣下が声をかけるとすぐに門を開けてくれた。門を通ると、広い庭があって、そこを馬車で抜けていくと、巨大な城が見えてくる。
これが王宮なのだろう。
王宮は堅牢な石造りの壁に面しているところもあって、そこにはバルコニーが設置されているようだ。あそこからおれは手を振るのだろうか。
まず国王陛下との謁見が待っていた。
謁見の間に通されると、おれは膝を突こうとしたが、それをオルランド閣下が止めて、王座に座っていた国王陛下の方が玉座から降りて床に膝を突く。
「神子に挨拶をさせていただきます。わたしはこの国の国王にして、ジェラルドの父です」
ジェラルド殿下がまだ十九歳ということもあるだろうし、この国は現代日本よりも結婚が早そうなので、国王陛下はおれの両親よりもずっと若く見えた。
「初めまして、おれは……」
「神子は名乗ってはなりませんよ。神子の名前を聞くことができ、呼ぶことを許されるのは伴侶だけです」
「そうでした」
オルランド閣下に注意されて、おれは名乗るのをやめる。
これ以上何を言っていいか分からなかったが、国王陛下はおれのために椅子を用意させた。おれだけが椅子に座って、国王陛下もジェラルド殿下もオルランド閣下もファウスト様も立っている。
おれはどうやら、国王陛下よりも身分が高いようだ。
「おれだけ座っているのは落ち着きませんから、みんなで座りませんか?」
「父上、神子はとても丁寧で、ぼくたちに心を砕いてくれます。形式ばっていると神子も話しにくいでしょう。別の場所に移りませんか?」
ジェラルド殿下の提案により、謁見の間から場所を応接室に移して、お茶を飲んでお菓子を摘まみながらの話になった。
神殿で飲んでいるのと同じ紅茶の香りにおれはほっとする。
「神子は本当に男性なのですね。驚きました」
「おれで本当にいいのでしょうか?」
「召喚に応じてくださったということは、あなた以外に神子はおられません。どうか、自信を持ってください」
国王陛下はおれが男性であることは聞いていたようだが、実際に見てみてとても驚いている様子だった。それでも事前の説明があったので受け入れてくれている。
「神子は男性ですが、子どもを産めると聞いています」
「おれはオメガという子どもを産める男性で、九十日に一度の発情期……フェロモンを出してアルファを求めるヒートという期間には、その……致したアルファの子どもを妊娠することができます」
ここでも性教育をしなければいけないのがちょっとつらい。
「アルファとはどのようなものを指すのでしょう?」
「オメガのフェロモンに反応する、優秀な方を指します。ジェラルド殿下も、オルランド閣下も、ファウスト様もアルファです」
多分、国王陛下もアルファなのだろうが、それは口に出さないでおく。神託を受けて選ばれたものだけがおれの夫候補となるのだが、国王陛下にもその可能性があったなんてことはとても言えない。
カルロ大公閣下とアンドレーア様がアルファであったことも言及しないことにした。おれしか分からないのだから、アルファではないと思われていれば、おれの夫候補から外されたのも国王陛下は納得してくれるだろう。
「ジェラルドもオルランドもファウストも、神子と交わって子どもを作れる可能性があるのですね」
「そうなります」
説明していると、ジェラルド殿下やオルランド閣下、ファウスト様との行為を想像してしまって、おれは顔が熱くなってくる。もう次のヒートまで八十五日しかない。この期間で誰と番うか決めてしまわないと、事故で番になるなど絶対に嫌だった。
「神子として召喚されたのだから、子どもが産めることを疑ってはおりません。ただ、国民の中には男性の神子に驚くものもいるかもしれません」
「そうですよね。これまでの神子はみんな女性だったのでしょう?」
「そうなのです。国民に説明はしますが、話を聞かないものというのはどうしてもいるもので……」
ため息をつく国王陛下に、オルランド閣下が発言した。
「恐れながら、国王陛下。新聞に神子のことを説明して書かせるのはいかがですか?」
「それは悪くないかもしれないな」
この世界にも新聞はあるらしい。おれにとって新聞とはもうデジタル化されているもののイメージだが、この世界では印刷して作るのだろう。
「詳しくオメガとアルファのことを教えてもらえますか?」
「父上、神子が奇異の目で見られるのは嫌です。子どもを産める奇跡の男性ということにすればいいではないですか」
「それもそうだな。神子の素性を詳しく載せることもないだろう」
また詳しく説明しなければいけないのかとげっそりしていたら、ジェラルド殿下が助けに入ってくれた。
神子ならば奇跡くらい起こすのだろう。子どもを産める奇跡の男性ということならば、おれのヒートのこととか恥ずかしい話を聞かせなくて済むので助かる。
「ご配慮ありがとうございます、ジェラルド殿下、国王陛下」
「神子にはどうか心安く暮らしてほしいのです。誰を選んだとしても」
それが世界を救うことに繋がるから。
国王陛下の言葉に、おれは深く頷き、おれにできることなら何でもしようと決めた。
バルコニーから手を振ることになって、おれは少し怖気づいていた。ヒートの中、甲子園の準決勝でピッチャーとして投げたときよりも緊張はしていないが、それでも、男性のおれを見て国民がどう思うかは怖い。
「我が親愛なる国民よ。この度召喚に応じた神子は男性だが、奇跡の力で子どもを産むことができる。神子の祈りにより、この地に雨が降り、今年の豊穣が約束された。神子のお姿を拝むことを許そう!」
バルコニーに国王陛下が先に出て、おれの説明をしてくれているが、なかなかバルコニーに出る勇気が持てない。
躊躇っていると、ジェラルド殿下がおれの肩を抱いた。
「一緒に行きましょう。大丈夫です、ぼくがいます」
ジェラルド殿下の優しい声に勇気付けられて、おれはバルコニーに出る。
石の塀の向こうに集まっている国民がざわついたのが分かった。
「男性の神子!?」
「本当に子を産めるのか!?」
「男性が子どもを産んだなんて話、聞いたことがない!」
国王陛下の説明があっても、やはり信じられないものは信じられないのだ。
俯きそうになるおれに、ジェラルド殿下が大きく声を上げた。
「神子は神の使い! 聖なる存在だ! 男性であろうとも、奇跡で子どもが産めることは確か! この国の王太子であるぼく、ジェラルド・ガブリエーレがそれを証明してみせる!」
いやいやいや、まだジェラルド殿下を選んだわけではないのですけれども!
慌てるおれに、ジェラルド殿下の声を聞いた国民が拍手をしている。
「ジェラルド殿下、万歳! 神子様、万歳!」
「神子様に栄光あれ!」
誤解はされてしまったようだが、ジェラルド殿下のおかげでおれの疑惑も薄れたようだった。おれが手を振ると、国民は大きく拍手をし、手を振り返してくれた。
おれのお披露目は成功したようで、おれはほっと胸を撫で下ろしていた。
現代日本生まれのおれは、馬車に乗ったことがない。馬車というのがこんなに揺れて尻が痛いものだとは思わなかった。物語やテレビ、映画の中の貴族は馬車に優雅に乗っているが、おれはがたがたと揺られて落ち着かなかった。
窓の外に見える街並みは、煉瓦と石で作った建物が多く、日本の木造建築やコンクリートの建造物などは見当たらなかった。地面は石で舗装された石畳のようで、これが馬車を揺らしている原因だった。
遠くに見えるのは麦畑だろうか。青々と茂っている。
そんな光景を目にしながら小一時間馬車に揺られて、堅牢な石造りの門に辿り着いた。
門には兵士がいたが、オルランド閣下が声をかけるとすぐに門を開けてくれた。門を通ると、広い庭があって、そこを馬車で抜けていくと、巨大な城が見えてくる。
これが王宮なのだろう。
王宮は堅牢な石造りの壁に面しているところもあって、そこにはバルコニーが設置されているようだ。あそこからおれは手を振るのだろうか。
まず国王陛下との謁見が待っていた。
謁見の間に通されると、おれは膝を突こうとしたが、それをオルランド閣下が止めて、王座に座っていた国王陛下の方が玉座から降りて床に膝を突く。
「神子に挨拶をさせていただきます。わたしはこの国の国王にして、ジェラルドの父です」
ジェラルド殿下がまだ十九歳ということもあるだろうし、この国は現代日本よりも結婚が早そうなので、国王陛下はおれの両親よりもずっと若く見えた。
「初めまして、おれは……」
「神子は名乗ってはなりませんよ。神子の名前を聞くことができ、呼ぶことを許されるのは伴侶だけです」
「そうでした」
オルランド閣下に注意されて、おれは名乗るのをやめる。
これ以上何を言っていいか分からなかったが、国王陛下はおれのために椅子を用意させた。おれだけが椅子に座って、国王陛下もジェラルド殿下もオルランド閣下もファウスト様も立っている。
おれはどうやら、国王陛下よりも身分が高いようだ。
「おれだけ座っているのは落ち着きませんから、みんなで座りませんか?」
「父上、神子はとても丁寧で、ぼくたちに心を砕いてくれます。形式ばっていると神子も話しにくいでしょう。別の場所に移りませんか?」
ジェラルド殿下の提案により、謁見の間から場所を応接室に移して、お茶を飲んでお菓子を摘まみながらの話になった。
神殿で飲んでいるのと同じ紅茶の香りにおれはほっとする。
「神子は本当に男性なのですね。驚きました」
「おれで本当にいいのでしょうか?」
「召喚に応じてくださったということは、あなた以外に神子はおられません。どうか、自信を持ってください」
国王陛下はおれが男性であることは聞いていたようだが、実際に見てみてとても驚いている様子だった。それでも事前の説明があったので受け入れてくれている。
「神子は男性ですが、子どもを産めると聞いています」
「おれはオメガという子どもを産める男性で、九十日に一度の発情期……フェロモンを出してアルファを求めるヒートという期間には、その……致したアルファの子どもを妊娠することができます」
ここでも性教育をしなければいけないのがちょっとつらい。
「アルファとはどのようなものを指すのでしょう?」
「オメガのフェロモンに反応する、優秀な方を指します。ジェラルド殿下も、オルランド閣下も、ファウスト様もアルファです」
多分、国王陛下もアルファなのだろうが、それは口に出さないでおく。神託を受けて選ばれたものだけがおれの夫候補となるのだが、国王陛下にもその可能性があったなんてことはとても言えない。
カルロ大公閣下とアンドレーア様がアルファであったことも言及しないことにした。おれしか分からないのだから、アルファではないと思われていれば、おれの夫候補から外されたのも国王陛下は納得してくれるだろう。
「ジェラルドもオルランドもファウストも、神子と交わって子どもを作れる可能性があるのですね」
「そうなります」
説明していると、ジェラルド殿下やオルランド閣下、ファウスト様との行為を想像してしまって、おれは顔が熱くなってくる。もう次のヒートまで八十五日しかない。この期間で誰と番うか決めてしまわないと、事故で番になるなど絶対に嫌だった。
「神子として召喚されたのだから、子どもが産めることを疑ってはおりません。ただ、国民の中には男性の神子に驚くものもいるかもしれません」
「そうですよね。これまでの神子はみんな女性だったのでしょう?」
「そうなのです。国民に説明はしますが、話を聞かないものというのはどうしてもいるもので……」
ため息をつく国王陛下に、オルランド閣下が発言した。
「恐れながら、国王陛下。新聞に神子のことを説明して書かせるのはいかがですか?」
「それは悪くないかもしれないな」
この世界にも新聞はあるらしい。おれにとって新聞とはもうデジタル化されているもののイメージだが、この世界では印刷して作るのだろう。
「詳しくオメガとアルファのことを教えてもらえますか?」
「父上、神子が奇異の目で見られるのは嫌です。子どもを産める奇跡の男性ということにすればいいではないですか」
「それもそうだな。神子の素性を詳しく載せることもないだろう」
また詳しく説明しなければいけないのかとげっそりしていたら、ジェラルド殿下が助けに入ってくれた。
神子ならば奇跡くらい起こすのだろう。子どもを産める奇跡の男性ということならば、おれのヒートのこととか恥ずかしい話を聞かせなくて済むので助かる。
「ご配慮ありがとうございます、ジェラルド殿下、国王陛下」
「神子にはどうか心安く暮らしてほしいのです。誰を選んだとしても」
それが世界を救うことに繋がるから。
国王陛下の言葉に、おれは深く頷き、おれにできることなら何でもしようと決めた。
バルコニーから手を振ることになって、おれは少し怖気づいていた。ヒートの中、甲子園の準決勝でピッチャーとして投げたときよりも緊張はしていないが、それでも、男性のおれを見て国民がどう思うかは怖い。
「我が親愛なる国民よ。この度召喚に応じた神子は男性だが、奇跡の力で子どもを産むことができる。神子の祈りにより、この地に雨が降り、今年の豊穣が約束された。神子のお姿を拝むことを許そう!」
バルコニーに国王陛下が先に出て、おれの説明をしてくれているが、なかなかバルコニーに出る勇気が持てない。
躊躇っていると、ジェラルド殿下がおれの肩を抱いた。
「一緒に行きましょう。大丈夫です、ぼくがいます」
ジェラルド殿下の優しい声に勇気付けられて、おれはバルコニーに出る。
石の塀の向こうに集まっている国民がざわついたのが分かった。
「男性の神子!?」
「本当に子を産めるのか!?」
「男性が子どもを産んだなんて話、聞いたことがない!」
国王陛下の説明があっても、やはり信じられないものは信じられないのだ。
俯きそうになるおれに、ジェラルド殿下が大きく声を上げた。
「神子は神の使い! 聖なる存在だ! 男性であろうとも、奇跡で子どもが産めることは確か! この国の王太子であるぼく、ジェラルド・ガブリエーレがそれを証明してみせる!」
いやいやいや、まだジェラルド殿下を選んだわけではないのですけれども!
慌てるおれに、ジェラルド殿下の声を聞いた国民が拍手をしている。
「ジェラルド殿下、万歳! 神子様、万歳!」
「神子様に栄光あれ!」
誤解はされてしまったようだが、ジェラルド殿下のおかげでおれの疑惑も薄れたようだった。おれが手を振ると、国民は大きく拍手をし、手を振り返してくれた。
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