可愛いあの子は男前

秋月真鳥

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十二章 奏歌くんとの十二年目

28.結婚指輪とお誕生日のお茶会

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 五月の連休に奏歌くんとマダム・ローズのお店に行った。マダム・ローズは奥の部屋に私と奏歌くんを招いてくれた。

「海瑠さんが劇団を退団したら、結婚したいと思っているんです」

 劇団の規則で恋愛は禁止なので、劇団に関わっているマダム・ローズにどう説明しようか私が迷っている間に、奏歌くんははっきりと私と自分の関係を話してくれた。真剣な表情でマダム・ローズは聞いている。

「海瑠さんが退団を決めたのは雑誌で読みましたわ。退団後の話ですわよね?」
「退団後の話です。それまでは、関係を公にするつもりもないですし、お付き合いではなく婚約してはいるけど、海瑠さんと深い関係になるつもりはありません。僕もまだ高校生ですし」

 私が劇団を退団して、奏歌くんも高校を卒業するまではお付き合いはできないのだが、奏歌くんと私が結婚の決意を固めていることについて、マダム・ローズは難しい表情をしていた。マダム・ローズとしても私が劇団の規則を破っているかもしれないことに関しては、劇団関係者として見過ごせないのだろう。

「退団後の話ですね。それまでは私は海瑠さんと奏歌さんを信じて、目を瞑ることにします」

 しばらく考えた後でマダム・ローズは納得して指輪のデザインを引き受けてくれることになった。指輪のカタログを見せてもらっていると、奏歌くんが目を輝かせる。

「これ、すごく可愛い」
「どれ?」

 奏歌くんが示したのは指輪の上部にびっしりとピンクと水色と紫と透明の宝石がはめ込まれて、花束のようなイメージのものだった。マダム・ローズが説明してくれる。

「これはブーケをイメージして作られているものです。宝石は自分で選べますよ?」
「どういう宝石がいいんですか?」
「トルマリン、ブルーダイヤ、ダイヤモンド、ピンクサファイア、アクアマリン、ブルートパーズ、アメジストなどでこれは構成されてますね」
「ピンクと水色に紫が入ってて、海瑠さんにぴったり」

 奏歌くんはこの指輪が気に入ったようだった。私の分の指輪を奏歌くんが選んでくれていたので、私は奏歌くんの指輪を選ぶことにする。
 細めの指輪の中央にぐるりと宝石がはまっている指輪が私の目に留まった。私の指輪に花束のように色とりどりの宝石がはまっているのならば、奏歌くんの指輪にも宝石がはまっていてもいいはずだ。

「私の指輪にブルーダイヤとダイヤモンドとピンクサファイアがはまっているなら、こっちの指輪にも同じブルーダイヤとダイヤモンドとピンクサファイアをはめることはできませんか?」
「順番と数はこちらに任せてもらえるのでしたら、デザインをしてお作りしますわよ。地金は金でよろしかったですか?」
「私の指輪が金なので、金でお願いします」

 これで私と奏歌くんの指輪が決まった。安心して私は奏歌くんと一緒に部屋に帰った。
 五月には私のお誕生日のお茶会とディナーショーがある。今年が最後のお誕生日のお茶会とディナーショーと分かっているので、美鳥さんと真月さんだけではなく、蘭ちゃんまで駆け付けてくれた。

「海瑠さんのお誕生日ですからね。お祝いを込めて歌って踊りますよ」

 初めて私のお誕生日のお茶会とディナーショーに参加してくれる蘭ちゃんは、元気にストレッチをしていた。今回のお茶会とディナーショーでは、私は完全に男役で、美鳥さんと真月さんと蘭ちゃんが女役の衣装を着て歌ったりするのだが、蘭ちゃんは女役のジャケットとホットパンツに網タイツもものすごく似合っていた。

「蘭ちゃん、似合いますね!」
「私、女役も結構配役されるんですよ。慣れてますからね」

 180センチの美鳥さんと178センチの真月さんと176センチの私に囲まれると、蘭ちゃんはほっそりして顔立ちも可愛くて少年っぽい。身長も170センチあるかどうかくらいだろう。
 奏歌くんと同じくらいの蘭ちゃんに、私は何となく可愛いという印象を抱いてしまっていた。
 美鳥さんは皇妃の役を、真月さんはシラノ・ド・ベルジュラックのロクサーヌ役を、蘭ちゃんはクリスマスの特別公演のショーのクラブのポールダンサー役を演じてくれる。
 美鳥さんと手を取って歌って踊って、真月さんと並んで歌って、最後に蘭ちゃんと激しいダンスを終わらせた私の感想は、これだった。

「美鳥さんと、真月さん、デカい!」
「体の大きさは仕方ないじゃないですかー!」
「包容力があるって言ってくださいよ!」

 それに比べて蘭ちゃんは私よりも小柄でちょうどいいサイズ感がしっくりと来ていた。

「蘭ちゃんちょうどいいわー」
「ありがとうございます、海瑠さん」
「女役にも慣れてるし、安心して踊れる」

 蘭ちゃんを評価していると、美鳥さんと真月さんが衣装のままで私に取り縋って来る。

「私に女役なんてできるわけないじゃないですかー。これだけ長く一緒に過ごしてるのに、今更蘭ちゃんに浮気ですか!?」
「私だって海瑠さんにこんなに尽くしてるじゃないですかー!」
「やっぱりサイズ的にはね」
「海瑠さん、大好きですよ」
「ここにもライバルがっ!」
「美鳥さん、蘭ちゃんは要チェックですね!」

 何故か分からないがサイズ的にちょうどいいという話をしているだけなのに、美鳥さんと真月さんと蘭ちゃんの間で争いが起きていた。それが冗談を混ぜたものだと分かっているが、私は苦笑しているしかできなかった。
 お誕生日のディナーショーには奏歌くんを招いていた。午前中のお茶会のために早朝に奏歌くんはマンションの部屋にお弁当を届けてくれた。
 奏歌くんもこれから学校に行かなければいけないので、時間があまりなかったけれど、私にお弁当を渡して、早口に私に声をかけてくれた。

「今日のディナーショーは行くからね。入り待ちできないのが残念だけど、今日の公演頑張ってね。僕も学校が終わったら、すぐに行くから」
「ありがとう、奏歌くん」
「帰ったら一緒にお誕生日のディナーを食べようね」

 奏歌くんと約束をして、私は百合が今日は劇場に行かないので、タクシーで劇場に向かった。
 入り待ちをしてくれているファンの皆様の中に奏歌くんの姿がなくても、落胆せずに手を振って、お手紙を受け取って、ご挨拶をする。

「本日は私のお誕生日の公演のためにありがとうございます。お誕生日の公演はこれで最後になりますが、楽しんでいただけるよう一生懸命やり切りたいと思っております」

 頭を下げて、顔を上げても奏歌くんの姿はない。それでも寂しさを感じないのは、奏歌くんのお弁当がバッグの中にあるからと、ディナーショーが終わった後で奏歌くんと晩ご飯を食べられると分かっているからだった。
 劇場に入ると、楽屋に行って衣装に着替えて、化粧をする。小劇場に行くと最初の演目の衣装を着た美鳥さんと真月さんと蘭ちゃんが待っていてくれた。最初の演目で美鳥さんと真月さんと蘭ちゃんが女装するので、美鳥さんと真月さんはドレス姿、蘭ちゃんはジャケットとホットパンツ姿なのだが、どうしても美鳥さんと真月さんの大きさが気になってしまう。

「これ、大丈夫なのかしら」
「私は皇妃になり切りますよ!」
「今日の私はロクサーヌです」

 気合の入っている美鳥さんと真月さんだが、どうしても私より大きいので目立ってしまう。
 お茶会で美鳥さんが出て来ると客席がざわめいて、真月さんが出ると笑いが起こり、蘭ちゃんでは客席はしんと静まり返った。
 三人との歌が終わった後で、女装姿の美鳥さんと真月さんと蘭ちゃんと私のトークが始まる。

「美鳥さん、女装はどうだった?」
「私は完璧にやり遂げたつもりですよ」
「どうしても大きいんですよね、美鳥さん」
「それは真月さんもでしょう!」

 私と美鳥さんと真月さんのトークに客席から笑い声が上がる。
 午前中のお茶会は問題なく終わることができた。
 ディナーショーには奏歌くんがやってくる。
 昼の休憩を挟んで、ディナーショーに私は備えていた。
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