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三章 オメガの神子、結婚する
7.ファウスト様の弟
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ヒートまで残り十五日。
結婚式までは十四日で、残り二週間になっていた。
その日、辺境伯領から客人が来た。
朝食後に現れたその客人に、天井がドーム状になった祈りの部屋でおれは会うことになった。
「心配することはない、おれの弟だ」
「ファウスト様の弟君ですか。会うのが楽しみです」
ファウスト様に手を引かれて祈りの部屋に向かうと、ファウスト様とよく似た雰囲気の褐色肌に黒髪、青い目の男性が椅子に座って待っていた。
男性はおれたちを見ると、椅子から立ち上がって、すぐに膝を突いて深く頭を下げた。
「お久しぶりです、兄上。お初にお目にかかります、神子様。ヴィットリオ・ダリアと申します」
「ヴィットリオ、よく来てくれた。この方がおれの伴侶となる神子だ」
「初めまして、神子です」
本来ならば名乗るべきなのだろうが、おれは伴侶以外に名前を呼ばれてはいけないと言い聞かされていた。ファウスト様の家族に自分のことを「神子」としか自己紹介できないのは寂しい気もするが、仕方がない。
「顔をあげて、立ってください」
おれが促すと、ヴィットリオ様は立ち上がった。
やはりファウスト様に雰囲気が似ている。身長も同じくらいで、体付きも同じくらいだろう。
違うのは、ヴィットリオ様がアルファではないということだ。ヴィットリオ様からアルファのフェロモンは感じられないので、恐らくベータだろう。ベータとは優秀なアルファとも男女問わず子どもを産めるオメガとも違う、一般人で人口の中では一番多い第二性だ。
ベータのヴィットリオ様にはおれのフェロモンも感じられないし、ファウスト様のフェロモンも感じられない。ヒートのときのようにフェロモンが大量に漏れているときには、ベータにもオメガのフェロモンが感じられるときはあるが、アルファのように誘われたりしないし、ラット状態になることもない。
そんなことを考えていると、ヴィットリオ様がファウスト様にいくつか書類を渡していた。
ファウスト様はそれに目を通している。
「辺境伯領で早急に判断が必要なものだけ持ってきました」
「すまないな、ヴィットリオ」
「神子様とお話ししてもよろしいですか? その間に兄上はその書類を」
「神子、すまないが離席してもいいか? 書類を片付けてくる」
ファウスト様が早急に対応が必要な書類があるのならば、それをしてもらうのは当然だろう。
「どうぞ、行ってきてください」
おれが促すと、ファウスト様は足早に自分の部屋に戻って行った。
辺境伯領での機密事項もあるだろうし、人目のある所では対応できなかったに違いない。
おれは神官さんを呼んで、お茶の用意をしてもらった。
「ヴィットリオ様、座られてください。ファウスト様のお話を伺いたいのですが」
「失礼します」
おれが椅子を勧めると、ヴィットリオ様は一礼して椅子に腰かけた。
ティーセットが用意されて、おれとヴィットリオ様はお茶を飲みながら話す。
「ファウスト様のことを教えてもらえますか?」
「兄上は真面目で尊敬する方です。辺境伯領を豊かにしながら、軍の総司令官としても働いています」
「ヴィットリオ様は?」
「わたしは副司令官です。兄上の代わりを引き受けていますが、兄上には敵いません。兄上は辺境伯領に必要な方です」
ヴィットリオ様の表情が厳しい気がする。
ファウスト様もおれと初めて出会ったころは表情が厳しかったので、緊張しているのだろうか。
そう思っていると、ヴィットリオ様が椅子から立ち上がって床に膝を突いた。
「神子様にこのようなことを言うのは失礼にあたると分かっています。ですが、兄上は辺境伯領に必要な方。神子様は奇跡の力で子どもを産めるという話は聞いております。それでも、兄上には相応しい女性と結婚してほしいのです」
「ファウスト様が、女性と結婚……」
「国王陛下も認めた結婚だとは分かっています。けれど、兄上にも立場というものがあります。男性を伴侶として辺境伯領に戻ってきた兄上を認めないものも出て来るでしょう」
神子という立場でおれはずっと神殿で敬われて、国王陛下にも認められて、勘違いしていたのかもしれない。
神子ならばファウスト様を選んでも問題ないと思っていたが、やはり男性の神子に対する偏見は逃れられないものだった。ジェラルド殿下もオルランド閣下もファウスト様もおれを受け入れてくれていたから、おれはそれに気付いていなかった。
神殿を出てみれば、ヴィットリオ様のような意見の方が強いのかもしれない。
神子だからファウスト様を選んだが、おれはやはり選ぶ立場になかったのではないだろうか。
足元が崩れていくような感覚に襲われるおれに、ヴィットリオ様が深く頭を下げて続ける。
「どうしても結婚相手が欲しいのでしたら、わたしが兄上の代わりになります。わたしと兄上は似ていますし、神子様をできる限り大切にすることは誓います。どうか、辺境伯領で兄上が後ろ指をさされないように判断をお願いします」
ファウスト様と別れてヴィットリオ様と結婚する?
そんなことができるわけがない。
おれが好きなのはファウスト様だけだ。
何より、ヴィットリオ様はアルファではないので、おれの番にはなれない。
目の前が真っ暗になりそうになったおれに、ヴィットリオ様が声を抑えて頼んでくる。
「兄上を解放して差し上げてください」
おれはファウスト様の枷にしかなれないのか。
愕然としているおれに、ヴィットリオ様はそれ以上何も言わなかった。
床に膝を突いて深く頭を下げているヴィットリオ様に、おれも何も言うことができない。
どれくらい時間が経っただろう。
ファウスト様が部屋に戻ってきた。
「ヴィットリオ、どうしたのだ? 神子、顔色が悪いようだが」
「神子様にご挨拶をしていました。わたしのようなものが神子様と同席するのは恐れ多いので」
「神子はそのようなことは気にしない。この神殿の神官にも心を配るし、他の神殿の孤児たちとも触れ合う広い心の持ち主なのだ」
「そうなのですね。失礼を致しました」
「ヴィットリオ、神子の顔色が悪いので部屋に送ってくる。その後でゆっくり話そう」
ファウスト様に手を取られそうになって、おれは反射的にその手から逃げてしまった。
おれはファウスト様に相応しくないかもしれない。
考えるだけで体の血が下がって行って、頭に血が回らず呼吸が苦しくなる。
「一人で部屋に戻れます。ファウスト様はヴィットリオ様と久しぶりに会ったのですから、ゆっくりされてください」
「そういうわけにはいかない。神子のことが心配だ。部屋まで送らせてくれ」
「大丈夫です」
「神子はおれの婚約者で伴侶になる相手なのだ。誰よりも大事にしたい」
ファウスト様の言葉に涙が滲みそうになる。
今泣いてはいけないと分かっているのに、泣きそうになってしまったおれは、「大丈夫です」と繰り返して一人で廊下を歩きだした。ファウスト様が心配そうに後をついてくるが、速足で歩いて、部屋に戻って鍵をかけてしまった。
「ファウスト様……」
寝室に入ると、ファウスト様が貸してくれた衣装類がベッドに配置されている。
夏用の薄い掛け布団、軍服の上着、パジャマ、町へ行ったときに着ていた簡素な服、手袋。
ベッドに倒れ込むとファウスト様の匂いが薄くなっているのを感じる。
もっとファウスト様の匂いに包まれたいのに。
そう思ってから、おれはファウスト様の夏用の薄い掛け布団をベッドから剥がした。
こんなことではいけない。
ファウスト様の邪魔になるのだったら、おれはファウスト様との結婚を取りやめにしてもらわなければいけない。
おれは、ファウスト様とお別れした方がファウスト様のためになるのではないか。
そもそも、オメガであるおれがアルファであるファウスト様を選ぶ立場だったというのがおかしいのだ。
神子だから選ぶようにとずっと言われていたが、本音ではジェラルド殿下も、オルランド閣下も、ファウスト様も、ご家族や周囲の人間は選ばれないことを願っていたのではないだろうか。
神子という存在に一生囚われて、妾も持てないなんて貴族として困るのではないか。
おれはオメガだが、必ず子どもが産める保証はない。
長く使い続けていた抑制剤は年々効きにくくなっていて、強いものに変えていた。そのたびに医者からは妊娠しにくくなるリスクは伝えられていた。
これまでそんな風にしていたので、おれは子どもを産めないのではないだろうか。
オメガやアルファという説明は難しいために、一部のひとたち以外には神子の奇跡で男性でも子どもが産めると説明していたが、それが信じられなくても仕方がない。
考えていると、おれの部屋のドアが蹴破られた。
何があったのかよく分からない。
寝室にいたのでドアをノックした音が聞こえなかったようだ。
ファウスト様が足早におれの部屋に入ってくる。
「神子、無事か!?」
「は、はひ!」
まさか鍵をかけていたのにドアを蹴破られるだなんて、アルファの筋力、いや、ファウスト様の筋力怖い!
寝室に入ってきたファウスト様は、医者を伴っていた。
「神子が顔色が悪くてドアをノックしても反応がなかったので、中で倒れているかと思って心配した。診察を受けてくれ」
「いえ、おれは病気なんかじゃないです」
「おれが心配なんだ。神子、体に異常がないか診てもらってくれ」
強引に促されて、おれは寝室から連れ出されてソファに座って医者の診察を受けていた。
医者はおれの胸や背中に聴診器を当てて音を聞いたり、口を開けさせて喉を見たりしたが、最終的にファウスト様に言った。
「異常は見当たりませんでしたね。もしかすると、急に立ったので立ちくらんだのかもしれません」
「立ち眩みか。貧血などはないか?」
「なさそうに思いますが」
どう考えても健康体です。
おれはそう主張したかったが、喉が詰まったようにファウスト様に声をかけることができない。
俯いたおれに、ファウスト様が心配そうにおれを見つめていた。
結婚式までは十四日で、残り二週間になっていた。
その日、辺境伯領から客人が来た。
朝食後に現れたその客人に、天井がドーム状になった祈りの部屋でおれは会うことになった。
「心配することはない、おれの弟だ」
「ファウスト様の弟君ですか。会うのが楽しみです」
ファウスト様に手を引かれて祈りの部屋に向かうと、ファウスト様とよく似た雰囲気の褐色肌に黒髪、青い目の男性が椅子に座って待っていた。
男性はおれたちを見ると、椅子から立ち上がって、すぐに膝を突いて深く頭を下げた。
「お久しぶりです、兄上。お初にお目にかかります、神子様。ヴィットリオ・ダリアと申します」
「ヴィットリオ、よく来てくれた。この方がおれの伴侶となる神子だ」
「初めまして、神子です」
本来ならば名乗るべきなのだろうが、おれは伴侶以外に名前を呼ばれてはいけないと言い聞かされていた。ファウスト様の家族に自分のことを「神子」としか自己紹介できないのは寂しい気もするが、仕方がない。
「顔をあげて、立ってください」
おれが促すと、ヴィットリオ様は立ち上がった。
やはりファウスト様に雰囲気が似ている。身長も同じくらいで、体付きも同じくらいだろう。
違うのは、ヴィットリオ様がアルファではないということだ。ヴィットリオ様からアルファのフェロモンは感じられないので、恐らくベータだろう。ベータとは優秀なアルファとも男女問わず子どもを産めるオメガとも違う、一般人で人口の中では一番多い第二性だ。
ベータのヴィットリオ様にはおれのフェロモンも感じられないし、ファウスト様のフェロモンも感じられない。ヒートのときのようにフェロモンが大量に漏れているときには、ベータにもオメガのフェロモンが感じられるときはあるが、アルファのように誘われたりしないし、ラット状態になることもない。
そんなことを考えていると、ヴィットリオ様がファウスト様にいくつか書類を渡していた。
ファウスト様はそれに目を通している。
「辺境伯領で早急に判断が必要なものだけ持ってきました」
「すまないな、ヴィットリオ」
「神子様とお話ししてもよろしいですか? その間に兄上はその書類を」
「神子、すまないが離席してもいいか? 書類を片付けてくる」
ファウスト様が早急に対応が必要な書類があるのならば、それをしてもらうのは当然だろう。
「どうぞ、行ってきてください」
おれが促すと、ファウスト様は足早に自分の部屋に戻って行った。
辺境伯領での機密事項もあるだろうし、人目のある所では対応できなかったに違いない。
おれは神官さんを呼んで、お茶の用意をしてもらった。
「ヴィットリオ様、座られてください。ファウスト様のお話を伺いたいのですが」
「失礼します」
おれが椅子を勧めると、ヴィットリオ様は一礼して椅子に腰かけた。
ティーセットが用意されて、おれとヴィットリオ様はお茶を飲みながら話す。
「ファウスト様のことを教えてもらえますか?」
「兄上は真面目で尊敬する方です。辺境伯領を豊かにしながら、軍の総司令官としても働いています」
「ヴィットリオ様は?」
「わたしは副司令官です。兄上の代わりを引き受けていますが、兄上には敵いません。兄上は辺境伯領に必要な方です」
ヴィットリオ様の表情が厳しい気がする。
ファウスト様もおれと初めて出会ったころは表情が厳しかったので、緊張しているのだろうか。
そう思っていると、ヴィットリオ様が椅子から立ち上がって床に膝を突いた。
「神子様にこのようなことを言うのは失礼にあたると分かっています。ですが、兄上は辺境伯領に必要な方。神子様は奇跡の力で子どもを産めるという話は聞いております。それでも、兄上には相応しい女性と結婚してほしいのです」
「ファウスト様が、女性と結婚……」
「国王陛下も認めた結婚だとは分かっています。けれど、兄上にも立場というものがあります。男性を伴侶として辺境伯領に戻ってきた兄上を認めないものも出て来るでしょう」
神子という立場でおれはずっと神殿で敬われて、国王陛下にも認められて、勘違いしていたのかもしれない。
神子ならばファウスト様を選んでも問題ないと思っていたが、やはり男性の神子に対する偏見は逃れられないものだった。ジェラルド殿下もオルランド閣下もファウスト様もおれを受け入れてくれていたから、おれはそれに気付いていなかった。
神殿を出てみれば、ヴィットリオ様のような意見の方が強いのかもしれない。
神子だからファウスト様を選んだが、おれはやはり選ぶ立場になかったのではないだろうか。
足元が崩れていくような感覚に襲われるおれに、ヴィットリオ様が深く頭を下げて続ける。
「どうしても結婚相手が欲しいのでしたら、わたしが兄上の代わりになります。わたしと兄上は似ていますし、神子様をできる限り大切にすることは誓います。どうか、辺境伯領で兄上が後ろ指をさされないように判断をお願いします」
ファウスト様と別れてヴィットリオ様と結婚する?
そんなことができるわけがない。
おれが好きなのはファウスト様だけだ。
何より、ヴィットリオ様はアルファではないので、おれの番にはなれない。
目の前が真っ暗になりそうになったおれに、ヴィットリオ様が声を抑えて頼んでくる。
「兄上を解放して差し上げてください」
おれはファウスト様の枷にしかなれないのか。
愕然としているおれに、ヴィットリオ様はそれ以上何も言わなかった。
床に膝を突いて深く頭を下げているヴィットリオ様に、おれも何も言うことができない。
どれくらい時間が経っただろう。
ファウスト様が部屋に戻ってきた。
「ヴィットリオ、どうしたのだ? 神子、顔色が悪いようだが」
「神子様にご挨拶をしていました。わたしのようなものが神子様と同席するのは恐れ多いので」
「神子はそのようなことは気にしない。この神殿の神官にも心を配るし、他の神殿の孤児たちとも触れ合う広い心の持ち主なのだ」
「そうなのですね。失礼を致しました」
「ヴィットリオ、神子の顔色が悪いので部屋に送ってくる。その後でゆっくり話そう」
ファウスト様に手を取られそうになって、おれは反射的にその手から逃げてしまった。
おれはファウスト様に相応しくないかもしれない。
考えるだけで体の血が下がって行って、頭に血が回らず呼吸が苦しくなる。
「一人で部屋に戻れます。ファウスト様はヴィットリオ様と久しぶりに会ったのですから、ゆっくりされてください」
「そういうわけにはいかない。神子のことが心配だ。部屋まで送らせてくれ」
「大丈夫です」
「神子はおれの婚約者で伴侶になる相手なのだ。誰よりも大事にしたい」
ファウスト様の言葉に涙が滲みそうになる。
今泣いてはいけないと分かっているのに、泣きそうになってしまったおれは、「大丈夫です」と繰り返して一人で廊下を歩きだした。ファウスト様が心配そうに後をついてくるが、速足で歩いて、部屋に戻って鍵をかけてしまった。
「ファウスト様……」
寝室に入ると、ファウスト様が貸してくれた衣装類がベッドに配置されている。
夏用の薄い掛け布団、軍服の上着、パジャマ、町へ行ったときに着ていた簡素な服、手袋。
ベッドに倒れ込むとファウスト様の匂いが薄くなっているのを感じる。
もっとファウスト様の匂いに包まれたいのに。
そう思ってから、おれはファウスト様の夏用の薄い掛け布団をベッドから剥がした。
こんなことではいけない。
ファウスト様の邪魔になるのだったら、おれはファウスト様との結婚を取りやめにしてもらわなければいけない。
おれは、ファウスト様とお別れした方がファウスト様のためになるのではないか。
そもそも、オメガであるおれがアルファであるファウスト様を選ぶ立場だったというのがおかしいのだ。
神子だから選ぶようにとずっと言われていたが、本音ではジェラルド殿下も、オルランド閣下も、ファウスト様も、ご家族や周囲の人間は選ばれないことを願っていたのではないだろうか。
神子という存在に一生囚われて、妾も持てないなんて貴族として困るのではないか。
おれはオメガだが、必ず子どもが産める保証はない。
長く使い続けていた抑制剤は年々効きにくくなっていて、強いものに変えていた。そのたびに医者からは妊娠しにくくなるリスクは伝えられていた。
これまでそんな風にしていたので、おれは子どもを産めないのではないだろうか。
オメガやアルファという説明は難しいために、一部のひとたち以外には神子の奇跡で男性でも子どもが産めると説明していたが、それが信じられなくても仕方がない。
考えていると、おれの部屋のドアが蹴破られた。
何があったのかよく分からない。
寝室にいたのでドアをノックした音が聞こえなかったようだ。
ファウスト様が足早におれの部屋に入ってくる。
「神子、無事か!?」
「は、はひ!」
まさか鍵をかけていたのにドアを蹴破られるだなんて、アルファの筋力、いや、ファウスト様の筋力怖い!
寝室に入ってきたファウスト様は、医者を伴っていた。
「神子が顔色が悪くてドアをノックしても反応がなかったので、中で倒れているかと思って心配した。診察を受けてくれ」
「いえ、おれは病気なんかじゃないです」
「おれが心配なんだ。神子、体に異常がないか診てもらってくれ」
強引に促されて、おれは寝室から連れ出されてソファに座って医者の診察を受けていた。
医者はおれの胸や背中に聴診器を当てて音を聞いたり、口を開けさせて喉を見たりしたが、最終的にファウスト様に言った。
「異常は見当たりませんでしたね。もしかすると、急に立ったので立ちくらんだのかもしれません」
「立ち眩みか。貧血などはないか?」
「なさそうに思いますが」
どう考えても健康体です。
おれはそう主張したかったが、喉が詰まったようにファウスト様に声をかけることができない。
俯いたおれに、ファウスト様が心配そうにおれを見つめていた。
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