末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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一章 王子と冒険者の出会い

28.夏休みの前に

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 夏休みが近くなって、家庭菜園の世話をするのも暑くて大変になって来た。
 薄手の長袖のシャツと長ズボンと帽子をしっかり身に纏って、早朝から庭に出る僕とロヴィーサ嬢と爺やは農家のようだろう。
 害虫を駆除して、雑草を抜いて、水やりをしなければ家庭菜園の植物は大きくならない。

「びーぎゃ、びぎゃ」

 小さなバケツを持って蕪マンドラゴラのエーメルも一生懸命畝に水をかけている。植物が植物を育てるというのもおかしい気がしたが、エーメルにとっては弟か妹のような関係なのだろう。
 僕に食べられるにしても大きく育つように世話をしているのだ。

「エーメルは世話焼きさんですね」
「僕の栄養になるものを育ててくれているんだから、有難いです」

 ロヴィーサ嬢と僕が褒めると、エーメルはますます気合を入れて頑張っていた。

「夏休みには海に行きますか?」
「僕、海に行ったことがないのです」
「モンスターが狩れるか分かりませんが、何かいたらいいですね」

 漁業者や周辺に住む者にとってはモンスターは出て欲しくないものだが、僕はモンスターを食べなければ魔力が枯渇してしまう。成長期の魔力の枯渇は生命にも関わってくるので、モンスターが出て欲しいと願ってしまうのも仕方がない。

「周辺の住民に害がなく、僕たちが行ったときにだけモンスターが出ないものですかね」
「それはあまりにも都合がいいというもの。何も出なかったときのためにマジックポーチに材料は入れていきますよ」

 バーベキューをしましょう、とロヴィーサ嬢が提案する。
 僕はバーベキューが何かよく分かっていない。

「バーベキューとは何ですか?」
「広い場所で火を焚いて、網を乗せて、その上で肉や魚を焼くのです」
「僕の食べる肉や魚を焼いていいのですか?」
「わたくしとエド殿下と爺やさんだけなら、誰にも迷惑はかけません」

 僕とロヴィーサ嬢と爺やだけならば、毒素にもなりうる肉や魚を焼いて食べても迷惑をかけない。
 ロヴィーサ嬢を結婚相手に選んだことを僕は何度感謝したことか。

「わたくしも食べてみようと思います。エド殿下に食べさせるものは全部わたくしが作っておりますし、味見をしても体調が崩れないことは分かっておりますので」

 ロヴィーサ嬢が僕と同じものを口にする。
 それは新しい挑戦だった。
 魔族の血が入っているロヴィーサ嬢の身体はモンスターの血肉を毒素として認識しない。

 ヒルダ姉上もエリアス兄上もエルランド兄上もそうだったのかもしれないが、王女と王子という立場だったため、毒素の入っているものからは遠ざけられていた。
 ロヴィーサ嬢が僕と同じものを食べて平気ならば、ヒルダ姉上とエリアス兄上とエルランド兄上も僕と同じものを食べて平気な可能性が高まる。

「ヒルダ姉上とエリアス兄上とエルランド兄上が僕の食べるものを食べられたら、王城の食事も変わってくるかもしれませんね」

 完全に変えることはできないし、父上はモンスター由来のものは食べられないので厨房に常に置いておくことはできない。だが、ヒルダ姉上とエリアス兄上とエルランド兄上が平気だと分かれば、僕のお誕生会でもロヴィーサ嬢の作った料理の持ち込みが許されるかもしれないのだ。

 お誕生日会では王族の食事は別のテーブルに分けてある。その中に僕のお皿を置かせてもらっても、ヒルダ姉上とエリアス兄上とエルランド兄上が守られるなら許可されるかもしれない。
 当然、間違えて口に入れないように別の色の皿にしてもらうし、警備の兵士によく見ていてもらうつもりなのだが。

「ロヴィーサ嬢が食べられたら、ヒルダ姉上とエリアス兄上とエルランド兄上も食べられる可能性が高いです。いえ、きっと食べられます。それなら僕はお誕生会にロヴィーサ嬢の作った料理を持っていける」
「そうなるとよいですね」
「はい!」

 元気いっぱいに答えて、僕は汗を拭った。

 シャワーを浴びてから朝ご飯を食べて、お弁当を持って高等学校に行く。
 高等学校では夏休み前の試験が終わって、結果が返却されていた。

 アルマスは不動の一位、ヘンリッキも成績は上位の方だ。僕も何とか上位十番以内には入れた。

「アルマスには勝てないなぁ。どうやって勉強してるんだ?」
「教科書の内容を覚えて、畑仕事してるときに思いだして復習してるくらいだよ」
「え!? 全部覚えてるのか!?」
「そうだよ」

 そんなことが自然にできるアルマスはやはり天才なのだろうと思う。
 ヘンリッキも驚いていた。

「アクセリとアンニーナもなんとか高等学校に行かせてやりたいけど、それほど成績がいいわけじゃないんだよな」

 この国の法律では六歳から幼年学校に入学し、六年間の教育を受ける。幼年学校は義務教育で、教育費も給食費も全額無料なので、一食を子どもに食べさせてあげられると貧しい家も通わせることが多かった。
 僕は高等学校も義務教育にした方がいいと思うのだが、そこまでこの国の教育制度は進んでいない。
 高等学校に行けるのは金のある平民か、成績優秀者で授業料を免除されたものか、貴族や王族しかいない。
 それ以外の子どもたちは幼年学校を卒業した十二歳から働きだすのだから、この国の教育事情は厳しいと言える。

 これは父上もエリアス兄上もエルランド兄上も憂いていることで、できれば高等学校までを義務教育にしたいが、幼年学校の義務教育にも通わせずに労働力として子どもを使っている家庭がある現状では、制度だけ整えても高等学校に入学するものはほとんどいないだろうというのが二人の読みだった。

「僕の学友の弟と妹だよ。援助されるようにしたいけど……」
「アルマスは私の大事なひとだ。その弟と妹なら、公爵家からも援助したい」

 僕とヘンリッキの声が重なった。
 僕はヘンリッキを見て、ヘンリッキが赤い顔で僕を見ている。

「アルマスとヘンリッキが結婚したら、アクセリとアンニーナの学費も払えるかもね」

 僕が笑って言うと、アルマスが真剣な表情になっている。

「そうか。俺が公爵の配偶者になれば……」
「私はアルマスの気持ちが伴わない結婚なんて嫌だよ?」
「俺は、ヘンリッキのこと、嫌いじゃないよ。アクセリを助けてくれていい奴だと思ってる」

 爽やかに微笑んで答えるアルマスに、ヘンリッキは耳まで真っ赤になっている。
 この国は同性婚も異性婚と同じように認められている。
 エリアス兄上の婚約者も同性だ。

 エリアス兄上は同性の婚約者と結婚することを宣言していて、将来はエルランド兄上か僕の子どもを養子に貰うことが決まっている。

「アルマスとヘンリッキが仲がいいと僕も嬉しい」
「そういう無邪気なお子様の仲がいいじゃないんですよ」
「そうなのか? 俺とヘンリッキは仲がいいだろ?」
「アルマスも軽く言わないで」

 恋するヘンリッキは翻弄されているようだった。

 試験の結果を持って、僕は一度ミエト家に帰って、ロヴィーサ嬢と爺やと一緒に王城に行った。
 夏休み前に父上とエルランド兄上に挨拶をしておかなければいけない。

 王城に行って試験結果を見せると、父上は褒めてくれた。

「よい成績を取れているようだな」
「まだ上はいます。もっと努力しないと」

 エルランド兄上はちょっと渋い顔になっている。

「ケアレスミスが多いようだね。やはり、家庭教師を連れて行かせるべきだった」

 貴族のほとんどは幼年学校には通わない。
 代わりに家庭教師に幼年学校で習う範囲の勉強を教えてもらう。
 僕にも家庭教師がいたが、高等学校に通う段階でミエト家に移ったのもあって、家庭教師は連れて行かなかったのだ。

「宿題を家庭教師に見てもらうのですか? 僕は一人でもできます」
「エドは家庭教師が好きじゃないのか?」

 エルランド兄上の問いかけに、僕はぽつぽつと語る。
 王城で雇われていた家庭教師は、ヒルダ姉上とエリアス兄上とエルランド兄上を教えてきた人物だった。
 僕はずっとその家庭教師に比べられ続けたのだ。

「ヒルダ王女殿下はもっと勉強ができました、エリアス王子殿下はこの時期にはもっと先まで進んでいました、エルランド王子殿下は教えずとも教科を進めていました、って毎日のように言われていたんです。僕も勉強をしたかったけれど、体がついていかなくて、毎日の勉強をするので精一杯でした」

 僕の体が弱いのも、家庭教師は甘えだと言っていた。末っ子王子で甘やかされているから、勉強がしたくなくて熱を出したふりをしているのだろうと。

「そうだったのか、エド」
「何故早く言ってくれなかった?」

 エルランド兄上も父上も僕の告白に驚いている。

「姉上や兄上たちにも同じ態度だったのだと思っていました。僕だけに冷たく当たっていたなんて思わなかった……」

 僕が魔族として生まれて、モンスターの血肉が足りなくて魔力が枯渇して体が弱いことを、理解してくれないひとはたくさんいた。家庭教師もその一人だったのだ。

「家庭教師から離れたくて高等学校に早く行きたかったのもあったんです」

 正直に言えば父上もエルランド兄上も怒りに燃えている。

「あの家庭教師から話を聞く」
「可愛いエドに嫌味を言っていたなんて許せない! エド、家庭教師を連れて行けなんて言ってすまないね」

 エルランド兄上が嫌なことをしたわけではないのに、エルランド兄上は僕に謝ってくれる。
 嫌な思い出はあったけれど、父上とエルランド兄上の対応に僕は救われる思いだった。

「夏休みには海に行ってこようと思っています」

 ロヴィーサ嬢が話題を変えると、父上とエルランド兄上の表情も変わる。

「わたくしは魔族の血を引いております。エドヴァルド殿下と同じものを食べられるか挑戦してみたいと思っております」
「それができたら、僕のお誕生会には、ロヴィーサ嬢の作った料理を王城に持ち込みして、王家のテーブルに置くことは許されませんか? 魔族の血を引くヒルダ姉上、エリアス兄上、エルランド兄上が間違えて食べても平気だろうし、万が一にでも間違えて口に入らないように目立つ別のお皿に入れますので」

 僕のお誕生会なのに僕が食べられるものが何もないなんて寂しすぎる。
 僕がお願いすると、父上もエルランド兄上も快く了承してくれる。

「エドのお誕生日がそれで楽しくなるのならば」
「王城で用意してあげられなくてすまないね」
「いいえ、ロヴィーサ嬢の料理はとても美味しいのです」

 僕が惚気ると、ロヴィーサ嬢は顔を赤くしていた。
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