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アレクシス(受け)視点
1.アレクシス・バルテルという男
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いつも何かに怒っていた気がする。
アレクシス・バルテルは侯爵家の唯一の子どもで後継者だった。
記憶にある限り笑ったことなど片手で数えるほどしかない。
見上げるほどの長身に筋骨隆々とした体付き、緩やかに波打つ灰色がかった白い髪を撫でつけた、紫色の目の褐色の肌のアレクシスは、同級生からも怖がられていたし、学園でも誰も近付いてこようとしなかった。
両親は政略結婚で、仲が悪く、後継ぎのアレクシスを産んだ後は母は別居したが、体面を保つために父に浮気を許さなかった。
父は愚鈍な男で、領地経営に失敗し、その資金を取り返そうとギャンブルにのめり込み、更に借金を増やす毎日。
十八歳でアレクシスが学園を卒業した年に、母が亡くなると、父は全ての責任をアレクシスに押し付けて出奔した。
学園を卒業したばかりのアレクシスは爵位と領地を継ぐことになったのだが、それにはいくつか問題があった。
アレクシスの第二の性がオメガだったのだ。
この世界には男女の他に第二の性がある。
非常に優秀で武芸にも秀でている支配する階級のアルファと、一番人数が多くてごく普通の才能を持つベータ、それに周期的にアルファを誘うヒートと呼ばれる発情期があって男女問わず妊娠が可能なオメガだ。
アルファは人口の一割程度しか存在しなくて、オメガに至ってはその半数程度しか存在しないというのだから、アレクシスは自分がオメガだと診断されたときにはものすごく驚いた。それと同時に両親はアレクシスに落胆した。
オメガはヒートがあるために統治者向きではないと考えられていて、ほとんどの場合には後継ぎがオメガだと分かると婿を取ってそちらに統治を任せる風習があった。
原則的にオメガは美しく他人を魅了するといわれているのに、アレクシスは魅了するどころか怖がらせる容姿しか持っていない。
その上家は借金まみれで、結婚したいという相手も現れない。
バルテル家は取り潰しになるしかない。
それを強く感じていた十八歳で領主を譲られたアレクシスは、借金を返すために身売りをしようとした。
オメガなのだから体で稼ぐことができるかもしれないと思ったのだ。
美しく可愛いオメガの要素はアレクシスにはなかったが、屈強な男に暴力を振るって自尊心を満足させたいという輩が一定いるのは理解している。アレクシスの頑丈な体は暴力を受けてもそれほど問題はないと思っていた。
娼館に入るには、男性を受け入れなければいけない。
自分の第二の性がオメガだったので、アレクシスはその方法を知っていた。
初めて男性を受け入れるときには、体に負担がかかると聞いていたので、アレクシスは身売りのために自分の後孔を男性を受け入れられるように拡張することにした。
オメガなので後孔が濡れるはずなのだが、嫌々の行為では反応しないようなので、香油を用意して、アレクシスはベッドでただ一人、自分の後孔に触れていた。香油を纏った指はぬめりを帯びて一本後孔に入ったが、それだけでも違和感と圧迫感がひどい。
けれどこれで怯んでいるようでは男性を受け入れることはできないと、息を詰めながら二本目の指を滑り込ませる。
ぐちぐちと指を動かして後孔を拡げていくアレクシスは、自分でも何をしているのかと情けなくて涙が滲みそうになっていた。それに耐えて、三本目の指を受け入れられるようになると、木で作った張り型を中に入れる。
快感など全くなかった。
オメガの体は快感に弱く、すぐに陥落するといわれているが、アレクシスの体は全く反応しない。体格に見合った立派な中心も萎えたままだった。
張り型の太さは何種類かあって、それを徐々に太くしていって、アレクシスは一番太い張り型も飲み込めるようになった。込み上げてくる吐き気と嫌悪感にも耐えられるようになったところで、アレクシスは娼館に向かった。
一番地味な服を着て行ったつもりだが、それでもそこそこに上等だったらしくて、アレクシスは娼館の乗客を招く部屋に通された。
「貴族の旦那様ですね。今日はどのような娼婦をお望みですか? それとも男娼を?」
「いや、買いに来たのではない」
「買いに来たのではない? それでは、どのようなご用件で?」
娼館の店主が聞くのに、アレクシスは厳めしい表情のまま淡々と答えた。
「わたしを売りに来たのだ」
「はい?」
「わたしを買ってほしい。わたしはオメガだ。尻も拡張している。どんな相手でも受け入れられるし、暴力も平気だ」
至極真面目に答えたつもりなのに、店主はアレクシスの言葉に目を点にしていた。
「いやいやいやいや、無理ですよ。残念ながら、あなたを買いたいという酔狂な客はいません。他の娼婦や男娼があなたに夢中になって争いごとが起きる前に帰ってください」
「わたしは本気だ。借金を返すために金が必要なのだ」
「金が必要なら、別の場所に行った方がいいですよ。ここは娼館ですからね?」
「娼館だと分かって来たつもりなのだが」
どれだけアレクシスが本気で娼館に身売りしに来たといっても店主は買ってくれない。
身売りすらもできなくて娼館から帰るアレクシスは、娼婦か男娼に振られた可哀そうな貴族にしか見えなかった。
自分にオメガとしての価値もないことを知ったアレクシスは、必死に領地の事業を立て直し、少しずつでも借金を返していっていたのだがそれも限度がある。
借金取りは日に日に厳しくなっていく。
領地を手放せばいいのだろうが、この領地で生きてきたアレクシスにとっては爵位は捨てられても領地は捨てられなかった。
屋敷も手を入れることができなくなって荒れてきても、数少ない使用人たちは離れない。忠実な使用人たちのためにも早く借金を返して領地を立て直したい。
アレクシスが二十一歳になったときに持ち込まれたのが、ハインケス子爵からの縁談だった。
長身で厳ついアレクシスはオメガとは思えない姿で、フェロモンも非常に薄い。間違ってオメガと診断されたと考える方が正しい気もするのだが、ヒートが来てフェロモンも出るのだから否定しようがない。
剣技も体も鍛えたが、オメガと分かってからはそれが意味のなかったことだと重く圧し掛かる。
ハインケス子爵は元は金持ちの商家で、王家が資金難に陥ったときに資金援助をしたということで子爵位を手に入れていた。影では爵位を金で買ったと言われている大金持ちの家である。
その三男とアレクシスは結婚の話が持ち上がった。
ヴォルフラム・ハインケス、二十歳。
アレクシスより頭半分くらい身長は低いがそれでも長身で、長い真っすぐな金髪に緑の目に白い肌のものすごい美形のヴォルフラム。彼を見てアレクシスは内心、これは何かの間違いではないかと思う。
ハインケス子爵はアレクシスに言った。
「借金の半分をこちらで肩代わりしましょう。その後も事業が立て直せないようでしたら、支援を考えています」
「いいのですか?」
「ヴォルフラムの夫となる方のことですから」
笑顔を見せながらも、ハインケス子爵は数枚に渡る契約書を用意して来ていた。
アレクシスの方から離婚は言い出せないこと。
アレクシスとヴォルフラムは番になること。
アレクシスとヴォルフラムの間に子どもができなければ、ハインケス子爵家の縁者から養子をもらうこと。
バルテル家の借金は半分はハインケス子爵家が肩代わりし、その後も事業が立て直せなければ資金援助をすること。
ヒートのときにはアレクシスとヴォルフラムは寝室を共にすること。
番という単語にアレクシスはハインケス子爵に確認していた。
「ヴォルフラム様は、アルファなのですか? わたしと番になって構わないのでしょうか?」
「アレクシス様にはぜひ可愛い孫を産んでもらわねばなりません」
これも契約の内なのだ。
アレクシスがヴォルフラムの子どもを産めば、ハインケス子爵家の血がバルテル侯爵家に入る。ハインケス子爵は子爵位を金で買ったように、バルテル侯爵家も自分の思いのままにしようとしている。
それが分かっていても、アレクシスに断ることなどできなかった。
アレクシス・バルテルは侯爵家の唯一の子どもで後継者だった。
記憶にある限り笑ったことなど片手で数えるほどしかない。
見上げるほどの長身に筋骨隆々とした体付き、緩やかに波打つ灰色がかった白い髪を撫でつけた、紫色の目の褐色の肌のアレクシスは、同級生からも怖がられていたし、学園でも誰も近付いてこようとしなかった。
両親は政略結婚で、仲が悪く、後継ぎのアレクシスを産んだ後は母は別居したが、体面を保つために父に浮気を許さなかった。
父は愚鈍な男で、領地経営に失敗し、その資金を取り返そうとギャンブルにのめり込み、更に借金を増やす毎日。
十八歳でアレクシスが学園を卒業した年に、母が亡くなると、父は全ての責任をアレクシスに押し付けて出奔した。
学園を卒業したばかりのアレクシスは爵位と領地を継ぐことになったのだが、それにはいくつか問題があった。
アレクシスの第二の性がオメガだったのだ。
この世界には男女の他に第二の性がある。
非常に優秀で武芸にも秀でている支配する階級のアルファと、一番人数が多くてごく普通の才能を持つベータ、それに周期的にアルファを誘うヒートと呼ばれる発情期があって男女問わず妊娠が可能なオメガだ。
アルファは人口の一割程度しか存在しなくて、オメガに至ってはその半数程度しか存在しないというのだから、アレクシスは自分がオメガだと診断されたときにはものすごく驚いた。それと同時に両親はアレクシスに落胆した。
オメガはヒートがあるために統治者向きではないと考えられていて、ほとんどの場合には後継ぎがオメガだと分かると婿を取ってそちらに統治を任せる風習があった。
原則的にオメガは美しく他人を魅了するといわれているのに、アレクシスは魅了するどころか怖がらせる容姿しか持っていない。
その上家は借金まみれで、結婚したいという相手も現れない。
バルテル家は取り潰しになるしかない。
それを強く感じていた十八歳で領主を譲られたアレクシスは、借金を返すために身売りをしようとした。
オメガなのだから体で稼ぐことができるかもしれないと思ったのだ。
美しく可愛いオメガの要素はアレクシスにはなかったが、屈強な男に暴力を振るって自尊心を満足させたいという輩が一定いるのは理解している。アレクシスの頑丈な体は暴力を受けてもそれほど問題はないと思っていた。
娼館に入るには、男性を受け入れなければいけない。
自分の第二の性がオメガだったので、アレクシスはその方法を知っていた。
初めて男性を受け入れるときには、体に負担がかかると聞いていたので、アレクシスは身売りのために自分の後孔を男性を受け入れられるように拡張することにした。
オメガなので後孔が濡れるはずなのだが、嫌々の行為では反応しないようなので、香油を用意して、アレクシスはベッドでただ一人、自分の後孔に触れていた。香油を纏った指はぬめりを帯びて一本後孔に入ったが、それだけでも違和感と圧迫感がひどい。
けれどこれで怯んでいるようでは男性を受け入れることはできないと、息を詰めながら二本目の指を滑り込ませる。
ぐちぐちと指を動かして後孔を拡げていくアレクシスは、自分でも何をしているのかと情けなくて涙が滲みそうになっていた。それに耐えて、三本目の指を受け入れられるようになると、木で作った張り型を中に入れる。
快感など全くなかった。
オメガの体は快感に弱く、すぐに陥落するといわれているが、アレクシスの体は全く反応しない。体格に見合った立派な中心も萎えたままだった。
張り型の太さは何種類かあって、それを徐々に太くしていって、アレクシスは一番太い張り型も飲み込めるようになった。込み上げてくる吐き気と嫌悪感にも耐えられるようになったところで、アレクシスは娼館に向かった。
一番地味な服を着て行ったつもりだが、それでもそこそこに上等だったらしくて、アレクシスは娼館の乗客を招く部屋に通された。
「貴族の旦那様ですね。今日はどのような娼婦をお望みですか? それとも男娼を?」
「いや、買いに来たのではない」
「買いに来たのではない? それでは、どのようなご用件で?」
娼館の店主が聞くのに、アレクシスは厳めしい表情のまま淡々と答えた。
「わたしを売りに来たのだ」
「はい?」
「わたしを買ってほしい。わたしはオメガだ。尻も拡張している。どんな相手でも受け入れられるし、暴力も平気だ」
至極真面目に答えたつもりなのに、店主はアレクシスの言葉に目を点にしていた。
「いやいやいやいや、無理ですよ。残念ながら、あなたを買いたいという酔狂な客はいません。他の娼婦や男娼があなたに夢中になって争いごとが起きる前に帰ってください」
「わたしは本気だ。借金を返すために金が必要なのだ」
「金が必要なら、別の場所に行った方がいいですよ。ここは娼館ですからね?」
「娼館だと分かって来たつもりなのだが」
どれだけアレクシスが本気で娼館に身売りしに来たといっても店主は買ってくれない。
身売りすらもできなくて娼館から帰るアレクシスは、娼婦か男娼に振られた可哀そうな貴族にしか見えなかった。
自分にオメガとしての価値もないことを知ったアレクシスは、必死に領地の事業を立て直し、少しずつでも借金を返していっていたのだがそれも限度がある。
借金取りは日に日に厳しくなっていく。
領地を手放せばいいのだろうが、この領地で生きてきたアレクシスにとっては爵位は捨てられても領地は捨てられなかった。
屋敷も手を入れることができなくなって荒れてきても、数少ない使用人たちは離れない。忠実な使用人たちのためにも早く借金を返して領地を立て直したい。
アレクシスが二十一歳になったときに持ち込まれたのが、ハインケス子爵からの縁談だった。
長身で厳ついアレクシスはオメガとは思えない姿で、フェロモンも非常に薄い。間違ってオメガと診断されたと考える方が正しい気もするのだが、ヒートが来てフェロモンも出るのだから否定しようがない。
剣技も体も鍛えたが、オメガと分かってからはそれが意味のなかったことだと重く圧し掛かる。
ハインケス子爵は元は金持ちの商家で、王家が資金難に陥ったときに資金援助をしたということで子爵位を手に入れていた。影では爵位を金で買ったと言われている大金持ちの家である。
その三男とアレクシスは結婚の話が持ち上がった。
ヴォルフラム・ハインケス、二十歳。
アレクシスより頭半分くらい身長は低いがそれでも長身で、長い真っすぐな金髪に緑の目に白い肌のものすごい美形のヴォルフラム。彼を見てアレクシスは内心、これは何かの間違いではないかと思う。
ハインケス子爵はアレクシスに言った。
「借金の半分をこちらで肩代わりしましょう。その後も事業が立て直せないようでしたら、支援を考えています」
「いいのですか?」
「ヴォルフラムの夫となる方のことですから」
笑顔を見せながらも、ハインケス子爵は数枚に渡る契約書を用意して来ていた。
アレクシスの方から離婚は言い出せないこと。
アレクシスとヴォルフラムは番になること。
アレクシスとヴォルフラムの間に子どもができなければ、ハインケス子爵家の縁者から養子をもらうこと。
バルテル家の借金は半分はハインケス子爵家が肩代わりし、その後も事業が立て直せなければ資金援助をすること。
ヒートのときにはアレクシスとヴォルフラムは寝室を共にすること。
番という単語にアレクシスはハインケス子爵に確認していた。
「ヴォルフラム様は、アルファなのですか? わたしと番になって構わないのでしょうか?」
「アレクシス様にはぜひ可愛い孫を産んでもらわねばなりません」
これも契約の内なのだ。
アレクシスがヴォルフラムの子どもを産めば、ハインケス子爵家の血がバルテル侯爵家に入る。ハインケス子爵は子爵位を金で買ったように、バルテル侯爵家も自分の思いのままにしようとしている。
それが分かっていても、アレクシスに断ることなどできなかった。
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